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3-28 とりあえずセーブ

 おれの視界全体が一気に青黒くなっていく。

 おれは、青黒い闇の中に横たわっていた。

 どこからか、聞きなれた声が聞こえた。


「あっきれたー。あんたねー。空気が読めないにも、ほどがあるわよ。あすこで、あの行動とる? 信じられないわー」


「あ、青い妖精……」


 今回の青い妖精は、いつもの、小さくゆれ動く光の姿だ。

 等身大母ちゃんの姿じゃなくて、よかった……。いつも優しい母ちゃんの姿で、こんなきついこと言われたら、おれの心がさらにズッタズタにされちゃうからな。

 青い妖精は、容赦なくしゃべり続けた。


「それに、なによ。あんた。ちょっとはむっつりスケベになって、かっこつけなさいよ。そのくせ、大事なことだけは言わないんだから」


 おれは、まだ、武道会で罵声と非難を浴びまくった精神的ダメージで、立ち上がれなかった。なので、寝そべったまま、青い妖精に抗議した。


「え~? そんなに責めるなよ~。みんなのブーイングで、おれの心はボロボロなんだからー」


 青い妖精は、冷酷に言いはなった。


「自業自得じゃない」


「自業自得の時ほど、おれの精神的ダメージは大きいんだから。かわいそうに思って優しく……されたら、それはそれでつらいな。かわいそうに思ってるのがわからないように、さりげなく優しくしてくれよ。ふわふわのわたあめをそっと両手で包み込むようなやさしさで」


「両手でパーンとつぶしてやるわよ!」


「わたあめが押しつぶされて板に! まぁ、わたあめは、つぶしてもおいしいから、いっか」


「にしても、ほんと、ありえないわー。あの子は、なに考えてんのかしら」


 青い妖精はひとりでぶつぶつ言っていた。

 おれは倒れたまま、青い妖精にお願いした。


「そんなことより、頼むよ。青い妖精、おれを、あっちの世界にもどしてくれ。セーブ! セーブ! いつものセーブ!」


 青い妖精は、つき放したような声で言った。


「あんた、こっちの世界に永住するって言ってなかったっけ? もう絶対、あっちの世界には帰らないって宣言してた気がするんだけど?」


「いやー、たしかに、そう思ってたんだけど。おれは、今のこの苦しみを乗り越えられる自信がない!」 


「自信満々に言うんじゃないわよ!」


 今は会場全体から注がれる敵意に満ちた視線と罵声から逃げられるなら、何でもよかった。

 青い妖精は、空中をふらふらゆれながら、言った。


「まー、わたしはどっちでもいいんだけど。でも、たしか、あんた、あっちの世界でも、ピンチになってたんじゃなかった? バイト仲間の写真ばらまいて」


 異世界で色々あったせいで、あっちの世界での出来事は、もうずいぶん前のような気がする。

 だけど、たしかに、おれは、歩武さんに本を渡そうとして、その本から、歩武さんの裸の写真がパラパラ落ちていって……。それで、真城さんに殺されかけて、こっちにきたんだった。


「そういえば、盗撮犯と誤解されて、人生終わってた……」


 だけど。おれは、ここで、このよくわからない異世界転生システムを考えた。……いや、よく考えると、全然、転生じゃないんだけど。おれ、死んでないし。

 とにかく、青い妖精がセーブとかロードとか言って、おれが、あっちの世界とこっちの世界を行き来するたびに、ちょっとタイムラグがある。

 今までの経験では、あっちの世界からこっちの世界に来たときは、ちょっと時間が未来にとんでいて、こっちの世界からあっちの世界に行った時には、ちょっと時間が過去に巻き戻っているのだ。

 前回は、それでやり直して無事、「真城さんにぶち殺されエンディング」を回避できたわけだ。

 だったら、今回も同じようにすればいい。

 おれは、青い妖精に説明した。


「ほら、また時間が巻き戻れば、やりなおせるだろ? 今度は、あの本を歩武さんにわたさなければいいだけだから。そしたら、また別の未来になって、平和に暮らしていけるだろ? んでもって、今度、こっちの世界に戻って来た時には、こっちの大ブ―イングもおさまってるはずだし。だから、今、いったんあっちの世界に戻っとけば、万事OK!」


 こっちの世界に永住するのは、次に戻ってきた時にすればいいもんな。


「ふーん。じゃ、セーブする?」


 青い妖精がたずねてきたので、おれは元気よく答えた。


「うん、する!」


 青い妖精は、明るい調子でおれに告げた。


「オッケー! 時間のずれは、わたし、コントロールできないんだけど。じゃ、バイバーイ」


「え? 今、なんて言った? え?」


 おれの目の前の景色はぐるぐるとまわり、おれの意識は遠のいていった。


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