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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-4 誕生日プレゼントを探せ

 歩武さんに真城さんの誕生日について聞いた時、おれのバイトの残り時間は、あと十分くらいだった。

 だから、その十分後。おれは、例のかわいい雑貨屋さんの店頭にいた。

 本屋でバイトをはじめてから気づいたけど、この店、品ぞろえがけっこう謎だ。誰が選んで仕入れるんだか、いろんな系統のオモチャやぬいぐるみが、変なのふくめて売られている。

 そして、歩武さんが言ってた場所で売られていたのは……女児向け変身アニメ「プリプリ☆プリスター」のグッズだった。


(こんなものがほしいの?)


 このアニメ、小学生くらいの女児向けのはずだけど。でも、真城さんの趣味はまったくわからないしな。意外と好きなのかなぁ……。女児向け変身アニメが好きなヤンキー……想像つかないっていうか、大爆笑なんだけど。

 でも、歩武さん情報だからな。きっと、まちがいないはずだ。


(だけど、これ買うの、かなり恥ずかしいぞ)


 おれは、オタクかもしれないけど羞恥心はもっている。そして、プリプリ☆プリスターは、おれにとって圏外だ。好きならともかく、全然興味ないのに、恥ずかしい思いをしたくない。


 そんなことを考えていたら、お母さんと買い物にきていた小さな女の子が、おれの後ろで母親に言った。


「ママ、大きいおにいちゃんがプリスターの……」


「シーッ」


(うぉー! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!) 


 おれは、べつに大きなお友達じゃないのに。

 しかも、真城さんが、このワゴンの中の、どれが欲しいのか、さっぱりわからない。

 ここに置かれているのは、変身用ペンダント、ステッキ、コスチューム、そしてマスコットキャラのぬいぐるみだ。

 おれは、ワゴンの前に立ちつくし、考えた。


(ふつうに考えれば、マスコットキャラのぬいぐるみか?)


 というか、おれが手にとってもかろうじて許されそうなのが、ぬいぐるみだ。


(リーヌもふわもこ好きだし……)


 だが、そこで、おれはふと気づいた。


(でも、もしも真城さんの思考回路がリーヌに似ているなら、おれの想像の斜め上をいきそうだぞ?) 


 リーヌがふつうの選択をするとは考えられない。

 むしろ、一番意外なのを選びそうだ。


(てことは、コスチューム……?)


 おれは、ピンクのフリフリの衣装を眺めた。

 だけど、一番大きいサイズでも入らないだろうな。真城さんは、おれよりけっこう背が高いから、確実に170センチ以上はある。

 ……いやいや、それ以前に、さすがにコスチュームはないよな。これをあげるのは、まずいって。


「おまえは、あたしにこれを着ろっていうのか?」


って、すんごい怖い目で言ってる真城さんの顔が想像できるぞ。

 下手したら、おれ、殺されるぞ?

 はずれた時のリスクが大きすぎる。これは、やめておこう。


(なら、ステッキは、どうだ?)


 おれは、先端にピンク色の星と天使の羽みたいなのがついた小さな白いステッキを見つめた。たぶん、スイッチをいれると、光って音がでるやつだ。

 おれは、真城さんがこれを持っている様子を想像してみた。

 ……思わず、ふき出した。

 これをもって、何と戦うんだ?

 ヤンキー女がこれを振り回してケンカしている図なんて、シュールすぎるぞ。

 

 落ち着け、おれ。

 そもそも、こういうアニメで一番大切なのは、変身シーン。


(てことは、変身用ペンダントか……?)


 おれが考えていると、背後から声が聞こえた。


「ママ、大きいおにいちゃんが、ずっといるよー。プリスターのおもちゃ見たいのに」


「シーッ。あとでまた来ればいいでしょ? 早くいきましょ」


 うぅ。おれがこうして迷っている間に、あの女の子がすんげぇ恨み節の目でこっちを見てる。

 そして母親の方は、あきらかにおれを警戒している。

 おまけに、通りがかる人達のあらゆる視線が痛い。

 おれは、空気は読めないが、視線には敏感なのだ。


(くそっ。早く決めねば。おれの心がもたない。仕方がない。全部買うか? 大人買いか? 大きいお友達でもないのに? でも、もう他の選択肢はない!)


 おれがプリプリ☆プリスターのグッズに手をのばそうとした、その時。おれのスマホが鳴った。

 おれは、電話をとった。


「もしもし、山田君?」


「歩武さん?」


 おれが、本屋の方をふりかえると、歩武さんは、本屋のはずれに立って、こっちを見ながら、電話をかけている。


「今、そっち見たんだけど。ワゴンの中身、かわってるみたい。そこのおもちゃじゃなくて、ゴリラのぬいぐるみだから」


「そういうことは、早く言ってよ!」


 おれのこの恥ずかしい思いは、いったいなんだったんだ!

 まぁ、手遅れになる前に教えてくれて、助かったけど。

 あんなの全部買っちゃってからだったら、おれはもう、立ち直れないからな。処分にも困るし。


 おれは店内に入って、ゴリラのぬいぐるみを探した。それらしきものは、1種類しかなかった。

 なんだか渋くてイケメンな顔のゴリラのぬいぐるみだ。アゴに手をおいたポーズで、なんだか物憂げに物思いにふけっていそうな表情のゴリラだ。


(真城さんは、ゴリラが好きなのか?)


 おれはゴリラのぬいぐるみをひとつ手にとった。ふわふわしてて手触りがいい。

 それにしても、こいつ、ゴリラのくせにイケメンだ。おれより、ずっとイケメンだ。


(このこのー。なんでおれよりイケメンなんだよー)


 おれは、ゴリラのぬいぐるみを指でブシブシ押しながら、お店のレジカウンターに向かった。

 レジに行こうと歩いていて、おれは店のすみっこにひっそり存在していた、値下げ品が入っている小さなワゴンの前を通りがかった。

 通りすがりにワゴンの中をなにげなく見ていたおれは、そこに小さな目覚まし時計があるのに気がついた。


(あれ? ひつじくん!?)


 おれは足をとめ、ワゴンの中をよく見た。

 ワゴンの中には、いくつかの値下げ品にまじって、異世界で出会ったひつじくんの初期フォルム、羊のめざまし時計にそっくりな時計が、1つだけ、ぽつんと置かれていた。

 リーヌの部屋で、ひつじくんに初めて会った時には、あのめざまし時計は、すでにすっかり壊れて、あちこち欠けていて、見るも無残な、むしろちょっとホラーっぽい姿になっていた。

 でも、このワゴンの中のめざまし時計は、まだ壊れていない。ふつうにかわいい羊だ。


(ひつじくん、本当は、こういう姿だったのか……)


 長いこと売れ残っていたのか、白い目覚まし時計はちょっと黄ばんでいる。そして「在庫処分品 7割引き」のシールが貼られている。


「ひつじくん、こんなところで会うなんて」


 おれは、ものすごく小さな声で言ってみた。でも、残念ながら、この世界では、羊のめざまし時計は返事をしてくれなかった。

 7割引きになったひつじくん目覚まし時計は、価格的にもリーズナブルだ。買わない理由はない。

 おれは、羊のめざまし時計を手にとり、いっしょに会計に向かった。


 このお店の店員さんは、いつみても、かわいいお姉さんだ。

 たぶん、このお店の店員さん、何人かいるんだけど、みんなかわいいから、おれは、見分けがつかない。

 おれ、よっぽど目立つ特徴のある人じゃないと、なかなか顔とかおぼえられないんだよな。

 おれが、ゴリラのぬいぐるみと羊の目覚まし時計をカウンターに置くと、店員のお姉さんは、おれにたずねた。


「プレゼントですか?」


 おれはうなずいた。

 かわいいお姉さんは、値札をはずすと、商品をかわいい包装紙で丁寧に包んでくれた。

 かわいいお姉さんが、可憐な指でやさしく、ゴリラのぬいぐるみと、ひつじくん目覚まし時計を一緒に包むのをながめていて、おれは、はっと気がついた。


(しまったぁ! ひつじくんを別にしてもらうの、忘れたー……)


 ひつじくん目覚まし時計は、おれ用だったんだけど。異世界の思い出に、自分の部屋においておきたかったのだ。

 でも、もう手遅れだ。

 今から、「やっぱり羊のめざまし時計は別にしてください」、なんて恥ずかしがり屋のおれには言えない。ていうか、店員がかわいいお姉さんだから、おれには何も言えそうにない。

 しょうがない。ひつじくん目覚まし時計はゴリラのぬいぐるみと一緒に真城さんにあげることにしよう。真城さんがリーヌに似ているなら、きっと、羊のめざまし時計を喜んでくれるはずだし。


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