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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-26 荒野を行く

 ドランゴンライダーが去ってからしばらくして、おれ達は出発した。日暮れ前に、どこかの町にたどりつかないといけないから。

 荒野を進んでいくあいだも、リーヌは、シャバーの近くから離れなかった。

 いつもはリーヌにくっついて離れないホブミも、なんだかニコニコしながら、ちょっと離れて見ている。


(妨害しろよ! 祝福すんな! ホブミは、「リーヌ様だーい好き。リーヌ様に近づく男は許しません」じゃないのかよ!)


と、おれは心の中でホブミに叫んでいるんだけど。

 だけど、ホブミは「リーヌ様に近づく男は許しません。 ※ただしイケメンは許す」とか、言いそうでもある。


「ぐぅあぁ~~~~~!」


 おれが苦し気にうなり声をあげていると、ホブミが冷たい目で、おれをギロリと見た。


「ゴブヒコさん。腹痛なら、1キロ以上離れてください。視界に入るところで用を足すのは、許されませんよ。セクハラです」


「セクハラじゃないぞ! それ、ただの体調不良だぞ! それに、1キロも離れたら、見失って迷子になっちゃうだろ! ……それがねらいか?」


 ホブミは、否定しなかった。


「そうなってくれれば、ラッキーですね」


「ひどっ! まぁ、おれは、腹痛じゃないから、別にいいけどさ。ほんとに腹痛だったら、ひどすぎだろ。……てか、ひどいといえば。おまえ、こっそり、ドラゴンライダーにおれを殺させようとしてただろ。暗殺計画発動させてただろ!」


 ホブミは、さわやかに言った。


「ただの偶然です。ですが、もちろん、ゴブヒコさんは、いつでも私の『抹殺リスト』の最上位に、のっていますよ」


「やっぱり、おれの暗殺を計画していたのか! この冷酷残酷暗黒賢者!」


 おれが非難の声をあげると、ホブミは言った。


「私は冷酷ではありません。私が冷酷な行動をとるのは、リーヌ様に危害を加えようとする者に対してだけですから」


「えー? じゃ、なんでおれが抹殺リストのトップなんだよ」


 ホブミは、きっぱり言った。


「リーヌ様に最も害をなす者だからです」


「おれ、リーヌの仲間モンスターなんだけど!? この上なく忠実なしもべなんだけど!?」


「私のカンによる計算では、リーヌ様の心痛の8割はゴブヒコさんによるものです」


「いやいや、カンによる計算って。超いいかげんじゃん」


 女賢者は自信をもって断言した。


「女のカンは、数式やコンピューターより確実ですから」


「んなアホな! それに、おれ、このうえなく無害だぞ。心身ともに激弱だから。特にリーヌには、なんにも悪いことしてないし。なんでおれが……」


 ホブミは、憎しみがこもっていそうな顔でおれを見て言った。


「その理由がわかっていないことが、ゴブヒコさんの罪なのです」


「むちゃくちゃだ! 何が悪いかわからないことが罪って、あらゆる人を有罪にできちゃうだろ! この独裁者! 虐殺者!」


 ホブミは、大きなため息をついて、それから、リーヌとシャバーの方を見ながら、ぽつりと言った。


「ですが、もしかしたら、これで私はゴブヒコさんに殺意を抱かずにすむようになるかもしれません」


「え? そうなの?」


「すこし寂しいですが。これならあきらめもつきます。うまくいってほしいものです」


 ホブミは、リーヌ達の方を見たまま言った。


「そうだな。なんの話かわからないけど。うまく、おれの殺害計画がなくなってほしいものだな」


 おれがうなずきながら、そう言ってると、ホブミは、おれを横目でバカにしたように見て、つぶやいた。


「まったくです」


 なにはともあれ、ホブミと話しているうちに、おれはちょっと冷静になって、この事態のポジティブな面を見ることにした。

 おれは実はポジティブ思考には定評があって、けっこう、ほめられるのだ。「すごいね。その根拠のないポジティブ思考はすごい」って。

 さて、ポジティブな面を考えよう。


 この3人、戦力的には最強だ。

 リーヌ単独でも、攻撃力は最強だけど。実際には強すぎることが弱点になることもあって、けっこう苦戦する。

 だけど、この3人パーティーだったら。リーヌに回復魔法がない点をホブミがカバーしているし、もしもダメージ反射する敵が出てきた時は、リーヌとシャバーで2方向から攻撃すればいい。もう弱点がなさそうだ。

 

 そして、このパーティーの頭脳、司令塔はおれなのだ。

 大事なのは、個人の力じゃなくて、チーム全体の戦力だからな。

 ワンチーム。


「このパーティーがあれば、超最強。こいつらを使って、おれが、この世界の影の支配者に……ウヒヒヒヒッ」


 おれはついつい、今ここで思いついた野望を、口にだしていた。

 それを、ホブミに聞きつけられてしまった。


「気色悪い笑い声をたてないでください。ゴブヒコさん。分をわきまえないなら、凍結しますよ?」


 ホブミは、冷凍庫のように冷たい声で言った。


「凍結!?」


「大丈夫です。解凍できますから。ちょっと食感がパサパサになるかもしれませんが」


「食感がパサパサ!? おれは食肉じゃないぞ! てか、身がパサパサって、生き物として大丈夫なの?」


 ホブミはそっけなく言った。


「解凍はできますが、命は保証しません。たしかに、凍結するだけで死ぬモンスターもいますね」


「だめじゃん! 解凍しても死んでちゃだめじゃん!」


 ホブミは、冷たく言った。


「不幸な事故ですね。リーヌ様を利用しようなどと考える者には、当然の天罰ですが」


「事故じゃないだろ! 計画的殺ゴブリンだろ!」


 ホブミが呪文の詠唱をはじめたので、おれはあわてて、リーヌ達の方へかけこんだ。


「元気だな。おまえのペット」


 何も知らないシャバーは、全力で駆けぬけるおれを見て、リーヌに言った。

「元気じゃないし! ペットじゃないし!」と、おれは言いたかったんだけど。走り回って息が切れてたせいで、元気じゃないおれは、しゃべることができなかった。

 すると、リーヌが元気に答えた。


「おう。すんげーブサイクだろ? ブサコン出したら、1位とれるぜ」


(ブサコン? ブサイクコンテスト!? そんなのあるの?)


 おれは、ぜぇはぁ、苦しい息をしながら、心の中でつっこんだ。


「ちがいない。見たことのない類の顔だが。特別な種類のゴブリンなのか?」


 シャバーがたずねると、リーヌは言った。


「おう。新種だ。ゴブヒコって種類のゴブリンだ」


(勝手に新種にしないでくれっす! ゴブヒコって、あんたが勝手につけた、おれの名前でしょ! 種族はただのゴブリンっす! ……たぶん。自信ないけど。……たしかに、おれみたいなゴブリン、いないみたいだもんな。おれって、実は新種なの!?)


 おれが、心の中だけでしゃべっている内に、リーヌが自信満々に、この新種ゴブリンについて説明した。


「ゴブヒコは、ふつうのゴブリンより、すんげー弱くて、ブサイクで、ドジなんだぜ。しかも、どうやっても、強くならねーんだ。つついたら死ぬから、気をつけろよ」


(事実だけど。警告してくれるのは、ありがたいけど。でも、なんかすんごい、微妙な気分~~)


「ああ。気をつけるさ。だが、たいしたもんだな。そんなにめずらしいゴブリンを捕まえるなんて」


 シャバーは心から感心したように、そう言った。

 リーヌはうれしそうに、言った。


「だろ。アタイはテイマーだからな」


「さすがだな」


(ふつうに、ほめてる……!)


 おれは、衝撃を受けた。

 これは、やっぱり、おれが司令塔として、というかツッコミ役として、しっかりしないと。じゃないと、このパーティーはリーヌのムチャクチャをホブミが暴走させてシャバーが増長させて、混沌と迷走爆走するぞ。


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