第一話
腹痛により床に嘔吐する話(腹痛のこそあど)
腹痛で目が覚めた。
「……くぅ、う゛ぅぅ゛」
下腹部をナイフで刺されているかのような痛みに、思わずベッドの中で丸くなる。
お腹が痛い。
(くそ、原因はなんだ?)
自らの不幸を嘆きながらも、何か当たったのだろうかと心当たりを探す。
それはすぐに思いついた。
それは数時間前のことだ。
俺は夜食を食べた。
それは、仕事帰りにスーパーで買った20%引きのカツサンドだった。
消費期限はAM0時だった、食べたのはAM3時頃だったか、たかが3時間くらいの誤差なら大丈夫だろうと、一ミリも疑わなかった。
それ以前では、ほぼ何も口にしていない。
他に思い当たることもない。
まぁ、十中八九それだろう。
安くて美味しい、コスパの良いカツサンドだったが仕方ない、次から購入の選択肢から外ずそう。
前日までが消費期限の食べ物を翌朝に食べることは、幼いころからよくあった。
気づいたら消費期限が切れていることはザラでそれが当たり前だった。
たまたま運が悪かっただけだろうか?
それともこれは誰かの陰謀なのか。
今まで食あたりをしたことが無いわけではないが腹は決して弱くないハズ。
こんなことになるなら一生に消費期限切れの食べ物は口にしないと約束しよう。
「……ぐ、……ふ、ぅ……」
これはダメだ。じっとしていられない。
少しでも楽になりたいと思い、痛みに耐えつつ自分の腹をすりすりと擦る。
色々な態勢を変えてみているのだが、チクチクズキズキと全く腹痛が収まらない。
痛みからか、全身からじっとりと服が濡れるほどの汗が出る。
(これは困った)
こんな時、一人暮らしが無性にひと肌寂しいと感じる。
特に、最近までは同室で人と寝ていたからなおさらかもしれない。
イビキがうるさかったが。
「……、ぁ、んんん……あぁ゛」
しばらくベッドで悶ていたのだが、良くなるばかりかじわじわと痛みが増し、まさかの悪化でついには吐き気も襲ってきた。
(この状況……これはあれだ、ヤバい)
「……ぐ、は、はっ……オェエエエェ」
腹痛に加えて吐き気もひどくなりえずく。
(まずい、ベットを汚してしまうと後片付けが面倒だ)
とりあえずベッドから降りようとした。
しかし立ち上がることもできず、ベットから転げ落ちる。
軽く体を床に打ち付けたが、転倒による痛みよりもお腹が痛い。
(トイレに付くまでは、何としてでも吐くわけにはかない)
今日は数日ぶりにやっと家に帰って来れたのに、早々シーツどころかマットレスを汚したら収拾がつかない。
この家は無駄に広い。ゆえにトイレが遠い。
壁にもたれかかれば進めるかと思ったが、歩けそうもないので、匍匐前進をしてトイレへと向かおうとした。
しかし、うぇっ、と胃からせり上がり口の中に胃の内容物が戻ってきた。
「……うぅ……」
左手でシャツの胸もとを鷲掴みながら右手で口を塞ぎ、ぎゅっと目を瞑る。
吐き出さず飲みこもうと奮闘したが、さらにせり上がり口の中がパンクして口の封を開いてしまった。
「うええ゛え゛ええ……ぇぇ」
哀しいことに袋の中でもトイレでもなく、床へ無残にぶちまける。
吐いてしまった悲壮感と脱力感がすさまじく、身体はうずくまったまま動けない。
「……はぁ、はぁ……ぐッ」
嘔吐物特有の匂いにさらに吐き気が追撃してくる。
気持ち悪さも止まらず、腹痛は収まらず冷や汗は止まらない。
気を失えたら痛みから開放され、どんなに楽だろうと思った。
(いや、ダメだ、後で自分が大変になるだけだ)
ウイルスの危険性から吐瀉物から離れたくとも、痛みと気持ち悪さではやり、立ち上がることは不可能だ。
何とかもがき、両手両足で移動しようと思った矢先、また吐き気を催し今度はせき止めることは一瞬たりともできずダムのようにそのまま吐いた。
「げええ゛え……ええ゛ぇぇ……ぇ……ェ」
吐いた反動で体が動き、服や体に吐しゃ物が付着する。
力んだことで、下半身に気持ち悪く生暖かい感触が伝う。
(参ったな。テロレベルにひどい)
ここまで来ると、アレかもしれない。
ノロウイルスの可能性もある。
(あれ、身体がおかしい)
横になったままで諦めているのに、立ち上がろうと勝手に身体が動く。
頭だけが、まるで首が座らない赤ちゃんのように床に引っ張られてバタンと床に倒れる。
(あれ……身体が動かない)
まるで幽霊に取りつかれたかのように体の不自由が効かなくなった。
不可思議な動作を繰り返すうちに意識が遠のいていった。
(……あれ、今、意識がトんでた?)
あれはどこあったっけ。
まずは鎮痛剤を投与すべきだと頭では理解している。
俺は市販の薬を投与出来ない。
なので専属医が特注で処方してくれた薬が唯一の頼りだった。
市販の鎮痛剤と似たような効果のある薬を持っている。
どうする。どうしたらいい。
救急車は特殊な俺の身体的にナンセンスなのでもともと視野には入っていない。
大事になる前に専属医に連絡するか?
現在最善なのはどれか。
もちろん決まっている、だが連絡を一本入れる余裕がすでにない。
どこかで腹痛ごときで救助要請をするのはばかばかしいとあざ笑う自分がいる。
「……はぁ、かはっ、!、ぁっ!……ハハ……」
なんか、もうどうでもよくなった。
トイレにいくことも、薬を飲むことも、助けを呼ぶことも諦めよう。
動くことも考えることも放棄し、ただ波のようにやってくる気持ち悪さと腹痛とただただ戦い続けた。
少しでも楽になりたい。
人間は丸まると楽になるので赤ん坊のように身を縮めて痛みに耐えた。
お腹を擦る体力はない。
(死ぬかも)
もう数時間後から仕事なのだ。
後、どれだけ耐えられるだろう。痛みには強いはずなのに。
お時間ございましたら感想(誤字報告)と評価をいただきたいです。
[求めるコメント]
・作品への感想
・理解できたか(分かりにくい部分など)
・良かった・悪かった部分は引用など具体的に聞けると嬉しい。
・構成、誤字脱字、文法上の指摘
・こう直すといいなどのアドバイス
・辛口なご指摘も真摯に受け止めていく所存です。
よろしくお願いいたします。