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心の泣き顔  作者: ペリエ
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第2話




「おい、リカ!お前やっぱりあゆむの事が今でも好きなんだろう!?」

怒鳴るカズヒロの隣にあゆむが立っている。

「高橋・・・悪いなぁ。つい口が滑って高橋が俺に告った事とか全部しゃべっちゃった!」

───はあ?口は滑るために付いてんじゃないんだけど?

「カ、カズヒロ・・・そんな、別にあたし今はあゆむの事なんて・・・」

そう慌てて説明するリカコに、逆上したカズヒロが殴りかかろうとしている。

「おい、カズ!止めろって。女に手ェあげんのは良くねーよ!」

「うるせぇ!あゆむはリカを庇うんだな?俺を馬鹿にしやがって。」

カズヒロが振りかざした拳をリカコに振り下ろしたその瞬間・・・



      バサッ!!!



・・・とリカコはベッドから飛び起きた。

ああ。飛び起きるってこういう事を言うんだ。なんて変に落ち着きながら。


「もぉ〜、何なの今の夢ェ。ちょっと留美ィ留美ィ。」

リカコは眠い目を擦りながら留美のベッドをさすった。

留美は寝起きで掠れた声を絞り出し、”年寄りは朝が早いから苦労する”と憎まれ口をたたく。

年寄りといってもリカコは18、留美は17。

そりゃあ産まれたての赤ん坊から見れば年寄りになるかもしれないが、世間一般的にはまだピチピチの青春真っ盛りのギャルなのだ。

まあ、このくらいの年齢の時は一日一日が色々な刺激や、好奇心などに彩られた出来事がたくさんあるもので、当人たちはそれを日々完全燃焼で生きている故一歳の差とは大きい物なのかもしれないが。

憎まれ口をたたき、二度寝を決め込もうとする留美を寝床から引きずり下ろし、今見たばかりの現実では非常に信じ難い壮絶なドラマを、しゃくり上げそうな様子で話し始めるリカコ。

そんなリカコの前に鏡が差し出された。


「うわっ!!酷い顔!」


鏡に映ったリカコはマスカラが中途半端に落ちて、頬はこけ、顔面蒼白。

見事なパンダ化粧である。

一体何処の動物園から抜け出して来た野生児だろうと思える程に。

「ちゃんと化粧くらい落として寝ないと!!せ〜っかく綺麗なお肌が崩壊しますぞ!」

そう留美に言われるや否や、リカコは洗面所へ向かった。


───昨夜は仕事が遅くなり帰ってきたのが朝方だったからな───




リカコは高校を辞めてから年を偽り水商売をしてきた。

人と話すのは好きだし、家を勘当同然に出て来た為直ぐに就ける仕事でもあったし、給料もそこそこ魅力的であったので今の職業を選んだ。

元々リカコは大人だらけの環境で厳しく育てられた。

その所為か学生時代も成績は優秀。

さらには雑学にも長けていて、容姿もやや良い方だ。

一つ二つ年を偽って夜の世界を生きても誰も気づきやしなかった。

高校へ進学しなかった留美もそんなリカコを見て、”留美も働きたい!”などと言って詰め寄るものだから、リカコもついつい ”人生経験だし、まっ、いいか。”と夜の世界へ引っ張り込んだ。

あまり感心できる事ではないが、これも社会勉強の一環。

学校では教えてくれない授業なので、自らの目で、耳で触れてみないと解らないものだ。

と、そんなリカコはまだ若いながらも現職業をさくさくこなし、一応店の看板娘的ポストにいる。

小父様のハートをぐっと刺激するノウハウを既に身に付けているが、あのような場所というのは不思議なところで、普段は何でもない一言や、特に目立たない子でもパッと引き立ててしまう何かがある。

差し詰め、ライトマジックというやつであろうか。


「お客さんがこんな顔見たらびっくりするだろうな・・・。」

軽く苦笑しながらリカコは洗顔を済ませた。

部屋に戻ると留美が、リカコの携帯電話が鳴った事を教えてくれた。

さっぱりした顔で着信履歴を見ると、

   「伊沢カズヒロ」

とある。

ふと、さっき見た夢を思い出し、あゆむはどこまで話したんだろうと考えてみる。

まさかとは思ったが。

───変な昔話なんてしてないといいんだけど───

思わず小声で呟いてしまう。

「この際、直接聞いちゃえばぁ?」

「・・・誰に?」

聞かなくても分かるのに、お約束の台詞みたいで嫌な感じがしたリカコ。

「あゆくんに決まってんじゃ〜ん?」

もう目が覚めたんだろうか、テンションが上がってきた留美はにんまりと満面の笑みを浮かべる。

「あたし、あゆむの携帯番号知らないし。ってか知ってるわけないじゃん。」

リカコはそう言ったが、あゆむの家の場所と家の電話番号は知っている。

しかしこうでも言わないと、留美に後押しをしてもらえない。

「もう〜そんな事言って。どうせ家の場所も家の電話番号も知ってるくせに!まあ、いいよ。携帯の方が確実だもんね、留美がかけるよ。」


───嗚呼。持つべきものは友達。何て優しい子なんだろう。

と、思うより先に留美は「もしもし」とか何とか話している。

リカコは自分もこれくらい行動力があればな、と羨ましく思った。

しかしそんな事を思う前に、先ずどう切り出すかを考えなくては。

あの日カズヒロにどんな話をして聞かせたのか、ただそれだけの事なのにリカコは変に硬くなっていた。

そんなリカコに留美は少しも気付かない様子で「はい。」と携帯を渡す。

ふう、と息を吐き出し、深呼吸の真似事をして汗で滲む手を絨毯で拭い、「もしもし」とだけ言った。

「おう。どうしたの?留美から電話なんて付き合ってた頃にさえ一回しかなかったからびっくりしたよ。高橋が用があったんだって?」


何だか話の切り出し方に悩んでたのが馬鹿らしく思えた。

思ったより明るいトーンのあゆむの声に救われたリカコは少し落ち着く事が出来た。

「うん、この前の事なんだけど」

そう言いかけると、

「おっ!悪ィ。今駅前のパチンコ屋にいるからさ、ちょっと来てよ。今出ちゃってるから切るわ!」

一方的に切れた電話を握り締め、リカコはあゆむの言葉をゆっくりと復唱した。

それを聞いた留美は、状況をはっきり掴めていないリカコを促し、身支度をさせた。


「・・・・・・ちょっと地味じゃない?」


黒のキャミソールに黒のパンツ、秋も後半なので黒いジャケットを羽織ったリカコを見て、心から不服そうな声をだす留美。

「決め込んでいく必要もないでしょ。ちょこっと小話する程度なんだから。」

そう言いつつも、薄くではあるがしっかりとメイクをしたリカコはそそくさと出掛けて行った。

目指す場所はここから歩いて十分もかからない距離にある。

一人で出て来た事に些か不安を感じたが、変に意識しないようにしようと自分に言い聞かせながら、既に小走りになる自分に気が付かなかった。










第二話  完


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