業火のユリーズ 前編
終わり良ければ全て良し。といったらいいですが、悪行マッスル使徒退治も私達の隊は今回で最後です。
今は飛行テントでホウムゥー砂漠を飛行中。
なんと! 旧ボザ国近くの海の向こう、そう東の大陸に来てしまっていますっ。場合によっては元いた中央大陸(東の大陸の人達から『西の大陸』って呼ばれてますけど・・)から一生出ることなく人生を終えるのかな? と思っていたので、わからない物ですね。まず砂漠も初めてきましたし。
最初は珍しかったのですが、飛行テントの風の護り越しでも日差しや砂の照り返しが激しくて、私達は中に引っ込んで、思い思いに時間を過ごしていました。
私はわざわざ途中の街で買ってきた『巨大な狸のヌイグルミ』にうつ伏せに抱き付いてゴロゴロしています。
2体の悪行マッスル使徒達と戦って、つくづく理解したのですが相手は『道を極めた者達』です。
今回大変だな、とかではなく。その時、最大の覚悟を決めるべきでしょう。
結果、私は『そうだ、人生最大にゴロゴロしよう』と結論に至りました。頑張って神学校に入って以来、何かと気を張る生活だったので・・
「ポポクレス神様以外の神よ、今日の安息に感謝致します。うふふっ」
モッフモフのふわふわですよ? この狸ちゃん!
「ふわぁ~んっ、最高~~」
「・・・」
「・・・」
「ピョ?」
3号さんシリーズ用の装着ゴーレムを調整しているベルミッヒさんと、最後の悪行マッスル使徒関連の文献を読み込んでいたメハに若干呆れられ、1体だけ起動している3号さん(たぶんNo.4さん)に不思議がられながら、私は構わずゴロゴロしました。
人間だもん、ゴロゴロしたいよねっ?
残る悪行マッスル神の使徒は18体。今、動ける正義マッスル使徒は残り13名です。リザーブの方々は残念ながら全員リタイアしてしまいました。数が足りない分は、各地の冒険者ギルドの集団攻略クエストとして対応してもらうより他、ありません。
相手の能力は全て明らかなので対策は立てられるでしょうが、神力無しでは滅ぼし難い悪行マッスル使徒を私達以外で倒すのは大変でしょう。
悪行マッスル使徒を命を吸収するようですしね・・私達、正義マッスル使徒は最悪のケースに備え、一人でも多くリタイアせずに最後の攻略を終えることを期待されてはいます! やりますよっ? マッスルマッスル!!
砂漠地帯にある岩山の頂上近くに『業火の社』が見えてきました。
ここは隠されていません。封じられいるヤツがかなりヤバいので、いっそオープンにして『ヤバいヤツ封じられってからマジこの近辺開発禁止なっ!』と厳格に長年対応されてきたようです。
まぁホウムゥー砂漠の中でも僻地なので、わざわざ郷や町を作ろうと考える人はこの200年現れなかったから、大きなトラブルは無かったようですが。
(封じられておる業火のユリーズはこれまで倒した2体の悪行使徒を上回る強敵じゃ! レルクのレベルもなんとか43に上がり、他の2人も強くなったっ。今なら勝てるはずじゃが、注意することじゃっ。油断大敵マッスル!!)
(ユリーズは炎の力と『ゴッド・ラリアット』の力を授かっているのですね?)
(そうじゃ。ネスローザ程は素早くも割り切りが利くタイプでもなく、オブリメッガのように飛び回ったり色々搦め手が使えるワケではないが、単純にパワーと耐久性が強い。『絵に描いたようなレスラー』なのじゃっ!)
(う~ん)
ちょっと戦ってみたいかも?
(癖は? どうも使徒連中は精神性が戦い方に直結している。最初のネスローザも初手はともかく優位に立ってから無駄にレルクを痛めつけずさっさと始末してりゃ勝てたろうし、次のオブリメッガも能力的にはわざわざレルクと戦わず、鳥系モンスターなり野生の鳥が多くいるエリアまで逃げきりゃ勝ち筋はあったろ?『そうせずにはいられない』つう癖が強過ぎんだよ)
(ふんっ。確かに先にわかっていればもう少しやりようはあったな。特にネスローザっ。アレはほぼ状況作り失敗してたぞ? よく全滅しなかったものだ)
確かにあの『ココナッツクラッシュ』はトラウマ物ですっ。私の中では『ドSの断頭台』と名付けていますっ!
(業火のユリーズは豪放磊落。悪行マッスル使徒ではあるが、気持ちの好い男じゃ!)
(え?)
(好感度高い感じかよ)
(具体的には?)
(具体的も何もないんじゃ。そんな気持ちの好い男じゃが『力を高め、殺戮の限りを尽くすことに関しては躊躇いのない』性質なのじゃ。性格が良くても悪人、ということは残念ながらある。タガが外れておるんじゃ、同じ軸では推し測れん。惜しい男じゃったがの。無情マッスルマッスル)
私達はだいぶ困惑しましたが、『おそらく逃げずに向かってくる。その場にいる者全員と満遍なく闘争を楽しむ』ことを想定し、ポポクレス神様もおおむね同意してくれました。
業火の社へと入ってきました。対炎、対物理、それから酸欠と中毒対策の『大気の護り』でガッチリ固めています。メハは氷属性の剣を手に持ち、さらに予備にミスリルの剣も背の鞘に差して備えは万全!
3号さんシリーズ3体も炎、物理対応タイプで、今回攻撃手段は『冷凍光線』のみに絞って特化させていました。
天使ゴーレムさん達40体(!)はもう武器を持たず、大盾のみ両手で構えています。思い切りましたね。
結晶化した業火のユリーズは古代の英雄そのままに筋骨隆々の人間族の大男でした。
「・・ふぅ~。これが済んだら2週間くらい海辺でバカンスしたりしちゃいましょうか?」
「いいんじゃねぇの?」
「日差しも、機械が錆びるから潮風もあまり好きではないが、開けた場所で海を観察するのは悪くない。くくっ」
「では」
私達は呼吸を合わせました。
「ストロング、プロテクト、レジスト」
「ブレッシング! お願いしますっ」
「解除ぷろぐらむヲ実行シマス」
ピシピシピシピシッッッ!!!
剥がれ落ちる結晶っ! 復活した業火のユリーズはすぐには襲ってこず、首を回したり、伸びをしたりしました。
「つぁ~っっ、やっとかぁ。忘れられたかと思っちまったよ? ガハハハッ」
笑って台座から降り、その瞬間っ炎を纏い右腕を振り抜きました!
「ゴッド・ラリアットぉおっっ!!!!」
全ての大盾ごと全ての天使ゴーレムさん達を叩き潰し焼き尽くす業火のユリーズ!
なんというレスラーパワーっ!!
「俺は業火のユリーズ! 善悪どちらでもいいっ。新時代のマッスル使徒の力っ! 俺に見せてみろっっ!!! 来いよぉっ!!」
「3号っ展開っ!」
ベルミッヒさんが飛行させたゴーレム換装の3号さんシリーズ3体に冷凍光線を撃たせっ、私とメハはそれを合図に突進!『ソウルタッグ』のアビリティーは即座に発動しましたっ。
床すれすれから、床を融解させて突き上げる左の炎のゴッドラリアットで迎撃に掛かるユリーズ!
「せぇあっ!」
氷の剣でヘビィスラッシュを打ってそれを受け止めるメハ。即、剣にヒビが入りますっ。
「しゃーっ! んちゃーーっ!!」
私は神力を乗せたローリングソバットをユリーズの左肩に打ってゴッドラリアットを完全に止めますっ。
そのまま3号さんシリーズとベルミッヒさんの援護射撃を受けながら神力チョップの連打に移行しますっ。後ろにメハが続いてきてくれています!
「初めまして! 私はレルク・スタークラウンっ! 本業は僧侶でっ、好きな食べ物は寺院風のナッツいりミルク粥と、ソースこってりなステーキサンド! 最近は狸のヌイグルミさんにもたれて寝るのにハマってますっ!」
「礼儀良しっ! たんぱく質を好んでいることも評価できるっ。ただ俺は獣は解体する方が好きだぜぇっ?! ガハハハッッ!!!」
不意にっ、足が大き過ぎて、小細工が無さ過ぎて『ただの遅い蹴りでは?』と錯覚してしまう爆炎を纏う前蹴りを放ってきて、虚を突かれ、これをうっかりガードした為に全身炎に包まれながら思い切り後方に吹っ飛ばされ、メハに受け止めてもらいました。
凄まじい衝撃ですっ。『城』に蹴られたような!
「レルクっ、パワーが違う! そのまま受けるなっ」
「すいません」
私は体勢を立て直し、ベルミッヒさんも効果の薄さに3号さんシリーズを含め、一旦援護射撃を止めました。
散々神力チョップを打ったのにユリーズはようやく身体が温まった、という顔で追い打ちをせずに大きく、雄大にさえ見える構えを取りました。
「新人っ! 殺しても殺されてもっ、俺達のレスリングを楽しもうぜっ!!」
大きな顔で向けてきた笑顔は無邪気ですらありました。
この砂漠で2つの国と7つの部族を壊滅させたというこの魔人には、悪意なんて欠片も無いのかもしれません・・




