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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-9 もういちど異世界

 おれは洗濯をしながら、庭で優雅に午前中のアフタヌーンティーをいただいているリーヌとホブミ人間バージョンを眺めていた。

 ふたりとも見た目だけなら美女だから、なんだか、あの周囲だけ花が舞っていそうな光景だ。


 ちなみに、おれの左ではノライヌ2号が、すすぎ用に水をくんでおいたバケツに顔をつっこんでバシャバシャ水を飲んでいる。

 そしてノライヌ1号は、おれの右手からせっけんをうばおうとしている。


「これは食べ物じゃないの!」


 何度言っても、ノライヌ1号はわかってない。

 そんでもって、おれの左前方では、ノラネコ1世様が、


「なでたいんでしょ? なでてもいいのよ?」


 という顔ですわっていて、おれの右後ろではノラネコ2世様が、


「ニャー(我をほめたたえよ)、ニャー!(全力でちやほやせよ)、ニァー!(いいから食べもんみつげよ、このミツグ君が!)」


 と脅すように鳴いている。

 

「まったくー」


 庭に動物が多すぎるせいで、ただでさえ重労働の手洗いでの洗濯が、ぜんぜん進まない。

 こいつら、おれが庭でひとりでいると、えんりょなくからんでくるんだよなぁ。リーヌが近づくと全員全速力で逃げていくんだけど。


 ちなみに、大家さんは洗濯はほとんど全部、洗濯屋さんに出してしまう。下着とか以外は。

 洗濯屋の配達は謎のペリカンさんがやってるんだけど、わりとよく物を落としたりまちがえたりするから、町の通りに落っことされたら嫌なものは頼めないらしい。

 ともかく、洗濯屋に頼めば、おれの大仕事は一つ減る。


 だから、武道会から家に帰ってきた後、おれはリーヌにたのんだ。


「今はお金あるんすから、洗濯屋にたのんでくれっす」


 でも、リーヌは、おれの言うことを聞こうとしなかった。


「却下。だって、おまえの洗濯、おもしれーから」


 今もリーヌは、お茶をしながらこっちをながめて爆笑している。

 おれのパンツをくわえて逃げるノライヌ3号をおれが追いかけまわすのを見物しながら。




 こっちの世界で目が覚めた時、おれはすでにサイゴノ町の家に戻っていた。

 そういえば、イノキは庭の林の中に生えている……実は普段はめったに動かないモンスターらしくて、今はただの変な庭木にしか見えない。


 ホブミはサイゴノ町のホテルに泊まっていて、毎日家に来て一日中リーヌとおしゃべりしている。

 2人はしょっちゅう仲良さそうに町のおしゃれなスイーツ巡りとかしちゃってるし。

 ガールズトークに、おれの入りこむ余地はない感じだ。


 おれはノラ犬3号から奪いかえした洗濯物をタライに投げこみ、優雅にお茶をしているリーヌとホブミを見ながら、ひとり、叫んだ。 


「チクショー! ここは夜のない国なのかーー! 男なんていらないのかーー!」


 すると、すぐ近くから、ひつじくんの声が聞こえた。


『ゴブヒコさん、昔、先生が言っていたよ。お友だちをひとりじめすることはできないんだって。リーヌちゃんがほかの子となかよくしててさびしいのはわかるけど』


「ひつじくん!? いったいどこに?」


 リーヌのいる場所は、けっこう離れているから、リーヌのところから声が聞こえてきたとは思えない。

 ひつじくんの返事が近くから聞こえた。


『ゴブヒコさんのすぐちかくにいるよ?』


(まさか?)


と思って、おれが洗濯物の入ったタライの中をかきわけ探すと、ひつじくんネックレスが洗い物の中から出てきた。

 どうやら、リーヌはひつじくんネックレスをまちがって洗濯物の中にいれてしまったらしい。


「リーヌのやつ、ひつじくんの扱いがひどすぎるぞ」


『リーヌちゃん、わすれっぽいから。今日の朝も、ぼくのことをさがしていたけど、みつけられなかったんだよ』


「そうだな、リーヌは忘れっぽいからな。もうひつじくんのことはおれが保護しておこう。なくしちゃったらたいへんだ」


 おれは、ひつじくんネックレスを自分の首につけてみた。

 シンプルなひつじのシルバーネックレスだから、男ゴブリンがつけてもそんなにへんじゃないはずだ。まぁ、どうせ、おれがつければ、なんでも珍妙になるけど。


 ひつじくんは、おれに言った。


『ゴブヒコさん。むかし、テレビでだれかが言ってたんだ。「男のジェラシーは見苦しいぜよ」って』


「なにそれ? ひつじくん。そんなセリフ……おれもどっかで聞いたことがある気がするけど。でも、おれ、ジェラシーじゃないから。おれ、ホブミにジェラシーなんて、別に……」


 おれは、そこで、ちょっと考えた。


「でも、たしかに、いわれてみれば、これ、ジェラシーか? おれはホブミに嫉妬してるのか?」


 ひつじくんは、おれに言った。


『ゴブヒコさん。ぼくは、おもうんだ。なんでジェラシーなのか、リーヌちゃんに正直に言えば、きっと、ぜんぶ、うまくいくんじゃないかなって』


 ひつじくんに言われて、おれは、考えた。


「でも、おれ、なにに嫉妬してるんだろ?」


 なんでかよく考えてみたおれは、ある重大な事実を発見した。


「そうか! わかったぞ!」


『やっと、わかってくれたんだね。きっと、うまく……』


「おれは、甘党だったんだ!」


『へ?』


「ホブミとリーヌがふたりでスウィーツ巡りとか行くたびに、もやもやしてたんだよなぁ。おれもスイーツ食べたいって。今だって、ふたりでおいしそうなケーキ食べててさぁ。おれは、こっちで洗濯してるのにぃ」


 ひつじくんは、ちょっと沈黙した後、おれにたずねた。


『……ゴブヒコさんがほしいのは、ケーキなの?』


「うん。ありがとう、ひつじくん。今度、おれは正直に言おう。おれにもケーキちょうだいって。カフェやケーキ屋さんいくなら、おれの分もケーキ買ってきてって」


『ケーキだけでいいの?』


「さすがに、飲み物までは頼めないからな。ケーキだけで我慢しておこう。男がケーキ好きって、ちょっと恥ずかしくて、正直に言えなかったんだよな。だけど、ここだけの話、おれ、かなりの甘党なんだ」


『……そうなんだ。ぼく、べつのことが、はずかしくて言えないんじゃないのかなって思ってたんだけど』


「え? べつのこと?」


 ひつじくんは、まるで小さな子のめんどうを見ているやさしいお兄ちゃんみたいな声で言った。


『ううん、いいんだよ、ゴブヒコさん。みんな、自分のペースで成長していくんだから』


「うん。でも、ひつじくんの言う通りだよな。リーヌはひとりぼっちで寂しがってたから、友だちができたことを、よろこんでやらないとな」


 とはいえ、ほとんどリーヌと二人暮らしだった異世界生活初期が、今となっては、なんだか、なつかしい。

 おれはふと思った。


(あの頃のおれ、うらやましいなぁ)


 あの頃のおれは、「毎日こき使われてもう最悪」とか思ってたけど。

 いつからかな。いっしょにいると楽しくて、リーヌがいないと、さびしく感じるようになったのは。


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