3P
「あ、あの父さん……き、今日は何の──」
まるで生活観の無い部屋の中、父だけが異常な緊張感を漂わせている。
それでも私は、部屋の中の男の言葉にずっと期待をしていた。
きっと父は私を褒めてくれる。
良く頑張ったなって、今まで窮屈な想いをさせてごめんなって。
父さんはちゃんとお前を見てるぞって。
頭を撫でてくれると思っていたのだ。
けれど父は自室を訪ねて来た私に目を合わせず、何も話さない。
しばらくの重苦しい静寂の後、冷たい声色のままゆっくりと口を開いた。
「……学校や部下達から聞いている……。随分と優秀な成績だったそうだな、天才児と呼ばれているそうじゃないか」
父がようやく開いた口から出た言葉はどれもこれも全て私がこの6年間築き上げてきた功績や周りの大人たちが口をそろえて賞賛した数々だった。
けれど、父はそれらを淡々と、まるで数を数えているかのように抑揚無く話す。
そう、まるで「つまらないこと」のように。
その様子を見て私は凄く嫌な予感がしたことを、今でもはっきり覚えている。
しばらくすると父はまた何も話さなくなり、部屋にまた静寂が戻った。
「…あ、あの……父さん…?」
不安になってゆく私は小さく父に問いかける。
そして父は私に向けて、その抑揚の無い無機質な声のままこう言い放った。
「期待はずれだな」
「…………え」
き、たい……はずれ?
言葉の意味が理解できなかった。
え? きたい、はずれ?
私は、父が期待していたよりも。
下だった、って…こと?
「支配者とは圧倒的なカリスマ性と欲望、そして類まれなる才能を持たなければ
ならない。──そして途方も無い才能は人を恐怖させる、俺のようにな」
そこまで一息で言うと一呼吸置いて父は言葉の続きを話した。
「わかるか? 誰もが目を逸らし逆らう気すら起きなくなるほどの恐怖だ。それが花菱総本家当主に必要なものだ。お前のように慕われる対象や嫉妬の対象では、ぬるすぎる」
頭が真っ白になっていた。
唇が震えて上手く呼吸も出来なかった。
どうして…? どうして父は、私のことを褒めて、くれない…?
支配者? 才能? …一体何が言いたいの…?
あなたも私を、花菱総本家の跡取りとしてしか、見てないの…?