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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さいごのドライブ

作者: 松林可純

 親切で善良な友達がカッコイイ車を売ってくれた。

 友達の本名も住所も顔も声も知らないけど、口座番号と暗証番号と性癖は良く知っている半年に一度会う家族よりも親しいSNS上の親友。


 身内が医療関係者らしく、健康診断や献血の検査結果全てを友達に教えると、適切な健康アドバイスをしてくれるとっても頼りになる優しい人。


 その友達は金持ちだから、憧れの国産スポーツカーの前半部分となんか妙に好きな国産セダンの後ろ半分をくっ付けたミックスな車で、スピードも時速三百キロメートル以上出せる特別仕様車。


 ナンバープレートはどう考えても両方の車種的に3ナンバーなのに、なぜか税金が安い5ナンバーという特別仕様。さすが権力ある金持ち。


 そんな夢のような自動車がお値段たったの五十万円。


 値段が安い理由は、後部座席に染みと鉄錆びの匂いがついてしまったからだそうだ。


 ポストに入っていた車のキーを手に取り、自宅前にポツンと置いていたその車に乗り込む。初乗りしてみたら、車体が揺れるのが気になるけど、安全とドライブの楽しさを追及するために、尻が振るように細工したとメッセージが来た。さすが金持ちは違うね。


 スピードがすごく出るスポーツカーだか運転手付き社長様仕様車だか悩む車の初ドライブをするなら何処がいいかというと、高速道路しかないでしょ!


 お気に入りのポッケファントムの大きなぬいぐるみを後部座席に座らせて、シートベルトを装着させる。こうすると、バックミラー越しにぬいぐるみが見れて、安全運転に気合いが入るというものだ。


 SNSにこれから高速道路へドライブに行く旨を入力すると、内臓は所持者の記憶を持っているという怪文書的な迷惑メールを読み終わる前に〈いいね〉が付いたとのポップアップ通知が来た。ありがたい。


 ギシギシなる車体と後部の揺れにたまにハンドルをもって行かれそうになるが、楽しいドライブが始まった。


 スイッチを入れたハイウェイラジオの女性アナウンサーの声も聞き取りやすくて美しい。


『ネクスト大日本。山崎(やまざき)東南道(とうなんどう)ハイウェイの交通情報…』


 鼻歌を歌いながら高速道路を一人占めして加速する。法定速度以内で。


接頭(せっとう)インターチェンジから辺鄙冨下(へんぴんふか)ジャンクション間、逆走のため通行止め』


 あれ?

 今そこ走ってるな。


 接頭(せっとう)インターチェンジの次の三津肩(みつかった)インターチェンジから高速に入って、次が背江布(せえふ)パーキングエリアだし。


 まあいいかと、人気のない高速道路を孤独に走る。


 緑の端から黄色く染まったり茶色く色づいた葉を揺らすイタドリが生えた土手の上のブナ並木には、カラスが集団でとまっていた。


 一瞬、ガーとカーラジオにノイズが入った。


「うんこしたい」


 気のせいだろうか、後ろから泣きそうな子供の声がした。


「うんこ漏れる」


 ポッケファントムぬいぐるみの隣には、見知らぬ子供が泣きながら乗っていた。


「降ろして、降ろして、うんこもれる」


 俺はアクセルベタ踏みで加速するしかなかった。


 安いとはいえ、五十万円は大金だ。それが見知らぬ子供のうんこで汚されるのは嫌すぎるので、全力でサービスエリアのトイレ目指して灰色の世界の狭い視界を直進し、


 そして


 逆走するトレーラーがハンドルを切り、アナログ時計の針で例えると6時0分型だったナイフの刃を折り曲げるように半回転させて6時30分型となる柄の中に収納するかのように、後部だったトレーラーの荷台部分が牽引車前方へと回転しながら近づく間に俺が運転する車と衝突した。

 やりきったに違いない爽やかな笑顔の半透明な血まみれの子供と、その隣に座っているポッケファントムのぬいぐるみが、後ろ半分の車体と共に回転しつつ離れていくのをハンドルを握りしめながら見たのが今生最後の視界だった。


 強い匂いと固く糊付けされたシーツの肌触りで病院にいるのがわかった。


 隣国語でなにか話しかけられたが、何を言っているのかわからない。


「日本語しか話せないんだけど」


 そう呟いたら日本語で話しかけてきた。


 しかし、医療関連の他は不可解な話しであった。俺は隣国からの密入国者で、最近テレビを賑わしている横領事件の有力な容疑者だと警察官は言う。

 否定しても、違法薬物と共に車内にあった証拠の身分証明書や運転免許証は俺ではなく、隣国からの留学生のモノであった。

 その上俺が告げた自宅は既に引っ越した後であり、勤め先は急な廃業をしていた。ついでに自宅と親戚宅は集団食中毒で入院中なため、顔がズタズタになり、歯も全て砕けている俺が俺であることを証明できる人が居なかった。


 なぜか両手の指紋部分の皮が全て剥けており、二度と光を見る事ができなくなってしまった俺は、疲れきっていて言葉を発するのも嫌になり、数ヵ月に渡って刑事が訪れる度に身に覚えのない罪を含めて、全て生返事と頷きで肯定する事にした。


『…さんを5キロメートルひきづり逃走。警察は余罪があると追求しています』


「もし貴方が言うことが本当なら、このひき逃げ事件の犯人は誰なのでしょう?」


 ラジオから聞こえる、俺と同姓同名同い歳の男がおこした交通死亡事故のニュースについて、こぼれた刑事の言葉はどうでもよかった。


「そして、貴方の両目と内臓は何処にあるのでしょうね」

「もう終わった事です」

「あと誰が逆走する盗難トレーラーを運転して折りたたみ式ナイフ(ジャックナイフ)現象を起こしたのか!

 運転手は居なかったのですよ!

 貴方が冤罪のまま死刑になったら、貴方が生返事で認めた未解決事件の全てが解決した事になってしまうのがわかっているのですか!?」




 ラジオ番組で昨夜語られた角膜手術をした目を閉じると、ポッケファントムのぬいぐるみと血まみれの子供が見えるという恐怖体験。


 それは確かに不可解であるものの、交通事故から目覚めてみると二つある臓器の片側全てと肝臓の1/3が無くなっており、眼球も両方無くなっていた死刑囚の俺のこれからを考えると、どうでもよかった。


 権威ある若い外科医が有名人の内臓移植手術に成功したので、その後のラジオ番組で招かれた若い外科医は色々話していたが、頭に残らなかった。


 その若い外科医がトレーラーを逆走させ、救急搬送された病院の手術室で俺の内臓を盗んで完璧に俺を判別不能にした俺の見知らぬ友達だと気づかぬまま、戸籍と家族や親戚の命をも失っていた俺は、明日死刑室への廊下を進む。


 俺の家族や親戚や元仕事仲間達に成り済ましている密入国した外国人達が、数年前友達がひき殺した子供の遺体を川原に埋めたことも、増水した川に流され来月その白骨遺体が発見される事も、それがきっかけで友達が密入国者達に脅迫されていた事が明らかになるこのも知らぬまま俺は死刑になる。


 俺は犯罪を犯したことはないのにだ。


【おわり】

※多分、かなりスピード違反してるし、整備不良車に盗難もののナンバープレートつけてるの丸め込まれてるけど知っててるから、俺さんは交通刑務所行き確定な犯罪者だと思われる。多分。

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