4-19 賞金稼ぎのシロ 1
武器屋の入り口で唸り声をあげていたのは、刀を何本も腰にさした、もふもふかわいい白いお犬様だった!
いや、一応2本の足で立っていて着物っぽい服を着ている人型の生き物なんだけど。
顔はふっさふさでさっらさらの白く輝く毛並みがすばらしい、もっふもふなお犬様なのだ。その辺の野良犬より断然かわいくて、ふわふわもふもふな毛並みのお犬様だ。
柴犬とか北海道犬とかの、日本犬風なんだけど、もっとモフモフで、パッチリまん丸おめめだ。りりしい顔つきで、かっこいいんだけど、かわいい。日本犬にちょっとだけ洋犬の血がまじって、さらにかわいらしくなった感じのまるっこいお犬様。
手足は短めで背はおれよりは高いが、リーヌよりは小さい。ずんぐりとしたお手々にはぜったい、ぷにぷにの肉球がついている。
「もふもふどぅわーーー! もふもふキュートどぅわーーー!」
リーヌが興奮して叫んだ。
犬侍のもふもふキュートっぷりに、リーヌはすさまじく興奮し、そして、なんだかよくわからないが、リーヌを中心に暴風が起こり、竜巻になった。
店内の武器がうきあがり、うずまく旋風にまきこまれて、空中を飛びかう。
「ギャーーー! なんでいきなり大旋風を引き起こしてるんすか! おれが死ぬっすーー!」
店内を武器が乱舞する中、おれは、とりあえず、必死に床にふせた。
「なに!? いったい、誰がアタイの仲間に攻撃を!?」
「あんたっす!」
竜巻から飛び出したダガーナイフが、ホブミめがけて飛んでいった。ナイフはホブミの腹にぶつかり、服の中に仕込んでいた盾にあたり、カツンと音をたてて跳ね返り、おれの目の前1センチのところの床に突き刺さった。
「ギャー!」
「チッ」
ホブミが舌打ちしたのを、おれは、はっきり聞いた。
「ホブミ、わざとこっちに反射したろ!」
「なんのことでしょう? 仲間を疑わないでください」
「疑いようなく、おれの仲間が一番危ないんだけど!」
武器屋のカウンターの向こうでは、武器屋のおやじが飛んでくる斧や槍を手でつかみながら、どなっている。
「なにしやがんだ! 魔女! すぐにとめろ!」
「とまらねぇ! アタイの心に吹き荒れるもふもふ旋風が!」
心の中だけで吹き荒れるんならいいんだけど。リーヌの場合、心の外でも吹き荒れているからな。
もう、おれすら、武器屋のおやじに同情しちゃうほど、店内はめちゃくちゃだ。
十秒くらいたって、ようやく店内の台風は収まった。
表情をかえずに、入り口のところから、店内の惨状とおれ達の大混乱を眺めていた白いモフモフの二足歩行の犬侍は、かっこいい声で言った。
「店に迷惑をかけるわけにはいかない。外に出ろ」
犬侍は、外に出ていった。
「よし、行くぜ! モフモフ! モフモフ!」
リーヌは大喜びで、二足歩行犬侍について、外に出ていってしまった。
おれも、立ち上がって後を追った。
武器屋の外には、広場みたいな場所がある。その中心に、もふもふな生き物とリーヌは移動していった。
広場にいた人たちは、リーヌの姿を見て、そそくさと、移動していく。ふだんは、こういう反応をされると、ちょっとイヤな気分になるけど、今は、むしろ、ありがたい。どう考えても、近くに人がいたら、犠牲者が出るから。
「それにしても、モフモフだな。あのお犬様……じゃなくて、なんだろう。二足歩行で侍っぽいし。あれ、どういう生き物?」
おれがつぶやいていると、ホブミが教えてくれた。
「あれは『賞金稼ぎのシロ』です。名の知れたコボルト族の賞金稼ぎです」
「なるほどー。賞金稼ぎだから、わざわざリーヌに近づいて来たのか。でも、名前は、シロ……? なんか、あの見た目で、その名前だと、その辺の雑種の白犬に安直につけられた名前っぽくて、しょぼ……」
おれが思わずつぶやくと、耳の良い犬侍……じゃなくて、コボルトの賞金稼ぎは、それを聞きつけて、言った。
「愚弄する気か。ゴブリン。この名前は、おじいさんとおばあさんがつけてくれた、大切な名前だ」
ホブミが解説をした。
「賞金稼ぎのシロは、コボルト族の孤児でしたが、人間のおじいさんとおばあさんに拾われて育てられたそうです」
「なるほどなー。おじいさんとおばあさんが捨てられてた白犬を拾ってシロと名付けた……ていう風に聞こえるんだけど?」
ホブミはさらに説明してくれた。
「賞金稼ぎのシロは、育ての親への恩義をとても強く感じていて、稼いだ賞金でおじいさんとおばあさんに大きな屋敷を建ててあげたそうです。地元ではワンちゃん御殿と呼ばれているそうですよ」
「やっぱ地元でもワンちゃん扱いなの!?」
「顔は、モフモフ、白いわんこですが、凄腕の賞金稼ぎです。数多のA級賞金首を狩り、S級賞金首、S級モンスターも狩っています。コボルトなので冒険者ギルドには登録されていませんが、冒険者であれば、少なくともS級相当です。別名、四刀流のシロと呼ばれています」
「へー。見た目によらず、強いんだな。あのワンワン」
ホブミはさらなるシロ情報を教えてくれた。
「女性冒険者向け雑誌『アーンアン』によると、『今、一番もふもふな賞金稼ぎ』で、『抱きしめたい賞金稼ぎランキング 第4位』だそうです」
「そ、そんなランキングが……」
「モフモフだぜ! モフモフだぜ!」
さて、リーヌは、もふもふな賞金稼ぎを前にして、超喜んでいる。
リーヌは、年中ふわもこモフモフを夢見てるけど、リーヌに、かわいいモフモフが向こうから近づいてきてくれることなんて、ふだんは絶対ないから。
おれは、リーヌとコボルトから距離をとった場所で、ぶつぶつ言った。
「にしても、コボルトって、伝説じゃゴブリンと同じような存在なのになぁ。あいつは、かっこかわいいモフモフで、しかも強くて、おれは緑のぶっさーいくな激弱生物って、なんか、不公平だなー」
「種族の問題ではなく、個体の問題だと思いますが? コボルトも弱い種族です。シロは幼少期より血のにじむような修行をしてきた努力家だと言います。ゴブヒコさんは、努力のドも行ってないでしょう?」
ホブミは、至極まっとうなことを言った。
でも、おれだって、何もしていないわけではないから、言っといた。
「おれは、馬車馬のように働かされて、毎日、家事労働にいそしんでるから。もう、むちゃくちゃこきつかわれてるから」
「なるほど、馬車のバと家事のカは行っているのですね?」
「そうそう、バ、カは……って、バカにするなー!」
さて、おれとホブミがそんなバカ話をしている間も、賞金稼ぎのシロはすきのない立ち姿で、リーヌと対峙していた。
「覚悟しろ。『この町で名前を言ってはいけない存在』よ」
賞金稼ぎのシロは、4本の刀を鞘から抜いた。
「あん? アタイの名前はリーヌだ。それより、おまえ、瀕死になれよ。仲間にしてやっから」
リーヌはむちゃくちゃなことを言って、コボルトを仲間に勧誘している。
「愚弄する気か。俺をなめるなよ」
勧誘の意図は伝わらなかったらしい。……伝わるわけないよな。「瀕死になれよ」って。どう聞いても、ケンカ売ってるぞ。




