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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この恋が実らなくても、君に幸せになってほしかった

作者: 猫屋ちゃき

 五月の爽やかな風が、湊斗の頬を撫でていった。

 だが、今朝はワックスを少し多くつけすぎてしまっていたため、髪が風に揺らされることはない。今くらいの風が吹いたとき、少し髪が揺れたほうがいい感じだったんじゃないかと、少しそれが気になってしまう。

 だが、そんなことはすぐにどうでもよくなる。

 河川敷で手頃な石を一生懸命選別している奈々美の形のいい頭を見ていると、湊斗の気分はすぐに上向きになっていった。

 動くたびに、肩口で切り揃えられた黒髪が揺れる。その艶やかな癖のない髪を見ていると、まるで小さな子供みたいだなと思う。少し寝癖がついたままなのも、彼女を一層子供じみて見せている。

 そういうところが、湊斗の心をくすぐるのだ。

 どうやら彼女はちょうどいい石を見つけたらしく、それを水面に向かって投げた。

 一、ニ、三、四、五……

 回転のかかった石は水面で跳ね上がり、五回跳ねてちゃぽんと沈んでいった。新記録だ。


「湊斗くんたち、見てたー?」


 得意満面で振り返った彼女は、湊斗に向かって大きく手を振った。子供みたいで可愛い。

 湊斗が手を振り返すと、彼女は「コツがわかったかも!」と言ってまた石を選び始めた。まだ飽きないらしい。


「今回はいけるんじゃない?」


 彼女を見つめていると、ふいに隣に座っていた圭輔がそんなことを言ってきた。

 水切りのことではない。

 二人にしかわからない、秘密の会話だ。

 無邪気に遊ぶ彼女を見て優しい気持ちになっていたのに水を差されたようで、湊斗は不快になった。

 そして、タイミングがいいのか悪いのか、近くを陸上部の連中が走り抜けていった。

 それを目で追う彼女を見て、舌打ちしたい気分になる。


「……無理だと思う」


 弱々しく言う湊斗を、圭輔は静かに見ていた。

 かける言葉は特にない。というより、かけても無駄なことはわかっているのだ。

 圭輔は、これまでずっと湊斗が誰かに恋をしても、それが報われないのを見てきているから。

 それこそ、繰り返される生まれ変わりの中で何度も何度も。


 加瀬湊斗は呪われている。

 前々々々々々々々々世くらいに火遊びをした相手が魔女で、その魔女に焼き殺された挙句、「何度生まれ変わっても、お前が最愛の相手に愛されることはない」という呪いをかけられたのだ。

 その言葉の通り、湊斗はこれまでの生まれ変わりの中で繰り返し、恋を実らせずに死んでいる。

 生まれ変わるたびそれなりにモテるのに、本当に好きになる相手からは決して思われることはないのである。

 そして不幸なことに、恋をしない人生もなかった。

 呪いを受けて死んだときのことも、これまで繰り返してきた人生のこともすべて記憶しているのに、誰かを好きになるのは止めようがないのだ。

 愚かしいとわかっているはずなのに、叶わない恋の苦しみを避けたいと思うのに、いつだって運命の出会いは容赦なく訪れる。

 今回こそはと思っていたが、奈々美と出会ってしまった。

 それは、まだ寒さの残る入試の前期日程の日。

 不慣れな地で慌てていた上に受験票をホテルに忘れてきて絶望していたとき、彼女が声をかけてくれたのだ。


「もしかして、忘れ物したん?」


 そう尋ねた奈々美は、湊斗が頷くや否や、ガシッと腕を掴んで走り出した。


「まだ諦めたらいけんよ! 係の人に言ったらどうにかできるかもしれん」


 力強く言った彼女の言葉通り、入試に関わっていると思しき大学職員に声をかけたところ無事に仮の受験票が発行され、問題なく試験を受けられることになった。

 その時間は、わずか十分ほど。

 

「じゃあお互い、頑張ろうね! 春にまた会えたらいいね!」


 そう手を振って会場に入っていったセーラー服姿を見て、湊斗は自分が恋に落ちてしまったことに気がついた。

 なぜなら、彼女の姿がまるで光っているように見えたのだ。

 そしてその数ヶ月後の春に無事に再会して、絶望した。

 いっそのことどちらかが不合格ならよかったのに、二人とも無事に合格してしまうなんて、あまりにもできすぎている。

 それこそ、誰かや何かのはかりごとみたいだと感じるほどに。

 またか……と思うのに、湊斗はまんまと恋に落ちてしまった。

 そして今回も例に漏れず、片想いだ。

 再会とお互いの合格を喜び合い、その勢いのまま友達になることができたものの、仲のいい友達のまま二回生になった。

 仲がよすぎて〝河原を愛好する会〟などというものを結成して活動するほどに。

 だが、主要メンバーである奈々美も湊斗も、ついでに圭輔も、誰もそこまで河原なんて好きではない。

 

「さっきさ、陸上部のやつがこっち見てなった? なんだっけ……有野貴史だっけ?」

「へっ?」


 陸上部が走り去っていったあともなおぼーっとしていた奈々美に、圭輔がそんなことを言った。

 その瞬間、わかりやすく表情を変える彼女を見て、湊斗の胸は痛む。それに、何を考えているのかわからない圭輔にも苛立つ。

 圭輔は、湊斗が奈々美を好きだとわかっているのにこんなことを言うし、さっきみたいに「今回はいけるんじゃない?」なんてことを言うのだ。

 味方ではないから、仕方ないのかもしれないが。

 なぜなら圭輔は、湊斗を呪った魔女の使い魔だったカラスだからだ。不幸なことに湊斗が焼き殺されるとき、一緒に命を落としてしまったらしい。

 それ以来、輪廻転生を湊斗と一緒に繰り返している。その繰り返しの中で恋が実らないことを、もうずっと見ている。


「腹減ったな。何か食べて帰る?」


 変な空気になってしまったのを感じて、湊斗はごくさりげなく言った。あわよくば、奈々美と食事に行きたいと思ったのだ。

 だが、なかなかうまくはいかないものだ。


「ごめん! 今日バイト入ってるんだ! またね! てか、明日お昼は一緒に食べよ」

「そっかそっか。バイト頑張れー」


 湊斗の気持ちなど知らず、奈々美は嬉しそうに言う。それから元気に手を振って、河川敷を去っていった。

 居酒屋のバイトを特に気に入っているわけではないことを知っているだけに、弾むような彼女の足取りにまた胸が軋む。


「残念だったね、湊斗」

「バイトなら仕方ない」

「奈々美ちゃんさ、絶対に有野貴史が来るの期待してるよね」

「……うっせ」


 奈々美が有野貴史を好きになってしまった経緯までバッチリ知っている圭輔は、わざわざ湊斗の傷口に塩を塗りこむようなことをする。本人にその意図があるのかはわからないが。


「酔客に絡まれたところを助けられたのをきっかけに好きになっちゃうなんて、ベタだよね……」


 言ってから、湊斗はさらに憂鬱になった。

 自分だって受験のときに助けられて好きになってしまったくせに。

 奈々美の気持ちがわかるぶん、助けたのが自分ではなかったのが悔やまれる。

 だが、そのとき助けたのが自分であっても、彼女は恋に落ちたのだろうかと考えると、そういう単純な話ではないこともわかるのだ。

 それだけに、気が滅入る。

 どうせ今世のこの恋も、実ることはないのだろう。


 ***


 翌日。

 約束通り湊斗は、奈々美と学食にいた。もちろん圭輔もいる。

 お邪魔虫めと思うものの、何だかんだこの三人でいることが多いから仕方がない。

 何より今は、いてくれてよかったと思う。

 少し離れたところのテーブルを先ほどからチラチラ見ている奈々美のことを、ひとりで見つめる気力はない。

 彼女の視線の先には、貴史がいる。

 貴史は、男女のグループで食事を摂っていた。その中のひとりの女子が、やたらと彼と距離が近いのが気になる。

 湊斗がこうして気になるのだから、奈々美はきっと心中穏やかではないだろう。


「有野くんいるじゃん。声、かければ?」


 見ているだけの彼女がいじましくて、ついそんなお節介を言ってしまう。だが、すぐに彼女はブンブンと首を振った。


「いいよ。友達もいるみたいだし」

「でも、だからって声かけちゃだめな理由にならないでしょ」

「うーん……」

 

 自分でも何をやっているんだろうと思いつつも、湊斗は奈々美の背中を押したくなっていた。

 小さな子をなだめるみたいに優しい笑顔で、「ほら、声かけておいで」と言ってみたら、彼女が席を立とうかどうか悩み始めるのがわかった。

 あと一押し⸺そう思った矢先、すぐ近くでズゾゾゾーというとんでもない音がした。

 見ると、圭輔がものすごい勢いでコロッケそばをすすっていた。湊斗がツッコミを入れる暇もなく、彼は汁を飲み干すと席を立ち、なぜか貴史たちがいるテーブルに向かっていった。

 それだけでも信じられないのに、圭輔は何事かを言ってその場をワッと沸かせ、盛り上げ、最終的に「んじゃ今夜メシ行こうぜー」と約束を取りつけていた。

 湊斗も奈々美も、それをただ呆然と見ているしかなかった。


「というわけで、今夜メシ行くことになったから。当然、湊斗も奈々美ちゃんも行くよな?」


 戻ってきた圭輔は、ドヤ顔でそんなことを言う。彼はおそらく、今日の湊斗と奈々美のバイトのスケジュールも把握しているのだろう。もしかすると、貴史のものも。

 彼はそういう人間なのだ。これまでの生まれ変わりの繰り返しの中で、こいつの有能さは思い知ってきた。有能でなければきっと、魔女の使い魔なぞやっていられなかったのだろう。

 何度生まれ変わっても湊斗の近くにいるあたり、有能としか言いようがない。

 そんな〝できる元カラス〟はこっそりと、「飲み会でうまいことボロが出たら、奈々美ちゃんの目が覚めるかもだろ。絶対、有野貴史に醜態晒させるぞー」と耳打ちしてくる。

 奈々美のために貴史に声をかけたのかと思いきや、ろくでもないことを考えていた。

 湊斗は一瞬、うまくいけば奈々美は自分を見てくれるだろうかと考えた。だが、すぐにそれを打ち消す。

 うまくいきっこないのだ。呪われているのだから。

 それなら、少しでも奈々美のためになることをしてやりたい。


 ***


 食事会といったって、大学生の男女が集まれば合コンとそう変わらない。合コンなら、湊斗の得意分野だ。

 火遊びが原因で魔女に殺され呪われただけのことはある。今世でも異性を引っかけるのなんてお手のもので、あっという間に女子たちの注目は湊斗に集中した。

 手強いだろうと踏んでいた貴史狙いの女子も、すっかり今では湊斗とのおしゃべりを楽しんでいる。

 援護射撃のつもりなのか何なのか、圭輔は男子たちと盛り上がり、それにつられた何人かの女子も引き連れてカラオケに行く相談を始めている。

 そして奈々美と貴史はと言えば、何だかいい雰囲気だ。双方顔がほんのりと赤いのは、酒のせいなのか何なのか。


「ねえ、湊斗くんもカラオケ行くの?」


 圭輔がカラオケへ繰り出そうと席を立つと、隣に座る貴史狙いの女子⸺莉乃が、そっと尋ねてきた。

 彼女の視線はチラリと貴史へ向けられる。

 湊斗の返答次第では、彼女はきっと貴史に声をかけにいってしまう。貴史と二人きりになれなくても、彼を別の子と二人きりにするのを阻止できるほうを選ぶに違いない。

 だから、湊斗は絶対に莉乃を足止めしなくてはいけないのだ。


「二人で抜けない? 実はさ、行ってみたいめっちゃ可愛いカフェがあって。莉乃ちゃんに似合う感じの」

「えー……じゃあ、行こっかな」


 湊斗がそっと顔を寄せて甘えたように言えば、莉乃はまんざらでもなさそうな感じになった。今のところあまり脈がなさそうな相手より、目の前の〝映える男〟を選ぶセンスは、なかなか見どころがある。

 女の子が連れ歩きたくなる容姿をしていてよかったと、湊斗は今世の容姿の良さを誇りに思った。といっても、本当に好きになる相手は湊斗の容姿など関係なく、好きになってくれることはないのだが。


「貴史くん、奈々美ちょっと酔ってるっぽいから、家まで送ってくれる?」


 店を出る間際、こっそりそうアシストしておくのも忘れない。一瞬面食らった顔をしてから真剣な表情で「わかった」と頷くあたり、こいつは本気でいい奴なのかもしれないと気づいてしまった。

 圭輔率いるその他の連中は、楽しそうに繁華街のほうへ消えていった。

 湊斗と莉乃も、お互いを探る様子はあるが、カフェがあるほうへと歩き出す。

 うまくいってくれよと、湊斗は貴史たちのほうへ念を送った。

 はにかみながら並んで歩く二人を見ると、胸がきゅうっと苦しくなった。何よりつらいのが、こんなときでも奈々美の姿が、特別なもののように光って見えることだ。

 それはまるで、水底で陽の光を浴びて光っている小石のようだ。欲しくてたまらなくて手を伸ばしても、掴むことはできない。それなのに、変わらずずっとそこにあるのを、焦がれるように見ているしかない。

 湊斗にとって奈々美とは、恋とは、そんなものだ。

 小一時間後、圭輔から『貴史のやつ、奈々美ちゃんをアパートまで送り届けたらそのまま帰ったぜ! いくじなし!』というメッセージが届いたのを見て、二人はうまくいくのだろうなと予感した。

 その後、大学構内でいい雰囲気で談笑する二人を目撃して、その予感をさらに強めたのだった。


 それなのに、それから少しして、貴史が莉乃と一緒にいるのを見てしまった。 

 カフェに行ったときの話で、莉乃が陸上部のマネージャーであることがわかった。だが、ベンチに腰かけてシナを作っている彼女の姿を見ると、マネージャーと部員の距離ではないなと思う。きっと、このところの貴史と奈々美の雰囲気の良さに、なりふり構ってはいられなくなったのだろう。

 湊斗がムカついたのは、莉乃に対してではない。困った顔をしているくせに、貴史が莉乃を強く拒絶しないことに対してだ。こういう男は、うっかりワンナイトして既成事実を作られてしまうのだ。

 そういう手口で莉乃が貴史の彼女ポジに収まるのを想像して、反吐が出そうになった。これを見たら奈々美がこんな男はやめておこうと考えるかもしれないと、思わずスマホのカメラを起動してしまったほどだ。

 だが、やめた。

 奈々美の笑顔と泣き顔、どっちが見たいかと聞かれたら、圧倒的前者だ。それなら、彼女が悲しむかもしれないことはしない。

 それよりも、もっとすべきことがある。


「おー、貴史くんじゃん」


 莉乃に適当なメッセージを送ってその場から引き離してから、湊斗はベンチに取り残された貴史に声をかけた。

 彼の中で湊斗は気になる女の子の男友達だ。どんな顔をするのが適切なのか一瞬迷った様子を見せてから、結局彼は人の良さそうな笑みを浮かべた。

 そういう顔をされると、わかりやすく揺さぶりをかけておくべきかなと感じた。

 このままではきっと、貴史は誰に対しても煮え切らない態度を取り続けるだろうから。


「つかぬこと聞くんだけどさ、貴史くんが好きなのって奈々美じゃないの?」


 何の前置きもなく尋ねると、貴史は驚いたように目を見開いた。だが、湊斗が真面目な顔をしているのがわかると、視線を泳がせながらも頷く。


「や、うん……そうだけど」

「じゃあ、さっきのは?」


 〝さっきの〟と言われてビクッとするあたり、自覚はあったのだろう。自分が莉乃からアプローチを受けているという自覚が。

 それがわかると、ますます見過ごせないなと思ってしまう。


「あの子がお前のこと好きなのに気づいてないとか言う?」

「それは……うん。ちゃんとする。まだはっきり言われたわけじゃないからって濁すようなことしてたけど、よくないよな」


 はっきりとは言わなかったが、何を言いたいかは伝わったらしい。

 湊斗が使った〝あの子〟という言葉は、いろいろと受け取りようがあったはずだ。

 しかし、貴史の態度を見れば、彼にちゃんと湊斗の言いたいことが伝わっているのがわかる。

「俺はさ、奈々美の友達としてあの子の恋を応援したいわけ。だから、友達の彼氏になる男のそばを、モーションかけまくってる女の子がいるとか嫌なんだよ。ノイズなく恋愛を楽しんでほしいし、そうあるべきだろ?」


 今のまま貴史と奈々美が付き合い始めても、莉乃はきっとあきらめないに違いない。むしろ、寝取りのチャンスをうかがうはずだ。そして貴史は、まんまと寝取られる迂闊なタイプの男だろう。

 ここで腹を括れるか、否か。

 試すために言ってみたが、自分も大概〝ノイズ〟だなと嫌になってくる。

 だが、貴史はそうは思わなかったらしい。


「……お前、いいやつだな。チャラけた見た目なのに」


 貴史の顔を見れば、本気でそう思っているようだった。

 感銘を受けたというか何というか、目が覚めたような顔をしている。

 迂闊そうだが、いい奴なのだろう。だからきっと、奈々美はこいつが好きなのだ。

「チャラけてるじゃなくて、おしゃれで洗練されてるって言ってくれ。あと俺は、好きになったら一途ですー」

「そっか、悪い悪い」


 湊斗が笑って許せば、一気に打ち解けた雰囲気になる。

 そして、貴史は表情を引き締めた。


「俺、由比川さんに……奈々美さんに告白する。それで、彼氏になれたらちゃんとそれを周りにも伝えて、奈々美さん以外は好きになれないってアピールする」

「おう。その意気だ」


 湊斗がポンと背中を叩けば、善は急げとばかりに貴史は走っていった。

 その後ろ姿を見て、「かなわねぇな」と湊斗は呟く。湊斗の恋は今世でもやはり叶わないし、彼女が好きになった男のまっすぐさには敵いそうもない。

 だが、それでもいいのだ。


 ***


「今回もだめだったか。でも、来世があるじゃん」


 河川敷で小石を投げながら、圭輔がニヤニヤして言った。

 先ほどまで奈々美と貴史もいて、一緒に水切りをしていたのだ。

 奈々美と付き合うことになった貴史は、〝河原を愛でる会〟に入会した。そして、今度バーベキューをすることになった。

 何でだよと思いはしたが、奈々美が嬉しそうだから仕方がない。

 それよりも、圭輔が楽しそうにしているのがムカつく。


「なんだよ、知ったような口聞いてくれてんじゃん」

「まあ、全部見てきたしな」


 彼の言う〝全部〟とは、全部だ。こいつが言うと重みが違うなと思うと、さらに嫌な気分になる。

 だが、このどうしようもない輪廻転生に付き合わされている圭輔も可哀想かもしれないし、何よりいてくれるだけよかったという気もしてきた。


「あー……そうだよなあ。恋が実んなくてもずっとお前がいてくれるから寂しくないよ。あれ? 罰になってねぇな。このせいで、ずっと呪われてんのか?」


 湊斗を呪った魔女の使い魔だったカラスの生まれ変わり⸺ポジション的には味方ではないが、圭輔がいてくれたおかげで少なくとも孤独ではなかった。

 それを伝えたかっただけなのだが、なぜだか圭輔はものすごく驚いた顔をして、それからくしゃみをこらえるみたいなくしゃくしゃな顔をした。


「……そう言ってもらえると、ちょっとは報われた気分だよ」

「なんだよそれー」


 こっちは今世も恋が実らなかったのに何を報われた気分になってんだよと、八つ当たり気味に思う。

 だが、河原に今ひとりでいなくていいのも、恋の終わりをひとりで噛み締めなくていいのも、圭輔がいてくれるからだというのもわかっている。


「それにしてもさ、俺のこれまでの生まれ変わり、映画にできるよなぁ」


 いつの間にか夕暮れが迫ってきていて、その絶妙に美しい景色を前にしたら、そんな自惚れじみたことを言いたくなってしまったのだ。

 生まれ変わるたび叶わない恋を何度も繰り返す美貌の男の数奇な運命なんて、若い女子にウケそうじゃないかと想像して勝手にご機嫌になっていると、圭輔も上機嫌な様子で肩を組んでくる。


「じゃあ、主役は俺かな。タイトルは『たとえこの恋が実らなくても、君に幸せになってほしかった』で決まり!」

「なんでお前が主役なんだよ」

「そういうのがウケるんだってー」


 何でそんなに楽しそうなんだよと思いつつも、浮かれた様子の圭輔に肩を組まれて歩いているうちに、湊斗も何だか楽しくなってきた。

 恋の終わりがこんな馬鹿騒ぎなのも、なかなかに悪くない。



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