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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-8 告白

 不良たちが真城さんに制裁を加えようとしていると気づいたおれは、真城さんに連絡を取ろうと、スマホを探した。

 でも、おれの痛スマホは、みつからなかった。

 

 おれはあきらめて、とりあえず、また体育座りをして願った。


(真城さん、もう、おれのことなんて放置でいいから。来ないで。どうせ、おれ、放置されてるだけだから)


 それに、実はおれ、「90%くらいの確率で、真城さんは来ないんじゃないかな?」と思ってた。

 おれは、いつもなにかと無視されたりスルーされがちだからな。今頃、真城さんは、おれのことなんて忘れて、歩武さんと遊びに行ってるかもしれない。

 そもそも、真城さんにとって、おれは限りなく他人に近い知り合いのブサイクなオタク系男子でしかないし。

 きっと、真城さんは電話を切った後で、よく考えたら、「ま、いっか。山田だし」とか思ってるかもしれない。

 真城さんと一緒にいるはずの歩武さんも、「いいんじゃない? 山田君だし。日本中に山田君なんて掃いて捨てるほどいるんだから。きっとすぐに次の山田君が出てくるよ」とか言いそうだし。

 それどころか、歩武さんなんて、おれの殺害計画してるんだから、「自ら手を下す必要がなくなってラッキー」とか思ってそうだし!

 だいたい、魔王にさらわれたお姫様だったら、みんな助けにいくだろうけど。打威魔殴にさらわれた山田(男)が、って聞いても、おれだって、「だいじょうぶだよ。山田なんて、いくらでもいるんだから」って言っちゃうぞ。


 


 ところが、やがて、倉庫の入り口に、金髪をなびかせた真城さんの姿があらわれた。


「山田!」


「ま、真城さん……わざわざ、山田なんかのために……」


 おれは立ち上がって、うろうろおろおろした。おれは、感動したと同時に、焦っていた。


(どうしよう! 真城さん、来ちゃったよ!?)


 真城さんは、おれを見て、ほっとしたような表情をうかべた。


「山田、無事か?」


 おれはうなずいた。

 でも、おれはほっとしてない。

 真城さんは、たった1人だ。


(まずいぞ。真城さん、ひとりで乗り込んじゃって。おれは、戦力外だし。相手は何十人もいるし)


 どう考えても、真城さん1人じゃ勝ち目はない。

 おれは、「真城さん、逃げて!」と叫ぼうとした。


 だが、その時、奥から初代総長が出てきた。


「久しぶりだな」


 初代総長が、真城さんへ声をかけた。

 真城さんは、倉庫の中へとゆっくりと歩いて入ってきた。

 初代総長と真城さんは、互いをじっと見ている。

 初代総長と、真城さんは、無言で向き合っている。

 打威魔殴の構成員たちは、全員が真城さんと初代総長を見つめている。

 おそろしい、緊張感だ。西部劇のガンマンの早打ち対決を見ているかのようだ。

 緊張で、おれの胃がキリキリいう。

 真城さんは、うつむき、言った。


「シャバーニ……。すまない。シャバーニが留守の間は、あたしが打威魔殴を守るって約束したのに。あたしは打威魔殴をつぶしちまった……」


 うぅ。おれは緊張で倒れそうだ。

 だけど、初代総長は意外にも、やさしげな声で言った。


「気にするな。話は聞いた。ヤクザとの抗争から、こいつらを守るため、ひとりで組長のところに乗り込んで、打威魔殴の解散で、話をつけてきたんだろ? おまえは、たいしたやつだよ」


 打威魔殴の構成員たちは、うなずいている。ちょっと涙ぐんでいる者までいる。

 真城さんは、照れたように金髪をかいて、文句を言った。


「あんだよ。内緒にしとけっつったのに。なんでみんな知ってんだよ」


 この場所に、なんとなく温かい雰囲気が漂っていた。

 そんな中、おれは1人、青ざめていた。


(ヤクザと抗争は、本当だったのかぁ!!!)


 昨日、帰り道でからんできた不良たちも言ってたけど、あれは根も葉もない噂だと、おれは信じていたのに……。

 初代総長は、ちょっとあきれたような調子で続けた。


「俺のいない間に、打威魔殴を伝説といわれるくらいに大きくしちまったしな。打威魔殴なんて冗談で名乗ってただけなのにな。いつのまにか俺が伝説のチームの初代総長とやらになっているんだ。おどろいたよ」


(伝説にしちゃったのは、真城さんだったのかぁ!!!)


 初代総長は続けた。


「おまえが後をつぐって言いだした時から、こうなっちまうんじゃないかって心配してたんだが。予想通り、やりすぎだ」


(真城さんが、やりすぎちゃったのかぁ!!!)

 

 それにしても、初代総長の声は、ずいぶんとやさしい感じだ。どこか、うれしそうに見えるし。

 どうやら、真城さんが制裁を受けるという、おれの予想は、完全に外れそうだ。

 初代総長は言った。


「急に呼び出して、悪かった。俺はすこし、おまえと話がしたいだけだ。おい、はずせ」


 初代総長が目配せすると、打威魔殴の構成員たちは全員、この場を離れていった。


(おれは、どうしたらいいんだ?) 


 どうしたらいいのかわからなかったので、おれは、その場で右往左往していた。

 おれには構わず、初代と2代目総長のお話は進んでいった。

 初代総長は、さっきまでとは違って、ちょっと緊張した様子で、言った。


「塀の中で、俺が考えていたのは、おまえのことだった。会えなくなってはじめて、俺は俺にとって、おまえがどれだけ大事だったのか、気がついたんだ。ずっと一緒にいたのにな。一緒にいた時には、気づかなかったことに、俺はようやく気がついたんだ。だから、外に出たら、一番におまえに会って、伝えようと思っていた」


(あれ? なんだか、これ……)


 どうやら、おれは、初代総長が真城さんを呼びだした理由を、完全に真逆の方向に勘違いしていたようだ。

 初代総長は、はっきりと言った。


「愛している。俺とつきあってくれ」


(愛の告白だったぁーーー!!!)


 真城さんは、驚いたようすで、何も言わない。

 すると、初代総長は、少し目を伏せて、続けた。


「俺はおまえがずっと、小学生の時に死んでしまった初恋の相手、色白でかわいい感じの、ゲームが得意だった幼なじみのことを、忘れられないことは知っている」


(このイケメン初代総長、真城さんの初恋情報まで知ってるなんて……)


 初代総長は、見た目とはギャップのある誠実そうな声で続けた。


「俺はおまえの幼なじみとは似ても似つかない。おまえの幼なじみの代わりになれるとも思わない。だが、俺はなにがあってもおまえを守る。なにがあってもおまえを愛しつづける」


 うぅ。なんだか、感動的だ。

 てか、これ、もうプロポーズじゃね? 

 もう、結婚式が見えそうだ。おれのまぶたの裏で、二人は花吹雪の中を歩いているぞ?

 初代総長、なんやかんやいって、かっこいいし。おれだって、百分の一でいいから、こんな男になりたいし。

 それより、なにより、このふたり、身長にしろ、顔にしろ、ファッションにしろ、どっからどう見ても超お似合いの美男美女カップルだし。

 こんなにツーショットが決まってる美男美女なんて、めったにいないし。

 これは、もう人類の貴重な財産だ。子孫繁栄を願っちゃうし。

 邪魔者は、立ち去ろう。

 なぜだかものすごく悲しくて心臓が痛いけど。


(どうか、お幸せに)


 心の中で、そう告げて、おれは立ち去ろうとした。

 その時。


「おい!」


 だだっ広い倉庫の中に、真城さんのどなり声が響いた。

 おれは反射的に立ちどまり、振り返った。


「ぬわに勝手に……」


 右腕を横にのばし、こっちにむかって跳躍する、怒れる金獅子、特攻爆殺ヴァルキリーそして至高の破壊神な、真城さんの姿が、一瞬だけ見えた。


「ひとりで帰ってやがんだぁーーーーーー!!!」


 怒号とともに、おれに真城さんの超絶ラリアットが炸裂した。

 おれの身体は、華麗にふきとんだ。


(そうだよな。わざわざ助けに来てくれたのに、おれ、ひとりで帰っちゃまずかったよな。「ありがとう」と「さよなら」を言わないとな)


 おれは、反省した。


(あぁ……それにしても。異世界ならともかく、現実でこんなに華麗に宙を舞うなんて……)


 最後にそんなことを考えて、おれは意識を失い、青黒い闇の中へと沈んでいった。



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