1-6 手配モンスターの討伐
「えーっと、この辺のはずなんすけど」
おれたちはだだっぴろい大地の上に立っていた。
木もはえていない。なんにもない土地だ。
おれが持っている地図によると、このあたりが、おれたちが探している手配モンスターの生息場所だった。
「なんもいねーぞ。本当に、ここで、あってんのか?」
リーヌは頭の後ろで腕を組みながら、文句だけ言って、ひまそうにぶらぶらしている。
「文句あるなら、自分で地図を見てくれっす。おれは、この世界のことなんて、なーんにも知らないんすから。だいたい、なんで、テイマーじゃなくて、モンスターが地図を読んでるんすか?」
家を出るとすぐ、リーヌは、「ワムワム平原ってとこに行くぞ」とだけ言って、おれに地図をわたしてきた。
そして、モンスターであるおれがテイマーを連れてきたのだ。
「乙女は地図が読めねーんだよ」
たしかに、なんとなく、リーヌに案内をさせたらどこに着くかわかったものじゃない気がする。
「はいはい。にしても、手配モンスターは、どこにいるんすかね?」
ひょっとして一日の中で特定の時間にしかあらわれないとか、そういう系かな?
「ワムワム平原だ」
「いや、だから、ここがワムワム平原のはずなんすけど。他になんか条件とかないっすか? 手配書、見せてくれっす」
「おう。これだよこれ」
リーヌは手配書をポケットからとりだした。
おれはリーヌから手配書を受け取り、ざっくりながめた。
手配書には、巨大なミミズのよう気色悪い見た目のモンスターが描かれている。生まれ変わっても、これには、なりたくないって感じの。
(うーん。おれ、まだゴブリンでよかったな)
どんなにブサイクなゴブリンでも、この気色悪い芋虫よりはマシだ。
さてと、モンスター情報を確認しよう。
「名前は、『ジャイアントスピードワーム』っすか。生息場所はたしかに、ワムワム平原ってかいてあるっすね」
そこで、下の方の注意書きを見て、おれは驚いた。
「こいつ、A級モンスターって書いてあるっすよ? 今までに、近くの村人20人あまりと冒険者9組が犠牲になってるって」
「永久? モンスターって、日替わりなのか?」
なんだか、リーヌがわけのわからないことを言ってるけど。おれは、スルーした。
「おれには、A級がどれくらいの強さなのか、わからないっすけど。かなり強いんじゃないんすか? おれ、そんなのの近くにいたら、瞬殺されそう……」
「ほう、ほう」
リーヌは何もわかっていないようだ。
このままじゃ、おれの命が危ない予感がする。
なんだか、地面がぐらぐらするような感覚におそわれる。
(あれ? ていうか本当に……)
地面がゆれた気がした。
「なんか地面がゆれてないっすか? ていうか、よく考えると、モンスターのこのミミズっぽい形に、このゆれ、これってひょっとして、地下に潜るタイプ……」
おれの考えがそこにいたった、その時。
地面が割れ、巨大なミミズ系モンスターがとびだしてきた。
「やっぱり地中にひそむ系だった!」
「のこのこと、でてきやがったな! この芋虫め!」
リーヌがうれしそうに、魔王のような笑い声をたて、ムチをふりまわした。
一方、ゆれる大地に立っているだけでも、おれのHPが削られていく気がする。
なにしろ、たった4しかないおれのHPだ。
このままじゃ、死ぬ!
「どりゃああぁああ!」
轟音とともにリーヌのムチが、地面に大穴を開けた。
だけど、敵はもうそこにはいない。
リーヌの攻撃が巻き起こした爆風にとばされ、おれは、HPが減るのを感じた。
このままじゃ、おれは、この空間にいるだけで、まちがいなく、死ぬ。
おれは、とりあえず、リーヌと巨大モンスタがいるのと反対の方向に全力でダッシュした。
走って数秒で疲れはてて立ち止ることになったけど。
おれは息をきらしながら、つぶやいた。
「うわー。まいったな。この世界って死んだら生き返れるのかな? でも、ひょっとしたら、死んでも死なないチートをもってて、死に戻ってからが本番とか、あるかもしれないぞ?」
「ないわよ、そんなの」
近くで声が聞こえた。
「あ、青い妖精。いいところに。じゃ、死んだら転生できるとかは?」
「死んだら終わりに決まってるじゃない」
「なにそれ、絶望的すぎる!」
おれが青い妖精と会話をしている間も、リーヌは地面にいくつも穴をあけながら、巨大ミミズ系モンスター、ジャイアントスピードワームを追いかけていた。
リーヌの攻撃はすさまじい威力だけど、リーヌのスピードはそれほどでもないので、猛スピードで移動していく敵に、リーヌの攻撃はあたらない。
そうこうしているうちに、敵は地面にもぐってしまった。
地面が揺れているので、まだこのあたりにいるのはたしかだけど。
「素早い奴だぜ。ゴブヒコ、あいつを足止めしろ」
おれは大声で、リーヌに言い返した。
「そんなこと、できるわけないっす! おれは、0.1秒ももたずに死ぬっす。即死スピードだけは誰にも負ける気がしないっす!」
でも、おれはそこで思いついた。
「リーヌさんが、魔法でパーンっとやっつければいいじゃないっすか?」
「魔法???」
リーヌはキョトンとした顔でおれを見ている。
「え? 魔王になる前、魔女だったんじゃないんすか? 今も町の人達には魔女って呼ばれてるし。魔法つかうから魔女なんすよね? てか、ふつう魔王も魔法は使えるっすよね?」
でも、リーヌは驚いたように言った。
「ぬわに? そうなのか? アタイは魔法を使えるのか? 魔法少女だったのか?」
「えー? なにを言ってるんすか? まぁ、いいや。もう、リーヌさん、あきらめて帰るっす。ここにいると、おれが死にそうだし。あんなのじゃなくて、もっと弱いモンスターを倒せばいいんすよ。今日の夕飯代がほしいだけなんすから」
「あきらめるもんか! ……見ろ! また出てきたぞ」
リーヌが指さした先では、さっきの巨大モンスターが土砂を噴水のようにふきあげて再登場していた。
「ギャーー! また出てきたー!」
しかも、敵は、リーヌではなく、おれの方に向かって飛んでくる。
「ギャーーーーー!!! 死ぬーーーー!!!」
おれが死を覚悟した時。
巨大な雷が、晴天だった空から、突然、落ちてきた。
雷はジャイアントスピードワームを直撃し、巨大モンスターは、数回地面にのたうちまわって、死んだ。
おれは、ジャイアントスピードワームが落ちた時の風圧で吹き飛ばされて、数回転した。
(うぅ、ぜったい残りHP1だこれ)
そう思いながら、おれは身体の痛みに耐えて起き上った。
「ぎゃーーっはっはっは! アタイの仲間にてぇかけよったって、そうはいかねぇぜ!」
リーヌが倒したモンスターに片足をのせて高笑いしている。
どうやら、モンスターはあの雷撃一発で、倒されたようだ。
リーヌは上機嫌な顔でこっちを見た。
「ゴブヒコ、見たか! アタイの気合を!」
「たしかに、見たっすけど。おれが見たのは、気合じゃなくて、魔法っす。雷系の魔法を使ったんすね? なんていう魔法なんすか?」
「知らん。んなことより、おまえは強くなったか? ふつうのやつは、敵を倒すと強くなるんだろ?」
リーヌはキラキラした目でおれを見ている。
こういう表情をすると、リーヌは思わずドキッとするほど、かわいい。
「おれのレベルっすか?」
たしかに、あれだけのモンスターを倒したのだから、がっぽり経験値が入ってぐーんとレベルアップしてそうだ。
でも、おれは全身に痛みを感じるだけだ。むしろ今にも倒れそうな感じだ。
「そのはずっすけど。残りHP少ないせいか、強くなった感じがぜんぜんしないっす」
「そりゃそうよ」
おれの耳元で声がした。
「あ、青い妖精。まだいたんだ」
青い妖精は、簡潔に説明をしてくれた。
「経験値はとどめをさした人総取りシステムなの」
「とどめをさした人総取り!?」
おれの叫び声を聞いたリーヌも叫んだ。
「なにぃ!? とどめをさした人ソードリだと!? あいつを倒したのは、アタイじゃなかったのか! ……ソードリって誰だ?」
「ソードリって人じゃないっす」
おれがそう言うと、リーヌは言った。
「なんだ、鳥なのか」
「もう、つっこむ気にすら、ならないっす。にしても、リーヌさん、ほんと、この世界のこと知らないっすね。だれか、教えてくれなかったんすか?」
おれは、何気なく言ったんだけど、予想外の結果になった。
「うるせぇ! 教えてくれるやつなんて、みんないなくなっちまったんだよ! ……アタイだって、好きでひとりぼっちなわけじゃないもん……」
なぜかリーヌは、ひどく落ち込んだ様子になって、しゃがみこんで、ひとりでグスグスつぶやき続けた。
「アタイは、みんなといっしょに楽しく遊んでたかっただけなんだよ……。触れるものすべて傷つけるナイフみたいな青春じゃなくて……。血が血をよぶ血みどろの抗争の日々とかじゃなくて……。みんなで仲良くのんびりワハハハ笑っていたかったんだよぉ……」
おれ、人を怒らせるのは得意だけど、機嫌とるのは苦手だから、たぶん、ここは、放っておくのが一番だろう。
そう思って、おれはリーヌを無視しして、青い妖精にたずねた。
「じゃあ、結局、おれはレベル1のままってこと? まったく強くなってないってこと?」
「そういうこと~」
という声を残して、青い光は空にのぼっていった。
[モンスター図鑑]
138 ジャイアントスピードワーム:スピードワームの亜種で巨大型。生息地が限られており比較的レアなモンスターだが、食欲が旺盛なので人里近くに出現すると被害が大きく、討伐対象となる。