祝福?
「ふんふ~ん」
春、麗らかな日差しの中、私はハミングしながら村の近くの丘の向こうにある、先代神父様の家に向かって魔除けの利いた野外道を歩いていました。
サンドウィッチと林檎とレモンティーを入れた水筒をバスケットに入れています。
私はレルク・スタークラウン、15歳。昨年神学校を1年飛び級で卒業して(自慢ですっ!)、冒険者ギルドで僧侶職業登録をしたり実戦教練に参加させられたり(地獄でした。しかも教練扱いだから薄給ぅっ)、いくつかの聖教会関連の施設や団体等で研修を受けたり(ここに関してはほぼ無給・・)してから、半年程前に空きのあったトルチャ村のシスター見習いとして赴任しています。
最初は色々大変でしたが(主に金策で!)今ではなんとかやっています。
私の赴任期間は2年の予定なのでその間に研鑽を重ね、お金も貯めっ、どこか都会の高等神学校に進学するつもりです。
生まれはちょっと貧乏な家でしたが・・のし上がっ・・もとい、聖職者としてより高い位置で使命を果たさせて頂きます!!
「しゃーっ! んちゃーーっ!!」
無意識の内に気合いを入れてしまい、慌ててトルチャ村民から、その『清楚ぶり』と『秀才美少女ぶり』で支持を高めている『シュっした』佇まいに修正しました。
祖母と伯父が格闘士の職をしていて破天荒な人達なので、その影響が時々出てしまうんですよね・・気を付けないと!
私は咳払い1つをして、再び歩きだしました。と、
(・・・スル、ッスル。マッスル! 我の声が聴こえるかっ? マッスルの魂を抱きし者よっ!)
魔力通話? 頭の中に声がっ、
「え?」
(マッスルの魂を抱きし者よっ! 我の元へ来るんじゃっ。至急だ!!)
マッスルの魂??
(いやっ、抱いてませんけど??)
私にそんな能力ないはずですが、テレパシーで反論してみますっ。
(細かいことはいいんじゃいっ! とっとと我の元へ来んかーいっ。我が死んでしまうだろうがっっ)
(えーっ?! 死んでしまうのですか?? こっちとはどっちですっ?)
(右手側にっ、デカい樫の木が見えるじゃろ? そこじゃいっ)
(わかりましたけど・・)
すぐ動きかけてハッとしました。樫の木の有る所は道から離れていて、等間隔に配置されている道の魔除けの石の範囲外です。
(魔物が道の魔除けから遠ざけようと企んでいるワケではないですよね?)
(誰が魔物じゃあっ! もういいっ。来なくていいぞ?! 我はここで死ぬ。はぁ~、残念無念! お主のせいでっ、我は死ぬのだ。お主のせいで、お主のせいで、お主のせいで、お主の)
(行きますよぉっ! 行きゃいいんでしょっ? なんですかっ、もう!)
ホントになんなんですかっ?!
私は一応、腰の後ろの鞘に差した聖職者の短杖を確認して、離れた樫の木の方へ向かいました。
そこにいたのは・・
「小人??」
手に乗るサイズの、背に蝶の羽根を持つ小人の、人間なら9歳くらいの少年がグッタリと座り込んでいました。
「どうしました? 具合が悪いのですね。私は僧侶なので、『ヒール』や『キュアポイズン』や『ブレイクカース』の魔法なら使えますが」
「実はな・・以下略。腹が減っておるんじゃっ!!」
お腹、ぐうぐう鳴らしだした!
「略し過ぎですよっ? え? お腹空いてるんですねっ??」
「お前にはマッスルの才能がある! なんか食わせろいっ」
「マッスル? さっきから言ってますね?? 食べ物ですねっ。いいのかな??」
変なワードをちょいちょい挟んではきますが特に邪悪な感じはしない、というかむしろ小人の男の子からは神聖な気配すらしました。
「じゃあ、どうぞ。サイズ的にサンドウィッチを少し」
私がポーチに入れていた野外用折り畳みポケットナイフで切り分けようと、座ってバスケットからサンドウィッチを入れた木のお弁当を取り出すと、
「飯じゃーっ!!」
一瞬で小人の男の子に強奪されっ、完食されましたっ!
「えーっ? 待って下さいっ。サイズ比! どこに入ったんですかっ??」
「足りんのじゃあっ!」
動揺する私に構わずっ、小人の男の子はバスケットの中の林檎も奪って爆食しっ、水筒の中身のレモンティーも飲み干しちゃいました!
「ふ~~・・・我、満足である」
お腹をパンパンにして仰向けになってる小人の男の子。あの小さな身体のどこに入ったかはサッパリです。
「ヒドイっ。なんなんですか? 貴方は? ピクシー族、とも少し違うようですが??」
「ん~? 我は『マッスルの神』、その名も高き『ポポクレス』じゃっ!!」
「マッスルの神?? ポポクレス??」
私、聖職者なのですが、そんな神様いましたっけ??
「お主は名乗らなくてもいいぞ? お主の内なるマッスルを読み取った」
内なるマッスル?
「レルク・スタークラウンよっ! 我に供物を捧げた礼として、お主にっ、最強のっ!『ゴッド・クロスチョップ』の神力を授けよう」
「クロスチョ・・いやっ、よくわからないです! やめて下さい」
「何? 神力をいらないというのか??」
「よくわからないんでっ」
なんだか凄くっ、『トラブルの臭い』しかしなかったので! 私はそそくさと立ち去ろうとしたのですが、ポポクレス神様? は私の僧服に飛び付いて羽根はためかせて引き止めてきましたっ。結構なパワーです!
「んぎぎっ、待たんかーいっ。我の神力が受け取れんというのかぁっ?」
「絡み酒みたいに神力渡そうとするのやめて下さいっ! 私には私のライフプランがあるんですっ。なんだか凄くっ『私の人生に取って致命傷』な予感がします!!」
「ありがたい神力を『致命傷』とか言うのはやめんかいっ! 神である我がやる、と言っておるんじゃっ、もうそういう運命と思うのじゃあっ!!」
「思いませんよっ? 僧侶だからって神様の思い通りにはなりませんからねっ!」
「ダメじゃあっ。ハァハァハァッ、逃がさんのじゃあっ!! 拒否を阻止っ! こっからっ、こっからお主の最強伝説が始まるんじゃあ!!! 神力っっ、譲渡じゃーーーっっっ!!!!」
閃光っ! 衝撃っ!! 両腕が熱い?? 私は意識を失いました。
やがて、樫の木の枝葉のざわめきを聴き、春の草花の香りに吹かれて、私は目覚めました。
「・・・うっ。屁の突っ張りは結構です。・・え?」
今、私、なんて言いました?? 気が付くと、ポポクレス神様の姿はどこにも無く、私は1人、大きな樫の木の側で身を起こしていました。
「夢?」
しかしバスケットと水筒は空っぽで、私は両腕と身体の芯に不思議な力の躍動のような物を感じていました。