悪行マッスル神ヨルン・デェ神 3
マッスル神の方々によるシステムダウンと雷神様の怒りのおかけで、私達の隊ばかりは比較的楽に魔宮を進むことができました。
魔宮の崩壊や敵の分断殲滅具合が『ちょうどいい具合に連鎖する』感じです。さすが神器のコインの効果ですっ。
それでも途中敵に遮られつかえる所は私達以外の2組の使徒の方々(2組とも先輩でした)がそれぞれ引き受けてくれ、私達は魔宮の深部の手前まで来たのですが・・
「フシュルルッッ、いいマッスルの身体を持っているっ!!」
「我らが偉大なるヨルン・デェ神様の肉体ある使徒として顕現する為っ、その強壮な死骸を貰おうかっ?!」
2体の巨人並みの体格の超強化マッスル兵が2体立ち塞がりましたっ。
「コイツぁ時間の掛かる口だぁ。レルク、使った神器はお前の『前進』を肯定する方向でバフを掛けてるはずだ。先行けぇ」
「あたしらは死に難い能力だからそこは気にしなくていいわ。他の使徒達もたくさんいる。物怖じせずにムチャしてきなよ?」
お二人は2体の超強化マッスル兵に向かってゆきました。激突の衝撃で上手い具合に天井が崩落しっ、私達に『道』を造ります!
(あわわ・・困ったのじゃ~、困ったのじゃ~っっ)
「モカミンさん、ノライオさん・・行ってきます!」
私達は振り返らずに深部へと進みました。
おそらく電撃で、大きくヒビの入った巨大な凄まじい闇の力を感じる扉の前にたどり着きました。
(え~いっ! ここまで来たら『もう一息のマッスル』じゃっ!!)
ポポクレス神様が光と共にテレポートしてきました。神様っぽい格好ではなく、いつかの競技レスラーコスチュームに拳サポ姿です。
「この奥にヨルン・デェ神はおるんじゃっ! 雷で多少はダメージが入ったようじゃが厳しいのっ」
小さな顔をこれでもかっ、としかめて扉の向こうを探知するポポクレス神様。
「さんざん言った通り、我はサポート型じゃ。お主達と我自身にバフを掛けるっ!!」
マッスル神のテーマだけでも凄いバフでしたが、通常の補助魔法の数倍の効果で私達の力が底上げされました。
「加速はやり過ぎるとワケがわからなくなるから程々じゃ! 対応されて『止まった時間の中での戦い』になると加速の意味がなくなるからのっ」
どんな状況ですかそれっ??
「ポポクレス神様、無理を通してしまってすいません」
「構わんのじゃ。お主は僧侶のワリにはそこそこ利己的なヤツじゃが、そういう所もあるからの! さて」
私達は扉に向き直りました。
「大人しく逃げ隠れする等全くできん、べらぼうな脱獄犯をボコしてやる時なのじゃ!」
「やるかっ!」
「素材にしてやる!」
「ピャーっ!!」
ポポクレス神様は両手から閃光を放ち、悪行神の待ち構える部屋の扉を開けました。
どう見るべきでしょうか? 蛇人族のようですが角を生やし、3つの瞳を持ち、強靭な肉体を持った女性の神でした。胴体に鋭く雷で引き裂かれた傷が上手く再生できないようですが、意に介する様子はありません。
人の革でできたような玉座に座り、嗄れた老人のような奇怪な杖を持っています。これにポポクレス神様が反応しましたっ。
「っ?! 予定変更じゃっ。我らのアタックで倒せずともっ、あの杖だけは破壊するのじゃっ!!」
「なんですかっ?」
と、後ろの扉が閉まり、闇の障壁で閉ざされました。
「アレは『生命簒奪』の杖じゃっ! なぜヤツが持っておるか不明じゃが最悪のドレイン性能を持っておるっ。この場でヤツに殺されると、例え我であったも丸ごとヤツの力として取り込まれるんじゃっ!」
「ふふふふっ。妙な神力の使い方をして、何者が来るかと思ったらポポクレス神か。まぁお前の『手刀』と『悪足掻き』の力はそれなりに使えそうではある。1柱ずつ吸収して、マッスルプリズンから出られぬ間抜けどもも吸収して、我が『唯一の本来のマッスル神』として顕現し、この世界の主の座を奪還してくれる!」
「バカなことをっ! 戦神の我らでは世界を保てはしないのじゃっ。我らは2度と『1つの神』に戻ってはならんのじゃっ!!」
そんな事情が・・
「問題無い、『我に適した残忍な世界』を創造し直す。お前のような卑小な分体には理解できないだろうが、誰もが平穏な世界を願っている等というのは弱者と現行既得権者の戯れ言に過ぎない。むしろ多くは破壊と残忍と、一方的な搾取が実現する世界を心から願っている。その悪意をあらゆる身綺麗な言葉に置き換えてな。その、『人々の切なる願い』が我に再び力を与えたのだ」
玉座に座ったまま生命簒奪の杖を振るうヨルン・デェ神!
黒い渦が巻き起こりっ、そこから3体の魔物がゆっくり姿を現し始めました。
「『メタマッスルシュトルム』じゃっ! アレに巻き込まれると全ての生命を奪われてしまうっ」
「なんか出てきてますよっ?」
「あれらは・・『肉体の化身』『精神の化身』『事実の化身』じゃっ。生命簒奪の杖の眷属っ! 神のなり損ないどもっ。あれらを倒さんことにはあの杖は破壊できんのじゃっ!!」
「いい前座だ、魅せてみよ。ポポクレス神!」
3体の化身は襲い掛かってきましたっ。
肉体の化身の頭部のない影の虎のような魔物は高い攻撃力を持ち、精神の化身のやはり頭部の無い影の大鷹のような魔物は実体があやふやで、事実の化身の影の樹木のような魔物は触れた床を不気味な植物に変化させてゆきますっ。
背後のメタマッスルシュトルムは徐々に拡大し、広間の空間を圧迫しているようです!
「順番じゃっ! まず一番倒し易い肉体の化身を仕止める! 我は精神の化身を押さえるっ。眼鏡とポンコツは事実の化身を一先ず押さえるんじゃっ」
「わかりました!」
「猫ちゃんなっ」
「眼鏡呼ばわりするなっ」
「ぽんこつジャナイヨ!」
残り2体を神力と魔法と集中砲火で押し止めてくれている内にっ、私とメハは肉体の化身に迫ります! ソウルタッグ発動!!
「ケチらないぜっ?」
メハは最初からミスリルの剣の二刀流で肉体の化身に打ち掛かり、剣を砕かれると収納ポーチから新しいミスリルの剣を取り出してまた二刀流で打ち掛かる贅沢な戦術と取りました。神の船で激安で買えたので使い放題ですっ。
私はその隙に間合いを取ります。ただ・・見る間に肉体の化身の身体が逞しくなってゆきますっ。
「ちょっとっ? ポポクレス神様っ?! これは??」
「肉体の化身は『どんどん身体が強くなる』ダメージを与え続けんと詰むんじゃっ!」
「先に言って下さいっ!! しゃーっ! んちゃーーっ!!」
好機を待ってられなかったっ。私は強引に飛び込み、剛力の前肢の一撃を避けて腕を取ると背負い投げを決めっ、素早くメハが剣を両方砕きながら両前肢を切断っ! 肉体の化身は即、前肢を再生させようとしましたが!
「でぃやーっ!!」
私の右手1本の神力手刀で身体を縦に割って仕止めました! よしっ。
「ミスリル剣はあと2本だっ」
「了解っ!」
「次は精神の化身じゃっ。近付くと精神をヤられるから『めちゃ好きな物』だけ考えて戦うんじゃっ」
「えーっ?」
「マジ?」
私は色々考えた結果、最近気になってる新聞漫画のカメレオンのキャラクター『世渡り巻き舌君』を思い浮かべました。決め台詞は、『まぁそんなもんだ。巻きで行こう』ですっ。
「世知辛ーーーいっっっ!!!」
叫びながら、ポポクレス神様が光の鎖でぐるぐる巻きにして捕獲する、から攻撃しやすいように光の円の中に留める、に切り替えた精神の化身に突進っ!
接近するとこれまで倒した全ての敵の死と恨みのイメージを頭に叩き込まれましたがっ、冗談じゃないですよっ!! 他人の死を横取りしないで下さいっっ。
私は神力手刀で精神の化身を斬り裂き、メハが聖水+3を振り掛けたミスリル剣二刀流で別れた影の身体に剣を砕かれながらトドメを差して仕止めましたっ。
「メハ、今、何考えたの?」
それどころじゃないですが聞いてみました。
「ハッ、教えね」
何ソレーっ? 気になるーーっっ?!
「最後は事実の化身じゃっ。コイツは見たまま触られると『書き替えられる』。触れずに倒すんじゃっ」
「難しいですよっ!」
「盾技で押すか?」
「私と3号は最大火力で押すっ。ポポクレスはあの渦なんとかしろっ」
肥大したメタマッスルシュトルムがかなり迫ってきています。
「呼び捨て厳禁じゃからのっ?」
文句を言いつつ、ポポクレス神様は渦を神力で少し押し戻してくれました。
「ゆくぞ? ヒートレイ×9っ!!」
「ビャーッ!!!」
2人の集中放火で事実の化身を削りますっ。
「せぇあっ!」
ミスリルの盾+2を両手で支えてタートルシェルと突っ込むメハに続く私っ。盾が植物化して砕かれた瞬間っ! 私は飛び出しました。
書き換え効果の触手のカウンターは回避っ。まだ少し距離はありましたが、より強い技で押し切りますっ!
「斬鉄ゴッドエクスキャリバーーっっ!!!」
事実の化身の影の樹木の身体を高出力で叩き割りっ、打ち滅ぼしました!
「・・ふふふ、無駄な足掻きだ。後は潰れて我の糧になるがいい」
ヨルン・デェ神は玉座から立ち上がり生命簒奪の杖を掲げ、負の神力を高めっ、ポポクレス神様の神力を圧倒し始めました!
「ふぉ~~っ、マッスルっ、マッスルなんじゃーっ!!!!」
鼻血を出して耐えるポポクレス神様っ!! このままではっ。




