横山さん(27歳・独身・♂)
先日、とんでもないことが起きた。まさか、自分が異世界の人たちと交流を持つことになるとは、夢にも思わなかった。
きっかけは、異常な売上を度々叩き出す、帯広のフランチャイズ店舗への調査だった。アルバイトの名前で大量注文を繰り返しているという報告を受け、僕は不正を疑い、現地へと向かった。
しかし、調査の最終日、彼らは突然現れた。コスプレ集団かと思ったが、その質感と存在感は、明らかに本物だった。そして、彼らに対処するアルバイトの川西くんの、落ち着き払った様子。その時、僕は悟った。ここは、異世界と繋がっている店舗なのだと。
僕の趣味は、「バトルアックス」という世界的にプレイヤー人口が数十万人いる人気のある戦略ゲームだ。日本での認知度はまだ低いが、僕は週末になると友人たちと徹夜で遊ぶほど、このゲームにハマっている。先日、リザードマンの軍勢を購入し、その長に「シグルス」という名前をつけたばかりだった。
赤い鱗に大柄な体、歴戦の勇士たる風貌。目の前に現れたリザードマンの戦士は、まさに僕がゲーム内で作り上げたシグルスそのものだった。
突然の異世界交流に、僕は年甲斐もなく、子供のように興奮してしまった。普段は感情を表に出さない僕が、あんなにはしゃいでいる姿を、川西くんはさぞかし呆れて見ていたことだろう。
彼らとの交流は、あっという間に終わってしまったが、たくさんの情報を得ることができた。夢のような時間だった。
その後、僕は川西くんとLIMEを交換した。こんな貴重な体験をさせてくれた彼には、感謝しかない。
一見、やる気のなさそうな青年の川西くん。彼の異世界人との交流する様子は、とても衝撃的だった。あの時、彼の目に宿っていた微かな光。モノクロームの世界から飛び出した頃の自分を思い出させた。
僕と「バトルアックス」の出会いは、本当に突然だった。
少し離れたフランチャイズ店舗への視察からの帰り道、ふと立ち寄った模型店。そこは、今まで僕が生きてきた世界とは全く違う、未知の領域への入り口だった。
幼い頃から勉学に励み、北海道大学を卒業後、僕はサイコーマートの本社に就職した。親はもっと上の企業を目指せと言ったが、特にやりたいこともなかった僕は、この会社を選んだ。
そんな僕の人生を、一変させたのが「バトルアックス」だった。
初めての趣味。初めてできた友人たち。それまで感情を表に出すことがなかった僕が、初めて夢中になれるもの。今の僕にとって、全てだった。
彼にとって、異世界の人々との出会いは、日常に刺激を与え、色を与えたのだろう。僕にとってのバトルアックスのように。
彼らと出会ってしまったがために、川西くんの日常は、僕の目には刺激のない退屈なものに見えているのかもしれない。
僕は、歳の離れた新しい友人を得た。今度、彼をゲームに誘ってみよう。
あの霧の向こう側を知ってしまった彼に、僕はゲームの世界を教えてみたいと思った。もしかしたら、彼は僕のように毎日が楽しく、霧の向こうではなくこの世界の住人になれるのかもしれない。
しかし、札幌と帯広という距離が、少しばかり気がかりだ。
あの異世界人たちと出会った店舗へ、また出張で来ることがあれば、深夜に立ち寄ってみよう。あの不思議な霧の向こう側で、再び彼らに会うことができたら、どんなに素晴らしいだろうか。