表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

開幕

「……契約戦争の終結から十年。

 長きに渡って魔法と霊契を独占してきた旧王国は崩壊し、現界は″夜の時代″を迎えました」


 暗がりに立つ男が、唇を開いて語り出す。

 豪奢な金の髪が闇に躍り、深い蒼の瞳が光の矢を射る。

 男の言葉と視線は、通信網とスクリーンを隔てた不特定多数の聴衆へと向けられていた。


「ですが、それは必ずしも荒廃や衰退を意味しません。

 蒼天に座す太陽退かば、夜空に星々が輝くは必定。

 ご存知の通り、旧王国に代わって現界を治めているのは霊都議会です。しかし、新政府は未だ盤石ならず、力ある者が我を通す、混乱と競争の時代が到来したのです」


 男が黒曜石の一枚板じみた端末を手にすると、黒一色の空間に無数の光点が生じ、それらが互いに線を伸ばし合って結びつく。

 やがて光点は複雑な網の構造を織り成し、男の頭上に広がる空間へと押し上げられた。男が立つ仮想空間に描画されたのは、巨大なネットワークの構造図だった。

 その名をアストラネット。現界と霊界を結び、情報と霊素ルーメを遍く伝達する、通信インフラにしてエネルギー供給ラインである。


「″ゲートからネットへ″。アストラネットの発見が旧王国の権力基盤を揺るがし、王政の廃止に繋がったことは周知の事実であります。

 今や我々はアストラネットを通じて霊界の精霊たちと自由に交信し、個人レベルで契約を結ぶことができます。SNS、求霊サイト、マッチングアプリ……霊契を求める場には事欠きません。

 かくして、かつて魔法と呼ばれた神秘の御業は、社会に広く普及する霊術へと形を変えました。

 生まれながらに持つ者が肥え太り、持たざる者は朽ち果てる閉塞と停滞の時代は終わりました。己の命と腕前一つで誰しもが頂に届き得る、可能性に満ちた挑戦の時代が幕を開けたのです!」


 男の声に熱が篭る。

 彼の周囲に次々とウインドウがポップアップし、画像ファイルを表示する。恐るべき魔物の爪と牙を。呪詛に汚染された不毛の大地を。違法回線シャドウ・ネットに隠された情報の迷宮を。

 そして、それら一切を踏破し、富と栄光を手にする冒険者アドベンチャーの勇姿を。


「一攫千金を夢見る冒険者たちは、昼夜を分かたず危険極まる探索に挑んでいます。ある者はアストラネットの未踏領域へ、またある者は人類生存圏の埒外たる霊障地帯へ。霊力エーテル結晶の鉱脈、失われた魔導具、強大なる魔物の素材、旧魔導師ギルドの遺構……死線を越えてそれらの獲得に成功した者は、莫大な財と栄誉を得るでしょう。

 あるいは、伝説に語られる五大神秘ゴッド・レリックのうち一つでも手にできれば、現体制はいとも容易く瓦解します。伝説を踏破した冒険者は現界に夜明けをもたらし、新たな蒼天の王となることすらできるのです!」


 男の双眸には、今や爛々と蒼い炎が燃えていた。

 男は力強く片手を突き上げ、さらに声を高める。


「到来せし新時代に、既にあまた綺羅星が躍動を始めています。

 違法回線を闊歩する黒き剣のヴァンは絶技を振るい、保安局の紋章持ち(シギルホルダー)と切り結ぶ。白亜の戦鎚ゼウドナスは勢力を問わず戦霊領域ヴァルハラの精兵を遣わし、力の時代の覇者たらん。再誕の教団(リバース・オーダー)は狭間の地に潜み、霊都を追われた旧王家の血統を探し求める。……そして、何を隠そう、新時代の霊契経済圏を牽引する、我が社ネオ・アストラもその一つ。

 申し遅れました。私はネオ・アストラCEO、カイン・アストレイアと申します」


 男……カイン・アストレイアは、スクリーンの向こうの聴衆に向けて一礼する。

 彼を敵視する者にすら息を呑ませずにはおかない、完璧な所作であった。


「蒼天の王が失墜し、唯一絶対の太陽が失われた夜の時代。弊社は光なき夜空に燦然と輝く異星たち(アザースターズ)を歓迎します。我こそは新時代の一等星たらんとする者よ。ネオ・アストラは、あなたをお待ちしています」


 シークバーが右端に到達し、動画はそこで途切れた。

 それは、夢見る者たちを命を賭けた冒険へと駆り立てる、開拓王カインの扇動であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ