1話-エピローグ
「う……あ……俺……どうなった……?」
むみ!
手元に感じる柔らかな感触。忘れるわけがない。海姫乙女先輩の胸だ。
(そうだ……俺……先輩に乗ってあの化け物と戦って……これはコックピットに埋め込まれてた先輩の……これがスイッチってびっくりしたなあ……それで最後あいつを倒したと思ったら目の前が真っ白になって……!)
「まずい!もしかして間に合わなかった!?くそ!」
太助は急いで起き上がり、出力を上げるため手のひらの感覚で先にあるつまみを回した。
(あれで駄目ならもっと!上げて!あれ何かつまみ小さくやわらかくなってない?ええい!)
「ひゃああ!いた!ああ!」
つまみをひねると同時にすぐそばで海姫乙女の悲鳴があがる。だがそんなことはかまってられない。
「急がないと!あれ?トリガーがない?サジテリアス!いつ収納したんだ?早く出してくれ!」
太助は慌てて目の前にあったデバイスを押したり引っ張ったりする。サジテリアスのメイントリガーはここからでてきたからだ。だが今はそれがない。
「ああぁ……そこは駄目だ!太助君!お願いだ!」
そういうと海姫乙女は手を伸ばし、股間についてるデバイスを剥ぎ取ろうとしている助けの手を必死で押さえた。
「なに言ってるんだ。早くあいつを倒さないと!……あれ?何で手が?」
太助が乗っていたサジテリアスのコックピットには操縦用のインターフェイスとして、海姫乙女がはめ込まれている。ただし、精巧にできた偽者らしいが、感触は人間とほぼ変わりない。
ただし、手足は固定されており外せない。だから、太助の操作を止めることはないはずだ。それが本当にサジテリアスのコックピット中ならだ。
「うぅぅ……太助君……そこだけはやめてくれ……太助君には感謝してるから、望むことはしてあげたいが……そこは駄目だ!私達は学生で!ああ……」
自分の身体の下のほうから弱々しい声で「乙姫様」こと学園1の美女、海姫乙女先輩が床に横たわっていた。
「……あれ?」
太助が周りを見るとそこはサジテリアスのコックピットではなく学校の教室。窓からは夕日が差し込みその光の中、太助は海姫乙女の上に跨って、胸を揉んでいた。
「あ……あの……サジテリアス……じゃなかった……海姫先輩……もしかして……」
「ううぅ。ああ。そうだ。元の世界……現実世界に戻ったんだよ……奴を倒したから……!!す……すまないが……その……操縦するのをやめてくれないか?……私のオッパイを触っても……もうビームはでない……はん!」
太助はまるでばねが仕込まれたように飛び上がり着地。そのまま頭を地面つけた。
「うぅ……?何をしている?」
床に横たわったままの海姫乙女は、土下座のまま固まる浦島太助に声をかける。
「すいませんでした!あの!俺!なんかいろいろ失礼なことを!自分でもわからないくらいハイになっちゃって!申し訳ありません!できれば警察沙汰だけは勘弁して頂きたく!親も悲しむので!」
(やっちゃった!いやでもしないと!振り返ってみれば俺なんてことを。胸揉んだり!乳首つねったり!挙句の果てに俺のサジテリアスだ!なんて!どんな鬼畜だ。おれは!)
どんな怒りを浴びせられるかビクビクしている太助に、海姫乙女は優しく笑い返す。
「……ふふ。なにをいっている。君は私を助けてくれた。あの世界で君がしたことは別に操縦のために必要でしたことで何の問題もない。それに約束しただろ?何をしても怒らない。別に作り物をどうされても・・・さ!最後のだけはいだだけないがな!女性との胸を触ったりアンダーを引っ張ったり!」
「あ!あれは勘違いで!まだ戦闘中だと!さわり心地がほんとに一緒で柔らかくて気持ちよくて!」
「そ!そういうことを!言わない!いいか!これは怒ってるんじゃないぞ!後輩の君に先輩として注意をだな……つうぅ!」
顔を真っ赤にして立ち上がろうとした海姫乙女は激痛で再び床に突っ伏す。
「せ……先輩?どうしたんですか?」
「あ……うう……大丈夫だ。人があっちの世界に意識をもっていくと拒否反応が出る。元に戻ったときに痛みとしてくるんだ。なに……しばらく動けないがじきに……」
そこまで言って海姫乙女の言葉が止まる。
「先輩?」
太助の問いかけに海姫乙女は無言のまま、じりじりを太助から離れようと動き始めた。
おまけに腕でしっかりとガードしながら。
「た……頼む。今はやめてくれ……。君が望むなら考えなくないが、こっちの世界ではいろいろ問題が……あんなふうにぎゅうって……それに今の私からはトリガーは出ないんだ……」
その台詞に太助は思わずふき出して、詰め寄る。
「あの!いやだからですね!別に俺はオッパイをつねったり、ああいうのが好きなわけじゃあ!」
「いや!隠さなくていい!人の趣味は人それぞれだ!私もそこらへんは理解している。ただ!動けない私に対して無理やりは犯罪だと!今日の報酬としてどうしてもというなら後日、日を改めてだな……」
「ああ!もう!だから……いたああ!」
先輩の誤解を解こうと必死だった太助は急に左腕に痛みを感じた。あまりの痛みに手で押さえてうずくまってしまう。
「た……太助君?」
「うをぁおおあ!な……なんだ?急に痛みが……」
腕を押さえていると海姫先輩がはいずりながら近づき、太助の左腕に額を当てる。
「せ……先輩?」
「し!……大丈夫だ……あっちの世界で腕がやられたとき体がその情報の影響を受けたのだろう。千切れたりはしないが、骨にヒビが入ってるかもしてない。後で医者に見てもらおう」
「そ!そうですか……落ち着け!落ち着け!……だあぁ!駄目だ!やっぱり向こうみたいには治らないか!」
「ふふ……それだけ元気なら問題ないだろう……」
左手を押さえている太助を見て、海姫乙女は考える。
(始めて、向こうにいって戻ってきたのに影響があれだけとは……やはり太助君は父上と同じ……。でも太助君は父上とは違う)
そのことがとても辛い。彼は普通の学生だ。戦士ではない。だが、同じ力を持つ以上、必然的に戦わなければならない。今回のことではっきりわかった。自分達が今までしてきた対策では対処できない。あの「D」には、太助の力が必要なのだ。
「あ!そうだ!先輩!電車!電車は大丈夫でしたか?」
「ん?ああ……だいじょうぶだ。さっき管理局から連絡があった。無事制御を取り戻して問題ないとのことだ」
「そっか……よかった……」
そういうと太助は自分の手をじっと見て動かなくなった。
「……どうしたんだい?」
「いや……よくわかんないけど……俺。誰かを助けられたんだって。ゲームばっかしてなんとなく生きてて……誰かのためになんてやったことがなかったけど……なんだろう……すごい、うれしくて。はは……変ですかね?」
そう頼りなく笑う太助の笑顔は、昔乙女があこがれた父とそっくりだった。
(……。大丈夫だ。彼は確かに民間人だが、父上と同じだ。まだ、戦士としては遠く及ばないが、きっとなってくれる。それまで私が頑張ればいい。私は父上の娘なのだから。見ていてください。太助君はきっと貴方と同じ立派な戦士になります。私と一緒に戦ってくれます。ちょっとへんな趣味持ってますけど……)
「いや。私も同じだよ。ほんとにうれしい……」
「はは。そっか。ちょっとうれしいなあ。乙姫様と一緒だなんて……」
太助は腕の痛みを忘れて、笑った。
「そ……その乙姫様というのは私としてはあまりすいていないのだが……」
「あ!いや!でもぴったりですし……そうだ!すいません。そろそろそれ!返してもらってもいいですか?」
太助は海姫乙女のお腹のしたあたりに張り付いている、モバイルを指差した。
「ん?ああ。そうだったな。ちょっと待ってくれ……よっと。お。む……まだうまく体が……よし!とれた!」
「あ!ありがとうござ……!!」
「ん?どうした?固まって……!?!」
二人が固まった理由。それは外したモバイルにあった。モバイルに引っかかっている物。黒い布がひらひらが舞っていた。それは海姫乙女がはいていたアンダー。モバイルを外すとき、間違えてモバイルだけでなくアンダーも取ってしまったのだ。当然、アンダーが外れれば下半身を覆うものなにもない。
「あ……」
海姫乙女はなにも穿いていない下半身を見て真っ赤になった。顔を上げると、太助が自分の大事な部分をがん見している。
「MSFd9hj@0!RJ#‘*)!!!!!!」
理解できない悲鳴を上げて海姫乙女は、力の限り浦島太助のあごを蹴り上げた。
後に太助は雲の上まで飛んでいき、彼のご先祖様たちと会ったと語る。
「ええ……。本当に光り輝いて、雲の上ってしか表現できませんよ。そこで俺はご先祖様たちにこう報告したんです。『俺!乙姫様の真珠見ました!』って!え?ご先祖様たちはなんていった?……みんな、涙を流して敬礼してくれました」
************************************
深夜0時。高層ビルの一室。窓から見える美しいビル群の夜景を背に、老人が豪華な椅子に座り電話を受けている。
「うむ……そうか……」
その部屋にあるのは豪華な椅子だけではない。机も、ソファーもシャンデリアも。その他の家具も一流品だ。
だが、その部屋にいる人物達はその部屋にふさわしくなかった。
ソファーには、小学生ぐらいのメガネをかけた女の子がゲームに夢中になっている。
その後ろにはかわいらしいフリフリがついた衣装を着た女子高生くらいの女の子が険しい顔をして直立不動でたっている。
ソファーの反対側には床のカーペットの上に直座りをした体格のいい柄の悪い男がジャンクフードをむさぼっていた。
その周りをお盆にペットボトルを載せて楽しそうに歩き回っているメイドがいた。
「ご苦労。では引き続き監視を頼む……」
電話を受けていた社長らしき老人が電話を切る。
「わかりました。どうやら無事こちら側にこれたのは我々だけのようです」
「あらあら……もうちょっとこれると思ったけど……意外とだらしないのね」
くすくすと笑いながらメイドがお盆を持ちながらソファーの背にもたれかかった。
「はは!意外と厳しいねえ。さすが王族!上から目線!!」
そういって柄の悪い男は笑いながらハンバーガーをむさぼる。
「貴様……。礼儀知らずにもほどがあるぞ!本来ならお姿を拝見できるだけでも光栄なのに……」
ソファーの後ろに控えていた女子高生くらいの女の子が、柄の悪い男をにらみつける。
「ははは!何言ってるんだい!王族やら軍人やらの身分はもうなくなったんだろ?新しい王様が無くして!なあ、お偉い少佐さま!いや!いまは売れっ子のアイドルって奴だっけ?又けったいな身体えらんだもんだなあ!」
「貴様……!!」
「なんだい?やるかい?」
二人がにらみ合ってると、大きな音を立てて入り口のドアが開いた。
「おっはよう!いや〜ごめんごめん!ちょっとコンビニによったら新作弁当が出ていてね。どれにしようか迷ってたら遅れちゃったよ!」
そういって笑いながら若い男が入ってきた。コンビニの袋を持って飄々とした雰囲気をまといながら部屋の中に入ってくる。
「ん?なにかあった?」
男が問いかけると、にらみ合っていた二人は互いに視線をそらす。
「いえ!何もございません!」
「けっ!」
「ならいいね。ンじゃ!始めようか!」
男は、窓のそばまで行くと手を広げ部屋のほうに向きなおした。
「はい。それではまず現状報告を……第一陣としてこちらにこれたのは我々だけのようです。ほかのものは全員失敗しました。「D」も破壊されたようです」
「うえ〜。結構なくなっちゃったなあ。ねえ?何とかしてデータだけでも手に入らない?私としてはどこが悪かったか調べたいんだけど」
ゲームに夢中になっていた女の子が、めんどくさそうに、報告をしていた初老の男性に問いかける。
「一応、努力はしていますが……時間がかかりますね」
「ちぇ!ねえねえ。やっぱ厳選したほうがよかったんじゃない?私から見て必要なレベルに達してない奴にも「D」あげちゃって。まあ、一方でこれないと思ってた奴がきたりするんだけど」
少女は柄の悪い男をちらりとみる。
「いいんだよ。確かに無駄に失った奴もあったけど、有益な情報も取れた。それに彼はきちんとこちらに来てる。結果が全てだ」
飄々とした男が笑いながら話をする。
「とりあえず、失敗した5例のうち4例は話にならない。見つかって追い詰められて破れかぶれで自分と「D』と融合させて結局やられてるんだから。たいした力を得られないって教えたにもかかわらず」
男は話しながら、机まで歩いていき引き出しを開けて、そこから電子レンジを取り出した。
「逆に君達は、適正者を見つけ「D]と融合させて、体と力を見事手に入れこっちに来た。やっぱりその方法が一番成功率が高いねえ」
明らかに電子レンジより小さい引き出しからそれが出てきた。ありえない光景だが、周りは冷静だ。
「ですが……その代償で、こちらではほぼ原住民と同じスペックしかもてません。貴方のようになるには時間が……」
初老の男性の問いかけに対しても男は飄々とし、でてきたレンジの中に弁当を入れて温めだした。
「まあ。それはたいした問題じゃない。ずっとそのままというわけではないしね。それよりも面白いのは今日の事例だ。なんでも適正者を見つけて得た「D」の力を解放したらしいじゃないか」
「はい。ですが……削除されました。一時期は貴方のようにこちら側に本来の姿でこれるとおもったのですが……」
「だめだった。だろ?それにしてもおかしいなあ。あいつは死んでるってきいてたけど。あいつ以外に倒せる奴いたっけなあ?」
部屋の中には電子レンジが動く音だけが響く。
「よし!確かめにいこう!「D」一個くれ!」
そういって手を叩くと男は少女に手を広げる。
「ん〜。そんなに簡単にあげたくないんだけど……研究材料減っちゃう……」
ぶつくさ文句いいながらも、少女はポケットからUSBメモリーを取り出し、ほおり投げた。
「何言ってるんだい。君が研究できるのは僕が提供したからだろ?文句は言わない。代わりにいいデータ取ってきてあげるから」
笑いながら、USBを受け取りポケットに入れる。
「んじゃあ。みんなはしばらく待機だ。おのおの好きに過ごすといい。いずれ自分達が好きなようにする世界だ。存分に見て回るといい。ようこそ!新たなる故郷へ!」
チーン!
終了の合図と共に男は電子レンジのドアを開ける。そこには、ぼこぼこに膨らんだ弁当があった。明らかに温め過ぎだ。
「……又失敗……なんで人間ってこれうまくできるんだろうね……?」
首をかしげながら男は膨らんだ弁当を手に取った。
<続く>