3-22 ジェイシー町へ
おれもリーヌも、もういっそ、ずっとメタル牧場に住み着きたい気分だった。けど、いつまでも無料でお世話になっているわけにはいかないので、おれたちはメタル牧場のみんなに別れを告げ、牧場を後にした。
メタル牧場を出た後、おれたちは、いったんサンサ村へ戻った。
ちなみに、ひつじくんは、この世界での活動時間が限られていて、声をかけても、たまにしか返事をしてくれない。
サンサ村の三叉路に戻ったところで、ホブミは大きなため息をついた。
「ようやくここまで戻ってこられたのですー」
「あれ? ホブミはメタル牧場、嫌いだったの?」
おれがたずねると、ホブミは、妙に複雑そうな顔で、首を横に振った。
「いいえー。そういうわけではなかったんですけどー。そんなことよりも、リーヌ様。この先のジェイシー町で……」
ホブミの声は、いつになく、テンションが低い。
なにか言いかけるホブミを無視して、リーヌは言った。
「腹へったなー。飯食いにいこうぜ」
「そうっすね。おれも腹へったっす。だけどリーヌさん、お金もうないっすよね? メタル牧場ではホブミの有り金まで全部借りて、ラムメタルグッズ買ってたっすよね? いくら限定品だからって、食べるのにも困ってるのに買っちゃだめ、っておれが止めたのも聞かないで」
「だってよぉー。ラムメタルグッズだぜ? 最強のツルツルキュートだぜ? あ、そうだ。アタイはツルツルキュートを探しに南の島に行くんだった。すっかり旅の目的を忘れてたぜ」
「ホブミの話をきいてくださいー」
「ホブミ、リーヌはひとの話なんて聞かないんだ。あきらめろ。じゃ、リーヌさん、ツルツルキュートな癒し系アニマルを探しに南の島へレッツゴーっすか?」
「おう。でも、ツルツルは牧場で見たから、次はやっぱ、ふわもこがいいかもな」
「そうっすか? ふわもこな動物はは、北の寒いところにいそうだけど。おれ、南の島で水着姿をおがむのもいいかなって思いはじめたんすけど、やっぱ北に行くんすか?」
リーヌは不思議そうな顔をした。
「水着姿? ふわもこの水着姿? それは、かわいいのか?」
「けむくじゃらアニマルの水着姿っすか? 犬はけっこうかわいいけど…… って、そうじゃないっす。人間の、というか、リーヌさんの水着姿っす」
リーヌの水着はぜひ見たい。
「な、なに!? アタイが水着を着るのか?」
リーヌは、なぜかおどろいている。
(なぜそこでおどろく?)と思いながら、おれはたずねた。
「だって、海でイルカとたわむれる感じの予定じゃないんすか?」
「そうだが。水着とかいるのか? もってないぜ?」
「え? 海で遊ぶのに?」
リーヌは、真剣な顔で、おれに聞き返してきた。
「だって海遊びといえば、海の上を走ったり、海をふたつに割ってみたり、だろ?」
「『だろ?』、じゃないっす! なにそれ!? そんなこと、できるんすか!? でも、海を割っちゃったら、海の動物が困るでしょ! ふつう、走るのはビーチで、割るのはスイカっす!」
「なにぃ!? だから、アタイが海に行っても、ツルツルキュートに会えなかったのか?」
「会えるわけないっす! 海が割れたら、イルカもクジラも魚も命からがら逃げていくっす! にしても、水着をもってすらいないんすか? がっかり。この金欠状態じゃ、買えるわけないし。じゃあ、しかたがないから、おれは、その辺の水着のお姉さんたちを観察するっす」
「な、なんだと……」
なぜかリーヌが眉間にしわをよせ、めずらしく何かを考えている表情になった時、遅ればせながら、ホブミがいつものテンションで乱入してきた。
「ハレンチなー! ハレンチゴブリン!」
「ぜんぜんハレンチじゃない! 水着がハレンチだったら、海とプールにいる人全員ハレンチになっちゃうだろ!」
「水着姿の女性を見る先輩がハレンチなんです! とにかく、ホブミの話を聞いてください! ホブミは聞いたんですぅ。ジェイシー町では、武道会がひらかれているんですー」
「ブドウ貝、それ、うまいのか?」
リーヌは、そう聞き返した。
「くえないっす」
おれが言うと、リーヌは、あっさりうなずいた。
「そうか。食えねぇ貝に興味はねぇ」
「貝じゃありませんー。リーヌさまなら、武道会で簡単に優勝できるのにー。優勝すると、たくさんお金がもらえて、賞品ももらえるんですー」
おれは、お金と賞品という言葉に、ちょっと興味をひかれた。
「お金は当然大事だとして、優勝賞品ってなに?」
「なんとなんとー。とても貴重なイノキのイをもらえるんですぅ」
おれは聞き返した。
「命の実?」
「イノキのイは筋力・体力を上げてくれるのですー。別名イノキのガッツなのですー。イノキのガッツはとても強力なのでドーピング扱いで禁止されているのですー」
「ドーピングアイテムを賞品にしてるの!? だいじょうぶかよ、その武道会。でも、それじゃ、その優勝賞品でステータスを強化した状態で2乗の腕輪を装備したら……おれ、強くなれるじゃん」
「はいはいー。そうなんですぅー」
おれは、ホブミにのせられ、すっかり乗り気になった。
「リーヌさん、やっぱりその武道会とかいうの、出てみないっすか?」
「ああ? 食えねぇのに?」
リーヌはまだ、ブドウ貝だと思っているらしい。
「優勝賞品は食べれるらしいっすよ」
おれも体力はあげたい。
なにせおれは今は体力と防御力が低すぎるせいで、リーヌに触れることはおろか、半径1メートル以内に近づくことすら、恐ろしくて恐ろしくて。いつ事故死するかわからない。
でも、体力がたくさんあったら、リーヌに怒鳴られたくらいじゃ死ななくなるし、リーヌにまちがってぶつかっても、死なないかも。……てことは、ムフフなハプニングイベントに対応可能に!?
「やっぱ、体力って大事だよなぁ。ムフフ」
おれがつぶやいていると、リーヌはリーヌで独り言をつぶやいていた。
「やっぱチャーハンは大盛だよな」
リーヌは近くの中華料理屋を見ていた。
「たしかに、おいしそうなにおいがするっす。でも、お金あるんすか? ホブミから借りたお金って、いくら残ってるんすか?」
リーヌは、財布の中をじっと見た。
「200Y……」
「……やっぱ、武道会に行かなきゃっす。賞金をいただかないと、おれたち飢え死にするっす」
こうして、おれたちは武道会に出て賞金と賞品をいただくために、ジェイシー町とやらにむかった。




