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最弱ゴブリンは気がつかない [工事中]  作者: しゃぼてん
4章は、これから書き直す予定です
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4-3 本屋の会話3

 歩武さんは、おれにたずねた。


「山田君って、そもそも真城さんとどういう関係なの? 最初に会った時は二人一緒にいたから、何かの間違いで知り合った友だちか、血のつながりのない親戚なのかと思ったんだけど。あれ以来、二人が話しているのも見たことないし」


「えー……」


 どういう関係と聞かれてもなぁ……。真城さんが異世界の知り合いに似ていたから追いかけていたら、おれは一回殺されかけて、なんやかんやで……。

 おれは答えを見つけた。


「いっしょにバイトをクビになった関係だよ」


 歩武さんは、けげんそうな顔で、おれに聞き返した。


「それって、つまり?」


「つまり? ……かぎりなく他人に近い知り合い?」


 おれは正直に、一番おれと真城さんの関係に近いと思われることを答えた。一緒にバイトをクビになった以外に特にないんだから、これしかないよな。

 すると、なぜだか歩武さんの目つきが険しくなった。

 しばしの沈黙の後、歩武さんは、なんだかちょっと憎しみまでこもってそうな声で、唐突に、ぼそっと言った。


「とっとと、告白して」


「えぇ? こ、こ、こ……」


 びっくりするおれに、歩武さんは冷たい声で言った。


「だって、失うものもないんでしょ? 友だちですらないんだから。とっとと告白して玉砕してくれたほうが、不快な視線ストレスがなくなって、ありがたいんだけど」


「い、い、いやだよ。玉砕なんて……」


 おれは繊細な心の持ち主だから。玉砕なんてしたら、ショックで引きこもったり、断崖絶壁や樹海に旅行に行っちゃうかもしれない。

 歩武さんは、依然として冷たい声で、たたみかけるように、おれに言った。


「いっしょでしょ? ほぼ他人なんでしょ? 失うものなんてないんでしょ?」


「そうだけど」


 歩武さんは、なぜか憎しみが大量にこもってそうなため息を、どはーっと、吐いた。それから、なぜか、とても苦々しそうに言った。


「たで食う虫も好き好き。ゴキブリをペットにする人だっているんだから、山田君にだって、チャンス、あるかもよ?」


「ゴキブリにたとえなくてもいいんじゃないかと……」


「ちょうどいいたとえだと思ったんだけど」


「たしかに、おれと真城さんじゃ、つりあわないけど……」


 今のおれは、ゴブリンの時とくらべれば顔の醜さはちょっとマシだけど……というか、今はせめて人間だけど。

 でも、おれは、ちょっと前まで引きこもりだったブサイクなコミュ障で、当然お金や学歴があるわけないし、背も低いし、体力や力は限りなく低いし、それに、あきらめ早くてビビリでチキンで……まだまだいっぱい言えそうだけど、このへんにしておこう。おれの心がもたない。

 それにしても、ゴキブリはひどいよな。せめてゴブリンにしてくれ。せめて二本足に。


 おれは歩武さんに言った。


「ゴキブリが告白しようとしたら、速攻たたきつぶされちゃうよ」


「うん。だから、ちょうどいいでしょ?」


 歩武さんは、そう言って、にっこりと笑った。


「たたきつぶされる予想なの? たしかに、おれも、そうなると思うけど」


 おれが真城さんに告白して、OKもらえるのって、想像できないんだよな。

 おれの妄想力をフル回転しても、想像がつかない。

 KOくらうのは予想できるけど。

 てか、90%の確率でKOがくる気がする。バッチリ宇宙までふっとびそうな勢いでKOされそう。

 残りの10%は、「あ? 聞こえなかったんだけど? 今、なんつった?」みたいな返事だな。おれ、声小さいから。

 だけど、歩武さんは首を横にふると、力強く言った。


「ううん。わたしは、願ってるの。山田君が叩きつぶされてくれないかなって。心から、全力で、あらゆる神様と仏様に、願ってるの」


「そんなに願わないでよ! 歩武さん、そんなに、おれのこと嫌いだったの?」


 歩武さんは、小さなため息をついた。


「山田君のことが嫌いなわけじゃないの。山田君の顔は嫌いだけど。あと、言動と、服装と髪型と、存在も嫌いだけど」


「ものすんごく、おれのこと嫌ってるじゃん。存在までって……」


 まさか、そこまで嫌われていたとは。ゴキブリなみの嫌われようだな……。

 あ、だから、歩武さんは、おれをゴキブリにたとえたのか。納得。


「でも別に、山田君のことは、そんなに嫌いじゃないの。もしも山田君単独で存在してたなら。だけど、この状況だと。山田君を見ると、ついつい、死んでくれないかなって思っちゃうの」


「おれに殺意まで抱いているの!?」


 歩武さんは、ため息をつきながら言った。


「気にしないで。山田君が悪いわけじゃないから。たまたま、山田君がいるポジションが許せないだけで。特に山田君がそれに気づいてもいないから、ますます殺意をおぼえるだけで」


「ご、ごめん!」


 おれは、あわてて2歩横に動いた。


「でも、殺意をおぼえるほど嫌なら、すぐに、どけって言ってよ。おれ、言われたらすぐに移動するよ?」


 おれが言うと、歩武さんは言った。


「物理的な場所じゃないの! むしろ、そういうところ。山田君が山田君だから、嫌で嫌でたまらないの。あぁ、山田君。あなたはどうして山田君なの?」


「おれだからだよ!」


「山田君が、ハンサムで気の利く王子様なら、殺意なんていだかないで応援できるのに。でも、気にしないで。山田君が悪いわけじゃないから」


「気になるよ! おれがおれだからって理由で、悪くもないのに殺されたくないよ」


 歩武さんは、ちょうど作り終えた推理小説のPOPをわきに置きながら言った。


「じゃあ、なるべく早く真城さんに告白してね。じゃないと、わたし、推理小説を純粋に楽しめなくなりそうだから」


「え? なんで?」


「ほら、このトリック、山田君を消すのにつかえるかな? とか考えながら読んでいると、推理小説を純粋に楽しめないの」


「おれの殺害を具体的に計画してたの!?」


「4つ、計画はできてるけど」


「そんなに!?」


 冗談だとしても、怖すぎる。そして、なぜか、歩武さんの目は冗談を言っているように見えない。でも、冗談に違いないけどな。だって、殺害計画だぞ? まちがいなく……冗談だよね?


 そこで、歩武さんは、思い出したように、おれに忠告した。


「そうそう、真城さんに告白するなら、面と向かって口頭でね。真城さん、文字を読むのが大っ嫌いだから。申込書や履歴書すら、文字が嫌いだから書かないって言ってたもん。手紙やメールを送ったら、絶対、読まずに捨てられるから」


 そういえば、以前も真城さんは、メールやLINEはダメだって、はっきり言ってたな。

 でも、おれ、しゃべるのが、超苦手なんだけど。

 ますます、ハードルが高いぞ。

 近頃コミュ障がマシになってきたとはいえ、おれは、緊張すれば、なに言うかわかんない、というか、たぶん何も言えないやつなのだ。

 ふつうにしゃべるのさえ苦手なのに、「好きです」とか「つきあってください」とか言うの、ぜったい無理だし。

 ていうか、しゃべる以前に、真城さんと面とむかうなんて、想像するだけで、むちゃくちゃ緊張、というか、びびるし。

 ……これ、もう、無理だな。うん。あきらめよう。どうせ、KOされるだけだし。


 そう、おれが心の中で決めた時、歩武さんは、おれにたずねた。


「で、山田君。真城さんの誕生日、知りたい?」


「え? う、うーん……」


「なんで、はっきりしないの?」


 歩武さんの声は、いらだっている。

 おれは、いつも通り正直に答えた。


「だって、知ったってどうにもならないし」


「誕生日プレゼントあげよう、くらい思いつかないの?」


 歩武さんは、とても苦々しい声で、ほおをぴくつかせながら、そう言った。

 どうやら、おれの好感度はさらに下がったようだ。

 たぶん、ゴキブリ以下に。

 これは、本当に、おれの命が危なくなりそうだぞ……。


「ああ、そっか。プレゼントか」


(誕生日プレゼントくらいなら、あげられるかもな。渡すだけで、しゃべらなくていいんだし)


 そう思ったおれは、前向きに検討した。


「でも、なにをあげたらいいんだろ……。ぬいぐるみかな?」


 おれがつぶやくと、歩武さんは親切に教えてくれた。


「そういえば、真城さん、そこの雑貨屋さんの店頭のワゴンの中にあったおもちゃをほしがってたよ?」


 歩武さんが言っているのは、以前、おれと真城さんがバイト探しに立ち寄りかけた、このショッピングセンター内の雑貨屋さんのことだ。


「え? そうなの? じゃあ、それ、今度買おっと」


 歩武さんは、さらっと言った。


「今日買ったほうがいいと思うけど」


「え?」


 聞き返したおれに、歩武さんは告げた。


「真城さんの誕生日、明後日だから」



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