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Black Hound  作者: 座布団28号
0. 序章
5/97

0-4 ダルテの街

*6/20 句点を追加

アラニスが消えて3日が経った。

ヤマトは長期間ダンジョンに潜るための準備をするために、ダルテという町に買い出しに来ていた。

死人の都は普通のダンジョンと違い、広大なフィールドを有している。

どこに奥底があるのかは長年通い続けているヤマトでも見当がつかなかった。

そのため日帰りの探索では効率が悪いと判断して、探索に必要な物資を購入するためだった。


ダルテは人口1000人ほどの静かな街だった。

死人の都が近くあるためか、街の周囲には野生のモンスターや動物があまりおらず、冒険者にとってはあまり用のないところだった。

初めてではないにしろ、ヤマトは物珍しそうに屋台を観察していた。


(・・・あれはなんだろう?おいしそうなにおいがする。あそこでは何をしているのだろう?)


そんなヤマトに嘆息しながらミレイユが口を開く。


「屋台は用件をすませてからな。

まずはブロマのところに顔を出すか。」


「わかりました。

御師様、手を。」


そう言ってヤマトは自分の興味を押し殺して、ミレイユの手を取った。

ミレイユは人の気配を読むことができるが、街中など人の気配が多いところは苦手だった。

そういう時はヤマトが手を引いて先導するのが暗黙の了解だった。

できるだけ人通りの少ない道を選びながら、しばらく進むとブロマ商会と書かれた看板が見えてきた。

中に入ると一人の割腹のいい男が出迎えてくれた。


「おお、これはこれはミレイユ様とヤマト様。ようこそ、おいでくださいました。」


「ブロマよ、邪魔するぞ。」


「お邪魔します。ブロマさん。」


「本日はどのようなご用件でしょうか。」


ブロマは以前、ミレイユに命を助けられたことがあるらしく、その恩を感じて、よく生活必需品などをもって、度々ミレイユの家を訪れてくれる商人だった。

もちろん死人の都でとれる希少な素材を買い取るという、商人らしい打算もあるのだろうがミレイユやヤマトは気にしていなかった。

表向きは食料や生活雑貨を取り扱っているが、頼めば大抵のものはそろえてくる生粋の商売人だった。


「私は生活必需品の買い足しだけだ。

内容はこちらに書いてある。」


ミレイユはそう言ってブロマに商品のメモを手渡した。


「なるほど、おおよそいつもと同じといったところですね。

こちらに関してはすぐに準備できますがどうしますか?」


「とくに急いではいないので、後日持ってきてもらうことはできるか?」


「わかりました。そのように手配しておきます。」


そういって店員の一人にメモを渡して指示を出した。

メモを受け取った店員は店の奥へと消えていった。

次にブロマはヤマトに向き合って尋ねた。


「それではヤマト様は何がご入用でしょうか?」


「はい、少し量が多めなのですが、こちらの物資をそろえていただきたいのです。」


そういってミレイユとは別のメモを渡す。

ブロマはそれを見て、すぐに回答した。


「こちらも在庫はあるので問題ないですね。

ミレイユ様と同じように配達を希望しますか?」


「ええ、よろしくお願いします。」


「ここらへんはあまり襲われる心配がないので、おそらく3日後くらいにはお届けできると思います。」


そういってブロマはサラサラと羊皮紙に必要事項を書いていく。

そしてできた見積書をヤマトに渡した。

ヤマトは金額を含めてその内容をミレイユに伝えた。


「お支払いはいつもどおりでよろしいですか。」


「ああ、ギルドカードから引き落としてくれ。」


ミレイユは今まで自分やヤマトが死人の都で集めてきた膨大な量の魔石や貴重な資源をブロマを通してすべて換金してした。

それで得たお金はすべてミレイユのギルド口座に貯金されていた。

その金額は多少贅沢をしても二人ならば一生暮らしていけるほどにはたまっていた。


「わかりました。お支払いのほうはすぐに処理しておきます。他には何かありますか?」


「武器や防具もそろえたいので、どこかありませんか?」


「ふむ、武器と防具ですか・・・私が懇意にしている鍛冶屋を紹介しましょう。

多少値は張りますが、腕は保証します。レイスメタルの加工も行っているところなので、品ぞろえは悪くありません。」


レイスメタルとは死人の都付近でしか採掘できない珍しい金属で、世間ではあまり出回っていないものである。

ミスリル鋼ほどではないにしろ、軽くて丈夫ということで一部の冒険者の武器や防具に使用されていた。

ブロマは店の奥から付き人を呼ぶと、ヤマト達を案内するように指示をだした。


鍛冶屋は町はずれにあったが、結構広めの建物だった。

中には所狭しと様々な武器や防具が置かれていた。

ヤマトたちは付き人の案内にしたがって店の奥にあったカウンターにいる店主と対面した。


「ブロマの旦那の紹介か・・・扱うのは坊主か?」


「ええ、そうです。」


「ふん・・・なにが欲しいんだ?」


「色々な用途に使えそうなナイフ3本と伐採などに使えそうな大型のナイフ2本、それと弓を使うので弦や矢じりなどの消耗品が欲しいです。」

「ナイフはこっちだ。」


そういってショーウィンドウにナイフがずらりと設置されていた。


「好きなやつを選んでくれ。

伐採目的であればこっちのククリナイフか鉈がおすすめだ。」


そういって刃渡りが長いものを指す。

ヤマトは手になじむ鋼鉄製のナイフと勧められたククリナイフを選んだ。


「弓関連はそっちだな。

矢じりはその袋の中だ。

ひとつにつき10個入っているはずだ。

矢そのものが必要なら材質と本数を教えてくれ。」


「矢はまだ在庫があるので大丈夫です。

これとこれをください。」


ヤマトは矢じりが入った袋と予備の弦を渡す。


「まいどあり。

・・・他にはないか?」


「あとは手入れ用品と防具くらいですね。」


「ああ、手入れ用品はサービスしておくよ。」


「ありがとうございます。」


「防具については何か希望はあるか?

時間はもらうがオーダーメイドも受け付けるぞ。」


オーダーメイドといわれても素材に明るくないヤマトは店主の申し出をやんわりと断った。


「とりあえずお店の中にあるものを見せてもらいますね。」


最終的にヤマトは金属が埋め込まれたブーツ、グローブ、額宛てを選んだ。

そして外套を選んでいるときに、それまで店の中を散策していたミレイユが声をかけてきた。


「ヤマト、これはどうだ?」


そういって黒色のロングコートを手渡してきた。


「私は色合いなどは見えないが、それは防具としてかなり上質なようだ。」


それを見ていた店主が口を開く。


「それは帝国方面にしか生息していないグランボロスっていう大型の魔獣の皮でできたコートだな。

たしかにうちの中でも指折りの一品ものだが、かなり値が張るぞ。」


「命がかかっているからな。

それくらいでちょうどよいだろう。」


「ありがとうございます。御師様。」


店主が提示した金額も問題なかったので、ヤマトはこのコートを購入することにした。


「これで全部か?」


「ええ、これで大丈夫です。・・・ん?これは・・・」


会計を済ませようとしたヤマトの眼に一組の腕輪が映った。


「ああ、そいつか。

そいつは中に蜘蛛の糸のようなワイヤーが生成できる魔法石を仕込んである変わり種の一種だ。

ただ、いかんせん扱いが難しくてな。

生成したワイヤーを切り離すと消えてしまうから罠としては使いづらい。

そのうえワイヤーを生成するために魔石を使用するからコストが結構かかる。」


そういって店主は腕輪を取ってワイヤーをすっと伸ばしてみる。

ヤマトは体術の幅が広がりそうだと考えてそれも購入することを決めた。


「使えそうだな・・・それもあわせてもらえますか。」


「え?そりゃ売れ残ってる物だから買ってくれるんなら、こっちとしては助かるんだが・・・」


店主は困惑したように頭をかいて答えた。


「防具の調整はどれくらいで終わりますか?」


「ああ、そんなに手間がかかるもんじゃないからすぐできる。少し待ってくれ。」


そう言って店主は店の奥に引っ込んでいった。

そしてすぐに戻ってきた。


「一度つけてみて違和感があるようなら教えてくれ。

すぐに調整する。」


ヤマトは購入した防具を身に着けてみた。

しっかりと体にフィットしており問題ないように感じた。

トントンとその場で軽く飛んでみる。

特に違和感はなさそうだ。


「いえ、これで大丈夫です。」


「そうか。まいどあり。

また、何か必要になったらいつでもきてくれ。

修理やオーダーメイドも引き受けるからよ。」


「その時はまたお願いします。

御師様、お待たせしました。」


「うむ、行くとするか。」


ヤマトは残った商品を受け取ると、愛用のマジックバッグに収納していった。

その後、ヤマトとミレイユは屋台で軽く腹ごしらえをして家へと帰っていった。


次の日になるとヤマトは購入した装備の性能を確かめるためにダンジョンへと向かった。

購入したばかりのククリナイフで枝を切り落としながら進むとゾンビの群れを見つけた。

中には人型ではなく犬の形をしたものがいた。


ヤマトはすっとアラニスから受け取った弓を構えた。

大きさとは裏腹にすっと引くことができた。

そして3連射。

空気を切り裂く音とともに一体のゾンビの頭に3本の矢が突き刺さった。


「うん、いい感じだ。」


ヤマトはワイヤーをつかって、木々の間を移動しながらどんどん矢を放っていった。

ビュッっと音が鳴るとともにどんどんゾンビが倒れていく。

しかし、その状態は長く続かなかった。

4-5体の倒したところで物音に気付いたゾンビ犬の感知され、一斉にゾンビたちが向かってきた。

ヤマトは弓を背負い、グローブの感触を確認するようにガンとグローブの金属部分を打ち合わせた。

その瞬間、ヤマトの全身からブワッと闘気が吹き出した。


「ぶぁぁあぁぁ!!!」


人型のゾンビがヤマトを押し倒そうとヤマトめがけて飛び掛かってきた。

それを交わして拳を叩きこんでいく。


「フッ!セェ!」


左右の2連打がゾンビの胴体に命中した直後、首を刈り取るような回し蹴りがヒットした。

くるくるとゾンビの頭が宙を舞う。

しかし、ゾンビたちはひるまなかった。

次々とヤマトへと襲い掛かる。


「チィ!」


ヤマトはそのうちの一体にワイヤーをからませグイっと引き寄せる。

闘気を併用していたため、一体のゾンビが大幅に体制を崩しながらヤマトのほうへと飛んできた。


「ハァァ!!」


ヤマトは飛んできたゾンビを両拳をたたきつける。

ビキッと大地が割れる音とともにゾンビが地面に沈んでいた。

すぐさま追撃の踏み付けがゾンビの頭を粉々に吹き飛ばす。

休む暇もなく複数のゾンビがヤマトに組み付こうとしたが、それをかわして攻撃を繰り返す。

あとはいつもの蹂躙と同じだった。

ヤマトが拳をふるうたびにゾンビの体が消し飛んでいく。

全滅するのにそう時間はかからなかった。


ブロマが言った通り3日後にはそのほかの荷物が馬車に乗って届いた。

一月分の非常食料や消耗品などを袋に詰めて背中に背負う。

準備はすぐに完了した。


読んでいただいてありがとうございました。


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