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2 結果発表

 結果から言えば、俺は見事騎士学院への合格を果たした。合格通知を見た時は、思わず二度見した。おい、いいのか。

 結果の詳細もついていたが、予想通り筆記はギリギリだった。というか、ほとんどアウトと言っていい点数だ。分かっていたのでそれはいい。


「……父さんって、強かったんだな」


 ぼそりと呟いたのは、目の前にある剣術の結果がものすごいことになっているからだ。なんだ、これ。

 一瞬言葉を忘れるくらい、成績が良かった。あれ。俺、父さんと打ち合ってただけなんだが。


「おおう、レオ、どうだった」


 威勢よく鍜治場から出てきた父親が、返事を待たずに紙を取り上げる。おい、と声を掛ける俺なんぞお構いなしだ。

 ふむ、とその紙を眺め、父親はしみじみと頷いて紙を返した。


「レオ、王都までの汽車はいくらだったか」

「は? 王都に行く予定でもあるのかよ」


 なぜ田舎の鍛冶屋がわざわざ王都に行く必要があるのか。全くその必要なんてないだろうに。

 純粋な疑問を込めて尋ねた俺に、どこか同情するように父親が視線を向ける。おい、何だその目は。


「結果が間違って届いたみたいだからな、正しいのをもらってこい」

「これが正しいんだよクソ親父っ!」


 思わず暴言を叩きつけた俺に、しかし父親は苛立ちもしない。それどころか、同情の色を深めている。こういう父親は珍しいが、苛立ちの方が大きい。


「どこまで息子を信用してねぇんだよ! 父さんが試験受けさせたんだろうが! 信用しろよ!」


 レオ、とやけに静かな声で父親が名前を呼ぶ。こういう時、大抵の場合父さんは訳の分からない世迷言を言う。わが父ながらどうしようもない。


「俺が信用していないものは二つある。自分と自分の息子だ」

「どや顔で何言いやがるボケ親父! ……っだあ!」


 速攻で拳骨が落ちてきた。これ以上頭悪くなったらどうするんだよ。


「誰がボケ親父だ、まだボケちゃいない。親に向かってどんな呼び方してやがる、コラ」

「変なこと言うからだろ! ……だぁ、痛っ……」

「魔法で凍らしとけ。頭が冷えてちょうどいいだろう」

「誰のせいであったまったと思ってんだよ……」


 さあな、と飄々と言い置き、悠々と鍜治場に戻る父親を舌打ちとともに見送り、ふともう一度結果通知に視線を落とす。俺、本当に合格したんだよな。あの騎士学院に。


「おお、そうだ。レオ」

「何だよ、まだ何か言いたいことあるのか」


 振り返った父親を鬱陶しいと言わんばかりに、俺はため息をつく。


「何言ったって、これは返さないぞ」


 ひらりと通知を振る俺に、父親は珍しく相好を崩した。


「よくやった」

「……は……?」


 素直で真っ直ぐな賛辞に、呆気にとられた。いつもの父親は、息子の俺が言うのもなんだが頑固で意地っ張り、けれど実力は折り紙付き。そういう人だった。叱るときは全力で、褒めるときはひねくれて。素直な賛辞なんぞ耳にしたことはなかった。


「…………どこか悪いのか」


 だから、思わず尋ねた俺に非はない。ああ、ないはずだ。


「素直に喜べねぇのかお前は! どうしてそうひねくれた返事を寄越す!」


 物凄い勢いで近寄ってきた父親に恐怖を覚えつつ、俺は負けじと言い返す。ひねくれてて悪かったな、父さんに言われたくない。


「父さんに似たんだよ! ほっとけ!」

「おうおう、生意気になりやがって!」

「だーっ、うるさい!」


 ぎゃんぎゃん騒いでいるうちに、ようやく実感がわいてきた。

 俺は、騎士学院に入学する。

 庶民の手本みたいな俺が、貴族の群れに突っ込むわけだ。苦労しそう。


「俺が褒めてるんだから素直に喜びやがれ馬鹿息子!」

「貶してんだろうが! どっちなんだよ!」


 思わず叫んだ俺に、父親はぽんと肩を叩いた、


「いいか、俺はお前に賭けるからな、レオ。きっちり賭けに勝ってこい!」

「勝手に賭けて無責任にも程があるだろう……」

「乗ったのはお前だろう。騎士になって父さんに楽させてくれや」


 にんまりと笑った父親の顔を苦々しく見つめ、俺は半ばやけくそになって、父親に言葉を叩きつけた。


「やればいいんだろ、やれば!」


 父親は何も言わず、俺の頭をわしわしと掻きまわした。


「流石俺の息子だ、良く言った!」


 そんな調子の掛け合いは、兄貴が騒ぎを聞きつけて乱入し、「よくやった! 流石俺の弟だ!」とお祝いの蹴りを俺に食らわせるまで続いた。何かと言えば暴力に走るのは何なんだよ、父さんと言い、兄貴と言い。血筋か。

 だが、もう戻れないのなら、進むまでだ。

 俺はこうして、庶民でありながら異例の騎士学院生となったのだった。


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