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心の泣き顔  作者: ペリエ
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第1話

この小説では未成年が喫煙する場面など御座いますが、決して未成年者の喫煙・飲酒等を幇助するものや促進するものではありません。





思わず笑顔が引きつった。

こんな状況で会うはずもない人と会ったから。


高橋リカコは今日、彼氏である伊沢カズヒロに「会わせたい人が居るから」と言われ、彼の家へ遊びに来ていた。


───ドッキリの番組か?

たった一瞬だけそう思ったが、リカコは芸能人でもないしそういう業界に知り合いすら居ない。

とにかく、やらせかと思う程出来過ぎたシナリオ。

リカコはものの二、三秒でそんな事を考えながら「久しぶり・・・。」とだけ言って目を逸らした。

リカコがそう言った相手は、小学校からの同級生である琴浜あゆむだ。

中学を卒業するまでずっと同じクラスで、高校に進んでからは全く接点がなくなり、同窓会くらいでしかもう会うことも無いと思っていた。

まさかこんな処で会うとは予想もつかない。

世間の狭さに驚かされているリカコを見透かしているかの様にあゆむは、

「世間てほんっとに狭いよなあ!」

とカズヒロに笑ってみせた。

カズヒロもリカコの驚きように、意気揚々としている。

何故この二人が知り合いなのか共通点が見つからない。

また、理由も見つけられずリカコは狐につままれた気分だった。


「っていうか、座れば?」


あゆむがそう言うまでリカコは、部屋の敷居も跨がず、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして突っ立っていた。


「あ、あんたに言われなくても座るわよ!!」


あまりにも激しい動揺で、リカコの言葉がいつも以上に刺々しくなってしまった。

そんな普段とは違う荒々しい態度のリカコを見て、カズヒロは目を丸くしたが、あゆむは全く気にもしていない様子で「あっそ。」とだけ言い苦笑した。





リカコは、カズヒロに対してあまり情熱的ではなかったので、普段横に座る事はあってもべったりくっついて、いちゃつく様な事はしなかった。

しかし今日は、敢えて!わざと!それを選び、腕まで組んでみせた。

何故そんな事をするのかリカコ自身にもはっきり解らなかった。

しかしなんとなく、あゆむに見せ付けたいという思いがあったからだろう。


「高橋って変わったな。昔はそんな風に彼氏とベタベタするタイプじゃなかったのに。」


───懐かしい呼び方をしやがって・・・。

と、リカコはその日初めてあゆむを正面から見た。

つと、あゆむと目が合った瞬間彼は口角を持ち上げ、「そういえば昔」と何かを切り出そうとした。

「ちょっと待って!!」

嫌な予感がしたリカコが咄嗟に大声を出したので、あゆむとカズヒロは面食らった様子でリカコを見詰めたが、カズヒロがすぐに悪戯っぽく笑う。

「さては、俺に知られたくない事があるんだなあ?」

リカコは瞬時に、自分で墓穴を掘った事に気付いた。


学生時代の話を根堀り葉堀り聞き出そうとするカズヒロを、一生懸命はぐらかそうとするがその努力は水の泡となってしまう。


───もうこの空気に耐えられない!


いっぱいいっぱいになったリカコは、急用とこじつけてカズヒロの部屋を後にした。


歩きながら、リカコはハッと我に返る。

「あいつ・・・。どこまで話すんだろう。」

リカコは深い溜息をついて、次にどんな顔をしてカズヒロに会おうと肩を落とした。









「リカちゃん。ねえリカちゃんてば!」

───あっ。ボーっとしちゃってた。


横で親友の高島留美がしきりに呼ぶので、リカコはびっくりして我に返った。

「何か、昨日から我に返るってのが有り過ぎるんですけど・・・?」

そうぼそっと呟くと、リカコより一つ年下の留美は、

「あらー?先輩、ひょっとして恋煩いですか?」

なんて少女漫画に出てくる、如何にも恋に煩ってますって人に対して言うようなありきたりの事を言う。

「今あたしが恋に煩ってたらおかしいでしょ?おかしいって言ってもあんたが面白がるくらいだろうけど。」


───うーん。確かに恋煩いではないはず・・・。


リカコは昨日の後味悪い出来事を留美に話す事にした。

留美はリカコの中学校からの後輩で、当時あゆむと付き合っていた。(と言っても二週間らしいが。)

そしてリカコの学生時代の想いも知っているので、この話の相談相手には適しているだろう。

しかしリカコは五年も留美と付き合いをしていて、今まで一度しか相談らしい相談をした事がない。

その一度目というのはリカコが、高校を辞めようか続けようか迷った時だ。

結果、留美が反対したにも関わらず辞めてしまったのだが。

それから以来なので、例え親友であっても年下の留美に相談というのは少し照れくさいものがある。





話は僅か十分で済んでしまった。

昨日リカコは、彼女なりに色々な思いを巡らせ一人で可笑しな空気の中で耐えたのは遥かに長く、恐らく一時間くらいはあったと思われる。

それなのに話はたった十分で済んだ。


それもそのはず、留美に話す事なんて細かい経緯等はいらないからだ。

カズヒロに「会わせたい人がいる」と言われ、家へ行ったらそこにあゆむが居た。と、それだけで十分なのだ。

リカコは留美とルームシェアしていたので、こういう時面倒な説明を省いてすぐに本題に入れるからいいな。と改めて友達と同居するメリットを噛みしめていた。





「でもさぁ、何かリカちゃんからしたら微妙だよね。昔好きだった人と今彼が友達だったなんてさ!」

「そう、そうなのよ!微妙だよ、有り得ないよ!だってカズヒロは去年こっちに来たばかりだし、地元ってわけじゃないんだから。」

「うーん。神の悪戯か人生の分かれ道か・・・。」


留美は大袈裟すぎる。

確かにリカコからすれば、昔とはいえ片思いしていた相手と今彼が仲良かったなんて微妙すぎる。

ドラマじゃないんだから、その手のシチュエーションはいらない。

リカコは はあー。と長い溜息をついた。


「留美ね、そういう状況まだないじゃん?だからどうしたらいいとか、そういうの判んないけど、リカちゃんが素直になればいいっていうか・・・その、正直になったらいいんじゃないの?自分の気持ちに。」


リカコはドキリとした。

昨日の出来事しか話して居ないはずなのに、心の中の核心を衝かれた様な気がしたから。

しかしすぐにその想いを打ち消すように、頭を横に振った。

久し振りに会った旧友が、たまたま昔ちょっと気になってた人だっただけの事と。

それにカズヒロはリカコの好みだし、男らしいし、何しろ一緒に居て面白い。

ドキドキっていうのはないが、常に笑いが絶えない。

そんなカズヒロよりも、あゆむの事を考えてしまった自分に喝を入れた。


リカコは思った。

あんな鈍感で、モテているのを自覚した上でクールに気取っちゃって、しかも自分に対してあんな酷い事をしておいて、このあたしが忘れるわけないでしょ!

絶対仕返ししてやる!

そうよ、どうせ再会したんだもの。

この際とことんギャフンと言わせてやるんだから!・・・と。


しかしリカコはこの時、まだ自分がギャフンと言わされるのを気付いていなかった。









第一話  完


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