プロローグ「初めての兄妹」
生まれてこの方一人っ子だった俺に「妹」というものが出来たのは遡ること2ヶ月ほど前だ。
母が亡くなり男手一つで息子をここまで育て上げた我が親父にもとうとう再婚相手が見つかった。
再婚相手は親父の会社の部下で親父より10歳近く年下の若い女性だが、まさかその人を母と呼ぶことになろうとは人生どう転ぶか分からないものである。
来年には都会の大学への進学をぼんやりと考えている俺にとっては特に反対する理由もなく、また元々打ち解けやすい魅力的な人だったこともあり大きな障害もなく2人はこの度めでたくゴールインした。
家族というものは一緒に暮らすものだ。
もちろん我が家も例外ではなく、元々俺と親父が住んでいた一軒家に来てもらって一緒に暮らすことになった。
不満なぞあるはずもない、男所帯で何かと大雑把にこなしていた家事は飛躍的に丁寧さが増し料理に至っては同じ台所で同じ食材を使ったとは思えないくらい美味いのだ。
よく俺のことも気遣ってくれるし、優しくて美人な「良妻賢母」を形にしたようなあの人を「母さん」と呼ぶのにそう時間はかからなかった。
だがしかし、
その母さんの連れ子、一個下の女の子──佐倉千鶴とは未だに打ち解けられていない。
彼女こそ義理とはいえ我が人生において初めて出来た「妹」だというのに。
不肖の兄こと俺──佐倉圭吾は未だに妹の笑顔すらまともに見れていない。
我が家のというか、俺の当面の悩みといえば真っ先にこれが浮かび上がるのだ。
全く、思うようにはいかないものである。