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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-25 荒野の剣士

「な、なにが起こったんだ?」


 空には、青空が広がっている。さっきまで空を遮るように存在していた巨大なドラゴンの影は、どこにもない。


 空が切り裂かれたように見えたと思ったら、ドラゴンが一瞬で吹き飛んだのだ。

 そして、今、ドラゴンとドラゴンライダーは、荒れ地の向こうに倒れている。

 誰かが、空を切り裂くような一撃で、ドラゴンライダーを倒したようだ。


 おれは命拾いをしたけど。

 助けてくれたのは、だれだ?

 リーヌは相変わらず、地面に寝っころがって、ぼけーっとした顔で、ごろごろしている。こいつが何かしたとは、思えない。

 たぶん、リーヌは、おれがピンチだったことも知らないだろう。

 リーヌにとっては、ドラゴンライダーの突進攻撃なんて、「パタパタトカゲが飛んできたぞ?」程度のできごとだし。

 リーヌのことだから、10分くらいして、「あれ? ゴブヒコがいねぇぞ?」とか気づくんだろうなぁ……。

 あー、よかった。誰かがたすけてくれて。

 でも、誰が? 


(ひょっとして、さすらいの美しい女騎士とか!?)


 おれが期待して、あたりを見渡そうとしたとき。


 低くてかっこいい声が聞こえた。


「ケガはないか? お嬢さん方」


 振り返ると、そこには、大剣を手にした大柄な男が立っていた。

 大剣の切っ先から、さっきまでドランゴンライダーがいた方向へ、地面が一直線にえぐられている。

 この男が、ドラゴンライダーを倒したらしい。

 背の高い、マッチョな、いかにも戦士といった体格の男だ。

 装備は、そのへんによくいる戦士とかとたいして違いがないけど、なんか、その辺の冒険者たちと違って、かっこいいオーラが全身から出ている。


 ごろごろしていたリーヌが、突然、跳びあがった。


「シャバー!」


 リーヌはうれしそうに叫ぶと、一気に剣士にかけより、抱きついた。


(そんなことしたら、剣士が死ぬーー!) 


 おれは、反射的に、両目を手でおおった。

(あぁ、きっと悲惨なことにぃ)と、思ったんだけど。

 おれが目を開くと、そこには、かっこいい剣士に美女が抱きついている光景があった。

 あの剣士は、リーヌがとびついてもぶっ倒されることなく、堂々と立っていた。

 着ていた鎧は、バリバリと割れていったから、ダメージは、かなりあったみたいだけど。

 


「シャバー! 生きてたのか? それか、幽霊か?」


 リーヌは、とってもうれしそうだ。まるで子どものように、はしゃいでいる。


「生きてるよ。久しぶりだな。リーヌ」


と、大柄な剣士は言った。


「なんとハンサムな方でしょう」


 その光景を眺めていたホブミがつぶやいた。

 そう言われて、おれははじめて、この剣士の顔をよく見た。

 そして、おれは衝撃を受けた。イケメンだからではない。いや、イケメンではあるけど。


(しょ、初代総長……!)


 この男、真城さんが2代目総長をやっていた不良グループ、打威魔殴の初代総長に、そっくりなのだ。

 髪型は違うけど。こっちの剣士は、毛先のほうだけ銀色なツンツンヘアだ。

 だけど、彫りの深い顔は、そっくりで、顔だけじゃなくて、身長、体格、全部似ている。


 おれは、がく然とした。


(まさか、異世界に来てまで初代総長に出くわすなんて……)


 でも、考えてみれば、この世界には、真城さんに似ているリーヌや、歩武さんに似ている賢者ホブミがいるんだから、あの初代総長に似ている戦士がいても、不思議はない。

 真城さんとリーヌ、歩武さんとホブミは似ているだけで、別人だ。だから、この戦士も、初代総長と似ているだけで、別人なんだろうけど……。

 だけど、ひょっとして、このイケメン剣士はリーヌと……。


「うぅわぁ~~~~~~~!」

 おれは、なんでか、叫びたい気分になった。


(リーヌに男が? 彼氏が? フィアンセが!?)


 想像すると、なんだか、おれはまるでスライムの体当たりを腹にくらった時のような衝撃を受けた。


「ぐぅぉお~~~~~~~!」


 気が付いたら、おれは叫んでた。

 いままで、リーヌの周りには男の影が一切なかったし、なにしろ、リーヌは性格がリーヌだから、リーヌに恋人なんてできるはずがない、とかってに思いこんでいたんだけど。

 でも、いまさらだけど、リーヌは見た目だけなら、すごい美女なのだ。

 顔と体がよければ、他はがまんできるって男の一人や二人、いや、一億人や二億人、てか、いくらでもいるぞ! モテモテじゃないか! チクショー! 


「おーい。ホブミ、ゴブヒコ。シャバーを紹介するぜ」


 リーヌが、大剣を背負った男を、おれ達のところへ、つれてきた。

 近くで見ると、ますます、初代総長に似ている。

 そして、イケメンだ。

 彫りの深い顔で、眼光鋭いけど、瞳はどこか優しげで同時に悲しげだ。


「こいつは、シャバー。アタイのダチで、アタイがこの世界でいちばん尊敬する男だ」


(一番尊敬する男……。これって、どういう意味だ?)


 おれが複雑な想いをいだいていると、ホブミはうれしそうにリーヌにたずねた。


「リーヌ様の古いご友人なんですね?」


 リーヌはうなずいた。


「ああ。だいぶ前に、アタイのせいで死んじまった。と思ってたら、生きてたぜ!」

 シャバーという男は落ち着いた声で言った。


「勝手に殺すなよ。死にはしなかったんだ。地底の冥廻牢とかいう場所をずいぶん長いこと、ぶらつくことになっちまったけどな」


「わるい。迷惑かけたな」


 リーヌは、リーヌにしてはめずらしく、申し訳なさそうに言った。

 シャバーはさらっと言った。


「気にするな。おれが勝手にやったことだ」


(ちくしょー。異世界のこいつ、なんか、まともにカッコいいぞ? ホブミみたいに、見た目はまじめそうなのに中身は変なやつじゃないのかよ! なんで、こいつは、まともなイケメンなんだよ!)


 おれは心の中で、文句を言った。

 それからしばらく、リーヌは、とってもうれしそうに、シャバーとおしゃべりしていた。

 ……そりゃ、死んでたと思ってた友達(世界で一番尊敬する男)に再会できたら、とてもうれしいだろうし、いっぱいおしゃべりするだろうけど。


 でも、なんでか、おれは悲しい。

 ちなみに、その間にドラゴンライダー・レックスは、すっかりしょんぼりした様子で、ひっそり、さびしく、荒野から飛び去っていった。

 おれは、飛んでいくドラゴンに、「さようなら~」と、涙を流しながら手を振っておいた。


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