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1話-D「決着!つねると落ち着く仕様です!(ちょっとコツが必要)」



「N(〜_?>*#&P”R)F”(R)P!!!DG()!!!」


 言葉にならない咆哮と共に、前方からミサイルの群れが襲い掛かってくる。

 見た目は小型だが、威力は半端ない。普通なら慌てるか怖がるのだが、太助の心にはそんな感情は微塵も生まれなかった。


「やれる!」


 心の叫びが自然と口から出てきた。それと同時に力強くペダルを踏み込み加速をする。

 ミサイル群れに正面突っ込むなど自殺行為。

 一見素人が焦って突貫したというような操縦で本来なら止めるべきだが、海姫乙女の考えは逆だった。


(戦術講義では落第の行為だが……いける!彼に……太助君なら!)


 その期待に答えるよう、海姫乙女の体はスムーズに動く。スピードは落とさず持っている大型ビームライフルをミサイル群の中心に向ける。

 巨大な閃光が空間を引き裂き走る。ビームはその進行方向にあったミサイルは爆散した。

 ビームが消えるとミサイル群にぽっかりと穴ができた。そこに下半身に取り付けてあるブースターからさらに青い炎がふきだし、その穴に飛び込んだ。

 ミサイルには追尾機能はあるが、後退するような動きはできない。

 結果残りのミサイルは全て彼らの後方で爆発した。後ろから来た爆風に長い髪がたなびく。

 いつの間にか海姫乙女の黒髪はその見にまとう装甲と同じ深い蒼色に変化していた。

 

「先ほどはよくもやってくれたな……まとめて返すぞ!」


 海姫乙女は不適に笑った。戦場では常に冷静に。感情を表に出すと敵に次の行動を読まれる。と教わってきていたが、いまは自然ともれてしまった。むしろ読まれてもかまわない。そんな気分だった。


「なぜなら、私の次の行動はお前を倒すことなのだからな!」


 空中に浮かぶレールに乗る黒い機械の蛇の胴体に再び砲身を向けビームを放つ。ビームは蛇の最後尾についていたミサイルコンテナ部に当り破裂した。


「F’PTE&QVE&VQ?*>‘VDS!!!!」


 機械の蛇が意味のわからない奇声を上げると同時に空中に浮かんでいたレール全体が波打ち始めた。苦しみもがいているようにみえる。


「効いてるよな?……叫び声みたいなのも聞こえるし……」


 波打つレールを避けながら、太助はさらに距離を詰める。


「?……ああ。普通はあいつ等の声は変換できないんだったな。大丈夫効いている。あいつは……やめよう。訳すのも面倒な低俗な負け惜しみだ」


 そういうと海姫先輩は笑った。


「ふふふ……。さあ!太助君!止めを!私……『サジテリアス』と太助君は無敵だ!」


 海姫先輩がそう叫ぶと、コックピットがさらに振動した。もっと早く!もっと強く!もっと激しく!そう急かしている様だった。


(せ……先輩ってこんなキャラだっけ?もっとこうおしとやかで……まあいいか!いつもとキャラが違うのは俺も一緒だし!)


「ええ!やりましょう!あいつをとっとと撃墜してやりますよ!」


 ゲーム中に興奮すると、自分が歴戦のパイロットになったつもりになってしまい、いつもとは違う口調になることがある太助は突っ込まずに流した。それが礼儀だ。

 再び、ターゲットカーソルを黒い機械の蛇に合わせ、トリガーを引く。


「(‘AVAD*!!!CMOASM{!」


 今度もビームが当りさらにダメージを与えられると思った矢先、黒い機械の蛇が奇声を上げると、空中で波打っていたレールが黒い蛇の周りに幾重にも巻き突き出した。レールでできた球形の檻がビームをはじく。


「うお!はじかれた!?」


 太助は当たると思ったビームがはじかれ驚く。


「悪あがきを……。だがあいつも必死のようだな。しかし、防御に気を回しすぎたせいで、ほかの部分がまったく駄目になってる!」


 海姫先輩がそういうと、画面に見たこともないカーソルが現れ、それと同時にいろいろなウィンドウが開く。波形やら数値などいろいろ出ているがかかれている文字がわからない。


「な……なんだこれ?」


「ああ。これはあいつの解析結果さ。文字や読み方はちょっと専門的だから今は無視していい。それよりあの形態は防御しか能が無いようだ。機動力は無し。攻撃も……できないな。あれは」


 確かに。自分自身が走るべきレールをまきつけているため、空中で止まっているに等しく、ミサイルもあれでは発射できない。


「そうですね。なら!思いっきり強烈な奴を撃ちましょう!」


「ああ!こんど……ひゃぁん!」


 太助は海姫先輩が言い切る前に、オッパイをつかんで出力を上げた。


(あん!て……てっきり又嫌がるかと……しかもいきなりこんなに強く……って!何を考えてるんだ!むしろいいことではないか!ああぁ……で……でも、もうちょっと……強く……)


 そこまで考えて、海姫乙女は頭をふって想像を振り払った。


(なに考えているのだ!私は!戦闘中だぞ!それなのに自分が気持ちいいなんて!!)


「そう!戦闘中だ!何を考えてる!!!」


「うお!す!すいません!先輩!でもあいつを倒すためなんです!」


 海姫乙女が自分を戒めるために叫んだと同時に太助が思わず出力調整のために握っていたオッパイから手を離す。


「え?!あ!いや……ち!違うんだ!」


(ああ!もう!私は何をしてるんだ!助けるどころか足を引っ張って!!)


 己のふがいなさに顔を真っ赤にして黙る海姫乙女を見て太助はドキドキしていた。


(お……怒られるかな?ちょっと興奮して強く握ったから……でも約束したし……)


 何も言わないで震えてる海姫乙女を見続けることが耐え切れなくなった太助はトリガーを引く。


「と!とりあえず!攻撃を続けます!早くあいつを倒さないと!」


 敵を倒すという大義名分を押し出して、怒られた時の予防線を張った太助に対し、海姫乙女の答えはまったく別方向から奇襲だった。


「ううぅ……。た……太助君!私のむ……胸をつねってくれ!!」


 その台詞にコックピットがゆれる。手元が来るって姿勢制御がうまくできなかったのだ。


「はあぁ?!い!いったいなにを!?」


「だ!だから!私の胸をつねってくれ!こう!ぎゅうっと!」


「いやだから!なんでですか!」


 太助は慌てて姿勢を元に戻しながら、トリガーを引いて攻撃をし続ける。


「そ……それは……!そう!私はいつもそうして精神を集中しているんだ!」


(いえない!戦闘中に不埒なことを考えてただなんて!太助君が真面目に戦っているのに!……そう!これは戒めだ!私への!)


「そ……そうなんですか?」


 どぎまぎし始めた太助に対してさらに海姫乙女は強い口調で畳み掛けた。


「そうだ!ほら!攻撃の手が緩んでるぞ!あいつを倒すにはもっと出力を上げないと!そのための精神集中だ!遠慮などするな!思いっきりするんだ!!」


(戒めだ!罰だ!……なにか……私はとんでもないことを言ってないか?いやいや!まちがってない!罰も受けて出力もあがる!私は正しい!)


 海姫乙女は胸を張りその大きなおっぱいを突き出した。自分の行いが正しいものだと主張するように。


(え?あ?い……いいんだよな?先輩もそういってるし!精神集中の方法って人によって違うし……あいつを倒さないといけないし!そう!決して破廉恥じゃない!先輩のオッパイをつねることは正しい行為だ!)


「はい!いきます!」


「よし!こい!」


 太助は真面目な顔して攻撃をしながら手を海姫乙女のオッパイに手を伸ばす。


(ああ……つねられる……。こ……怖い…目をそらし……いや駄目だ!これは罰なんだ!怖くしてもしっかりみるんだ!でないと意味がない!ああ……もう……すぐ……あれ?ちょっと。そこ……)


 海姫乙女は自分の胸のふくらみをじっと見ていた。柔らかいのに張りがあり弾力を持つ塊がつねられることを想像していたのに、太助の手はその塊を通り過ぎ、天辺にある突起物をつまみ……力いっぱいつねった。


「ちょ!そこ!にゃあああぁ!!!あ!あ!あ!」


 あまりの激痛に海姫乙女ははめ込まれた体が暴れた。それと同時に、コックピットが激しく揺さぶられた。 太助は気がつかなかったが、ビュー画面では装甲をまとった巨大な海姫乙女がビームライフルを撃ちながらもだえたのだ。

 コックピットに埋め込まれているのは海姫乙女自身を模した操縦用のインターフェイスだが、意識はつながっている。大部分は体の構築に意識を振っているとはいえ、過大な刺激を加えられると、本体にも多少影響がでる。


「うっわあ!あぶ!……はあ!はあ!いったいどうしたんですか?」


 太助は慌てて、制御し直し、海姫乙女を安定させる。


「ど……どおしたって……太助君が……太助君がぁ……。私の乳首ぎゅうってしたからぁ……」


 海姫乙女はそういうと体をくねらせながら喘いだ。


「え?あ?先輩なんで?」


「胸って言ったのにぃ……。ううぅあんな所をぉ……しかも……あんなつよく」


「いやだって!先輩が!……あれ?!先輩!あれみてください!」


「ううぅ……あんな所。あんな所……ごまかそうたって……!?どういことだ?」


 太助と乙女二人とも画面に映る映像が信じられなかった。

 なぜなら、レールでできた球形の檻に穴が開き、中にいた黒い機械の蛇ごと貫いていたからだ。


「8日9s7tヴぁd69あ*‘ASC@cjs9!!!」


 叫び声と共にレールがほどけて、黒い機械の蛇は地面に落下する。


「ど……どうして……」


「ちょっとまってくれ。録画記録を再生する」


 海姫先輩がそういうと、画面の隅に、少し前の映像が流れる。画面では巨大な海姫乙女がライフルを構えビームを撃っているが全てレールではじかれていた。

 だが、最後。悶えながら撃ったビームが普通と違った。

 そのビームは砲身の先で球形に膨らんだ後、回転しながら飛んでいった。それがレールの檻を貫いたのだ。


「……すっげえ。始めてみた……もしかして隠しコマンド?」


「いや……この武器にはこんな機能は設定されていない……!太助君もしかしてさっき私の乳首をねじるとき何か考えなかったか?たとえばビームがねじれるようなこと……」


「え?あ……いや、ただおっぱいもんで出力が上がるなら、乳首ねじったらどうなるかなあって。突き出してボタンというよりレバーとかつまみ見たいだなとは思いましたけど」


「……」


 そういうと海姫先輩は黙り込んだ。


(は!まずい!俺!かなりすごいこといった!?先輩の乳首をボタンとかつまみとかひいてない?!というかマジで怒られる?)


 慌てる太助に海姫乙女は怒るのではなく、真面目な顔を向けてきた。


「そうか……やはり……太助君!」


「ひい!先輩!怒らないで!ちょっと間がさしたというか……約束!約束しましたよね?」


「?何を言ってる?そんなことより!今の君ならやれる。あいつを……あいつを完全に倒す武器を想像するんだ!」


 海姫先輩は怒るのではなく、詰め寄るようにわけのわからないことを言い出した。


「へ?せ……先輩何を……」


「いいか?今君はこの空間のプログラムに私より……いや、世界で一番干渉できる。あいつがレールを中に浮かせたり、体を変えたように。プログラムを自分の思い通りに作りなおせる」


「お?俺が?」


「ああ。元々君はその才能はあった。なぜなら機械の補助がほとんどないのに意識を丸ごとこの空間に入れられるのだから」


 そういわれると、太助は自分の身体を見る十数年間みてきた何の変哲もない普通の身体だ。そんな特殊な力を持っているようには見えない。


「もちろん。なんでも思い通りとはいかない。その想像がしっかりしていないと。どういう形をしていてどんな効果があるのか……。あまりにも現実離れしすぎると心の底でこれは無理だと思い込んで形にはできない」


 海姫乙女は深く息を吸い込む。


「だから……想像するんだ。これを使えば勝てない敵はいない。この姿なら負けることはない。そんな物を。君が思えば私はそれになる……。もう時間がない……。どんな敵でも一撃で倒す。そんな存在を!」


画面のふちに出てる残り時間は1分を切った。地上に落ちた機械の蛇はダメージを受けてはいるが、再びその身を持ち上げる。まだまだ暴れられそうだ。


(やるしかない……。早くしないと電車がホームに突っ込む。……何を考える?ライフル?ミサイル?剣?いや……そんなものじゃ、一撃じゃあ倒せない……。なにを……)


 何を作ろうか思い悩んでいると、目の前の変化に気がついた。コックピットに埋め込まれていた海姫乙女の姿が変わっていたのだ。髪と瞳の色。黒真珠のような輝きが海のように澄んで深い蒼に変わり輝いていた。


(先輩……なんで……でも綺麗だ。ほんとに乙姫さまみたい……)


 人間離れしてあまりに神秘的。太助は一瞬だけだが、敵も今の状況も全部頭の中から吹っ飛んだ。


(ほんとに言葉が出ないってことがあるんだな……この世のものじゃない。……そうだ……武器じゃない。必要なのは俺が一番強いって思うものだ。これに乗れば絶対に負けないって存在。なら……もう決まっている!)


 太助は意識を集中した。先ほどまでとは違う。もうイメージは完全にできている。あやふやなものではない。これなら……何人にも負ける気がしない。人々を守る盾であり焼く際を断ち切る剣である。そんな女神の姿を完全にイメージできる。なぜなら、それはもう目の前にあったからだ。


 青い光がコックピット全体から出てきた。その光はコックピットを全て埋め尽くし、巨大な海姫乙女も包み込む。その光が収まったとき、そこに女神がいた。


 手足の装甲をより大きくメカニカルに、そのほかの部分はさらに洗練されてスリムに。

 東部のヘルメットはティアラのように変化し、額に大きな光学センサーそして左右に広がるように生えた角のようなアンテナ。

 腰の後ろのブースターは後ろに突き出るように伸び、その先にはもう一つ小型のブースターが生えた。小型はバーニアはフレキシブルのようで自由に動く。

 手にした大型ビームライフルは取り回しがしやすいように持ち手がスリムになったが、砲身などに白で金色のラインが入った装甲が追加された。

 背中に会った補助ブースターは、見た目は小型になったが、よくみると、幾重に折りたたまれてコンパクトになっているだけで、展開すれば以前より強力になっているのがわかった。

 先ほどまで傷ついて焦げたりかけていた蒼色の装甲か完全に修復されている。

 装甲は金色のラインで縁取りされ、それが輝きさらに神々しさを増している。


「できた……。ほんとうに!」


 太助がレバーを握ると、ビュー画面に映っていた巨大な海姫乙女の姿に見とれた。

 ビルの谷間に降り立ち、ライフルを構える荘厳な姿は女神以外の何者でもなかった。


「すばらしい!!ここまでプログラムを意のままに!……た……ただ……いや!太助君を非難するわけではないのだが……装甲……小さすぎないか?」


「え?!」


 確かに、手足の装甲はごつくなったが、反比例して、からだの大事な部分。特に胸や腰周りは前より覆っている面積が小さくなった。大事な部分などメカニカルな装甲が張り付いているようにしか見えない。

 その上ほかの装甲も小さくなり、動きを阻害しない部分にだけ張り付いており、大事な部分を強調するようなデザインになってしまった。


「あ……あと……コックピット内の私は確かにコンソールみたいなものだが……ここもこんなふうにする必要はあったのか……これでは……」


 海姫先輩の言葉に反応して前を見ると、先ほどまではめ込まれていたビキニのような水着を着ていた先輩は、顔を真っ赤にしながら変化した姿を見ていた。

 水着はなくなり、元々お腹のあたりについていた太助のモバイルが下半身の大事な部分を隠す装甲になり、胸もたわわにゆれるのを押さえるのではなく先端の突起を隠すようにレバーとつまみがついている。

 レバーの横には上下左右に矢印が、つまみの周りには目盛りが皮膚の上に浮かび上がっていた。


「太助君のような年頃の男子はこういうのが好きなのか?いや!少しはそういうものだと聞いてはいたが……これ……いささか破廉恥すぎないか?」


「あ!いや!ちがいます!これは俺が考えたんじゃあ!俺は強い女神みたいなものを想像したら、なんかこうなっちゃっただけで!」


 太助は慌てて否定する。女子に、それも憧れの海姫先輩に自分がこんな破廉恥な格好が好きな変態と思われたくない一心で主張した。だが肝心の先輩は目をそらしたままだ。


「嘘は言わなくていい。ここまでしっかり構築できたというのは本心だろう。……べ!別に恥ずかしがることはないぞ!私は平気だ!戦士はどんな格好になろうと戦うのみ!なにより私は君が望むように変えてくれとお願いしたんだ!太助君がこういう趣味ならもっと破廉恥でもいい!」


 顔をあさっての方向に向け、顔を真っ赤にして平気だと主張する先輩の姿は、太助には「変態」といわれてるようにしか見えず頭を抱えて悶えた。


「やめて〜!ちがうんです!ちがうんです!いや!ほんのちょっとは思いましたけど!ここまでは!俺は破廉恥趣味ではないんです!!こんな姿にして辱めて喜ぶ変態じゃないんです」


「は……辱し……!と……ともかく!あいつを……うわ!」


 太助がもだえていると、いきなり海姫先輩が埋め込まれている部分が奥へ下がり、180度回転すると再び元の位置に戻って固定された。


「!へ?あ!いや!ちょ……ちょっとまってくれ!太助君!?いくらなんでもこれはだめじゃないのか?いやぁ!!」


 海姫乙女といえ年頃の女。先ほどまでは戦闘ということで耐えていたが、この格好は明らかに違う。

 恥ずかしさのあまり体を動かすが、手足ががっちり固定されてるのは変わらないので、ただ太助の目の前で腰をくねらすだけに終わった。


「せ……先輩!ちょっとこれ以上は……」


 太助は思わず、鼻と下半身を押さえた。このままだと危ない奴らが暴走する。


「た……太助君がさせてるんだろう?私ではどうしようも!ん!?え!!」


 海姫乙女がじたばたしていると、下半身の大事な部分を隠していたデバイスの側面に光が走り、モーター音をだしながら開き始めた。


「へぁ!!あ!だめ!それだめぇ!太助君!コックピットにあるのは作り物とはいえ、私の身体を精確にコピーしてるから!ああ!見ては駄目だ!いやぁ!見ないでくれ!止めて!見ないでくださいぃぃ!」


 必死で抵抗するが、止めることができず、慌てている海姫乙女を前に太助は固まっていた。


(うおぉぉお!太助!いいのか?これでいいのか!男として!紳士として!止めるべきだろ?いやせめて目をそらすべきだろ!先輩いやがってるし!でも!動かない!俺の心の勇者が!このままいけといっている!)


『そうだ!勇気とは……目の前の運命を受け入れ前歩くということだ!目を背けぬということだ!』


 心の中の勇者は腕を組んで仁王立ちで語りかける。


『やめるのだ!君は紳士としてはずかしくないのか?先輩は嫌がっているだろう?ここは見ないのがしん……ぐぼぁ!』


 太助が勇者になろうとしたとき、こんどは心の中の紳士が現れたが、勇者に切り殺された。心の中の勇者は血まみれの剣を片手に親指を立てる。太助は勇者に敬礼をし、自分の歩むべき道を決めた。


「いや!だから!何で敬礼?そんなことより止めて!見ないで!あぁあ!」


 いつの間にか敬礼をしていた太助に必死の抗議をしていた海姫乙女だが、ついにデバイスは全開になった。


(とうとう貝殻全開!ご先祖様!太助は乙姫様の真珠を拝謁いたし……あれ?)


 大人の階段を上れると思っていた太助の目の前に現れたのは真珠ではなく無骨な塊、拳銃のグリップのようなものが現れ、背後にあった機械から別パーツがせり出し、ドッキングした。


「へ……」


 太助はあっけに取られた。確かにここに埋め込まれているのは本当の海姫先輩ではないのだからこういうのが出てきても問題ない。


「……。君は……こういうのが好きなのか……私は詳しくないのだが……かなり特殊な部類だな……。べ……べつにかまわないぞ。人の好みは人それぞれだ!」


 敬礼までして覚悟を決めたのにこの結果。現実はそう甘くないのと下からくる海姫先輩の視線がモリのように突き刺ささることを太助は学んだ。


「え!あ……すいません……と!ともかく!気を取り直していきます!もう時間が本当にない!」


 太助はごまかすように、完成したトリガーを握る。


「じ……時間がないのは君のせ……!!ひいぃ!」


 太助がトリガーを握った瞬間、海姫乙女の体が又ビクついた。


(ああ!またぁ!しかもさっきより刺激が!あ!あ!)


 太助がペダルを踏み込こもうとすると、抵抗があった。深く踏み込めない。


「た…太助君。こんなときに何を言うかと思うかもしれないけど……こ……怖いんだ。あいつを倒すためには、もっと踏み込んでもらわないといけないんだが……これ以上されると……私……全然違う……こんなの初めてで……でも!」


 太助はペダルの抵抗が海姫乙女が怖がっているせいだと感じた。

 その時、コックピットに警告音が響く。

 画面を見ると、地面に落とされのた打ち回ってた蛇が起き上がり、尻尾を振りがぶっている。

 又ミサイルコンテナをぶん投げる気なのだろう。


(まずい!早く出力上げないとあいつを……あれ?俺なんで操縦方法わかるんだ?俺がイメージしたから?ともかく、この姿は出力が高い分、出力を一定レベルにしないと動けない仕様だし!)


 だが、ペダルは踏み込めない。海姫先輩の踏ん切りがついていないせいだ。


(どうする?説得している暇はないし……でも怖いっていわれちゃあ……ん?もしかして)


 太助はあることを思いつき、実行してみた。手を伸ばし、胸の先にあるつまみをつまんで……ねじった。


「うう……私……私はぁ……!!!ひゃん!ああぁああ!た!太助君!何を!」


「先輩!精神集中です!ついでにライフルの出力を最大にしました!先輩はこれで落ち着くんですよね?」


 海姫乙女は目をぱちくりされながら、太助を見上げた。


(へ?あ?あれは……あの時でたでたらめで……!?うそ!なんで?ほんとに落ち着いてる?!?)


海姫乙女が混乱すると、ペダルが軽くなってさらに踏み込めた。太助は手を下げて今度は乳首ではなくたわわにゆれる乳房を小刻みにつまむ。


「どうです?落ち着けました?」


「あ!あ!そんな……ああぁ……落ち着いた……」


(ああ!嘘!ほんとに落ち着いちゃった。痛いのに!安心する……も!もしかして私!中身も変わっちゃってる?)


 自分の今の姿は太助がイメージしたもの。つまりイメージした物はこの世界で現実になる。それは形あるものだけとは限らない。


「先輩!先輩は今は俺の『サジテリアス』なんですよね?なら俺の操縦を怖がったりしませんよ!今からあいつを倒します!先輩は俺の操縦に逆らったり怖がったりせず素直に従うんです!なんたって!俺の!『サジテリアス』なんですから!」


 太助はオッパイをつまみながら、勢いのまま突っ走っていた。


(うおお!俺すげえことしてる?!いや!でもこうでもしないと!あいつ倒せないし!先輩をホントにサジテリアスにするんだ!それなら怖がることはない!いけ!心の中の勇者もGO!といってる!なんたって今日はあいつを倒せれば怒られないって約束あるし!)


 そんな決意をすると同時に太助は、力強くつねった。その瞬間海姫先輩が激しく痙攣した。


「!!!!!!〜!!」


「せ……先輩?」


 太助が恐る恐る声をかけると同時に、ペダルが一番深く踏み込まれた。コックピットが飛び上がるぐらい振動し、どの計器も光り輝いている。


「い…いたぃ…はぁい!わ……わかりましたぁ。乙女は……『サジテリアス』はぁ……怖くないです……。そう!怖いものか!太助君!『サジテリアス』は君が操縦すれば無敵だ!」


(な!なあ!私は一体何を言ってる?ああ!でもほんとに落ち着く。サジテリアスは太助君が操縦してくれるって思うだけでなんでもできるって……って私は海姫乙女……あれ?私サジテリアスだよね?あれ?ああ!ここまで影響をうけるものなの?)


 心の中は慌てているが、体は操縦されることを望んでいる。太助がトリガーを握るだけで心が躍る。興奮する。


「はい!行きますよ。先輩!」


「先輩?太助君!サジテリアスだ!君のサジテリアスだ!呼ぶときはそう呼んでくれ!さあ!さあ!」


(わ!私は何を言ってる?こんなに興奮して!ああでもそう呼んでほしい!名前で呼んでほしい!そうすれば私はもっと飛べる!早く!強く!ああぁ!呼んでくれ!私を!)


 コックピットに逆さにはめ込まれた先輩は妙にハイテンションになっていた。普段ならはしたないと自制するところなのに止められない。我慢できない。


(あ……あれ?なんか……先輩変になっちゃった?まずくないか?でもあのときは仕方が無かったし……)


「は!はい!さ……サジテリアス……」


「はい!!!はい!はい!サジテリアスです!太助君が乗ってるサジテリアスだ!ふふ……あはは!む!太助君!あいつが最後のあがきをしてきたぞ!さあ!私を思いっきり操ってあいつに引導を渡すのだ!」


 画面を見ると、黒い機械の蛇がミサイルコンテナを振り回して投げてきた。だが、太助は慌てない。その必要がないと知っているからだ。


「ま……まあいいか。はい!いきま……いいや!いくぜ!サジテリアス!」


 太助は思いっきりペダルと踏み込み、トリガーを引いた。その瞬間海姫乙女ことサジテリアスはその巨体をバーニアを吹かせ浮かび上がり、銃身を構える。そしてその砲身の装甲が展開すると同時に青白い光の奔流がスパークを放ちながら発射された。


「いっけえ!!!」


 発射されたビームは今までで一番太い。ビームが投げられたミサイルコンテナをあっさり引き裂く。だが、次の瞬間上から警告音が響く。

 見上げると黒い機械の蛇の先頭車両が降下してきていた。奴はミサイルコンテナを投げると同時に飛び上がっていたのだ。しかも口を広げあのビームをチャージしながら。


「太助君!上だ!レバーを!」


 海姫乙女はそう叫ぶと、レバーがついたほうのおっぱいを突き出す。


「わかってます!喰らい付け!!」


 太助は乳首のレバーをつまみ上方向にひっぱる。すると先ほど投げられたミサイルコンテナを貫いたビームが上方向に角度を変え上昇した。まるで蒼い龍が天に昇るように。


「)YSHSIO+VNS‘ED*E”!!」


 黒い機械の蛇が奇声を上げると同時にビームは胴体の真ん中を貫く。


「まだまだ!」


 太助はレバーをさらに動かす。それにあわせてビームが動き、まるで生き物のように黒い機械の蛇の身体を食いちぎりばらばらにする。


「**MOSJSV)V)S)”$&”!!K)=VSUS!!!!!!!!」


 今までで一番大きい奇声と同時に黒い機械の蛇にくっついていた人型ロボットが胴体から引き抜かれた。


「いくぜ!サジテリアス!」


「ああ!太助君!止めを!」


 太助はレバーを深く押し込むするとビームが空中でばらばらになった機械の蛇を巻き込み大きな蒼い球となった。

 サジテリアスこと巨大な海姫乙女が構えていたライフルを杖のように振るとその球はライフルの先端にセットされる。画面の横に表示されていた時計の残り時間は5秒。


「これでお前は!GAMEOVERだ!」


 太助は迷うことなくトリガーを引く。その瞬間ライフルの先にセットされていた蒼い宝玉は、機械の蛇の残骸ごと破裂し、閃光と共にあたりに砕けたガラスのように降り注ぐ。

 そのきらめきの中、サジテリアスこと巨大な海姫乙女は装甲を開き、そこから黄金色の放熱を出しながら、大型ライフルを横にして頭上の上に掲げていた。

 

太助が設定したサジタリウスの勝利時ポーズだった。


<続く>




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