VSヒルジャイアント 前編
「は~っ、結局夕方になっちゃったなぁ」
私は久し振りに『僧侶の服』を装備してマバオの町の通りをぶらぶら歩いていました。服の下は結構ムキムキで、険しい山で暮らしてる鹿みたいになってますけど・・
まだ一月も経っていませんが、ポポクレス神様に『遭遇』してから1年はとっくに経った気分です。
街路樹の薄い香りのウェストブロッサムの花はだいぶ散ってきてはいますが。
オーク・マックス撃破から8日後、休息もしつつ細々とギルドや聖教会の仕事をこなし、私達は結構強くなりました。
私はレベル36になり、非常に上がり難くなった僧侶としてのレベルもどうにか11相当まで上昇!(レスラーの技を使わずにアンデッドモンスターを大量に退治したり、治療院のボランティアで大量に患者さんを診たり、大変でした・・)
メハはレベル26に、ベルミッヒさんはレベル30に上がっています。ベルミッヒさんの地力の高さにも目を見張りますがメハの成長の速さは相当ですね。
これまで才能と要領のよさでなんとなくやってこれてたみたいだから、そういう人が私用の『ひたすら鍛練系クエスト』をこなし続けると自然とこうなる、ということなのかもしれませんが。
そんな私達はそのまま拠点にしているマバオの町で、今ではちょっといい宿の部屋を取れるようになっていました。
私は部屋に戻ってきました。
「ただいまー、です」
「オ帰リ~っ!」
おっ、久し振りの3号さんが飛んできました。
「直してもらったんですね」
「ソダヨ~」
「題目でも唱えさせられた? それともまた治療院でタダ働きさせられちまった? 休みなのによく働くよなぁ」
布の服だけ着てピザを食べながらワインを飲んでいたらしいメハ。休日はガッツリ休むタイプですよね。
「言い方! それもありますが、神父様に借りる形なったお金を返しに行ってきたんですよ」
「確か、還俗した生臭だったか? くくっ」
脱衣場から眼鏡を曇らせ、バスタオルだけ巻いたベルミッヒさんが出て来ましたっ!
「ベルミッヒさんっ、服! 何回言わせるんですかっ。メハが来てる時は着て出てきて下さいっ。というかお風呂に入るタイミングっ!」
「俺は待ち合わせ時間にキッチリ来て、ピザ食べてるだけだかんな~」
知らん顔でクリスピーピザを食べてるメハ。
「風呂上がりにすぐ服を着ると蒸れて気が狂いそうになる」
「どんだけストレス耐性無いんですかっ。服っ!」
「・・わかったよ。チッ」
「舌打ちしないっ」
「3号、私のパンツを部屋から持ってこい」
「了解デスっ」
「ブラも付けてっ」
「・・ブラもだ」
「了解デスっ」
ベルミッヒさんの着替えが済むと、私達は一冊のクエスト資料をテーブルに拡げました。『ヒルジャイアント・野津波討伐』の資料です!
「ようやく適正レベルに達したとギルドから許可が下りました! ヒルジャイアント狩りですっ」
「私が森に籠る前からあった20年以上放置されている塩漬けクエストだ。一度取り下げられた後、魔法使い会から再発注された曰く付きの代物だぞ? ふふふっ」
「ヒルジャイアント狩るだけなら遠出すりゃ他にやり易いクエストいくらでもあるけどな。転送門使う金も貯まってるし、ベルミッヒの飛ぶテントもあるし」
「いえっ、ここで逃げて楽な方に行ったらポポクレス神様からまたやいのやいの言われますっ」
「あのチビ助は作業クエストの類いには関心薄くはあったな。私もだが、くくっ」
「やるからにはやるけどさ。にしても、ゼブンカ荒原か。『現地協力に難有り』とか書かれてるし、ベルミッヒの言う通りそれなりだぞこりゃ」
メハは億劫げに言って、まだ持っていたワインのグラスを空けるのでした。
翌日早朝、飛行テントは軽快に飛んでいました。『入り口』から顔をひょいっ、と出すとマバオの町の西にある乾燥気味の草原帯を抜けつつありました。ゼブンカ荒原はもうすぐでしょう。
ゼブンカ荒原はマバオの町と同じくオスフェール領に組み込まれた地域ではありますが、事実上自治区となっています。
高地である上にその先にゼブンカ火山を擁していて、痩せて乾燥した土地でありながら土の魔力が強く、強壮な土の属性の魔物が発生し易く、通常の封建制度では管理し難いからです。
結果、荒原に住まう部族の内、7割程の友好的な人々から土の魔法素材等を税として定期的に納めさせるのと引き替えに公正な交易の保証と、冒険者ギルドによるトラブルシュートの助成をしている形で統治の体裁を保っているようですね。
ヒルジャイアント・野津波はその1つの部族ミウマ氏のテリトリーを荒らす魔物です。
私達はまず、ミウマ氏の郷を目指すことにしていました。
中に戻るとメハは武術の指南書の類いを何冊も斜め読みしていて、ベルミッヒさんは起動を切った3号さんを解体して調整していました。
(ポポクレス神様、聴こえますか? これからお題の魔物の1つ、ヒルジャイアントをとうとう討伐しにゆきますからね!)
(んあっ? そっちは朝か・・まぁ頑張るのじゃ、我が使徒レルクよっ。・・ほいじゃ我は、二度寝マッスルっ!)
「・・・」
ま、貴方はそんな感じですよねっ!
目的のミウマ氏の郷が見下ろせる所まで来ると、ベルミッヒさんに飛行テントの下部に『敷物』を展開してもらい、私達はそこに歩いて出て、私と3号さんは裸眼で(3号さんは裸眼と言ってよいか微妙ですが・・)、ベルミッヒさんは眼鏡を取って魔法で、メハは望遠鏡で様子を伺いました。
現地協力に難有り
の情報が気になっていたので・・
実際見てみると、
「郷、分かれてんな」
古風ながら造りのしっかりした郷の近くに、3分の1くらいのやや新しい郷が作られていました。
「内輪揉めでしょうか? 小さな方は新しく見えます」
「造りも粗いが、魔除けの城壁の維持コスパ等は悪いだろう。新しい方の住人の方が貧相にしている者が多い」
確かに、小さな新しい郷の方に住んでいらっしゃる方々は住居や服装、使っている道具や畜獣等は最低限度のようで、痩せている方が多いようでした。
ゼブンカ荒原のような環境ではちょっとした小競り合いでも生活基盤を影響が出てしまうと即、死活問題になってしまうはずです。
「冒険者はその場限りの流れ者。事後処理が複雑そうなら後はギルドと依頼主の魔法使い会に任せた方がいい。面倒だ」
「デスヨネ~!」
不穏しか感じませんが、私達は高度を下げ、まずは大きな方のおそらく元からあったミウマ氏の郷に向かうことにしました。
ミウマ氏は小柄なフェザーフット族の血を引く部族で、顔料で顔に紋様を描く習慣があるようでした。
香や香水や整髪料も独特で、柑橘と消毒液のような匂いが郷全体でしていました。
郷には1つだけ年代物の水晶通信の設備があったので、話自体は通っています。私達はミウマ氏の方々に遠巻きにされながら、円錐形の族長様のお家を訪ねました。
「よく来てくれた。野津波は厄介な能力を持っていてな」
族長様は疲労の濃い顔でした。最初は初老の方かと思ったのですが、どうやら中年世代のようです。苦労されてるんでしょう。
「資料には『不定形化』『大地との一体化』とありましたが?」
「それだけでも厄介だが、ヤツは触れた生物を取り込むんだ。しかも消化せずに『分体』のようなモノに作り替えてしまう」
「え~?」
「それはキツいッスね。さっさと倒しゃいいのに、ギルドの対応が微妙なワケだ」
「郷が分かれているのはその為か」
「ドノ為?」
ベルミッヒさんの指摘に族長様は益々苦渋の表情をされました。
「ああ、野津波に倒された者達は『生きているよう』で曖昧ながら『自我と記憶を保って』いる。この郷は諦め切れないという者達とどうしても折り合いがつかなくなってしまっているんだ」
むごいですね。
(ポポクレス神様、聴こえますか? 被害者の方々を救えないでしょうか?)
(ふむ、見てみないとわからんの。使徒、レルクよ。お主が目の当たりとし、我に見せてみよ)
(わかりましたっ。しかと!)
「野津波を倒すことは大前提ですがっ、配慮はします。郷から分かれた方々にも事前に話を聞いてみます」
「痛み入る」
族長様に頭を下げられてしまい、恐縮してしまいました。
課題だからと簡単に引き受けてしまいましたが、来てみると大事でしたね・・




