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花と夕食と花火

作者: 秋山

ある山深い所に一軒の商店が立っていた。


私は春からそこでアルバイトをすることになったのである。そこには1匹の細身で長身のキツネが店長をしていた。

ある夏の終わりに、花火大会に商店のメンバーで行くことになった。そして、その花火大会の帰りに町に一軒しかない古い定食屋さんに行くことになった。

店長と私と橋下さんと問屋のとんちゃんで、

4つのイスとテーブルを囲んでいた。

店長は服装は白いパーカーを着ていた。

ほぼ100パーセント偶然とわかっていても、しばらく前に橋下さんと店長の普段の私服について話した。その時に、きっと黒いTシャツか、白いパーカーどちらか着てそうだななどと話していたので、私は店長を見た瞬間に思わずニヤけないように唇を噛み締めていた。

白いパーカーの隙間からフサフサした尻尾とパーカーのフードの隙間には黄金色の毛が生えていた。


私と橋下さんは隣に合うように座り、店長は私の斜め向いに、とんちゃんは私の前に座っている。とんちゃんは、黒いポロシャツにジーパンを来ている。とんちゃんとは、店長を通して話す機会も増えた。面倒見の良い性格であると思うが、あまり口数が多い感じではないので、話すとなんとなくぎごちなく感じてしまう。

橋下さんは、テーブルの脇からドリンクのメニュー表を取り出した。

「みんな何頼む、オレンジジュースと」

「コーラで」

「俺は、イチゴミルクで」

「じゃあ、烏龍茶」

店長は相変わらずの甘党でイチゴミルクを頼んだ。

さっきの花火大会の話で橋下さんととんちゃんが、盛り上がっていた。

私は今日こそは、店長が何故キツネの姿に見えるのかを確かめたい、そして、あわよくばもふもふの耳の秘密を暴きたい。そのために今日こそは絶対に店長をご飯に誘うと決めていた。


「さっきの花火綺麗だったよねー。花ちゃん、ヒューっと打ち上がったと思ったら

バッと黄色と赤と緑の混じった花火がとっても綺麗だったよね」

「そうですね、花火も綺麗でしたし綿菓子とかも美味しかったです」

「そういえば、あれ俺らが中学のときくらいから始まったか。あの花火大会って」

とんちゃんは、烏龍茶を片手に唐揚げをつまみながら話し出した。

「そうだね、確かそのときの町長が近所の花火屋さんと知り合いだからって言うので始まったって聞いたことある気がするけど」


店長ととんちゃんは小さい頃からの幼馴染である。小さい頃から、少し抜けてる店長の補佐役をとんちゃんはしている。今も、店長が商品が足りなくなったりしたらとんちゃんの問屋に真っ先にバイクで走って行くのだからこれからもこの関係は続くのだろう。


「店長ととんちゃんさんって仲良いですね」

あれこれ、考えすぎていつも無難なことしか喋れないでいるのがもどかしい。

「そうだなぁ、腐れ縁みたいなとこあるからね。ほら、うちが商店であっちが問屋だったから持ちつ持たれつなわけさ」

「そうそう、仲良しででも花ちゃんは見たことないと思うけど。たまに、2人でケンカしてるときもあるからね」

「橋下さん、アルバイトの子に店のイメージを下げるようなことは吹き込まないでください」

橋下さんは、笑いながらオレンジジュースを口に運んだ。

「そうなんですね、喧嘩するほど仲良しなんですね」

私は、一気にコーラを半分飲んだ。口の中でパチパチ炭酸がはじけて苦味のあとには独特の甘さが残る。

ふと、ズボンのポケットに手を入れると先ほどの花火大会の屋台で見つけた。花火のキーホルダーが入っていた。


その後、花火大会の話や商店に来るお客さんの話などで盛り上がり時間はあっという間に過ぎて行った。

店の外に出ると夏の夜の蒸し暑さが身体にまとわりついた。さらに、緊張で手にも汗が滲んでいた。

橋下さんは、旦那さんのご飯を作るからと一足先に帰りとんちゃんも明日の仕事が早いからと今さっき帰って行った。

今しかない…

店長は、店の前に止めてある赤いバイクのエンジン音を鳴らし出した。

「じゃあね、またっ」

「店長…」

店長は、赤いバイクに跨るのを一旦やめた。

「どうしたの」

目を開きながら首を傾げている。

「あのもし良かったらこれ」

私は、ポケットから花火のキーホルダーを出して見せた。

「俺に?」

店長は、キーホルダーを受け取った。

私はうつむきながら、汗のかいたてをズボンで拭きながら喋った。

「はい、あのもし良かったら。

あと、今度その、ご飯を食べに行きませんか?」

「今度、みんなで飲み会あるでしょ。ね?」

店長から間髪いれずに返事が来た。

猫パンチを頬に入れられたような感覚であった。まるで、飼い猫に今日は構ってくれなくとも良いと肉球で力なく頬にパンチを入れるような感じであった。断り方すら優しく拒否をしないのが店長の良い所で、それに対してむしろ自分のワガママさに罪悪感すら少し覚えた。

「あっ、花火!」

店長が、大きな声を出したので私は驚いて

「えっ」と声を上げた。

空には黄金色の大きな花火が打ち上げられていた。

その光を受けて店長のふさふさの耳と尻尾は、影を伴って確かに揺れていた。

花火が夜空に輝いて散った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 キツネの店長が可愛いです。さらに情緒溢れる描写に一気読みしてしまいました。 読後感も、じんわり余韻に浸れる心地イイ作品だと思います。 素敵な読書時間を有難うございます。
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