1話ーC「約束してください!」
「だ……大丈夫か……君……うう」
海姫先輩の声が耳元で響き、太助は目を開けた。何かをしゃべろうとしたとき左手に激痛が走る。
「つう!……なんだ…!!?!あ……ああぁ……」
目の前に信じたくない光景があった。自分の左腕。肘から先がありえない方向に90度まがっている。普段なら指先の感覚があるのに、今は動かそうとすると痛みしか響かない。
「ああ!ああ!!あああぁああ!!」
叫びたいが声がまともにでない。本当なら傷口を押さえたいのに体がうまく動かない。ばたばた意味なく動くだけだ。まるで自分の体ではないように。いやいっそ自分の身体でなければよかったのに。だがそんな太助の腰を横から何か挟み込んで抑えた。
「大丈夫だ!落ち着け!ゆっくり息をして……腕が無事であることを想像しろ……!!」
そんなことできるわけがない。太助がそう反論しようとすると、太助の顔を何か柔らかいものが包み込んだ。海姫先輩が上半身を少しだけ上げ胸を押し付けたのだ。
(え……あ……いい匂い……なんだろう……懐かしい)
海姫先輩の鼓動が聞こえるたびに、痛みが引いていく感じがして、心が落ち着いてきた。
(無事な……腕を想像……あれ?)
思わず、太助は体を起こす。なぜなら痛みが引くどころか、指の感覚が戻ったからだ。腕を見ると、先ほどまで曲がった腕がきちんと元に戻っている。
「なんで……?動く……」
指も自分の意志で動く。太助はわけがわからなかった。
「ここは……現実ではない。……先ほどの攻撃でコックピット内に体をぶつけた際、君の意識がそう思い込んだんだ。だが実際の体は何の異常もない。心を落ち着ければ元に戻せる。バックアップとおなじようなものさ……つう!!」
そういった、海姫先輩の体には所々黒いこげ跡がみえた。ビュー画面には装甲がはがれぼろぼろになって瓦礫に倒れている海姫先輩が映し出されている。
「せ……先輩。なら先輩も早く!」
「ふふ……無理だよ……私がこの姿でこのネットワークにいられるのはいろいろな機械的補助で無理やり維持しているに過ぎない……。君のような意識丸ごとで入れて、人の形を維持できるわけではない……まずは起き上がらせてくれ」
「あ……はい」
太助が起き上がる操作をすると、海姫先輩は苦痛に顔をゆがめる。
「うぁあお……。これは……まずいな……早く戻らないと……現実の体にも影響が出るかも……」
「え!なら早く戻らないと!」
「それも……無理だよ……あいつがあの状態でいる限り戻れない……。プログラムが乱され最悪ネットワークの海を永遠に意識だけでさまようことになる……」
画面を見ると空中のレールはさらに広がり、そこを黒い機械の蛇が縦横無尽に走り回っている。先頭車両についていたロボットの瞳はこちらをずっと眺めているが、攻撃はしてこない。
「なめているのか……後は時間が立つのを待てばいいと……。それが命取りだ!さあ。いこう。幸いシールドと装甲が駄目になっただけで武器は無事だ。こんどはちゃんと……ぐうぅ!!」
息を荒げ、苦痛に顔をゆがめる海姫先輩を見て太助は思わず立ち上がる。
「な!なにいってるんですか!そもそもなんで俺たちがあんな化け物を倒さないといけないんですか!こんな痛い思いまでして!」
太助は先ほど折れた左腕を思わず押さえた。確かに治ったが一度感じた痛みは忘れられるものではない。
「た……確かに、あいつを何とかしないとたくさんの人が死ぬかもしれないけど!俺たちには関係ない!そう!そうですよ!そんなの警察や管理局の責任じゃないですか!体に戻れないなら、ここは離れて管理局の対応を待ったほうが……!!」
そこまで言いかけて、太助は海姫先輩がこっちを見ていることに気がついた。ただしその顔はとても悲しそうだった。
(な……なんでそんな顔してるんですか……。俺。先輩を心配しているのに!)
「それはできない……。なぜなら……私は管理局の要請でここにいる……。わかるかい……私達が管理局の対応なんだよ……」
その言葉に太助は愕然とし、力なくシートに座った。もしそれが本当なら、今すぐに救助の類はこない。
「なんで……そんな……こんなことに……」
今まで、自分が困ったとき、危険が迫ったとき、親や先生、警察が助けてくれる。当然だと思っていた。それが当たり前だと思っていた。学生だし、自分達の生活の安全は保障されているはずだった。
だが、今太助は怪物の目の前で海姫先輩と共に命の危機に瀕している。おまけに太助の肩に大勢の命がかかっている。誰も助けてはくれない。
「おかしい……おかしい!!何で先輩がこんなことしてるんですか!する必要ないのに!」
「違う!私は戦士だ!人々のために戦う戦士だ!力もある!そして君も……」
「なにいってるんですか!俺はただの学生です!ゲームが好きな!普通の!なのに!なのに!こんな……」
太助はコンソールを力いっぱい叩き、うずくまった。できればここから逃げ出したい。頭の中は『なぜ?』『どうして?』『嫌だ』その言葉ばかりが渦巻いている。
「……」
目の前で海姫先輩がこちらを見ている。先ほどと同じように悲しげな顔だ。だが何も言わない。
(なさけないっておこられるかな……。デモ!仕方がないじゃないか!俺があんな奴と戦えるわけないだろ!?)
自分の意見を言いたいが、震えが止まらなくうまくしゃべれそうになかった。
「……すまない……」
「なに……あやまってるんですか……」
「私はてっきり君も私と同じだと思ってた……よく考えればそんなはずはないのに……。わかった。もう戦わなくていい。だから君はどんなことがあって落ち着いて体が無事なことを想像するんだ。どんなことがあっても」
そういうと海姫先輩の顔がいつもどおりのきりっとした顔になった。
「で……でも……おれじゃなくちゃ……うごかないんじゃあ……」
「君が操作しなければ、私でも多少は動かせる。動きや出力に問題はあるがな……なに!大丈夫さ。君は私に任せていればいい」
そういうと、ビュー画面に映っていた海姫先輩がライフルを構え、撃ちながら黒い機械の蛇に近づいていった。だがその動きは太助から見ると、酷かった。
(なんだよ……これ?まるで初心者の動き……)
「せ……先輩。遅すぎです。もっと早く……」
(なに言ってるんだよ!俺には口を出す資格はないのに……)
だが、本当に酷かったのも事実。まるで相手に当たっていないのだから。
「し……仕方が無いだろう……。私は君と違ってこの姿を維持するだけで精一杯……それよりそんなことに意識を向けてはいけない。君がもし死んだと思い込めば身体が無事でもどうなるか……は!」
「え!?」
その瞬間、コックピットが左右に大きく揺れ世界が回転した。慌ててビュー画面を見ると、先頭車両にあったロボットの腕が伸び、海姫先輩の左足、そしてライフルごと右腕に絡みつき、吊り上げられている。
「くそ!く!外れない……」
モニターには、黒い機械の蛇が口を開け、先ほどのビーム砲の砲門をこちらに向けている。
「ひ!」
太助は思わず後ずさる。あの威力をこの近距離でくらうことを想像すれば当然だろう。だが、ビームは発射されない。
代わりに相手の上半身だけロボットの顔がUPで映し出された。顔といっても人の顔ではなく、黒いパネルがはめ込まれていて何も書かれていないお面に見える。そのパネルにはピンク色の波形が映し出され、その形が表情を表しているように思えた。何を考えているかはわからないが。
「命乞いをしろ……ふざけるな!誰が貴様のようなやつに!第一そんなことをしても貴様に助ける気も電車を止める気もないだろうが!!」
悔しそうな顔をした先輩が叫ぶと、ロボットの顔の波形が激しく乱れた。それと同時に砲身に光が収縮し始める。
「……誰が怖いものか!私は戦士だ!死など恐れない!恐れるものか!いつだって!どんな状況だって!お前を倒すことを考えている!」
(なんだ……?先輩……こいつの言っていることがわかってる?……どうしてってなに考えてるんだ!これやばいだろ!そうだ!落ち着け!落ち着いてれば死ぬことはない!)
そうすれば死ぬことはない。先ほどの腕の例があるため信じているがやはり不安だ。つい目をつむって耳をふさいでしまった。
(こうしてたほうがいいかな?下手に見たり、音を聞くと慌てそう……それにしてもやっぱ海姫先輩すごいよな……あんな状況であんなこと言えるなんて……俺なんて……いやいや!しかたがない!それに先輩だって何か考えがあるさ。そうだよ。いざというときの緊急脱出装置みたいな!それがなけりゃあんなこというわけ……)
こんなシステムを作れるくらいだから安全装置ぐらいあるはず。だから先輩も俺も助かる。電車のほうはわからないけど、何かあっても原因を知れば誰だって仕方が無いと思うはずだ。太助はそう自分に言い聞かせた。
だが、そんなことを思う度、情けない気持ちが起き上がってくる。だからつい目を少し開けてしまった。目をつむっていると周りが見えない分自分の情けない部分がとても見えるからだ。
(先輩は……さっきとおな……?!)
てっきり、海姫先輩はさっきと同じ凛凛しく敵をにらんでいると思った。だが違った。涙を流しながらうつむいてる。その光景に思わず耳をふさいでいた手を緩めてしまった。
「怖いものか……。私は戦士だ。父上と同じ……戦士。死ぬことなんて怖くない……怖いものか……。ごめ……んなさい。うぅ。父上。母上……私……守れなかった。敵も倒せず……絶対負けないって思ってたのに……鍛えてきたのに……駄目だった……」
海姫先輩は小声で搾り出すように泣きながら……震えていた。
(なんだよ……。死ぬ……?もしかして安全装置みたいなものなんてない?じゃ……じゃあ、先輩は!?それで怖がってる!?あの先輩が!?)
太郎が信じられないのも無理はない。海姫乙女といえば、先輩はもとより教師でさえ恐れず自分の意思を貫き、凛として気高く威風堂々。決して泣いたり弱音なんてはかないものだと思っていた。だが違った。
(あの海姫先輩が……怖がってる。俺と同じ……いや……違う。俺はまだ助かる可能性があるけど先輩は違う……それに先輩は死ぬことよりあいつに負けて電車の暴走を止められないこと悔しがってる……)
光の収束がさらに強まった。画面の隅に映し出された時計は3分を切っている。このままだと先輩は死に、自分も危ない。さらには電車が暴走したままホームに突っ込んで大惨事。これを防ぐには目の前の化け物を倒すしかない。だが、海姫先輩では無理だ。なら誰が。
今ここにいて何とかできる力を持ったものしかいない。
(できるのか……確かに、俺なら先輩をもっと早く、うまく動かせる。でもそれであいつを倒せる保障なんて……)
「誰か……助けて……」
海姫先輩は目をつぶって泣いていた。太助が目をつぶって耳をふさいでいたため、今まで不安がらないよう気丈に振舞っていたがその必要がなくなったので本音がでたのだ。その言葉を聞いた瞬間、太助はレバーを握って叫んだ。
「うおおおお!!!」
そしてそのまま、トリガーを引くと同時に、海姫先輩の胸に手を押し付けた。正確に言えば先輩のオッパイに浮き上がった大型ビームライフルの出力パネルを押さえたのだ。
これは裏コマンド。正規の使い方ではない。だがこのコマンドをするとある特別な武器ができる。本来発射されるエネルギーがパネル操作の影響を受けて出力が変化するのだが発射されなくなる。つまりライフルの先端に留まる。まるでビームの刃のように。
「おっりゃあああぁ!」
「え!ひゃああおぉお!」
いきなり胸をつかまれた先輩の叫び声と共に、形成されたビームの刃は絡み付いていた腕を焼き切り、右腕の自由を取り戻す。
そして、そのまま振り下ろすと、それは左足に絡み付いていた奴の腕を斬り捨てた。自由を取り戻したらすぐさまペダルを踏んで飛び上がり距離をとる。
「はあ……はあ……と……とりあえず逃げられた……だけど……」
海姫先輩の胸に手を当てたまま、太助は呼吸を整える。
「う……あ……。き……君……どうして……?はんぅ」
小刻みに痙攣しながら海姫先輩は太助に問いかける。
(う……うわ……!ついやっちゃったけど……これ……すげえ……手が吸い付くっていうか……いや!今はそれどころじゃない!)
「先輩!」
「!な……なんだ……?はうぅ!!」
太助は海姫先輩に問いかけると同時にオッパイをつかんでいた手に力をこめた。
「俺と約束してください!」
「こ……こんなときにいったい……ふみゅう!!と……にかく手の力をゆるめ……はう!」
「いいですか?いまから……いや……今日俺がすることに対して先輩は絶対に怒らないこと!後にも先にも未来永劫!」
「な……なにを……ひゃん!あああぁ!わかった!する!するから!それやめてくれ!ちぎれちゃう!!」
太助の手から逃れようとするが、手足が固定されているためでできずじたばたしてると、さらにつかんでる手が強めに握ってきた。
「先輩!動かないで!動くたびにパネルが動いてうまく設定できない!」
太助は怒鳴ると同時に、ペダルを踏み込み、移動しながら各部パラメーターを設定しなおしていた。
(やっぱり……俺のデータを一緒だけどそれはあくまでゲームの中の『サジテリアス』に対しての最適化だから。でもいまは先輩なんだ。微妙に違う癖とかにあわせないと!)
「ひゃん!そ……んな……こといってもだな……あん!そこ!ちょっと!そこは敏感!!あぁあ!くすぐったい!!」
(あ……あれ?くすぐったいけど……私……こんなに激しく動かされてるのにさっきまでの痛みがない……むしろ……いい?)
先ほどまでは痛みとか快感が同時に来ていたが、今は違う。今は痛みが弱くなり快感が強くなっている。ちょうどいいバランスで心地よかった。
「先輩!だから!腰とか動かさないで!胸も!ゆれるたびに決定ボタンが動いて押しにくいですから!後!色っぽい声だすのも禁止!」
太助がそう叫ぶと、胸の先端の突起の上に出た決定ボタンを指で押し込んだ。
「ああぁん!だ……誰が!色っぽいぁぁぃ!……声……だ。戦士の私がそんな……んんんぅ!!」
「だからそれですって……。お願いですから……もし約束守って我慢でしてくれるなら……」
太助は真面目な顔になって海姫先輩の胸に両手を当てた。後は押し込んで設定を登録するだけだ。
「ううぅ……なんだ?約束するなら……」
息を荒げて、太助を見上げる海姫先輩をまっすぐ見て太助は答える。
「してくれるなら……俺があいつを倒します。先輩を使って!」
「え!?あ。君……それって……」
「俺が倒します!だから……先輩の体を触っても弄っても何しても!後で怒らないでください!」
「!!で……も。君は……はふうん!」
太助は返答も聞かず、胸を押して、設定を登録し、レバーを握り締めた。もう時間がない。有無も言わさずペダルを踏み込んで出力を上げる。
(くうぅんん!あ!あ!!!な……なんだ?痛みはちょっとある。けど!さっきみたいな不安感がない!むしろいい!もっと!もっと!あげてほしい!!)
先ほどまでと全然違う感覚に戸惑いながら、コックピットに座る太助の顔がダブった。幼いころ憧れ尊敬し、大好きだった父親に。
(な……なんで……全然違うのに……)
「先輩!」
「ひゃ……ひゃい!な……なんだ?」
太助の叫びに海姫乙女ははっとし、頭を振って雑念を振り払う。
「するんですか!約束!」
「するもなにも……君にはそんな危ない……!!あ!あ!そこ!そんなに強く!!わかった!する!君の好きにしていい!」
反論しようとしていた先輩を太助はペダルを踏んで黙らせた。
「あ〜。こう強く踏むとこう反応するんだ……。先輩。いいですね?約束しましたね!」
「うう……酷いじゃないか……君がこんなことする人間だったぁ!!はい!しました!!」
反論しようとすると、太助にちょうどいい強さとタイミングでペダルを踏まれ体が反応してしまう。しかも痛いのではなく、気持ちよすぎるのだ。このままやられると自分がどうなるかわからない。だから怖くてつい返事をしてしまった。
「わかりました。それじゃあ行きますよ。あと……俺は君じゃないです!浦島太助です!ちゃんと名前で呼んでください!」
「!……約束が増えてないか?というかそれは命令……!?まて!またペダルをふもうとしてるな!わたった。た……太助君……これでいいか……?」
(な……なんで?わたしは名前で?ほかの後輩や友達みたいに苗字でいいじゃないか……でもなんか名前で言わないと機嫌をそこね……なに媚びをうるような!私はいつからそんな情けない考えぇ!!)
海姫乙女が自分の行いを恥じてると、太助がペダルを踏んで高速移動を開始した。
「はひぃ!ちゃ!ちゃんと言う通りににしたのにいぃい!」
「先輩!黙って!ミサイルが来てます!!」
黒い機械の蛇が再びミサイルを発射したので、回避行動にはいったのだ。ミサイルの雨を太助は見事に避ける。
(……くやしいが……見事な操縦だ……。私にはどうやってもできない……でも彼は……)
「はあ……はあ……。た……太助くん……ああん!くう!……ほ……本当にいいのか?あいつと戦うというの……どうなるか……助かる保障はないぞ……んん!!」
「先輩!また!……もう声を上げるのはいいですけど、腰とか体を動かすのはやめてくださいね!……ええ!やりますよ!やらなくちゃ!俺が!俺が!先輩を使ってこいつを倒します!」
「……。あ……ありがとう。た……たのむ。私では無理なんだ。だから私を好きに使っていい……太助君。あいつを……倒してくれ……助けて……ください」
弱々しい声で頼む海姫先輩の声を聞いた太助は、力強くレバーを握り締めた。
「まかせてください!俺は本番に強いんですから!」
その瞬間、先輩の体にとりつけてあるブースターの炎が黄色から青に変化した。コックピットのメーターにも変化が現れる。出力を表す数値の桁が上がっているのだ。
「あ!ああぁ!すごい!こんなの初めて!!!」
コックピットが激しく振動している。だが不安はない。むしろもっと出力を上げろといっているようだった。
「……いきますよ……」
太助は照準を合わせトリガーを引く。
ビルの谷間で足と腰のブースターから青い炎を吹き出し姿勢を制御。そのままアーマーをつけた細い腕で大型ビームライフルの砲身を黒い機械の蛇にむける。次の瞬間、光がねじれ空間を貫いていた。
「!&CAHUA&CA#$)”ADCA*A*!!!」
黒い機械の蛇が、明らかに異常な音を圧して悶えた。なぜならビームが当たった車両が膨らみ爆発したのだ。
「す……すごい。これなら……はぁん!!いい!もっとぉ!」
今まで見たこともない威力に驚いていた海姫乙女だが身体の奥から上がってくる感覚につい、声を出してしまった。
(!?!?……ま……また!あ!み……見てる!)
「な……なにをみているんだ……太助……君……」
「い……いえ……先輩って……結構可愛い声だすんだなあって……しかも音量がおおきい……」
「んん〜〜!!い!いいじゃないか!声は出してもいいといったはずだぞ!それに可愛いとは何だ!戦士にそんな……きゃん!」
太助は答えを聞く前にペダルを踏み込み、黒い機械の蛇に向かって突進した。もう横の時計は2分を切っている。
「先輩!いきますよ!早くあいつを倒さないと!」
「んん〜!!いい!行け!私のことはかまうな!君の好きなように!私は……『サジテリアス』は君の思うとおりに動く!!あいつを……倒してくれ!」
目の前の機械の蛇は身を持ち上げて、口を大きく開けて叫ぶ!
「MXABU&R%XA$%CA!!!!」
体を打ち抜かれ、腕を切り取られ怒っているのだろうか?
「なに言ってるかわかんないけど……今の『サジテリアス』に勝てると思ってるのかな?それは大きな間違いだ!」
巨大な黒い機械の蛇。普通なら怖くて動けないと思う。でも太助には勝利の確信があった。
ビュー画面に映る画像。青い炎を吹き出しながらライフルを構え凛凛しく立ち向かう大きな海姫乙女先輩の姿を。自分は今勝利の女神の中に乗っているのだ。
負ける理由が見当たらない。
<続く>