表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/170

3-27 それぞれの結末

 ホブミの体が、ふたたび白い光につつまれた。

 光が消え去った時には、ホブミは賢者の服をちゃんと着た、まじめそうな女賢者の姿に戻っていた。

 女賢者は地面に崩れ落ちた。


「だいじょうぶか、ホブミ!」


 崩れ落ちるホブミを見るやいなや、リーヌがホブミのところへ駆け寄った。

 アナウンサーは叫んだ。


≪おおーっと、女賢者は禁呪を唱えたことによる代償のダメージを受けてしまったようだ! なにしろ、幻覚とはいえ、あんな姿を会場中の男たちに見られてしまったんですから、そのダメージは計り知れません! いくら幻覚だったとしてもあの映像は脳内から焼き付いて消えないのです! 忘れようが……ありません……≫


 駆けつけたリーヌに、ホブミは言った。


「リーヌ様。申し訳ありません……」


 ホブミは両手で顔をおおったまま、地面につっぷした。瀕死に見える。ケガひとつないけど。


「しっかりしろ、ホブミ」


 まるで仲間が死にかけているかのような真剣さで、リーヌは声をかけた。

 おれは、そんな二人の様子をながめながら、つぶやいてしまった。


「禁呪の代償っていっても、たいしたことないよーな気がするんだけどな。幻覚で裸を見られて恥ずかしいってだけだろ? おおげさだなー」


 別に、命に別状はないわけで。

 ひつじくんが、おれをたしなめた。


『昔、先生が言っていたよ。苦しさは本人にしかわからないものだって。ゴブヒコさんは、人前ではだかになるのが大好きかもしれないけど、ホブミさんは、とっても、いやだったんだよ』


「ごめん。……でも、ひつじくん、なんか、今の発言、おれに関するところ、ちょっとおかしくなかった?」


『そお?』


「おれ、露出趣味とかは、ないからね? 人並みに健康な若者なだけだからね?」


『そお?』


「なんで疑問形なの!? おれ、ちゃんとしたお兄さんだから! そんな、変態じゃないから!」


 ひつじくんは、なにも答えなかった。

 アナウンサーは実況を続けている。


≪賢者は大丈夫か? あーっと、私には、妻からのメッセージが。私は大丈夫か? えーっと……「もう愛想をつかしました」だとーーーーー!!!≫

 

 あちらの被害も大きいようだ。

 観客席では、あちこちで女性の怒鳴り声やひっぱたく音、蹴りつける音が鳴り響き、騒然としている。

 女賢者ホブミは、うつ伏したまま、リーヌに謝った。


「リーヌ様、本当にごめんなさい……。私はリーヌ様を裏切り……」


「ホブミ、しっかりしろ! アタイは気にしてないぞ。いまでも、ホブミはアタイの友だちだ」


「リーヌ様……。私を許してくださるんですね」


 ホブミは顔をあげた。

 リーヌは真剣な眼差しで言った。


「ああ。気にすんな。おまえがやったことなんて、たいしたことじゃない。ゴブヒコはいつも百倍罪深いことをやってるからな」


 おれは、思わず叫んだ。


「ええ!? おれ、ふだん、なにも悪いことしてないっすよ? むしろ、いろいろ気をつかってるのに?」


『ゴブヒコさん、昔、先生が言っていたよ。やられた子がどういうふうに思うかは、やった子にはわからないんだって。やられた子がいやだと思ったら、それは、いけないことなんだよ』


「いや、ひつじくん。いじめに関しては、そうかもしれないけど。おれ、リーヌをいじめたりしてないから」

 

『ゴブヒコさん。よく考えて。リーヌちゃんが、ああ思っているっていうことは、ゴブヒコさんは、ひどいことをしてるんだよ』


「えぇ? おれが悪いの?」


『うん。ぼくは、いつでもリーヌちゃんの味方だからね』


 ひつじくんは、断言した。


 リーヌはホブミの肩にそっと手を置いた。


「ホブミ、友だちになれた記念に、これやるよ」


 そう言って、リーヌは落ちていた勇者の盾を、持ち上げた。


「え? あれって、おれがほしかった勇者の盾……」


 今、リーヌが何気なーく、ホブミにあげちゃおうとしているものは、まさにおれが最弱から最強になるために追い求めていた、受けるはずのダメージをそのまま反射できる、とても貴重なチート装備だ。

 おれが装備すれば、ものすごい破壊力を発揮できるはずの。

 あれがあれば、ついに、おれが最弱から最強に成り上がれるはずの。


「あのー。リーヌさん、それ、その盾は……」


 おれの声は、二人には届いていない。

 女賢者ホブミは、リーヌを見つめた。


「リーヌ様。よろしいんですか?」


 リーヌは、盾を差し出し、うなずいた。


「おう。友情の証だ」


 ホブミは盾を受け取ると、大事そうに両腕で抱えて、リーヌの目を見つめて言った。


「ありがとうございます。リーヌ様。ホブミは一生、リーヌ様についていきます」


≪なんて美しい光景だ! 感動です! 感動しました! 会場からは拍手がわき起こります≫


 アナウンサーの言う通り、会場中から、「感動したよー!」「お幸せにー!」という大歓声と、嵐のような拍手がわきおこっている。

 ホブミの魔法にかかった人もかからなかった人も、この瞬間だけは、心をひとつにして拍手と声援を送っているようだ。

 たしかに、麗しい光景だ。ふたりが友情の証を手に見つめあってるんだから。

 だけど、おれにはそんなことを気にしている余裕はない!


(まずい。このままでは、おれの盾がホブミのものに!) 


 そう思ったおれは、すたすたとリーヌ達の方へ近づいていって、ホブミが抱える盾に手をかけた。


「リーヌさん、この盾は、おれがずっと追いかけてきたやつっす。ホブミにあげちゃだめ……」


 その時、いくら空気のよめないおれでも、全身に悪寒が走るほどの、おそろしい憎悪に満ちた視線と大ブーイングが、会場全体から、おれに降り注いだ。


「ブーブー!」「邪魔すんな!」「引っ込め、ゴブリン!」「なにすんだ!」「死ね!」「ゴミ!」「消えろ!」「犬の餌になれ!」


 さっきまでの大歓声がすべて、おれへの嵐のような大ブーイングに変わった。


「うぉおおーーーー! く、苦しい! むちゃくちゃ苦しい! おれは、視線恐怖症なのにぃ……」


 敵意に満ちた視線に全身を刺され、殺意に満ちた怒号で全身を殴打され、地面をのたうち回るおれに、ひつじくんの冷静な声が聞こえた。


『ゴブヒコさん、ぼくから見ると、じごうじとくにしかみえないよ』


「ひつじくん、この苦しみは、おれにしか、わからない……」


 あまりの精神的ダメージで、おれの意識は遠のいていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ