4-23 ドラゴンライダーの襲撃1
おれ達が放浪の旅に出て、何日かがたった。
最初は遠足気分で機嫌のよかったリーヌも、今日はすっかり、ふてくされている。
「ふわもこキュートなアニマル、いねぇなぁ」
リーヌは嘆いた。
おれたちは、今、ほとんど木も生えない荒れ地を進んでいる。
リーヌはどんどんS級冒険者とかから襲撃を受けるので、関係ない人や建物を巻きこまないように、あまり人のいない方向を選んで進んでいたら、こんな荒れ地に流れ着いてしまったのだ。
「おいゴブヒコ、ふわもこアニマルを出せ」
リーヌはおれにむちゃな命令をした。
「むりっすよ。おれにそんな能力ないし。それに、動物もモンスターも、リーヌさんを見ればみんな逃げていくんすから」
「ミャア」
リーヌと一緒にいて、モンスターとエンカウントすることなんて、めったにない。
サイゴノ町から魔王城の間の道だけは、モンスターも、なんかイヤイヤ、「本当はイヤなんだけど、これがお仕事ですから」みたいな感じで出てきてくれたんだけど。
他の場所では、道を歩いていてモンスターに出会うことなんて、まったくない。
どうも、リーヌには、モンスターを追い払う力でもあるようだ。単に強すぎるから、みんなびびって逃げてるだけかもしれないけど。モフモフキラーだしな。
のんびり旅行するには、リーヌの存在はとても便利だけど、これ、テイマーとしては、致命的だな。
「あきらめるな。おまえならできる」
リーヌは期待をこめてそう言ったけど。
「んなこといっても。気合でなんでも解決できるわけじゃないんす」
「ミャア」
そこで、ホブミが言った。
「ゴブヒコさん。さっきから、カバンの中から鳴き声が聞こえるのですが?」
「え?」
「ミャア」
おれがカバンを開けると、中から、ネコが顔をだした。
「ノラネコ1世!?」
いつも家の庭にいるノラネコがおれのカバンに忍び込んでいた。
「さすがゴブヒコだぜ! モフモフ!」
リーヌが喜んで手を伸ばすと、ノラネコ1世はカバンの中から飛び出して、逃げていった。
さて、その後もおれ達+なぜかついてきてしまったネコ一匹は、荒野を歩き続けたんだけど。
しばらくして。
「あー、だりぃ」
リーヌは、ついに土の上に座りこんだ。
「リーヌさん、こんな荒野の真ん中でとまらないでくれっす。宿屋があるとこまで行かないと、今夜は野宿になるっすよ?」
その時、おれ達の頭上を、巨大な影が通過していった。
そして、激しい風圧が襲ってきた。
「うわっ。なんだ!? また襲撃っすか!?」
空を見あげ、ホブミがつぶやいた。
「あれは、ドラゴン……」
おれ達の頭上を、雄大な翼をもつ、荘厳な赤いドラゴンが、旋回している。
そして、頭上を飛ぶドラゴンの風圧で、おれの体力が削られていく。
(まずい! ただでさえ少ないおれの体力が! このままじゃ、ここに立ってるだけで、殺される!)
おれは、障壁魔法でバリアを張ろうとしているホブミの背後に逃げ込んだ。
おれが走りこんだ時、ちょうどホブミは呪文の詠唱を終え、おれ達の前にバリアが張られた。
おれたちの前方に、勇壮な赤いドラゴンがゆっくりと降りてきた。
バリアが張られた安全地帯からドラゴンをながめ、おれの心はおどった。
「本物のドラゴンっす! ドラゴン、はじめてみたー。なんかついに異世界っぽくなってきた!」
まぁ、今までも、異世界じゃないとありえない生物は、いっぱい出てきたんだけど。なんというか、かっこいい感じの生物が、ほとんどいなかったから。
「やっぱ、異世界といえば、かっこいいドラゴンとか、美しいエルフとかが出てこないとな! ……今度は、色っぽいエルフが出てきて、おいしい展開に……ムフッムフフフッ」
おれの脳内にセクシーなエルフの美女が浮かんだ。
すると、リーヌがホブミにたずねた。
「エルフってのは、うまいもんなのか?」
どうやら、リーヌはエルフが何か知らないらしい。食べ物かなにかと思ってるらしい。
ホブミは、あっさり答えた。
「おいしいとは思えませんが、丸焼きにするとよろしいかと」
おれの脳内のエルフの美女が、白いお皿の上の、こんがり焼けた「エルフの丸焼き」に変換された。
「うぎゃぁーー! なんで丸焼き!? ローストエルフなんて、ありえないっす! エルフは食えないっす!」
「なんだ。すげーまずいのか。じゃ、手に入れても捨てるしかねーな」
リーヌは理解していない。
なにはともあれ、おれ達の目の前にいるのはドラゴンだ。そして、ドラゴンの上には人がのっている。
ホブミが言った。
「あれは、S級冒険者のドラゴンライダー・レックスですね」
「うんうん。これぞ異世界だよな。ホブミがそれっぽい解説してくれるのは、いいっすね。リーヌさんだけだと、もうすべて混沌とした説明しかされないっすから」
おれがそう言うと、リーヌは自信満々に言った。
「ああ? なに言ってんだ。アタイは、いつでもバッチリ説明の名解説者だぜ」
疑わしさ100%なんだけど。
でも、しかたがない。のってやるか。と思って、おれは目の前にいるドラゴンを指さして、リーヌに言った。
「じゃ、リーヌさん。試しに目の前で飛んでるアレについて、解説してくれっす」
リーヌは元気よく言った。
「おう。あれは、トカゲだな」
おれは、あえて、つっこむのを待ってみた。
リーヌは言った。
「たぶん、パタパタトカゲだ」
(翼がはえてるからって、パタパタつけりゃいいってもんじゃないぞー。パタパタってレベルの風圧じゃないし)
と思いながら、おれはまだ待っといた。
「ツルツルボコボコで、あんま、キュートじゃねぇな。やっぱふわもこじゃねーとな。そうだ。大事な情報だぜ。トカゲはつかまえる時、しっぽつかむと、しっぽが切れるんだ。気をつけろよ」
「そうそう、トカゲはしっぽ切って逃げちゃうんすよね。つかまえた! と思ったら、しっぽだけだったり……」
「あと、トカゲはけっこう、うまいらしいぞ」
「え? トカゲって食べられるんすか?」
「おう。だから、ゴブヒコ、アレつかまえてこい。今日の夕飯だ。しっぽつかんじゃだめだぞ。胴体をつかむんだぜ」
「えー? おれがっすかー? おれ、腕短いから、あいつの胴体なんて、おれが十匹くらいいないとつかめない……って、ちがうっす! つっこむの待ってたら、いつのまにか、リーヌさんのペースにのせられてたっすけど。あの巨大な翼で空飛んでる赤いのが、トカゲなわけないじゃないっすか! あれはドラゴンっす」
そこで、ホブミがおれの言葉をさえぎった。
「いいえ。私がまちがっていました。あれは、トカゲです。リーヌ様がトカゲだとおっしゃるのなら、あれはトカゲにちがいありません。あれは、おいしそうな赤いトカゲと、トカゲに乗ったトカゲライダー・レックスです」
「んなアホな! ホブミ、事実をねじまげるな! S級冒険者の風格が一気にスモール級になっちゃったし!」
ホブミは、きっぱりと言った。
「私は悟りました。リーヌ様の言葉こそが、真実です」
「認めない! そんな捻じ曲げられた真実、おれが認めないっ! あれは、トカゲじゃなくて、ドラゴンっす。あすこにいるのは、かっこいいドラゴンとドラゴンにのったドラゴンライダー・レックスっす。さ、ホブミさん。ドラゴンライダーの説明をしてくれっす」




