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3-24 武道会

 武道会の会場の入り口で、武道会参加者は仮面をつけるように言われた。でも、こんな暑いところで、目だし帽なんてかぶっていられない。

 そこで、おれは素顔のまま、自分の顔を指さして言ってみた。


「おれはもう仮面をかぶってるっす。ほら、これが仮面っす」


 入り口の係員は、即座に、おれに謝った。


「あ、すみませんでした。そうですよね。そんな顔なわけないですもんね。それにしても、そんなにブサイクなゴブリンの仮面、よく見つけましたね」


 なんだか、複雑な気分だけど、おれは、目だし帽をかぶらなくてすむことになった。


 武道会の会場には、たくさんの食べ物が準備されていた。

 大会出場者の待合室になっている大部屋に、たくさんの飲食物が並んでいるのだ。

 おれたちは、今のうちに腹に詰めこめるだけつめこんでおこうと食べまくった。


「うめぇ。うめぇ」


 リーヌは両手で食べ物をかきこんでいる。


「そうっすね。しばらく、ろくに飯くえてなかったから」


 リーヌはそこでおれにたずねた。


「でも、どれがブドウ貝なんだ? ブドウっぽい貝も、ブドウっぽい味の貝もねーぞ?」


「まだ、貝だと思ってたんすか? ……あ、ほら、あのフルーツ盛り合わせのなかに入ってるっす。はい、どうぞ」


 おれはリーヌに皿を差し出した。


「なに? これがブドウ貝か? うむ。ブドウの味がする」


 もちろん、リーヌが食べてるのは、本物のブドウだ。

 

 

 その時、アナウンスがかかった。


≪チーム・リーヌの皆さん、入場口Bに集まってください≫


 おれたちは闘技場の入場口へ連れていかれ、すぐに闘技場の中に通された。


≪みなさん、お待たせしました。今年もジェイシー町名物の仮面武道会が始まります!≫


 アナウンサーが実況中継を開始した時、リング横でリーヌがおれに言った。


「ホブミがいないぞ?」


 ホブミはいつの間にか、姿を消していた。

 おれは手もとの参加証を見て気がついた。


「あれ? よく見ると、エントリーされてるのも、おれとリーヌさんだけっす。あいつは戦わないからか。って、おれも、戦う気はないんだけど」


 アナウンサーがルールの説明をしてくれた。


≪ルールは簡単。死亡するか戦闘不能になるか、リング外に出れば負けで、相手のチームを全滅させたチームの勝利となります≫


「なるほど。じゃ、おれははじめからリングの外にいるっす。リーヌさん、がんばってくれっす」


 さて、1回戦は当然のように数秒で終わった。

 リーヌがその辺の冒険者に手こずるわけがない。

 そして、一旦待合室に戻ったと思ったら、おれたちはすぐに呼び出されて、2回戦がはじまった。

 2回戦もリーヌは一瞬で対戦相手達を吹き飛ばしてくれた。

 というか、たまたまくしゃみをしたら、それが吹き飛ばし攻撃になったらしくて、みんなリンク外にふっとんでいた。


≪チーム・リーヌ、決勝進出―! 試合は、1分後に開始です≫


「もう決勝なんだ。てか、1分!? みじか! カップ麺すら作れない!」


 おれはいちおうつっこんだけど、どうせリーヌはくしゃみをしただけなので、休憩時間なんてなくてよかった。

 さて、決勝戦がはじまって30秒後。


≪チーム・リーヌ優勝―! みなさん、盛大な拍手をー!≫


 アナウンサーは元気よくそう叫んだ。

 でも、観客席はもりあがっていない。

 パラパラと拍手が聞こえたけど、みんな白けた顔で、ブーイングまで聞こえる。

 たしかに、観客からしたら、つまんない武道会だった。

 リーヌはそもそも戦ってないんだから。

 武道もなにもありゃしない。

 

「ふぅ。厳しい戦いだった」


 おれは汗をぬぐった。


「そうですか? リーヌ様は全員、一瞬で倒してましたけどー」


 おれのすぐそばで、ホブミの声が聞こえた。


「ポーズだけでも戦った雰囲気を出しとこうかと……って、あれ、ホブミ、いつのまに?」


 観客席にいたはずのホブミが、いつのまにか、おれがいる闘技場のリング横にやってきていた。

 ちなみに、リーヌはリングの真ん中で勝利のフラダンスを踊っている。

 観客は試合よりは楽しんでいる。これじゃもはや、ただの仮面舞踏会だ。


「そんなことより、優勝チームの表彰式がはじまるのですー」


 ホブミが言った。

 なんかちょっとえらそうなおっさんがリング上に出てきて、音楽が流れ、アナウンサーが説明をはじめた。


≪優勝賞金と賞品の授与式が始まります。今大会の優勝賞品は、なんと、あの伝説のイノキのガッツです。まずは賞金が授与されます≫


 リングの中央で、リーヌは、なんかちょっとえらそうなおっさんからまずは賞金が入った封筒を受け取った。

 おれはそれを見ながら、感激の涙を流した。


「よかったっす。これで今日からちゃんとご飯が食べられるっす」


 パラパラと、やる気のない拍手が、観客席から響いてきた。

 それから、布がかぶされた大きな檻のようなものが運ばれてきた。それを見た観客席が盛り上がっている。

 おれはホブミにたずねた。


「檻? なんで?」


「イノキなのですー」


「イノチの実って果実かナッツだろ? なんであんなり大きな檻が?」


「イノキのイは鮮度が大事だから、イノキごとなのですー」


 なんかちょっと変だったけど、おれはホブミの説明で納得した。


「へー。イノチの実は木ごとくれるのかー」


≪そして、次はイノキの贈呈です!≫


 布が取り外され、檻があらわれた。

 その中には、猪の顔をした背の高い人がいた。

 いや、よく見ると人ではない。体は木でできている。

 猪の顔がついた人間みたいな木だ。もしくは、猪みたいな顔の木でできた人間?

 謎の物体は檻の中で叫んだり跳ねたりしていた。


「ど、どういうこと!? イノキって何だ?」 


 おれが驚いて叫ぶと、ホブミは言った。


「イノキは木人モンスターなのですー。とても戦闘力が強いのですー」


「植物系のモンスターってこと? でも、実なんてなってないけど? これからなるの?」


 イノキには花も咲いていない。鼻っぽい部分はあるけど。


「イノキのイは、胴体の中に入っているのですー。人間でいうところの胃なのですー」


 ホブミの説明を聞いて、おれは驚愕した。


「実じゃなくて胃だったの!? でも、胃ってことは内臓だろ?」


「だからイノキのガッツは貴重なのですー。ガッツを取ると、イノキはやがて死んでしまうのですー」


「そりゃそうだ! 胃をとっちゃだめだろ! 臓器売買禁止!」


 おれはリーヌにむかってどなった。


「リーヌさん! そのモンスターは保護して仲間にするっす! 食べちゃダメっす!」


「おう。アタイはテイマーだからな」


 ところが、観客席からはブーイングが鳴り響いた。


「早くさばいてイノキのガッツを見せろー!」


 そんな叫び声が聞こえる。

 観客たちは血に飢えていた。


≪それでは優勝チーム以外は退場してください。檻を開いてイノキを解放します≫


「優勝チームがイノキと戦うってこと!?」


「そうなのですー。イノキはかなりタフなのですー。武道会で優勝するくらいの力がないとイノキを倒すことはできないのですー」


「そんなに強いの!? じゃ、おれは避難しないと……」


 でも、おれがあたふたしている内に、武道会の関係者たちはみんな入退場口から出て行って、そして入退場口には鉄格子がおりて閉じてしまった。

 もうおれは脱出できない。


 そして、遠隔で操作され、イノキが入っている檻の入り口が開いた。


「ぐぅぇえーんぎぐぅぁあーー!」


 イノキの叫び声が響いた。



[モンスター図鑑]


107 イノキ:猪のような頭部をもつ木人。生態は謎が多く、花を咲かせたり果実を実らせることはないらしい。イノキの胴体の中にある胃ガッツと呼ばれる部分を食べると力や体力が上がる。ステータスアップを狙ってイノキを狙う冒険者は多いが、とても頑丈で体力が高いため、イノキを倒すのは魔王を倒すよりも大変だといわれる。ただし、イノキはボンバーアックスを頭部に投げつけられると気絶してしまうため、この裏技で捕獲されてしまう。

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