悪行マッスル神ヨルン・デェ神 4
ここが際ですねっ。私は、腹を括りました!
「ありったけの魔法石を私に下さいっ! ポポクレス神様を支えますっ。2人はあの杖を、『なんとかして下さい』」
2人は目を丸くしてから笑ってくれました。
「ハハッ、いい指示だ。鬼チョップリーダーっ!」
「3号っ! 状況に合わせ『最終プラン』で行くっ」
「ヤッテヤンヨーっ!!」
皆は魔力回復道具の魔法石を大量に私に譲ってくれましたっ! 私自身の物も神力で周囲に浮かせ、ポポクレス神様に向けて右手を掲げますっ。
「すんっっごいっ! ヒールっっ!!!!」
持続的に高出力のヒールを掛けてポポクレス神様を回復させ続けっ、メタマッスルシュトルムを押し止めます!!
「一点集中マナボム×9っ!!」
渦の一点に正確に連続起爆させた爆破魔法で一瞬穴を空けるベルミッヒさんっ。
「ピャーっっ!!!」
そこを最大加速の3号さんが突進しますがっ、ヨルン・デェ神は嗤って杖を持たない方の手を無数の負の神力を帯びた大蛇に変えて噴出させて3号さんを粉砕っ!
しかし、同時にメハが投げた珊瑚の剣+1が生命簒奪の杖に命中しっ、互いに砕け散りましたっ! 解除されるメタマッスルシュトルム!!
「っ?! おのれっ!!」
激昂したヨルン・デェ神は左右に出した魔方陣に両腕の無数の大蛇を放ち、それがいきなりメハとベルミッヒさんのすぐ側に出現した魔方陣から噴出しっ、2人に襲い掛かりました!
素手で受けるメハ! 魔力障壁で受けるベルミッヒさんっ! 2人は流血しながら大きく吹っ飛ばされダウンしましたっ。
「レルクっ落ち着くんじゃ!」
「わかってますっ。ヒールっ!」
私は2人にフルパワーのヒールを掛けて、鼻血を拭うポポクレス神様の横に並びました。ソウルタッグ発動っ!
「小賢しい真似ばかり重ねおって! ポポクレス神っ! 貴様の無能さが、このような浅ましい使徒ばかりを集めたのだっ」
「負け惜しみじゃのう」
「同感ですっ」
私は最大の神力で掲げた右腕をポポクレス神様の小さな左腕と重ねましたっ。
頷き合い、声を揃えます!
「『ゴッドクロス・ラグナロォォグ』ッッッ!!!!」
「『ゴッドクロス・ラグナロォォグ』ッッッ!!!!」
「人との慣れ合い等っっ!!」
神罰の光のクロスチョップがヨルン・デェ神の無数の大蛇の両腕を打ち砕きました!
「ごぉおおおっっ??!!! 脆弱神格ごときにっっ!!!! 舐めるなぁーーッッ!!!」
『闇の波動』を放ってポポクレス神を吹っ飛ばすヨルン・デェ神っ。
「わじゃ~っっ?!」
私は波動を光の手刀で断ち斬って持ち堪えますっ!
「ぬっぐっっ、レルクっ、もう一息のマッスルじゃ!!」
ポポクレス神様の神力が呪われた私の左腕に宿り、ボレアスの火の呪いと共に、封印の包帯が弾け飛びましたっ。
「レルクっ! やっちまえっ」
「鬼チョップだっ!」
「でぃあーっっ!!」
私は神力の右腕に神力の左腕を重ねて出力を高め、闇の波動を振り切りっ、ヨルン・デェ神の眼前に迫ると、
「しゃーっ! んちゃーーっ!!」
渾身の神力を乗せた左のカーフキックからの右のローリングソバットでっ、ヨルン・デェ神を仰け反らせましたっ。
「ごっ? セットアップつもりかっ? そんなブックは認めぬーーーっっっ!!!!」
失った両腕の代わりに両足から無数の闇の神力を纏った蛇を撃ち出してくるヨルン・デェ神っ。私は低く両手を交差して構えました。
これが、私の、心のマッスルっ!!!!
「『旋回斬鉄っっゴッドクロス・エクスキャリバァアアーーー』ッッ!!!!」
私史上最強のっ、神力回転飛び付きクロスチョップで、闇の蛇達を全て滅しっ、ヨルン・デェ神を十字に斬り裂いて突き抜けっ、魔宮の床に目映い神力の火花を散らして着地しましたっっ。
「わ、わ、我の闇のっ、レスリングは終わらないっっ。『残忍を楽しむマッスルの概念』のある限り、次の、我が、何度でもっ、ゴングを鳴らすだけだ! ハハハっっ、あっ、ばぁああっっ??!!!」
ヨルン・デェ神は滅びてゆきました。
「はぁはぁっ、貴女の屁の突っ張りは、もう、結構ですからっっ」
は、吐きそうですっ。
「レルク・スタークラウンっ、でかしたのじゃーっ!!! マッスルマッスルっ!!!」
「なんとかなったか。あーしんどっ」
「3号のバックアップを取っておいてよかった。ふふん」
どうにか勝てましたね・・・
ヨルン・デェ神が滅びたことで眷属のマッスル兵と魔宮は崩壊して(脱出大変でしたっ)ゆきました。
災いの雨により中央大陸出た死者の内、状態が悪く、オーク・マックスさん達のような天の使者達の手に負えなかったケースは、天の神々自ら復活させてどうにか救済できました。
凄く痛くて怖い思いをした記憶は残ってしまったでしょうけど・・
天界で逃れていた悪行神も討伐され、ヨルン・デェ神が生命簒奪の杖を持っていた理由は不明でしたが、一連騒動は一応の落着と相成ったのです。
また金欠になったマッスル神達はまた天界で神プロレス興行を始めることになったようですが、さすがに今回は協力する使徒は少なかったようですね。当然ですっ!
・・そうして、解決から約半年が経ちました。
「シスター様! こんにちは~」
「はい、こんにちは」
私は雪がちらつく中、郷の子供に微笑み掛け、野菜の詰まった買い物籠を掲げて教会の勝手口から直でつながった私の部屋に入りました。
「ふぅ~っ、寒! 魔工ストーブを買うお金くらいは手元に残しておくべきでしたっ。半年前の、私のバカっ!」
籠を置いて、袖を捲って僧帽を取って、火の支度をします。
季節は冬。私は中央大陸北部のとある湖畔の郷の教会でシスターをしていました。
ただ中々慎ましい郷で、当然教会の暖房は最低限度っ! 厨房も食堂も客間も兼ねた私室にはいつの時代からあるかわからないような小さな暖炉が1つあるだけでした。
私はあの後、冒険で得た諸々の収入を教会やギルドや災いの雨の被害へと見舞金にほとんど寄付してしまいました。
最終的に私のレベルは60を越えていて、もはや普通の暮らしが不能になってしまったのでレスラーとしてのレベルは全てポポクレス神様に預け、今はレベル18の『そこそこできる』くらいの普通の僧侶です。
服の下はムキムキだったボディも今はヤワヤワな乙女ボディになってしまっていますよ? ムフフっ。
「等と笑みつつ、てい!」
暖房と釜に火を入れて冷たいですが手も洗ったので、夕食の準備を始めます。今でも使える神力チョップで根菜を切りますっ。いや、包丁で切った方が簡単ですけど、ちょっとノリで。すいません・・
「ふんふ~ん」
楽しく菜食料理を作ります。今はシスターですからね。清貧な私ですよっ。未来、伝記が書かれたら『この件』どれだけ美化されるのかっ? もう今からワクワクしてしまいますねっ。
「こりゃっ」
ポカっ。いきなり頭を小突かれました!
「痛ぁっ」
しばらくぶりに見たポポクレス神様ですっ。いつものジャンプスーツ着てますっ。
「なんですかっ。いきなり来ないで下さいよ?! 今、『英雄レルク・スタークラウンの静かな余生』の件ですよっ?」
「10代中盤で何が余生じゃっ?!『しょーもない自惚れと名誉欲の気配』しか感じんわいっ」
「なんですか~っ?? 長期オフなんですけど? 1度聖教会にアポイントメントを取ってから来てもらえませんかぁっ?!」
「ごちゃごちゃやかましいわいっ。神力『レスラーレベル戻しビーム』っ!!!」
謎の光線を放ってくるポポクレス神様っ。
「うわぁ~~~っっ?? 身体がレスラーに戻ってしまいますっ!!!」
みるみる前以上のマッスルボディになって僧服が破けそうっ。
「久し振り過ぎてマッスルをコントロールできないっ。弾けそうっっ?!!」
「アホなことやっておらんで、シャンとするんじゃっ! 天界で、当分襲来しないはずの完璧マッスル神達の反応をキャッチしたのじゃっ!! これからメハと眼鏡を回収しにゆくから早く支度するんじゃーっ!!」
「なんですかっ、もうーっ?!」
私は筋肉を引っ込め、動き易い『険しい山の鹿』モードに調整しました。
「もう正義のレスリングはこりごりなんですけど?!」
「まだまだ冒険し足りないと顔に書いてあるんじゃ! もう一息のっ、マッスルマッスル!!」
「書いてませんよぉっ」
と言いつつ、キャビネットにしまっておいた『冒険セット』引っ張りだし、ウキウキと支度をしてしまう私! 2人とも、元気してるかな?
う~っ、マッスルマッスル!!!
読んでくれてありがとうございました!