兎か~いっ!
スライムの死臭で他の魔物が寄りそうなので、間に合わせに青年にヒールの魔法を一回使い、魔除けの利いた野外道まで戻りました。
青年は飲む暇も無かったらしい、自前の回復薬をガブ飲みして一息付きました。
「ふぅっ、死ぬかと思った! ソロで素材収集の帰りに近道したら、そこの林道の魔除けが土砂崩れで壊れててさ。そっから散々で! あとちょっとで野外道って所で囲まれちまってっ。助かったよ、ありがとう」
「いえ、人助けは聖職者として当然です」
「敬虔なモンクなんだな」
「僧侶です」
「うん? つーか、腕、包帯爆ぜちまったみたいだけど、大丈夫なのか? なんかさっき凄かったがっ」
「まぁ屁の突っ張りは結構です。ということですね」
「なんだか知らんが凄い自信だなっ、オイっ?」
ポンポン返してきますね。
(で? 仲間になるのかならんのか? どっちじゃ?)
「うおっ? またか! これ、マジで腹話術じゃないのか?」
(違うと言っておるじゃろうがっ。しつこいのぉ)
「明らかにテレパシーでしょう? それに、なんの必要があって腹話術なんですか?」
「いや、まぁ。・・ソロ活は飽き飽きしていた所だし、助けてもらったしな。よしっ、ちょっと色々謎な感じだが、仲間になるぜ! 俺は、メハ・エルダーピーコックっ! 戦士職、レベルは21だ。以後、よろしくっ」
「私はレルク・スタークラウン。僧侶職ですがレスラー・スキル持ちで、ポポクレス神から祝福を賜らせられ、現在レベルは不明です。目下、失業し、あと19日以内にドラゴンやジャイアントを素手で倒す為、修行せざるを得ない身の上ですね」
「お、おう。なんか、ゴチャついてんな・・」
(我はポポクレス神なり! マッスルの神である。敬ってよいぞっ?)
「むっ、俺も戦士だから身体は鍛えてるっ! マッスルだ!」
(ほほう、いいぞっ。マッスル! マッスル!!)
「マッスルだ!」
(マッスル! マッスル!!)
「マッスルだぁっ!!」
(うおお~っ! マッスル!! マッスル!!!)
道端でマッスルマッスル言い合いやがりましたよ? 片方、この場にいないですがっ。
ちょっと頭が痛くなってきました・・
いくつか想定外でしたが、それから小一時間も掛からず、無事に私とメハはヤンソン村に到着しました。
まず、村の教会に言ってみると、神父様から話が伝わっていたようで、軽くヤンソン村が騒然っ!
私はこの村の牧師様(宗派が違いました)から、やはりライトサーチの魔法で探知されたり、質問責めになったりっ。
当のポポクレス神様はやたらテレパシーで「マッスルマッスル!」と連呼するばかりで要領を得ず、収拾が大変でした。
そこからあちこち水晶通信で話したりもしました。
纏めると、よっぽど厳格な所を除いて宗派を問わず修行の旅に協力はしてくれることになりました。
神父様が用立ててくれた諸々の費用もや月々少額していた実家への仕送りも、聖教会の方で支払って頂けることになり、一安心でした・・。
トルチャ村の教会の引き継ぎは2週間程で済むそうです。そう量はないはずですが、村の私の私物は取り敢えず、神父様が預かってくれることになりました。
両親にも長々と手紙を書いて出しました。
諸々済む頃には昼前で、飽きたポポクレス神様はとっくにテレパシーの通話を切っちゃってました。
メハは私の分も纏めて素材を売りに行ってくれて、戻ってきてまだ私が諸対応にあたふたしていると、「大変だなぁ。まぁ『チョップ』で解決できそうにねぇからなっ! ダハハハっ」と笑って、私を含めたその場の全員から顰蹙を買ったりした後、「風呂行ってくらぁ」とフラっと村に一軒だけあるらしい、お風呂屋さんに出掛けていました。
私の分の魔物の素材の売却額はそれなりの額でしたがこれは下手に教会に返さず、まずはこの状況を完遂することに集中することにしました。
行って来いになっちゃいますしね。
「はぁ~~~~っっ・・」
私はヤンソンの村の教会で沸かして頂いた白濁した独特の香りの薬湯で脱力しました。
正直、魔物の臓物まみれで戦ってる時の方が楽です。
お風呂から上がり、私の洗濯物や靴を牧師さんのお弟子さん達が洗って下さっているのに気付いて恐縮しまくってから、用意してもらった教会の小部屋で、盆で出してもらった粥と林檎とハーブティの教会らしい昼食を済ませ、布の服からより楽なネグリジェに着替えて、私は固いこれまた教会らしい質素なベッドに寝転がりました。
今、気付きましたが私は疲れ過ぎると仰向けですぐ寝転がろうとするようですね・・
「さて、ステータス鑑定以外の、社会的な諸々は一応済みました。あとはポポクレス神様に今後の方針や事情を確認しないとですね。すぐ『以下略』と言ってきやがりますのでっ、次、テレパシーが繋がったら、キッチリ詰めてやらないとっ! ふぅ~、・・・」
独りごちてから、猛烈に眠くなってきました。
「ちょっと、だけ、眠ろうかな・・」
私は眠りに落ちてゆきました。
夢の中、私は神学大学を見事首席で卒業し! 聖都で司教候補生てして本格的にキャリアをスタートしっ、一方で政界への進出も視野に、首都の貴族議員や民会の有力者とも積極的に親睦を深め、慈善活動も。ふふふっ。
そうして最終的に、祖母と伯父さんが開いた格闘道場を引き継ぎ・・いやいやいやっ。格闘道場?!
「レルクーっ! 気合いだよっ?!」
お婆ちゃんがセコンドにっ??
「急所への攻撃は反則だ! 正々堂々戦えよっ?!」
伯父さんがレフェリーっ?? というか私、闘技場に出てるっ?!
「いやぁ~、いいマッチングになりましたねぇ? ポポクレス神様!」
「マッスルじゃ! マッスルがあれば元気になれる!! マッスルになればわかるさっ!!」
解説がメハとポポクレス神様っ?!
「チィーーーッ!!!!」
ファイテンポーズを取ってくるっ、キラーラビットっ!!!
「また兎か~いっ!」
私は、ベッドから身体を起こして宙に向かってツッコミを入れて目覚めました。
「・・・ふぁっ??」
何、闘技場は?? 私のキャリアアップの野望は??
「なんじゃ、急に起きよったぞ?」
「なんか可愛い夢、見てたんじゃねーの? ダハハっ」
部屋に1つだけあるテーブルで、ポポクレス神様と小ざっぱりして布の服だけ着たメハが何か絵札カードゲームをしていました。ポポクレス神様は念力でカードを操ってますね・・って!
「はっ?! なんでいるんですかっ」
ネグリジェはそこそこ、恥ずかしいっ! 変な起き方したしっ。掛け布団掛けられてたみたいだしっ。
「いや、食堂で昼飯食べてたら急にポポクレス神様が来てさ。『とっとと出発するべきじゃがレルクが起きんっ』って、ワーワー言いだして、食堂に人集まって来ちまうし、しょうがねぇから教会に来たら、やっぱ起きねぇし、牧師さんは寝かせておこう、って感じだったから、まぁ、カードでもして時間潰すか、と」
「・・そうですか」
なんか、寝てる間に色々な人が出入りして『この子、疲れてるようだから寝かせておいてあげよう』的な対応をされてたんですね。
「失礼しました。布団も掛けて頂いて」
「我が掛けてやったのじゃ。腹が冷えるからの」
あんたか~い。
というか、普通に天界から戻って来てるしっ。
「それは重ねてどうも! 私は着替えるのでっ、出ていってもらえますか?」
「おう、はいはい」
「とっととするんじゃっ!」
2人は部屋を出てゆきました。
「・・くっ。『兎か~いっ!』とかやってしまった!」
私は枕を顔を当てて暫くジタバタしていました。最悪っ! というか、私の部屋で待たないでほしいですっっ。