無欲な聖女の胸の内~私の獣人族の旦那様はめちゃくちゃかっこよくて、ふさふさで、私にやさしいです。でも、私は犬アレルギーです~
「二年前に聖女様が医療改革をしていなかったら、あなたは今頃死んでいたでしょうね」
感染病にかかり三日寝こんだ後に回復したときに、医者にそう言われた。
その日から、レオンは恩人の聖女のことを考えない日はなかった。
聖女。
このラルフリレー王国でその存在は、現国王よりも敬意されていた。
王国に蔓延していた感染病での死亡率を激減させた英雄。聖女に命を救われた王国民は大勢いた。
その功績だけでも充分すぎる偉業なのに、聖女はさらに私財を投じて病気撲滅の研究を支援していた。
無欲の聖人。
王国民は、聖女を慕い敬った。
その王国の中でも、レオンのいる獣人族の地区では、崇拝に近いものがあった。
多少の汚れも気にしないワイルドさの価値観が良しとされていた獣人族は、感染病に大打撃をうけた。獣人族が滅亡してもおかしくはない状況だった。そこに派遣されてきた聖女の医療チームが、獣人族を救った。その医療チームは、聖女が多額の支援金を出して成り立っている組織だった。
命を救われた獣人族は直接は会ったことがない聖女に、深く感謝した。
獣人族のレオンもその一人だった。
レオンは次期獣人族の当主として、王国中央にやってくる。
そこで、聖女に会った。
レオンは恋に落ちた。
王宮の通路ですれ違ったときに、あのお方が聖女様ですよと案内役の役人に教えてもらった。
まず想像していた外見との違いに驚いた。
三十代ぐらいの女性研究者のイメージを持っていたが、実際には十代の少女で本を抱え眼鏡をかけた姿は、まだ世間に出たことがない箱入りの文学少女にしか見えなかった。
獣人族を代表してお礼を言おうとする前に、聖女がすれ違うレオンににこっと笑いかける。
その聖女の笑顔を見たレオンは、聖女に恋をした。
次に聖女に出会ったのは、王国の大図書館だった。
偶然に聖女の姿を見かけ、レオンは自分達を助けてくれた感謝の言葉を伝えた。
その感謝の言葉を素直に受け取った後、聖女はこう付け加える。
「医療チームのみなさんのおかげてす。私は広告塔として聖女を名乗っているだけですから」
それが謙遜であることは、レオンにはわかっていた。
国家予算に匹敵する金額を医療貢献に寄付し医療革命を起こして、王国民を大勢救ってきたのは、まぎれもない事実なのだから。
「本がお好きなんですか?」
「は、はい。好きだ。いや、好きです。いや、好きなわけじゃない」
獣人族の男として軟弱な本など読まないの建前と、こっそりと本を読むことを好きな本音と、獣人族の男は女性に上からの物言いをする風習と、命の恩人に敬語を使わなければいけないことがレオンの中で処理しきれずに、うまく喋れなくなる。
そんなレオンの心の内をわかっているかのように、聖女は微笑んだ。
「私も本を読むのが大好きなんです。でも、この王国じゃあ、本を読む趣味は変わり者扱いされちゃいますよね。お互い、大変ですね」
と、舌を出す聖女。
その日から、レオンは毎日王国図書館に通うようになった。
「偶然ですね」
と、聖女は図書館でレオンをみかけると、嬉しそうにやってくる。
二人は声を出していいスペースに移動して雑談をする。
「レオンさんのおすすめしてくれた本、とても面白いです。今日中には読み終わりそうなので、明日は別のおすすめの本を教えてくれませんか」
「あ、明日?」
「明日は来れないんですか?」
「来ます。絶対に来ます」
「私、怒ってますよ。レオンさん」
「な、なにをですか?」
「レオンさんに、獣人族についていろいろ教えてもらったじゃないですか。獣人族は背中のもふもふを撫ぜてもらうのが大好きだって。あれ、信頼している相手じゃないと失礼な行為なんですね。レオンさん以外の獣人族にやったら怒られるところじゃなかったですか」
「すみません」
「でも、嬉しいです。私のこと信頼してくれているのですね。今日も背中のもふもふ触らせてください」
「私、困っているんです」
聖女の悩み事に、レオンは何も言えなかった。
「私、王子の婚約者なんですけど、私は特に王子と結婚したいとは思っていないんです。好きな人と結婚したいって、贅沢ですかね」
「好きな人がいるんですか?」
「それは聞いちゃあ駄目ですよ」
拗ねたように聖女は唇を尖らせる。
「あー。誰か私のことを、さらってくれないかな」
そして、聖女は王子に婚約破棄宣言される。
この王国の王子は馬鹿だった。
王国民全員に知られるほどに大馬鹿だった。
婚約破棄宣言までは、まだ周りも理解はできた。
その後、王子が聖女の肩書を取り上げて、別の女にその肩書を与えると言い始めた時、レオンはこのアホは何を言っているんだと思った。
「お、王子、聖女の名は王国民を大勢救ったその功績に、王国の方から頼んでつけさせてもらったもので、それを他の者に与えることは不可能です」
「うるさい。うるさい。僕は王子なんだぞ。僕の言うことは絶対だ」
「し、しかし」
あわてる家臣達だが、当の聖女はのんびりとした調子で言った。
「わかりました。聖女の名前は王国にお返しします」
「なりません。聖女様」
「いいじゃないですか。私はお飾りとして聖女の神輿に乗っかっていただけですよ、何の力もありません。他に適任者がいれば、その人に聖女を譲るのが一番です」
と、屈託のない笑顔で聖女は言った。
レオンは信じられなかった。
ここまで理不尽な扱いを受けてなお、自分のことは後回しで、王国のトラブルを治めることを優先させて、笑っていられるのだ。
この人はどうしてこんなに高潔でいられるのか?
と、レオンは思う。
この人はどんなことを考えているのか?
※
私はコンスタンス伯爵令嬢。
このラルフリレー王国で聖女をしている。
今、私は王子に婚約破棄宣言をされている最中だ。
まあ、そんなことはどうでもいいことだ。
私の最大の興味は一つ。
王子の隣に、王子が新しく自分の婚約者にしようとする癒しの乙女がいる。
私が知りたいこと。
それは、この二人がすでにエッチをしたかどうかだ。
そう、
私はエッチなことに興味津々だ。
私が八歳のとき、お父様の書斎で本を読み漁っていて、それらの本を発見した。
表紙が黒で中身がわからないようにしていたそれらの本は、いわゆる官能小説というもので、男の人と女の人がエッチなことをする内容だった。
私は徹夜で読みふけった。
その日から、私はエッチについて考えない日はなかった。
いま私は十八歳で、本来なら伯爵令嬢として政略結婚でもしてどこかに嫁いでいるはずだったが、なりゆきで聖女になったため、いまだ浮いた話もなくエッチをしたことがない。そのため、エッチについての想像はたくましくなった。
癒しの乙女、美人だよな。
エッチすると女は綺麗になるって言うし、やっぱりエッチしているよね。
あと、癒しの乙女、おっぱい大きいよな。
やっぱり、王子におっぱい揉まれて大きくなったのだよな。
王子、毎日、癒しの乙女のおっぱい揉んでいるのかな。
私は男性向け小説でエッチに目覚めたので、エッチについての思考が中年男性のエッチ感に近い。
癒しの乙女は、おっぱいが大きくてエロい。
王子の方は、キャンキャン喚いて可愛い。馬鹿な小型犬が鳴いている可愛さがある。
王子を見るたび、私はおしいと思う。
もし王子が女の子だったら、お父様の隠してあるつもりの官能小説に出てくる、わがままを言いすぎて男性使用人にエッチなおしおきをされる生意気お嬢様にそっくりなのに。
あれ?
もしかして、王子に女装をさせれば・・・
私の中で何かの扉が開きかけたとき、レオン君と目が合った。
※
レオンは聖女と目が合う。
愚かな王子が、公の場の夜会にて、純真な聖女を婚約破棄しようとしている最中だった。
聖女は、レオンの元に小走りでやってきて、耳打ちする。
「このままじゃあ王子が悪役になって王国自体の評判が落ちちゃいますから、私の小芝居に合わせてください」
聖女は王子に向き直り、周りに聞こえるように大声で言った。
「王子、ちょうど良かったです。私も他に好きな人ができたので、円満婚約解消ですね。私はこのレオンさんと幸せになります」
聖女はレオンにウインクをして、小声で言った。
「あとは適当な頃合いでレオンさんが私をふってくれれば、問題解決です」
レオンはうなり声をあげる。
「レオンさん?」
「あなたはどうしてそんなふうに自分を犠牲にできるんだ?あなたは何を考えているんだ?」
レオンは気が弱く本を読むことが好きな内向的な青年だった。だが、人間よりも巨体な自分の獣人族の身体が、その気になれば人間を恐怖させられることを知っていた。
レオンは王子の首を掴み、片手で掲げ上げる。
「ち、ちょっと、レオンさん何やってるんですか?」
「人間の王子よ。我ら獣人族の恩人を侮辱する行為は許さん」
「き、貴様、王子の僕にこんなことをしてただですむと思っているのか」
咳き込みながら脅しをかける王子だが、家臣たちはレオンの行為に拍手をする。
レオンは、王子の身体を片手のみで床に放り投げ、吠える。
「ひっ」
情けない悲鳴を上げる王子。
「よいか。今後、聖女の名を奪おうなどと馬鹿げたことをしたら、このレオン・テォルゲーレルオが、王国を敵にしようが、お前を殺す」
「ひっいいいい」
「わかったのか?」
「わ、わかりました」
レオンは聖女に向き直る。
レオンは、自分の前髪を切り聖女に差し出す。
獣人族の正式な求婚方法。それは聖女も図書館での会話で知っている。
レオンは自分のしていることに、不安になる。
この巨体な自分がその暴力性をみせたあとで人間の女性に求婚することは、一種の脅しではないかと。
だが、聖女はにっこり笑う。
「お受けしますよ、レオンさん」
聖女は、レオンの前髪を受けとり、求婚を承諾する。
ハンション。
と、聖女はくしゃみをした。
獣人族は、レオンが妻として連れ帰ってきた聖女を大歓迎した。
なにしろ、獣人族ほぼ全員が聖女に命を救われたのだ。
だが、問題がひとつ。
「やっぱり、私が触れられないのはレオンさんだけみたいですね」
レオンの八歳の妹の毛をわしわしと撫ぜながら、聖女は言った。
「他の獣人族にさわるのは、その、ひかえてもらいたいのだが」
「あー。お兄ちゃん。やきもちやいてる」
「そ、そんなことはないぞ」
「ふふふふ。私は嬉しいですよ。レオンさんにやきもちをやいてもらって。でも、いろいろ試してみないと。私は一刻もはやく、レオンさんとキスしたいです」
「キ、キス?」
顔を真っ赤にするレオン。
「あら、私達は夫婦になったんですから」
聖女は犬アレルギーだった。正確には獣人族アレルギーで、レオンに対してだけ発病する。聖女はレオンに触れるとくしゃみが止まらなくなるのだった。
聖女とレオンは五歩以上の距離をあけて話していた。
「私はくしゃみを我慢して、レオンさんにさわりたいんですけど、絶対にやめろって医者から止められちゃいました。聖女の立場ですので、医者の言うことは守らなくちゃいけません」
次の日、聖女の一人いた従者が、もう一人増えていた。
驚くべきことに、その新しい従者は、王子と一緒になって聖女を追い落とそうとしていた癒しの乙女だった。
警戒するレオンに対して、癒しの乙女は本心を打ち明ける。
聖女を陥れようとしたことで断罪されようとしてところを聖女様に救われたと。自分はその恩を一生かけて返すつもりだと。
レオンは感極まって、聖女に問う。
「君はどうして、そんなに高潔でいられるんだ?君はいったい何を考えているんだ?」
聖女の脇に控えていた、もう一人の元からいた従者が何か呟いた。
距離があいていたので、レオンには何を言ったのかわからなかった。
※
私はコンスタンス伯爵令嬢。
このラルフリレー王国で聖女をしている。
そして、私の従者がドロシー。私より二つ年下の女の子。
今、私は旦那様になったレオン君に、君はどうしてそんなに高潔でいられるのかと質問されていた。
それに対して、私の隣にいた従者のドロシーちゃんが呟いた。
「この人、ろくでもないことを考えてますよ」
王子に婚約破棄されていた時にも、同じことを呟かれた。
主に対して失礼な物言いだが、正解なのでしかたがない。
私は今、癒しの乙女がエロいなと、思っていた。
弱々しく告白する後ろ姿。しかも、おっぱいがでかい。官能小説に出てくる未亡人の風情がある。
私が十歳の時、病気でお母様が亡くなった。
そのことが野心満々で伯爵家の勢力拡大をしていたお父様の心に何か変化があったのだろう。それまで興味もなかった福祉活動にお金を出すようになった。
私もその伯爵家の福祉活動にかりだされた。単純に身寄りのない老人の世話をする人員のためと、伯爵家の娘が福祉の活動をしているとのアピールのため。
お父様は、福祉活動の普及を願いつつも、伯爵家勢力拡大の野心も残していた。
私は福祉活動の看板として社交界などに顔を出すことになった。小さな女の子が、他人のために活動をしているとの看板は、とても有効だった。私が出ていくのといないのとでは、寄付金の集まり具合がまったく違った。
そのときの経験から、王国から聖女の名前をもらったときも、素直に受け取った。
聖女と言う象徴は、広告として大変優秀だった。とてつもない寄付金が集めることができた。
私は病気を治す知識も技能もなかったが、資金集めの広告塔に徹し、それなりの役に立てたと思う。
ついでに、王国が私に聖女としての契約金みたいな大金を送ってきたので、病気の研究チームに全額寄付した。
ぶっちゃけ、私は伯爵令嬢なのでお金には困っていないのだ。
そういうわけで、王子が私から聖女の名前を取り上げ、別の女性を聖女にすると宣言した時も、その方がいいと思った。
聖女は医療チームのための資金を集める広告塔。代替わりが可能なら、早めにやっておいた方がいい。
福祉活動でいろいろな老人の世話をして、私は思ったことがあった。
家族に囲まれて過ごす老後が幸せで孤独な老後は不幸せ、みたいなイメージがあったがそうでもないなと、思ったのだ。
もちろん、イメージ通りの老人達も多かったが、家族にいつも邪険にされている人や一人でも好きなように生きている人もいっぱいいた。
では、私自身が理想とする老後はなんだろう?
自問自答して出した結論が、清潔なベットで眠れることだった。
その結論が、私のエッチな想像にも結び付いた。
私の理想な初体験は何か?
それは、清潔なベットでエッチをすることだ。
私の理想の初めてのエッチと老後が明確になったことで、私の理想実現に向けて行動するとにした。
伯爵領内のベットをすべて清潔な物にしてしまう計画だ。
まず私が福祉活動でお世話になっている病院のベットを全て清潔な物にした。当時は病院のベットなど、前の患者の血跡が残っているのが当たり前だった。
すると、不思議なことが起こった。病院での死亡率が激減したのだ。明らかに異常な変動に、王国トップの医療チームが来て、解明をした。そして、清潔なベットが死亡率を減らすことを突き止めたのだ。
詳しい理屈を解明するのは時間がかかったが、その手段はすぐにでも実行できるものだった。病院のベットを清潔にして、その他のあらゆる場所を可能な限り清潔にする。王国全体にそのやり方が伝えられ、当時王国全土に広がる感染症がくい止められた。
私は聖女になった。
レオン君と出会ったのは、大図書館だった。
レオン君は獣人族で、黙っていればその巨体は威圧的で怖いものだったが、おどおどして気弱な感じは守ってあげたくなる。かわいい弟ができたみたいだ。
お互い本好きなことで、いろいろな話をした。
レオン君の背中をいっぱい撫ぜさせてもらった。
ふかふかで気持ちがいい。
私が王子に婚約破棄された時、私のために怒ってくれた。
とても嬉しかった。
そして、レオン君は私にプロポーズをした。
ぬわぁ?
おもわず変な声が上がりそうになった。
レオン君。私のこと、お姉ちゃん的存在で慕ってくれていたんじゃなかったの。
そうか。
レオン君、私のことが好きなのか。
そうか。
そうなのか。
私はレオン君のことどう思っているんだろう?
うん。
私もレオン君のことが好きだな。
私はレオン君のプロポーズを受けることにした。
「お受けしますよ、レオンさん」
そう言ってから、私は気がつく。
つまり、私はレオン君とエッチすることになる。
これはこれは。
私が長年想像だけしていたエッチを実際にすることになる。
新しい下着用意しなくちゃ。
他に何を用意すればいいんだ?
初めは恥じらった方がいいよね。
そんなこと思いながら、私はくしゃみをした。
ハクション。
犬アレルギーと診断された。
「レオン君とエッチできないの?」
「できません。性交渉なんてしたら、最悪死にますよ」
私に無情な宣告がされる。
「そんな、大図書館であんなにレオン君を触れられたのに」
「それが、原因の一端になってると思います。急に獣人族の抜け毛を体内に取り入れたせいで、拒否反応がおこってしまった。だから、レオン様以外は平気なのだと思います」
原因を説明されても正直よく理解できない。
私はがっくりと肩をおとす。
「わかった。あなた達のチームの研究費、私の伯爵令嬢としての貯金から出しておくから、病気全般の研究をお願いね」
「すいません。いつも寄付金に聖女様自身のお金を加えてくださいまして。ですが、アレルギーの有効手段はそう簡単には解明できません」
「ああ、ごめんなさい。誤解される流れで研究費の話をしちゃったわね。研究の内容はあなた達が自由に決めてください。私はよくわからないから。私のためにわざわざアレルギー研究をするなんてことは無しよ」
「はい。ですが、よろしいのですか?」
「アテはあるのよ」
私の心当たりは、魔界に咲く万年花のことだった。
万病に効く花と言われていて、そこまでの効果はないとしても持ち帰って研究すれば、アレルギー解明のとっかかりになるかもしれないと医療チームは言ってくれる。
さっそく私は出発の準備をする。
いざレオン君とのエッチのために。
だが、出発する私を、獣人族の人達が総出で見送りに来てくれる。
「聖女様ばんざい」
おおごとになっている事態に、私はこっそりと従者のドロシーちゃんに聞く。
「なにこれ?」
「聖女様が魔王と戦うために旅立つことになっているようです」
「なにそれ?」
レオン君が、私と距離を空けながらも、目を潤ませて私に言った。
「君はどうして他人のためにここまでできるんだ?」
いや、私はレオン君とエッチがしたいだけなんだけど。
「聖女様は私が命に代えてもお守りします」
と、癒しの乙女が言った。
まてまて、なんで、もちろん同行しますけどみたいな感じで言っているんだ。
従者のドロシーちゃんが、私にこっそりと聞く。
「どうします、これ?」
「とりあえず、こっそりと万年花をとって帰って、魔王はいなかったとか言い訳しましょう」
魔界にこっそりと潜入する私達。
万年花は予定通り、手に入った。
予定通りいかなかったのは、帰り道で散歩している魔王と出くわしたこと。
「なんだ、貴様らは?」
「我らは聖女一行だ。人間に害をなす魔王、貴様を退治に来た」
と、癒しの乙女が勝手な宣言をする。
「すみません。すぐに出ていきますから」
私は平謝りをして逃げようとする。
たが、逃げる前に、癒しの乙女が魔王に捕まってしまう。
ああっ、もうやるしかない。
この世界の魔法は、どれだけ魔法発動の呪文を覚えているかによって決まる。
そして、私は三十冊の官能小説の全てのシーンを脳内再生できるほど記憶力がいい。
勝負は十分もしないで決まった。
私に敗れた魔王は、完全降伏する。
魔王は、角がある以外は、人間とまったく変わらない姿だった。
ちょっと、やんちゃな青年と言った感じだ。
「俺は負けた。おまえらの好きなようにしろ。敗北者の俺を引き回しでもすればいい」
引き回し!
私の中の何かの扉が開いた。
「私は殺生は望みません。人間との戦いを止めてくれさえすれば、私達は傷つけあうことはないはずです」
と、口でいいながら、私の頭の中で妄想が加速していく。
人間に敗れた魔王。
その魔王は、ゲスな人間達によって、女性物の衣装を着せられ魔界中を引き回されてしまう。
俺は男だぞ。こんな服を着せてなんのつもりだ?
そう怒鳴る魔王に、ゲスな兵士はそのミニスカートを掴む。
それじゃあ、本当に女じゃないことを確認しなくちゃな。
そう言いながら、スカートの前をまくり上げると、そこには下着をつけることを禁止された・・・
うはははははは。
自分の妄想に溺れる私の耳に、癒しの乙女の声が聞こえてくる。
「魔王にまで、そんな気遣いを。聖女様はどうして、そんな他人を思いやれるのですか?」
従者のドロシーちゃんの呟きが聞こえてくる。
「その人、ろくでもないことを考えてますよ」
大正解。
おわり




