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心の泣き顔  作者: ペリエ
14/15

第14話


「これとこれとこれっと・・・・・これでオッケーかな。」





はるかがぶつぶつと呟きながら何やら出していた。





リカコと留美が住んでいるマンションは今更ながら説明すると2LDKである。

十代の女の子が二人暮しする部屋にしたら、比較的広い部屋と言える。

リビングには料理の得意な留美がこだわって置いている、一家族が普通に食事出来るくらいの大きさのローテーブルがある。

一家族が余裕に食事出来るほどなので結構大きいテーブルだ。

今彼女達の部屋に上がり、普段あまり使っていない部屋に荷物を収めたはるかがリビングにやってきて、袋から次々と出し続け最後に出した物で、その大きなテーブルは完全に埋まってしまった。



「はるかちゃん・・・、ちょっと、こんなに?!」


リカコも留美も呆気に取られながら次々と出されていく様を眺めていたが、まさかテーブルが埋まってしまうほどまで続くとは思っていなかった。



「うん。やっぱ世話になるんだしなー。ほんの気持ちなんだけどみんなで食べようー。」


唖然としている二人を余所に、はるかはカラカラ笑いながら空になった大量のコンビニかスーパーの袋を丸めている。


「でも・・・・・・こんなに大変じゃ・・・」


テーブルいっぱいのお菓子や飲み物や(アルコール含む)お惣菜などなど、様々な食料品を端から眺めながらリカコは勝手にはるかのふところを心配した。


「いーのいーの!心配しないで。実はアッシー君に買ってもらっちゃったんだしねー。」


あまり悪びれた様子もなくはるかは舌を出す。

まぁこれだけ顔も可愛ければそんな存在が居ても納得出来る。

まさかあゆむもその存在に位置づけられているのでは・・・とまたまた心配になった。



「じゃー遠慮なくいただきまーす。」


リカコの心中とは裏腹にテーブルを埋め尽くすほどのお菓子に留美は上機嫌だ。

留美にすればただのラッキーのうちなのだろう。


「どんどんいってー。ほらリカコちゃんも。」


はるかも留美も既に何かしら手にとっていて、ただ呆けているのはリカコのみだった。


憶測だけで一人で杞憂していても仕方ないので、リカコもありがたくいただく事にする。

恐らくはるかの方から色々話をしてくれるかもしれないし、こんなに感じのいい女の子なんだから自分もつまらない感情は忘れて素直に接していこう。

はるかの自然な嫌味のない雰囲気に、いつの間にかリカコもそう思えるようになった。





よし、ここはひとつ思い切って聞いてみよう。

でもなんて聞く?

あゆむとはどういう関係なの?それとも、彼氏とかいないの?とかか?

しかしリカコにはどちらの質問も、まだぶつけるに足る勇気は持ち合わせていなかった。

もう少し気持ちの整理がついてからにしよう・・・・・・。

それがいい。

こんな勝手な自問自答に納得しているのを余所に、相当空腹だったのか、口に菓子パンを詰め込んだはるかが口を開いた。



「あたしあゆむと前付き合ってたんだよねー。」



「へ・・・・・・?」



リカコも留美も思わず手を止めてはるかに目を遣る。

リカコが一番気になっていたがなかなか聞き出せないでいた事を、いとも簡単にあっさりと明確にしたはるかは相変わらず菓子パンをほおばり続ける。



「そ・・・そうなんだ・・・・・・。」


やはりそうだったのだ。

あの日、あの同窓会の夜頭を過ぎった一抹の不安は的中していたのだ。

なんとなくリカコの視界は暗くなった気がした。

しかし突然告げられたせいか、心の奥底まで影が浸透するような程の痛みはない。



「え・・・っとそれで、今は?」


さすがの留美の口調もたどたどしくなっている。


「今は友達ー。まぁほとんど会う事もなくなったんだけどさ、さすがに今回は頼る人いなくてさ・・・。んであゆむに電話したんだ。」


「「そうなんだ・・・。」」


リカコも留美もなんとなくそれ以上言葉に出なかった。

ちょっと蚊に刺されたんだ、みたいなノリで真実を明かすはるかが、自分達とは違うタイプの子で軽い衝撃があったのだ。



「ところでリカコちゃんはカズの元カノなんだろ?」


はるかの口から懐かしい名前が出る。

彼女はさすがあゆむと付き合っていただけあって、結構色々知っていそうだ。


「お互い別れる前にみんなで会いたかったなぁ・・・・・・。」


それは避けたい・・・・・・。

リカコはひっそりと心の中で呟いた。

もう別れたと聞いても結構ショックなのに、現在進行形の状態でその場に居合わせたら、どんな事になってしまうのか想像もつかない。



「なんで別れる事になったの?」


リカコの素朴な疑問だった。

今日初めてはるかと対面した時、あゆむと接する彼女は極自然で、あゆむもまた然りであった。

違和感のない仲良さであったし、ギクシャクしてる風でもなかったように見えたのだ。

勿論ギクシャクするようならはるかもあゆむに電話などしなかったのだろうが・・・・・・。



「あー・・・・・・。リカコちゃんあゆむの幼馴染なんだよね?」



今まで流暢に話していたはるかが、初めて気まずそうにリカコから目を逸らす。



「リカコちゃん聞いたらムカツクかもしれないけどさ・・・・・・。別れた原因はあたしの浮気なんだ・・・・・・。」


「浮気しちゃったんだ・・・・・・?」


はるかに対して腹は立たなかった。

ただいくつもいくつも明かされる事実に、一々反応しなくなってきている。

確かにはるかには怒りを感じないのだが、あゆむの対応に憤りを感じた。

浮気をして別れた彼女に未だ優しくする事に嫉妬しているのか、それともそんな事実がまるでなかったかのように振舞える彼の冷静さにか・・・・・・。

何に対してかはリカコにも判らない。



「ムカつきはしないんだけど・・・その・・・なんで?」


「多分さ、あゆくんて物足りないんじゃない?」


気まずそうにしているはるかの代わりに留美が答えた。

留美も一応あゆむの事を少なからず知る人間であるが、彼女が言うようにはるかもあゆむに物足りなさを感じたのだろうか?



「そうなの?」


こればかりはただの幼馴染のリカコには分からない事だ。


「うん・・・まぁ、物足りない・・・かな。」


「だよねぇ。」


なんだか留美とはるかで意見が一致しているようだ・・・・・・。


「ちなみに・・・どこが物足りないの?」


どこがいけないのだろう。

あゆむの女の扱い方なのか?

どういう付き合い方をするのかも分からないのに、リカコには皆目見当もつかない。


「どこがって言ってもなぁ・・・。言葉足らず?って言うのかなぁ。なんて言えばいいんだろう。ヤキモチとかも妬かないし、彼氏の威厳がないみたいな・・・・・・。」


「あーわかるわかる!」



いつの間にやらはるかと留美で勝手に話が盛り上がっている。

リカコは見ず知らずの人の事を聞いたみたいな気分で二人の話を耳にしながら、一人思いを巡らせていた。

あゆむの事を全て知ってたつもりではなかった。

幼馴染といえど、特に思春期あたりから大分距離も出来ていたし、ましてや今まで恋愛について話した事などないのだ。

なんだかあゆむが全然違う人に思えてならない。

じゃあリカコにはどう見えていたのかと問われると、それも答える事は出来ないだろう。


リカコの目にはあゆむは写っていなかったのだろうか。

自分は彼の何を見て好きになったのだろう。

彼の何を知っているのだろう。

一体いつからどうしてこんな想いが生まれたんだろうか・・・・・・。


いつかは留美やはるかの言うような、あゆむの物足りなさを知る事ができるのだろうか。

物足りなくてもリカコには別に構わなかった。

それを知る事ができる存在になれるのなら、例え物足りなさがあったとしてもきっと苦に思わない自信はあった。

あゆむの事を全て知らなくても、彼を好きだという想いは確かであるから。

しかし悲しい哉、リカコにはそれを知る術を持つには望み薄だった。

あゆむが好きになる系統に、自分は該当していないのを自覚しているからだ。




───そういえば、あゆむって昔からショートカットの女の子好きだったような・・・・・・。



話題がすっかり変わって盛り上がってる留美とはるかを一瞥して、リカコは軽く嘆息した。

はるかは勿論、留美も今でこそ髪を伸ばしているものの、かつてはショートヘアだったのだ。

思えばリカコは昔何度も髪を切ろうかと悩んだ事もある。

しかしショートヘアも似合いそうにない気もしたし、自分も長い髪が気に入っていたのもあって、ずっとどうしても切れずに伸ばしている。



───あたしは・・・確かにあゆむのどこが好きかなんてわからない。

でも好きな事に理由は必要ないよね・・・・・・。



リカコは一束髪を手に取り見詰めた。


理由の必要な好きなんていらないのだ。

無条件に求められる事がリカコの望みなのかもしれない。

偽りのない本当の自分というものを彼に見せて、正面から向き合って勝負がしたい。


今まであゆむと正面から向き合おうとした事なんてなかった。

というより彼の前では変に緊張ばかりして、本当の自分を出すことができなかった。

彼を好きだと想うほどに自分を閉じ込めて、自信がなくなってしまい諦めようとする方面に前向きになっていた気がする。



ありのままの自分を好きになってもらいたいのに、本当の自分を曝け出して嫌われるのは怖い。

矛盾した気持ちに何もかも押しつぶされそうで苦しかった。







その晩リカコは眠れずに居た。



隣では留美が騒ぎすぎて疲れたのか、珍しくいびきもかかずに深い眠りに就いている。

妙にしんとしたいつもの寝室が他人の家のような感じがしてきて、落ち着かなくなって思わずベッドからそっと抜け出す。

客間にも音が響かないように、忍び足でリビングのソファに座り煙草に火をつけた。


思い切り吸い込んだ煙を吐き出してから、携帯を開いて着信履歴からあゆむの番号を表示させる。

特別な用事はなかったけど彼と話がしたかった。


呼び出し音が鳴って大して待たされることもなく、あゆむは電話に出た。



「もしもし?どうした?」


「うん・・・何もないんだけど、なんとなくかけただけ。寝てた?」


あまり大きな声にならないように神経を使っているせいか、リカコは緊張もせず流暢に話せている。


「そっか、あー、はるかどう?」


「うん。今んとこ普通に仲良くできそうだよ。留美と話が合ってるみたい。あゆむの事で話が盛り上がってたよ。」


さっきまでの二人のどんちゃん騒ぎを思い出して、リカコはふふと微笑した。


「なんだそれー。でも留美と感じ似てるかもなー。リカコ一人だけ仲間はずれじゃん。ボケ二人に囲まれて唯一のツッコミ役みたいな!」


「はは・・・、確かにあたしと正反対っぽい気がする。なんか元気だし明るいしねー。」


「まるでおまえが暗くて元気ねーやつに聞こえるな。」


あゆむの言葉が切れて受話器の向こうからジッポ独特の音が聞こえる。


「あたしってさ・・・どう見える?・・・ってか男の目から見て彼女にしたいタイプとかしたくないタイプとか、色々あるじゃん。」


変なタイミングで聞いてしまったと後悔しつつも、リカコは早口に言葉を紡いだ。

少しも間を空けずに煙草の煙を吐き出す音が聞こえたかと思うと、あゆむがさっきよりも少し低い声で喋り始めた。









「カズのタイプと俺のタイプって結構かぶるんだよね。」




「・・・・・・え?!」





あゆむのその意図が掴めない言葉に、リカコは一口しか吸っていない煙草を思わず灰皿に押しやった。







第十四話              完






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