大量受注と腱鞘炎
一週間後、約束のパーティー当日。僕はグウィンドールから依頼された大量の北海道ブドウジュースに加え、サイコーマートオリジナルのガラナ、お茶、そしていくつかのお菓子を段ボールに詰めて用意した。
「お願いします!」
店の前に現れたライリーとブロンコは、その段ボールを軽々と担ぎ上げた。まるで空気でも運んでいるかのような二人の怪力に、僕は思わず目を丸くする。
「おお、すげぇパワーだ……」
感嘆の声を上げていると、ふと疑問が湧いた。
「そういや、いつも三人しか来ませんけど、他のアシュロの方はいらっしゃらないんですか?」
あらかた荷物を運び終えたライリーにそう尋ねると、彼は少し考えてから答えた。
「いや、以前連れてこようとしたんだけどよ、あの霧がかかると、どうも俺たち三人しかこの店には来れないみたいなんだ。」
もし大勢の異世界人が押し寄せてきたら、さすがに対応に困るだろう。そう考えると、僕は内心ホッとした。
「それに、こんな珍しい店だ。大勢で来られても、お前に迷惑だろう?」
まるで僕の心を見透かしたかのようなライリーの言葉に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「そ、そうですね。ハハ……」
そして、いよいよ大量のソフトクリームを作る時が来た。問題は、どうやってパーティー会場まで溶かさずに運ぶかだ。さすがにこの量、保冷バッグだけでは心許ない。僕はグウィンドールにその懸念を伝えてみた。
「そのことについては、問題ありません」
グウィンドールは、涼しい顔でそう言った。問題ない?溶けたらただの甘いミルクなのに?
すると、彼は店の冷凍ケースからカップ入りアイスクリームを一つ取り出し、何やら小さな声で呪文のような言葉を唱え始めた。次の瞬間、アイスクリームの周りに、目に見えるほどの冷気が立ち込めた!
「え、ナニコレ! え? もしかして魔法??」
生まれて初めて目の当たりにする魔法の光景に、いつも無気力な僕も思わず身を乗り出した。
「魔法を初めて見るんですね。これは冷凍魔法の一種です。周りの時間の流れを遅らせ、凍結状態を保つことができます」
すごい、本物の魔法だ。物語の中だけの存在だと思っていたものが、目の前で現実に起こっている。
「魔法を施してから運びますので、そちらの心配はいりませんよ。問題があるとすれば……運ぶ人間のデリケートさじゃないでしょうか」
グウィンドールは、他の荷物を運び終え、店の隅で水を飲んで休憩しているライリーとブロンコを一瞥した。二人は、何か過去にやらかしたことがあるのだろう、グウィンドールの視線から慌てて目を逸らした。
生の魔法を目の前で見て、興奮冷めやらぬ僕だったが、グウィンドールから受注したソフトクリームの数を聞いた瞬間、今度は僕自身が凍り付いた。
「え……この数、全部今から作るの……?」
明日、間違いなく腱鞘炎になっているだろうな、と覚悟を決めたのだった。