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心の泣き顔  作者: ペリエ
3/15

第3話




目的の場所に着いたリカコは、小走りで来た所為で少し上がった息を整えて店の中へ入った。

好奇心と話題作りのために、今まで何度か入ったことのあるパチンコ屋に少しも戸惑いはなかった。

初めて入った時は、いくら自分が愛煙家でも(未成年ですが。)臭いと思った店内。

今はすっかり慣れてしまいむしろ、趣味のうちの一つになってしまっているのではないだろうか。

ここに居る所を親が見たら、さぞかし嘆き悲しむことだろう。


「人間の順応能力って恐ろしいわ。」

軽い一言で片付け、店内にあゆむの姿を探す。

───そういえばカズヒロはパチンコしないのかしら───

ふとそう思った後に、リカコはカズヒロと付き合い始めてもう二ヶ月になるのに、そんな事も知らない自分に驚いた。


しかし後々から思い直すと、そんな事も知らない、という事に驚くのではなく、何も聞こうとしていなかった自分に驚くべきだったのだ。


リカコはキョロキョロと方々を見て回ったが、あゆむは見つからない。

さすがに知り合いを探すといっても、後姿だけで判断するのはなかなか困難な事だった。

「もう。昔からいつもこうなのよ。あたしが追いかける立場は変わらないんだわ。」

そう独り言を言い、不貞腐れた時、ポンと背中を弾かれて振り向くとあゆむが立っていた。

「でよっか。」

そう言って店の外に向かって歩きだすあゆむの後ろを、ドキドキしながらリカコは付いて行く。

店の外へ出ると、さっきまで三半規管がおかしくなりそうなくらい煩かったのが嘘のように消え、耳に残らない程度の街のざわめきや、少し混みかかった道路で鳴らされるクラクションの音が通り過ぎる。

すぐ近くの喫茶店へ入ろうとあゆむが誘ってきたが、

「ここでいいよ。」

と、リカコは話を手短に済ませようとした。

それでもあゆむが小腹が空いたから昼飯を付き合えと言うので、リカコは断れず頷いた。

あゆむの後ろに付いて行くと、さっきのパチンコ屋の駐車場に着いた。

入り口に比較的近い場所に停めてあったミニバン系の黒い車のドアを開け、「乗って。」とだけ言われた。

本当に昔から口数の少ない男だった。

この前久し振りに会った時にはそんな雰囲気は見えなかったが、やっぱり面影はある。

リカコは昔、そんなあゆむに憧れながらもその反面、近寄りがたいとも思っていたのだ。



「免許、取ったんだね。あたしも19になるまでは取るつもりなんだ。」

リカコはすぐに本題に入らず、身近にあった話題で明るく振舞った。

いきなり本題から入って、他に話題があるとも思えなかったし、気まずくなるのが嫌だったからだ。

「高橋まだ取ってなかったんだ?俺より誕生日早いんだから、もう既にいい車でも乗り回してんのかと思った。」

「あ・・・誕生日覚えてるんだ。」

そこはつくべきところではなかったが、リカコは素直な気持ちを言葉にした。

「そりゃあ、小学生ン時あれだけしょっちゅう言われたら嫌でも忘れないでしょ。」

「ははっ。そうだったっけ?それは御迷惑をお掛けしましたね!」


車は走行中であゆむがリカコの方を見ずに話すので、少しほっとする。

小学生の頃の話を、あゆむの口から聞くのは何と無く抵抗を感じたからだ。


「女のパワーはほんっとうに凄いよ。バーゲンセールでオバちゃんがゴリ押しするようになるのはそういう子供時代あってのもんなんだな!」

あゆむは笑顔で失礼な発言をするが、刺々しさは全く感じない。


───もう、子供じゃないんだ。特別ここが変わったって目立つ部分はないけど、もう確実に大人なんだ。あの時みたいにつまらない事でいちいち落ち込む事なんてなくなるんだろうな。


リカコはそう思って、少し気が楽になった。






幾分か走り、駅前から結構離れた郊外へやってきた。

どうやら、あゆむの行きつけの店があるらしい。

学生の頃では考えられなかった状況も慣れかけた頃、その店へと着く。

海沿いの道に面したそこは、表から見る限り、あゆむの行きそうな店のイメージではなかった。

小料理屋風の佇まいで、門はこじんまりとしていて、馬鹿高そうでもないが大衆的でもなく、尤も齢18の若造が行きつけと呼ぶ店の雰囲気にはほど遠い。


「あれっ?今日休みかよ。ったく気まぐれな店だな。」

門の前まで行くと、店休日と書かれた札が下がっていた。


「・・・コンビニでいい?」

あゆむが済まなそうにリカコに聞いた。

リカコはどちらかというと、そっちの方が気が楽だったのでもちろんと二つ返事で笑った。





「ところでさあ〜、今日はカズ休みだろ。」

おにぎりを頬張りながら、本題突入という感じだ。

「そういえば、今朝電話掛かってきた。でも話してないから聞いてない。」

「そっか。じゃあ臨時休業かな。今日は定休日じゃないし。」

あゆむはそう言って、さっきの店がある方に顎をしゃくった。

「えっ!?さっきの店ってカズヒロが働いてる店だったの!?」

「はあ?知らなかったわけ?本当に付き合ってんの、君たちは。」

そう言われても無理はないだろう。

リカコは自分の適当さにがっかりした。

付き合って二ヶ月も経てば、大抵のカップルは性格くらいまでは知り合うだろう。

それなのにリカコはカズヒロの事は名前と年、地元の人間ではない事くらいしか知らない。

しかしそういう類の話が今まで出なかった訳ではない。

単にリカコが聞き流しているか、忘れているかなのだ。

しかし今日はそんな話をしに来た訳ではない。

リカコは本題の本題に入った。


あゆむがあの日どの程度までカズヒロに話したのかを。


ところが話を聞いてみると、あゆむはほとんど何も話していなかった。

ただリカコが中学校時代は少し荒れたとか、そんなよくあるような思い出話だけだった。

「なーんだ」と言わんばかりにリカコは安堵の溜息を漏らした。

ほっとしたような、でも少しつまらないような悲しいような複雑な心境。

そんなリカコの心中をどう見たのかは知らないが、

「だって、あんまりペラペラ話したらカズが面白く思わないだろ。それにこれから多分俺ら三人は頻繁に会う事になると思う。そん時にカズの知らない共通の話題が出たら、ギクシャクするだろうし俺の方がお前の事を知り過ぎてたら、カズはいい気持ちはしないよ。俺、カズは結構大事な友達だからさ!」


───確かに。

あゆむは大人だ。いや、大人になってるんだ。

いつまでも過去にこだわってるのは自分だけ。

あゆむはきっと昔の事も覚えていないだろう。

いつまでも引きずるのはやめよう。


リカコはやっと決心出来たのだった。








第三話  完


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