いつからレスリングにローが無いと思っていたんですか?
ヒール連打が追い付かないくらいボロボロになってしまいましたが、日暮れにはなんとかレスラージムでの基礎トレを終え、宿に戻ってきました。
「装備を修理しないと・・お風呂も・・」
口には出してみたものの、椅子から立ち上がる気力がありませんっ。神力を押さえていたとはいえっ、今の私にここまで疲弊させるとは! 恐るべしっ、レスリングっ!
と、程無く、普通に部屋の窓が念力で開けられ、杖に横乗りして飛んできたベルミッヒさんが入ってきてまた念力で窓を閉めました。
「お帰りなさい、です・・」
「ただいま。下拵えが済んだハンバーグのタネのようにされてるな。くくくっ」
「そりゃ、どうもっ、というか!」
よく見ると、ベルミッヒさんは帽子とローブが今風の、ちょっとお洒落でちょっとセクシーな感じに改まり、眼鏡も薄い縁のこれまた小洒落た物に変わっていました。手には謎の結んだ風呂敷を持っていますが??
「どうしたんですかっ? ベルミッヒさん! 魔法使い向けのお洒落本のモデルみたいになってますよ?」
「ん? ああ、コレか。昨日、魔法使い会に行った時に散々『髪と服装と眼鏡が合ってない』とイジられてな。今日、知り合いが『助太刀するっ!』と勝手に色々見繕ってきたんだ。若ぶった格好で具合が悪いのだがな。杖だけは元通りを死守したが・・」
「いやぁっ、メチャクチャ似合ってますよ」
「よくわからないな。ふんっ。レルク、途中でマバオ名物のエルダーアーモンドを使ったフィナンシェを買ってきた。食べるか?」
「食べますぅっ、カロリーを下さいっ!」
「ほれほれ」
念力でいくつかフワフワ飛ばしてきたフィナンシェに飛び付く私っ。美味ぴぃーっ。
「はむはむ・・あれ? そう言えば3号さんは?」
「ヤツなら、こうなった」
ベルミッヒさんは念力で風呂敷をほどいてみせました。そこには! 無残にもバラバラに分解されて力尽きた3号さんっ?
「3号さぁああーーーんっっっ!!!!」
「知り合いの人形使いを訪ねたら、相手のゴーレムに勝手に喧嘩を売った結果、この有り様だ。元々、森で私の話し相手として開発したヤツだったし、最近調子に乗っていたからしばらくこのままにしておく」
「そう、ですか・・」
一先ず、おおっ、ポポクレス神様じゃない神よ、かの者に安らかな眠りを・・・
「なんだかんだでギルドにも寄った。面倒が少なく、修行に良さそうで、実入りも悪くないクエスト依頼の資料をいくつか買ってきた」
「おっ、メハが戻ったら割り勘しましょう」
「うん。これ等、良いと思うがな? ふふん」
私とベルミッヒさんはメハが戻るまで、独特なフレーバーのフィナンシェを食べつつ、クエスト資料を見比べていました。
翌日、期限まで残り16日! 私達3人はベルミッヒさん所有の魔法道具『飛行テント』で目的地に飛んで移動していました。
この不思議なテント外からみるとせいぜい2人くらいしか入れなそうですが、中は広々っ。部屋もいくつもありました。
私達は暖炉の灯るリビングで、厳選したクエスト『野盗首魁オーク・マックス討伐』の資料を見ています。
「オーク・マックスに進化した個体が率いる野盗団・・今は野盗業者ではなく密猟と薬物原料栽培で荒稼ぎしているようですが」
「野盗で名を上げ、領衛兵隊に目を付けられたらさっさと商売変えをする。オーク族にしては身軽な判断だ。評価する。くくくっ」
「評価しちゃうのか? というか、連中、砦までこさえてる、衛兵隊やギルドの討伐隊も予算組めなくて芋引いてる状態だ。どうやって攻略するよ?」
「そうですねぇ・・」
悪党のアジトを強襲っ、とかやったことないですね??
「ふふん、難しく考えるな。魔法使いには伝統がある」
「伝統?」
「伝統?」
メハと被ってしまいました。
「そうだ。『ならず者の砦は空から襲って力ずくで制圧』。それが魔法使いの流儀だ! くふふふっっ」
「・・・」
「・・・」
魔法使いってそんな感じでしたっけ?
しかし、およそ30分後には、私達は魔除けと守護の力を付与された城壁で囲まれたオークの砦をっ、上空から襲撃していました!
ベルミッヒさんはフライトの魔法で飛び回りながら攻撃魔法を先制して連打っ! 私とメハは同じくフライトの魔法を任意解除の条件付けで掛けてもらい、ベルミッヒさんの爆撃に紛れて突入しましたっ!
「でぃあーーーっ!!!」
回転、飛び付き、誘導、ゴッドクロスチョップで慌てて飛び出してきた豚さんのようやオーク兵達を一掃しますっ。
慣れてきたのでちょっとだけ手加減はして昏倒で済ませてあげますっ!
「ぎゃーっ?!」
「モンクが飛んできたぞっ???」
僧侶ですけどっ!
ま、とにかく、メハの方は容赦無く切り伏せていました。狙いは弓兵や魔法を使うオークシャーマンに絞っていますねっ。
混乱の中、間を置かず、近くの本館らしい建物の壁を突き破って首魁のオーク・マックスが飛び出してきました! 兜に前掛け、棍棒も両手に装備していますっ。
オーク・マックス! レスラー・スキルを獲得したパワー系オークですっ。
「領主の犬どもかぁっ!!」
「依頼主は確かに領主様でしたねっ! メハ、ベルミッヒさん、雑魚は任せましたっ」
「わかった」
「大丈夫か? レルク!」
「屁の突っ張りは結構ですっ」
「よくわかんねぇが大した自信だっ!」
仲間達はそれぞれの仕事に専念してくれました。
対峙した私は、ふと、疑問を感じました。
「オーク・マックスはレスラースキルを身に付けたオークですよね? なぜ、武器を使うのですか?」
「ああ? マジで聞いてのか? へへっ、強ぇレスラーが、武器を持ったらもっと強ぇだろぅ? ギャハハハッ!!!」
オーク・マックスは嗤いながらっ、2本の棍棒で打ち掛かってきました! 一撃一撃が地面が軽く陥没するパワーっ。私は転がるよう回避します。
「なるほど、貴方の了見はわかりましたっ。それならば・・ブレッシング! プロテクト! レジスト! フォースショットっ!」
私は加減無く、自分に補助魔法を重ね掛けし、さらに光属性の炸裂する球をオーク・マックスに放ち牽制し、間合いを詰め直しましたっ。
「ショボい魔法だなぁっ」
まぁそっちはレベル9ですからね! 私は構わず、隙を見て相手の脹ら脛にローキックを放ちました!
コレは少し効いたらしく、顔をしかめるオーク・マックスっ! 私は脹ら脛に限らず、ここから徹底的にローキックの連打を放ち始めましたっ。
「ちまちまウゼェんだよっ! クソ人間がっ!!」
「いつからレスリングにローが無いと思っていたんですか?」
「うるせぇっ!!」
激昂からの大振りっ。ここだっ! 私は一気に飛び込み、ゴッドクロスチョップを相手の胴体に打ち込みましたっ! がっ、
ガキィイインンッッ!!!!
金属音っ、切り裂けないっ? 巨体を押し退けはしましたが受け切られてしまいました!
「くっふぅぅっっ。テメェ、手刀系アビリティー持ってやがんな? だが残念だったなぁっ? 俺の前掛けと兜はっ、+2のミスリル製だぁっ! 稼いだ金は自分に投資してやったぜぇええっ!!」
「・・なるほど、頭部と胴体は難しそうですね。フォースショットっ!」
「っ?!」
光の球を今度は顔面に撃ち込み、怯んだ隙にスライディングで足元に滑り込みっ、両膝裏を蹴って姿勢を崩しそのまま脚にしがみつくと座ったまま、横方向に裏投げ気味に回し投げ! 仰向けになった相手の左足を素早く立ち上がりつつ抱え込んで鋭く巻き込み左足首を完全に極めましたっ!!
「がぁああっっ?? 実戦で『スピニング・トーホールド』だとぉおおっっ?!!!」
「この形の私の膂力は3トンですっ! 降参しなければ右足が捥げますよっ!!!」
「クソがぁーーーっっ!!!!」
「しゃーっ! んちゃーーっっ!!」
吠える私とオーク・マックスっ!! 決戦の行方やいかにっ?!