出逢い
顔に風を感じる。
さっきまでの雨が降っているような湿り気がなくなり、涼しげな風が吹いているのが分かる。風のにおい、草のにおい。なんだろう、まるで自然の中にいるような…
そうだ、私はあのあと…
まどろみの中から自分の意識をたぐりよせ、目を開けようとして視覚にはいりこんできたまぶしい光にまた目を細める。明るいものから顔をそらすように顔を横に向けてから、そろそろと体を起こした。
落ちたと思ったのに痛みはまったくない。
「……ッ…………ここ、は?」
まぶしさに顔をしかめながらも開いた目に飛び込んできたのは辺りに広がる緑。うっそうとした木々の間からは柔らかな木漏れ日が射している。
ここは……森、だよね。
見慣れない景色に思わず周りを見わたす。たくさんの自然の流れがある中、人の気配はまったくといっていいほど感じられなかった。それでもなぜか不思議なぬくもりが美世を包み、混乱は驚くほど静かに消えく。この感覚はなんだろう。ひとことで言うならば安心だ。誰かに守られているような錯覚すら覚える。
だからだろうか、美世は落ち着いていた。
自分が置かれている状況はまったく理解できていないがひどく慌てているということもない。それどころか、さっきまで降っていた雨が今は止んでいた事に気づき、落胆したぐらいだ。
立てば、自分の足首ほどはあるだろうと思われる長さの草が茂った地面に手をついて、体の具合を確かめるようにしながらゆっくりと立ち上がった。
もう一度、ぐるりと周りを見てもやはり生き物がいる様子はなかった。
方向も考えず歩きはじめてどれくらいの時間がたったのだろうか。鞄は美世が寝ていたところのまわりになかったので携帯を見ることもできない。つまりは周りと連絡を取る手段はなにもないということだ。
まぁ、携帯があっても、こんな木ばっかのとこに電波が通ってるとも思えないんだけどね。
それよりも、日が暮れる前に誰か人に会わないといけない。
まだまだ日が沈む気配はなかったが、こんな見知らぬ土地で一人で夜を過すのかと考えるだけで鳥肌がたった。
森から出ることができればまだ人がいる確率は高いかもしれないけれど、森が途切れる様子はない。いったいどこまでこの森は広がっているんだろう。それとも、まっすぐ進んでるつもりがいつのまにか迷って同じところをぐるぐるとまわっているのかもしれない。頼れるものがないなか、美世は自分の勘を信じて進む。
小さな教会を見つけたのはそれからすぐのことだった。
なんで、こんなところに教会が?
まわりの森が途切れている様子はなかったし、外観をみても人が出入りしているとは思えない。
しかし、こじんまりと、ひっそりそびえ立っていたその教会は神聖な場所であるという威厳をそこなってはいなかった。まるで美世を誘うようにうっすらと開いた木の扉。
どうせ、ここで止まってても誰かと会えるっていう確証はないし……。
この時わたしはなぜか、この教会にはいれば新たな出会いが待っているってことに気づいていた。
いや、気づいていたというのは正しくないかな。どっちかといえば感じでいた。脳のどこかで、体のどこかで、私のどこかで感じでいたんだ。進んでしまえばもう戻れないと……。