0-5 第一の封印
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ヤマトが準備をしていると、ミレイユがヤマトの部屋へと顔を出した。
表情はいつもどおりだが、少し心配しているように見えた。
「もう行くのか?」
「はい、御師様。いってきます。」
「うむ、決して無理はするな。」
「はい、何かあればすぐに戻ります。」
ヤマトはそっとミレイユに抱き着いて、別れの挨拶をした。
そして庭にある両親の墓に祈りをささげてから、家を離れた。
ダンジョンに入ると、早速スケルトンの群れを発見した。
アンデッドたちは感覚が鈍いため、かなり近寄らないと反応しない。
長年の経験からそれがわかっているヤマトは、弓を使って遠くから倒すようにしていた。
矢をつがえて構える。
アラニスとすごした時間を思い出す。
(相手の呼吸を読んで・・・いまだ!)
息を吐くと同時に矢が放たれていく。
スケルトンは全身が骨だが、骨自体は劣化してもろくなっている。
ヤマトが放った矢はつぎつぎとスケルトンの頭部を砕いていった。
スケルトンが全滅したことを確認したヤマトは、再利用できそうな矢と魔石を回収していく。
ヤマトは地図をこまめに更新しながら、慎重に探索を進めていった。
気が付くと、夕日が沈み始めていた。
目の前には見たことのない石造りの建物が見えてきた。
「今日はここらあたりで野営しておきたいところだな・・・聖火草は・・・お、あったあった。」
ヤマトがその建物の周りを調べると、聖火草とよばれる希少な植物をいくつか見つけることができた。
聖火草は瘴気を吸収して浄化するという性質を持っている。
そのため、アンデッドはこの植物が自生している場所には近づいてこないので、死人の都では安全に休める場所の目印になるとヤマトは認識していた。
しかし、その反面、環境の変化には弱く摘んでしまうと、次の日には枯れてしまう不思議な植物だった。
「よかった。今日はここでここで休めそうだ。」
まだ辺りは暗くなっていないが、ヤマトは手早く野営の準備をする。
道中に拾った木の実や干し肉をかじったあと装備のチェックを行う。
「矢は・・・まだ使えそうだな。弓の弦も大丈夫。」
初日ということもあり装備自体はあまり傷んでいなかった。
簡単な手入れをした後で地図を開く。
今日探索した内容を細かく書き足していく。
「できれば明日は水場を見つけておきたいところだな・・・しばらくはここを中心にして未開拓地域を探索するか」
次の目標を決めたヤマトは木をくべた後、外套にくるまって眠りについた。
そして探索を初めて1週間がたった。
ヤマトが拠点にしている野営地の周りはだいぶ解明されていた。
そろそろ次の野営地を探そうとしたところでヤマトは石造りの塔を発見した。
塔の中は木を貫通しているためか全ての窓からは木の枝が生い茂っていた。
「ここの上からなら周りの様子がわかりそうだな。」
そう考えたヤマトは塔を登る決心をした。
塔の内部はひんやりとした空気が漂っていた。
目に映るほどの濃い瘴気が充満していることから、なにか強力なアンデッドがいることは明白だった。
しばらく進むと人間の生首が宙に浮いていた。
髪が長く表情を窺うことができない。
「ゴーストか・・・」
ヤマトがそうつぶやいたとき、生首の瞳がカッと開いた。
そして奇声をあげながらヤマトへと飛びかかってきた。
「ヒィヤァェェェェ!!!」
ヤマトは飛んできた首に対して冷静に拳を叩きつけた。
ゴーストの頭部はメコッと陥没した後、吹き飛んだ。
ヤマトは油断なくあたりを警戒する。
「フフフフフフ・・・・」
「キャハハハハ・・・・」
「アハハハハハ・・・・」
「ヒヒヒヒヒヒ・・・・」
するとどこからともなく複数の笑い声が聞こえてきた。
塔の中には大量のゴーストが巣食っているようだ。
しかし、様子を窺っているのか襲ってこなかった。
塔の内部はところどころから木の根が伸びており、足場が悪かった。
ヤマトは慎重に塔を登っていく。
途中にあった部屋には風化した家具や食器が置いてあった。
もしかしたら以前は流れ人がここに住んでいたのかもしれない。
ヤマトが階段や木の枝を駆使して上へ上へと登っていくと、屋上に続くとみられる扉が見えてきた。
ゴーストたちはいまだ襲ってこなかった。
(このまま襲ってこなければいいけど・・・)
そんなことを考えながらその扉を開けると、そこは寝室だったのか朽ちたベッドや家具が散乱していた。
風化の具合から長い間使われていなかったのがよく分かった。
奥には屋上に続くとみられる階段が見える。
ヤマトが部屋に踏み入ると、バンッと後ろのドアが強制的に閉まった。
「くっ!罠か。」
ヤマトは反射的に後ろのドアを開けようとしたが、扉は万力で固定されているかのようにあけることはできなかった。
部屋の中央では一体の黒いローブを着たスケルトンが立っていた。
通常のスケルトンとは桁違いの存在感を放っていた。
「オォォォアァァァァァァ!!!」
大量のゴーストたちがスケルトンに吸収されていく。
スケルトンから濃密な瘴気があふれ出す。
ヤマトは知らないことだったが、そのモンスターはダンジョンの奥に生息するリッチと呼ばれるモンスターだった。
リッチは一般の冒険者の間では上級のアンデッドモンスターとして認知されていた。
様々な古代の魔法を操り、熟練のパーティでは太刀打ちできないほどだった。
神聖魔法でダメージを与えることはできるものの、容易に手を出してはいけないモンスターと考えられていた。
ヤマトの目の前でリッチが再び咆哮をあげる。
「キィィィァェェェェ!!!」
叫び声が強烈な衝撃波となってヤマトに襲い掛かった。
ヤマトは咄嗟に闘気をまとって防御姿勢をとったが、今まで感じたことがない暴風が正面から襲ってきた。
そのまま砲弾のように壁へと叩きつけられる。
「ガハッ・・・」
ヤマトから苦しげな呼吸が漏れた。
すると中心にいたスケルトンがヤマトに対して、大量の火球を散弾銃のように飛ばしてきた。
ズドドドドドドという轟音共に、ヤマトがいたあたりを瘴気の弾丸が襲う。
そして最後にひときわ大きな火炎弾を放ってきた。
「シネシネシネシネシネェェェェェ!!」
その威力は今までの比ではなかった。
着弾の爆発で部屋全体がビリビリと震えた。
天井の一部が崩落してヤマトがいたと思われる付近に瓦礫が降り注ぐ。
リッチは勝ち誇ったかのように高笑いをあげていた。
「フフフフフ・・・・アハハハハハ」
次の瞬間、空中に舞い散った埃の中からヤマトが強烈な浴びせ蹴りで強襲してきた。
「オゥラァ!」
しかし、リッチはガッチリと腕で防御していた。
ヤマトは追撃の手を緩めず、掌底や蹴りを次々と繰り出す。
基本的にリッチは物理攻撃に対して強い耐性を持っているが、ヤマトが繰り出すような闘気を用いた攻撃については普通に攻撃が通っていた。
分が悪いと感じたのか、リッチは一瞬の溜めのあと全方位に対して風の刃を飛ばしてきた。
「クッ、あぶない!」
ヤマトは咄嗟に離れる。
するとリッチは追撃を行わずに、空中へと浮かび上がった。
(仕留めきれなかったか・・・しかも距離を取られたな)
リッチは空中に停止したまま、指向性のある衝撃波を連続で飛ばしてきた。
ヤマトは不可視の衝撃波を変則的な動きで避けながら思考する。
(手ごたえはあった・・・直撃させればいける・・・ただ、降りてこないな。)
リッチはヤマトの攻撃が届かない空中を漂いながら、巨大な氷のつららを作り出す。
先ほどの一撃を警戒しているのだろう。
人を貫くには十分な大きさになったつららは、突然ヤマトに向かって突っ込んできた。
それをよけながらヤマトは相手の能力を推測する。
(埃の中の僕を捉えていなかったことを考えれば、人と同じように視覚を使ってそうだな。あれを使ってみよう。)
リッチの目の部分には何もはまっていなかったが、目を向けると視線のようなものを感じた。
ヤマトはリッチが放ってきた衝撃波にかぶせるように腰のポーチから取り出した何かを投げつけた。
それは衝撃波に巻き込まれると強烈な光を放った。
「!ギィィィィィィィィィィ!!!」
効果覿面だった。
リッチがヤマトが投げた閃光弾がつくりだした強烈な光で苦しみだす。
ヤマトはその隙を逃さずにワイヤーを天井に射出して一気に距離を縮めようとした。
しかし、リッチは苦しみ紛れに全方位に衝撃波を放った。
「ちっ!」
ヤマトは舌打ちをしながら咄嗟に反対のワイヤーを射出して方向転換した。
なんとか衝撃波の範囲外まで逃れる。
リッチは光で見えていないのか、でたらめに衝撃波を放ち続けていた。
(あれだと近づけないか・・・だったら!)
ヤマトはポーチから瓶を素早く取り出すと、瓶の中に入っていた液体を素早く矢じりにかけた。
その矢をつがえ狙いを定める。
狙いを定め、相手の呼吸を読む。
それはアラニスが教えてくれたことのひとつで物理攻撃が効かないモンスターにたいしても有効な技だった。
アラニスは息をするかのように瞬時にできていたが、ヤマトはしっかりと相手を見定めないとうまくできなかった。
(・・・中心より少し右下!)
ヤマトは狙いをつけると、衝撃波のタイミングを見計らって矢を放った。
放たれた矢は寸分たがわずヤマトが狙った箇所を貫いた。
ボッという音とともに矢が貫いた後は大きな穴できていた。
再生が阻害されて、融解する毒を浴びたかのように穴がどんどん広がっていった。
おそらく矢にかけた聖水の効果だろう。
リッチは空中から落ちてひたすらもがき苦しんでいた。
急所を貫かれ、聖水を浴びた効果で目に見えてダメージを負ったのがよくわかる。
しかし、まだ倒すまでには至っていなかった。
すでに衝撃波を打つ余力もないのかひたすら言葉を繰り返していた。
「イタイ・・・イタイイタイイタイイタイ!!」
好機とみたヤマトは闘気を全開にして突っ込んでいった。
狙うは先ほど開けた穴の一点のみ。
「ハァァァァアァ!」
勢いのまま、空いた穴に掌底を叩き込む。
衝撃で黒いローブと肋骨が吹きとびあらわになる。
内部には矢の突き刺さった拳ほどの大きさの核が存在していた。
ヤマトはその場で体をくるりと回転させて、勢いのまま肘打ちを放った。
「砕け散れ!」
ばきっと核があっけなく砕け散った。
その瞬間、悶えていたリッチの動きが完全にとまり、そして爆散した。
「ふう、うまくいったな」
残骸がパラパラと降り注ぐ。驚いたことに核を砕かれてなおリッチは死んでいなかった。
上半身と片腕のみしか残っていなかったがゆっくりと動いていた。
しかし、それも時間の問題だろう。
ヤマトはリッチの存在に気づいて油断なく構えた。
すると限界を迎えたのかリッチーの体から徐々に瘴気が抜けていく。
抜けた瘴気はヤマトのほうへと流れていった。
「アァァァァァァァァアァァァァァ・・・・」
ヤマトは咄嗟に防御姿勢を取ったが何も起こらなかった。
(なんだ・・・なにがおこっている?)
瘴気に触れた瞬間、ヤマトの五感が消えた。
思考する事しかできない。
次の瞬間、誰かの記憶がヤマトの脳裏に流れ込んできた。
それはあるひとりの流れ人の記憶だった。
その流れ人の名前はシド・グレイバーという学者で、国を代表する魔法士の記憶だった。
不思議なことにヤマトは今、シドという男の人生がまるで自分の体験かのように感じていた。
シドは革新的で柔軟な思考の持ち主だった。
しかし、彼は貴族ではなく庶民の生まれだったため、常にまわりとの軋轢に苦しめられていた。
ある日、シドは一人の才女と出会う。
マリア・ジルドマールという美しい女性は伯爵令嬢であり、今まで誰も理解できなかったシドの考えを理解することができた。
ふたりは協力してそれまで存在していた定説を打ちこわし、魔法の発展にその身を捧げていた。
ふたりの関係は仕事上のパートナーから最も愛しい人物に変わっていくまで、さして時間はかからなかった。
シドとマリアは様々な障害を乗り越え、ついには結婚して一人の娘を授かることができた。
しかし、その華々しい栄光の日々は突然終わりを告げることにとなる。
シド達を快く思わない派閥の人間たちによって、家族ともども暗殺されそうになってしまう。
シドは家族を守るため、その派閥と壮絶な戦いを繰り広げた。
そしてついに暗殺の首謀者を追い詰めた時、そこにいたのはシドが出世したためその地位を追われたマリアの元婚約者だった。
シドはなんとか首謀者を倒すことに成功したが、自分も無事では済まなかった。
そして彼が再び目を覚ますとそこは死人の都だった。
彼もアラニスと同じように死人の都から出ることができず、ゆっくりと絶望していった。
彼の未練は家族の元に戻りたいというものだった。
しかし、その願いは叶わず、彼はリッチになっていった。
そう、先ほどヤマトと対峙したリッチこそシド本人だった。
そこでシドの記憶は途切れヤマトは意識を取り戻す。
ハッとなってあたりを確認すると先ほどからあまり状況は変わっていないようだった。
しかし、自分の感覚ではとても長い時間の間、シドの記憶を見ていたような気がする。
ヤマトはシドに視線を戻す。
シドはかろうじて生きていた。
しかし、もうほとんど動くことはできないようだ。
「ア・・ア・・イ・・タイ・・・」
それはとても小さな音だった。
けどヤマトの耳にはっきりと聞こえてきた。
「・・・すまない。僕にはあなたの願いをかなえる力はない。
けれども、あなたの事は必ず家族に伝えるよ。
・・・あなたが安らかに逝けますように。」
ヤマトは祈りを込めて、静かに演武を舞い始めた。
青い燐光が舞い、龍脈が開く。
その光に誘われるかのようにシドの体がほどけていった。
「ア・・・アトガトウ・・・名も知れぬ戦士よ。
もし、妻に会うことができれば伝えてほしい。
あなたは私の暗い人生の中で唯一の光だった。
いつまでもあなたを愛していると。」
最後に人の意識を取り戻したかのように、はっきりとした口調でヤマトに語り掛けてシドは消えていった。
シドが消えた後には、指輪と映像を保存できる魔法石が転がっていた。
気づくとあれだけ大量にあった瘴気は消え去り、代わりに光の玉が浮いていた。
光の玉はヤマトに襲い掛かるわけでもなく、壁を吹き飛ばして、北東の空へと消えていった。
ヤマトは不思議に思いながらも、シドが落とした指輪と魔法石を大事そうに拾うと屋上へと向かった。
読んでいただいてありがとうございました。
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