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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-28 オホシミ山

 翌日、昼過ぎ。

 シャバーとおれ達はいったんお別れすることになった。

 なんでも、シャバーはミンナノハウスというところに行くらしい。


「じゃあな、シャバー」


「おう。またな」


 リーヌとシャバーは拳骨を打ち合わせた。ドカーンと一発、爆風と虹色の光が炸裂し、二人はガハハハ笑った。


「な、なんなんだ? あれ」


おれがつぶやくと、ひつじくんが教えてくれた。


『リーヌちゃんとシャバーのあいさつだよ』



「なんか、爆発してたぞ? あれ、ふつうのやつだったら、爆風で死んでるぞ? おれ、近くにいなくてよかった……」


 おれ達にむかって手を振って、シャバーは荒野をひとりで進んでいった。

 シャバーの後ろ姿を見送りながら、ホブミはリーヌにたずねた。


「リーヌ様、本当によろしいのですか?」


「アタイは、ミンナノハウスに行くわけにはいかねーからな」


 いつになく、しんみりとした調子でリーヌは言った。


「ミンナノハウスってどういう場所なんすか?」


 おれは気になったからたずねた。


「孤児院だ。シャバーが育ったとこだよ。今、アタイが行ったら、迷惑かけるだろ?」


 リーヌはいつになく、まともなことを言った。


「たしかに。賞金稼ぎが押し寄せてくるっすね。といっても問題なのは、賞金稼ぎじゃなくて、リーヌさんが起こすダメージなんすけど。で、リーヌさん、この後はどうすんすか?」


「どうすっかなぁ」


 リーヌは元気がない。やっぱり、本当は、シャバーといっしょに行きたかったらしい。


「この辺に、どっか楽しそうなとこ、ないんすか? かわいいモンスターがいる場所とか、アイドルイベント開催中の町とか」


 おれがそうたずねると、ホブミが言った。


「そういえば、このあたりに、とてもかわいいレアモンスターがいるという話を聞いたことがあります」


 ホブミの発言に、リーヌが反応した。


「かわいいレアモンスターどぅわと?」


「はい。たしか、究極のいやし系モンスターといわれるレアモンスターです」


「へぇ。おれみたいっすね」


 おれが冗談を言ったら、リーヌはうなずいた。


「そーだな。おまえは究極のイヤラシ系モンスターだもんな。」


「いやらしくないっす! なんすか、イヤラシ系モンスターって。……あー、でも、セクシーな、いやらし系美女モンスターとかなら、ぜひあいたい……」


 そこで、ホブミが叫んだ。


「いやらしいです! その発言が、いやらしいです。そしてもちろん、ゴブヒコさんは、常日頃、色々と、いやらしいです。それはそうと、たしか、レアモンスターはオホシミ山という山の山頂付近に生息しているという話でした」


「じゃ、そこへ行くぞ。かわいいレアモンスターをゲットするぜ!」


 というわけで、おれたちはオホシミ山に向かうことになった。

 ちなみに、オホシミ山への道は、ホブミが魔法の地図を使って調べてくれた。


 オホシミ山に着いた頃には夕方近くになっていたので、オホシミ山の山中で、おれたちは野宿することになった。ホブミ情報によると、そのレアモンスターはよく晴れた日の昼間に出現することが多いらしいから、無理に夜中に探し回っても意味がない。


「ゴブヒコ、枯れ枝を集めろ。アタイとホブミは、食いものを探す」


 リーヌがそう命令した。

 なぜかというと、実は、手持ちの食料がもうない。

 だから、今夜は山中で食べ物をゲットするサバイバル生活になってしまったのだ。


 リーヌは、ホブミがどこからか取り出した、虫取り網みたいなアイテムと大きな袋をもっている。

 リーヌが素手で何か取ろうとすると、力かげんをまちがえて粉砕する可能性が高いから、ホブミが、虫取り網っぽいアイテムをくれたのだ。

 なんか、見た目的には、「アタイのなつやすみ」みたいな雰囲気だ。


「にしても、食べ物がないなんて。やっぱレアモンスターなんかより、町に行くのを優先すべきだったんじゃないっすか?」


 おれが言うと、リーヌは、ほがらかに言った。


「レアモンスターを手に入れれば食料はバッチリじゃねーか」


 おれは、それを聞いた時、なにか変だと感じた。


「今、なにか、変な発言を聞いたような。リーヌさん、もう一度、今のセリフを言ってくれっす」


「あん? なにもおかしなことなんて言ってねーぞ。レアモンスターを手に入れれば食料はバッチリ……」


 二回目で気がついたおれは、すかさず、つっこんだ。


「レアモンスターを食べる気か!」


「食べないのか?」


 リーヌは本気の顔でおれに問い返した。


「えぇ!? リーヌさん、自称・テイマーでしょ? 全然つかまえられないからって、ついにモンスターつかまえるのはあきらめて、『自称・テイマー』から、『自称・グルメ』になっちゃったんすか?」


「アタイはテイマーだが?」


 リーヌは、あいかわらず、真顔だ。


「自称でもテイマーなら、レアモンスターを食べちゃだめでしょ! いっぱいいる奴ならともかく、レアモンスターは。もしも世界に一匹しかいない伝説のレアモンスターを食べちゃったりしたら、みんなが泣くっすよ? もしも、サトシがミュウやルギアやレックウザを食べちゃったら、ポケモンの世界はどうなると思ってるんすか? 全国の映画館で、感動とは別の理由で、子ども達が大泣きっすよ!? 一生もんのトラウマっすよ!?」


 リーヌは、何の話だかわからないといった顔で、おれにたずねた。


「だってレアなんだろ? 軽く焼いてあんだろ? やけどしてっけど、生きてんのか?」


 数秒おいて、おれは、ようやく、リーヌのボケ、いや、たぶん、本気のかんちがいに、気がついた。


「焼いてないっす。生っす。生きてるっす。レア・ステーキじゃないんだから。まさか、ずっと、レアモンスターのレアは、焼き具合のレアだと思ってたんすか?」


 ステーキの焼き具合の、レア、ミディアム、ウェルダンのレア……って、発想、どこから出てくるんだ?

 おれは説明した。

 

「レアモンスターのレアは、めずらしいって意味のレアっす。レアアイテムとかのレア。レアモンスターはいても、ウェルダンモンスターはいないでしょ?」


「なんだとーー!?」


「あんた、何しにこの山にきたんすか? まぁ、どうせ、なんでも瞬殺のリーヌさんがレアモンスターをつかまえようとしても、手に入るのはレアステーキだけかもしれないっすけど。とにかく、夕飯にはモンスター以外の食べ物を手に入れてくれっす。できれば果物とかがいいっすけど、生き物にしても、鳥とかウサギとか、ふつうに食べられるやつでおねがいするっす」


 おれのお願いにたいして、リーヌはさらっと言った。


「あ? 食えねぇ生き物なんてねぇだろ」


「なんて怖い発言! もう、リーヌさんは無理して食べ物を入手しなくていいっす。おれ、今日は夕飯なしでいいっすから!」


 リーヌは自信満々に宣言した。


「遠慮はいらねぇぞ。夕飯はアタイにまかせとけ! 楽しみにまっとけよ。バッチリ、すげぇのゲットしてくるぜ! じゃ、おまえは、ここで枯れ枝、集めておけよ」


 おれが制止する間もなく、リーヌは、元気に走っていってしまった。

 おれは、枯れ枝を集めながら、つぶやいた。


「うー。不安だー。『すげぇのゲット』とか言ってる時点で、絶対、まちがってる……」


 さて、おれはたき火のための枯れ枝を十分に集め、リーヌとホブミも戻ってきた。

 ホブミが魔法で着火し、たき火はできた。

 おれはたずねた。


「じゃー、あんまり、気が進まないんすけど、聞いてみるっす。リーヌさん、食べ物はどうなったんすか?」


 リーヌはうれしそうに、巨大な虫取り網みたいなものをゆらしながら、自信満々に答えた。


「バッチリだぜ。ホブミがくれたこの網のおかげで、いっぱいゲットできたぞ」


「なぜか、その自信満々な顔が、おれを、やたらと不安にするっす……」


 リーヌは、大きな袋から、なにか巨大なものをとりだしながら、言った。


「まずは、これだ。すごいだろ。元気だぜ」


 リーヌに背中をつかまれた一本角の黒々としたやつが、6本の脚をさかんに動かしていた。

 おれは、すっかり感心した。


「あ、ほんとだ。すごいでかいカブトムシっすね。虫キングってよびたいくらいっす。これだけ大きかったら食べごたえも……って、ちがうでしょ! これ、食べ物じゃないでしょ! ペットにするには、いいけど。カブトは食べるもんじゃないっす!」


 リーヌは残念そうに言った。


「なんだ、食えねぇのか? カブトって。じゃあ、クワガタにしとけばよかったな」


「クワガタもくえないっす! そういう問題じゃなくて。虫を食べるのは無理っす。そりゃ、昆虫食が世界の食糧難を救うとか、聞いことがある気はするけど、おれには無理っす」


 リーヌは、無言で、おれを、じっと見た。


「なんなんすか? その、やたらと残念そうな顔。まさか、とってきたの、ぜんぶ、虫なんすか? そういえば、手に持ってるのも、虫取り網だし。リーヌさん。あんた、実は、ただ、虫取りしてきただけなんじゃ……」


「んなことねぇよ」


 リーヌは、後ろを向き、袋の中からいろいろなものをとりだしては、草むらに捨ててった。

 いろんな昆虫が、飛び立ったり、歩き去って行くのを、おれは、しばらく、のんびり眺めた。

 さて、虫をリリースし終わったリーヌは、おれの方に向いた。


「次はこれだ。飛んでるところを網でとったんだぜ」


 リーヌは両手で、つばさをもって広げている。


「それは……コウモリ!? ずばっと吸血しそうな……」


 リーヌは、自信満々におれにたずねた。


「どうだ? これなら食えるだろ?」


「コウモリって、中国やジャングルでは食べたりするらしいけど……。おれは、えんりょしとくっす。なんか、そいつ、毒がありそうだし。てか、それ、こっちむけないでくれっす。なんか、よく見ると、ただのコウモリじゃなくて、混乱する超音波とか出しそうな顔してるっす」


「ゴブヒコ、食わず嫌いはよくねぇぞ」


 リーヌが文句を言うと、ホブミも、すました顔で同調した。


「そうですよ、ゴブヒコさん。ちゃんと食べてください。ちなみに、そのモンスター、ゴーモリは超音波とレーザーを出すことができます。牙には毒があります」


「絶対に食える気がしないっす……」


 リーヌは不満そうに、口をとがらせて言った。


「食わねーなら、こいつは、逃がしちまうぞ」


「そうしてくれっす。そのゴーモリがかわいそうだし」


 リーヌが手を離すと、ゴーモリはあっという間に飛び去った。

 リーヌは、さびしそうに、袋の中をかきまわした。


「もう、あんまりねーぞ。あとは、これだな。キノコ。木の下に落ちてたやつ」


「キノコ? 今までのよりは、食べ物っぽいっすけど……毒キノコじゃないっすよね? 毒キノコ食べて大変なことに! なんて定番ネタはいらないっすよ」


 おれは、リーヌがとりだしたものを見た。

 たしかに、そこにキノコはあった。むちゃくちゃでかいキノコだ。

 そして、キノコの下にカニみたいなやつがいる。

 いや、むしろ、巨大なカニみたいなやつに、大きなキノコが生えている。

 ……これ、キノコなのか?


 ホブミが解説をしてくれた。

 

「パラパライトですね。パラパライトは、月夜に集まってパラパラというおどりをおどるのが大好きな生き物です。パラパラをおどっているときは、キノコがライトのように光ります。そのキノコの大きさ、形、色彩、模様、輝き等によって、異性へアピールするということです」


「なんか、キノコの大きさとかで異性へアピールって、まるっきり下ネタに聞こえるな」


「心が下劣な人にだけそう聞こえるのでしょう」


 さて、結局リーヌは食べられるものを何ももってきていなかったけど、ホブミは、まともな山菜と果物をたくさん集めてきていた。

 ホブミによると、この山は薬効成分のある食べられる植物の宝庫だったらしい。

 こんなに体に良い植物がたくさん生えている山なんて、世界中でここしかないんじゃないか、っていうくらいに、健康に良い果物や草花でいっぱいだったらしい。


「なんで、こんなに食べられるものが多いのにリーヌさんは食べられないものしかもってきてないんすか」


 おれが文句を言うと、リーヌは逆ギレした。


「あ? なんか文句あっか? アタイはくえそうなもん、いっぱい、とってきただろ?」


「最後のキノコ? 以外、一切、くえそうな気配するあなかったっす! そもそも、ぜんぶ、飛ぶものか這いまわるものだったっす! リーヌさん、どういう基準で食べられそうなものを判断してるんすか? 動くものなんすか?」


「おう。活きがよさそうなやつだ」


「……つまり、リーヌさんの脳内では。動いている=活きがよさそう=食べられる……ということっすか?」


「おう。バッチリだろ?」


「リーヌさんに食べ物が見分けられないことだけは、バッチリわかったっす」


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