君への優しさは僕のため
「どうしたの、何かあったの?俺でよかったら相談乗らせてよ。」
自分を必要としてほしいだけ。
「寂しい時は言って。1人にさせないからさ。」
そうやって可哀想なやつに寄り添うフリして少なくとも自分がひとりぼっちにならないようにするため。
「俺にはお前しかいないんだよ。」
今構ってくれる人がね。
「好きだよ。」
「私も好きだよ。それで今度さ──。」
それ待ってただけ。聞いてない。
「多分俺はこういうことしてきた、あんま覚えてないけど。だけどちょっとは自分でも悪いことしたなって思えるようになったと思うよ。だって振り返って書けるんだもん。」
まあ反省してないんだけどね。そうやって過去のこと話して心開いたフリして必要とされてるって思わせるためだよ。関係切れた女の子との話も次の女の子のためにリサイクル、なんて環境に優しいんだろ。ん?ああ。必要とされるって嬉しいよね。わかるわかる。なのにかわいそうだね。また俺に似た男に頼りなよ。それで思い出したりして、
「離ればなれになっても、俺のことずっと覚えてほしいな。」
──なんてね。
でもさ、意外と心開いてたんだよ。今更だよね。
俺もその内結婚とかしたいしさ、そうしなきゃって思うんだよね。
別に相手ができないって訳じゃないよ。自分で言うのもなんだけど、そこそこ俺かっけーと思うし、実際彼女とかそういうのいなかったことなかったし。
え?彼女いないって噂で狙われてたことあっただろって?だから彼女“とか”ね。
そんな風に生きてきたから色々言われることあってさ、関係切ろうとしても「ねえ、私の家来てよ。」ってヤる気じゃねーですかって連絡来たり、割と顔もスタイルも好みだったのに「ブロックするね。無理。さよなら。」って強がりなやつもいるしさ。そういうやつらに言われるんだよ。
「なんで一途に想ってくれないの。」
──ってさ。
一途って何だと思う?俺は俺のこと超一途だと思うよ。だって女の子のことずっと好きだもん。“女の子”がね。愛と性に一途であるならそれで幸せって思えるんだよ。
だってそうでしょ?特定の誰かを好きになりました、失恋しました、本当に一途な人はそこから一生恋愛しない訳?次に誰かできたとしても前の人のことずっと引きずるの?新しい人がかわいそうじゃないの?それで新しい人悲しませちゃって、恋人に対して一途じゃないんだとか言われるんでしょ?それで真面目な人はすっごい気にして辛くなっちゃうの、俺そういうの良くないと思うんだよね。いやこれはほんとだよ?
こんなことなるぐらいなら振り回される側の人は「私はよくやった、一途に人を愛せたんだ。」って自分を認めたっていいと思うんだよね。そう思ってたんだよ。
だけどそうやって考えてきてたツケがきたというか、開き直りすぎたのかなって思うんだけど、いつの間にか今大事にすべき相手を全力で愛せなくなってる気がするんだよね。みんな傷付きたくないじゃん。それでもし失望しないように別れた後のこと、つまり別れること考えてたら、別れた方がもしくは付き合わない方がいいと思うんだよ。そもそも恋愛しない方がいいって思っちゃうことを自分がしてるんだよ。それを自分でもわかってる。
そしたら浮気症にも説明付くんだよ。今1番いいなって思ってる人が離れてっても大丈夫なように、また誰かが癒してくれるように、2番目以降を探すんだよ。効率的でしょ?俺は幸せだよ。みんなの言う浮気自体は止められなくても、他の人を1番にしてほしくないなら「じゃあ俺の1番大好きなお前が俺のこと満たしてくれよ──。」って思う訳。他人任せ?浮気するなとだけ交際相手に端的に言うお前らが言うなよ。
俺はさ、満たされないから別の女の子作るって言うより、満たされなかった時が辛いから別の女の子作るって感じなんだよね。だから「君がいないと俺生きていけない。つらいよ。」って本音をたまに言っちゃうんだよね。嘘というか本音じゃないのは、
「俺にはお前しかいない。」
とか、
「お前じゃないと俺は幸せなれないんだよ。」
って感じのセリフね。こういうのは惚れ直してもらうためのちょっとした念押しみたいなもんだよ。考え直すと痛いって思っちゃうけどそれはちょっとでも好きな相手だとよく聞こえる人が多いってのが経験則ながらあるから多分大丈夫。口で伝えると効果抜群なんだよね。
それで戻るんだけどさ、浮気してる時にも俺って「お前がいい。」って素直に言えちゃうんだよ。ほら一途じゃね?俺超一途じゃん、だから悪くないって思っちゃうんだよね。だって離れるのはいつも相手なんだからさ。
重要なことは「一途か否か」なんていう気持ちの問題じゃなくて「好きな相手がいる時の関わり方」なんじゃないのかなって思うんだよね。
世の中俺より酷いやついるよ?女の子のこと見捨てちゃうことはあってもDVとかしたことないんだから。逆にされたことあるし、ビンタされたり物投げられたり、それでも、
「ちゃんと話してくれる?」
とか言うだけ言うからね。
それで何が言いたいかって、今俺に心の底から好きって思える人がいるんだよ、一途になれる人が(なるとは言ってない)。ただ上手く結婚とかまでやっていける気がしないんだよね。
なぜかって言うと相手も俺とおんなじ感じの人だからだよ。普通自分と価値観合う人って魅力的に思うじゃん。つらい事に共感するとか、趣味を合わせるとか、挙げ始めたらキリがないんだけどさ、だけど俺クズって言われるからさ、自分と似てるっていうのがクズセンサーみたいになってる気がするんだよね。
相手を自分のものにしたくてよく観察してると癖がわかってくる。「あ、今嘘ついたな。」って見りゃわかるんだよね。相手の癖は隠し事とか後ろめたいことがあるとちょっと大袈裟に振る舞うこと。相手も男っていう逃げ道を作る。だけどそれが本当は良くないことって察してるところまで似てる。だから大好きな理想の男を一番大事にできたなら、その人だけを想えるってことも何となくわかる。じゃあいいじゃんって?良くないよ。本当は自分が一番になれるって自信ないし──。
好きなところなんて一言で言えば「同情」でしかない。だけど良いところのない自分が全員とまではいかないけど関係持ってきた女の子の大半を手玉に取れたのは「近いけど遠い手に入らない存在」だったからだと思う。だからこんなに縋り付くようになったのかなと考えてる。
執着心、独占欲、歪み始めた愛情は己を犠牲にしてまでも相手を手中に、いや、相手の手中に収められたいと思うようになる。最初はそばにいたかっただけなのにね、かわいそうだね。ついでに俺もかわいそうだね。
俺がこんなになっても俺の好きな人は裏で俺に悟られないように誰かと話して、「俺しか要らないって言ってよ。」って呟いても、
「ごめんね。私のせいで。本当は早く2人だけになりたいんだよ。」
そう言って期待させて俺だけじゃない男達とも縁を繋ぎ止めて操るんだ。言われる側としてはこういうの初めてだったんだけど、幸せと嫉妬ってこんなに相性が良いんだってことを実感できたよ。
付き合えること期待させた後、柔らかくも硬くもある胸の重なりと、顎と首の間ぐらいを相手の肩に乗せた時の密着感を味わって、その時だけは安心できて、離れた時にまた欲しくなって、重なって安心して、気持ち良くなってらもらって──。そうしてる自分は惨めだけど、失恋ソングとかが胸を刺す度に、車窓から外を見ながら冷静になる度に、
「こういう時間も幸せだよな。」
って嘘をつく。
「なんだかんだ遊ばれてる自分も好きなんだよね。」
死にたいほど病むくせに。
「もういい、だったら他のやつと寝てくるよ。」
君がいいけど我慢してるだけ。
「私のこと好き?付き合いたい?」
「大好き。付き合いたい。だけどさ、本当はこういう関係は──。」
ごめん。聞き流されたってことしか、覚えてないや。