表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/170

3-22 ジェイシー町へ

 おれもリーヌも、もういっそ、ずっとメタル牧場に住み着きたい気分だった。けど、いつまでも無料でお世話になっているわけにはいかないので、おれたちはメタル牧場のみんなに別れを告げ、牧場を後にした。


 メタル牧場を出た後、おれたちは、いったんサンサ村へ戻った。

 ちなみに、ひつじくんは、この世界での活動時間が限られていて、声をかけても、たまにしか返事をしてくれない。

 サンサ村の三叉路に戻ったところで、ホブミは大きなため息をついた。


「ようやくここまで戻ってこられたのですー」 


「あれ? ホブミはメタル牧場、嫌いだったの?」


 おれがたずねると、ホブミは、妙に複雑そうな顔で、首を横に振った。


「いいえー。そういうわけではなかったんですけどー。そんなことよりも、リーヌ様。この先のジェイシー町で……」


 ホブミの声は、いつになく、テンションが低い。

 なにか言いかけるホブミを無視して、リーヌは言った。


「腹へったなー。飯食いにいこうぜ」


「そうっすね。おれも腹へったっす。だけどリーヌさん、お金もうないっすよね? メタル牧場ではホブミの有り金まで全部借りて、ラムメタルグッズ買ってたっすよね? いくら限定品だからって、食べるのにも困ってるのに買っちゃだめ、っておれが止めたのも聞かないで」


「だってよぉー。ラムメタルグッズだぜ? 最強のツルツルキュートだぜ? あ、そうだ。アタイはツルツルキュートを探しに南の島に行くんだった。すっかり旅の目的を忘れてたぜ」


「ホブミの話をきいてくださいー」


「ホブミ、リーヌはひとの話なんて聞かないんだ。あきらめろ。じゃ、リーヌさん、ツルツルキュートな癒し系アニマルを探しに南の島へレッツゴーっすか?」


「おう。でも、ツルツルは牧場で見たから、次はやっぱ、ふわもこがいいかもな」


「そうっすか? ふわもこな動物はは、北の寒いところにいそうだけど。おれ、南の島で水着姿をおがむのもいいかなって思いはじめたんすけど、やっぱ北に行くんすか?」


 リーヌは不思議そうな顔をした。


「水着姿? ふわもこの水着姿? それは、かわいいのか?」


「けむくじゃらアニマルの水着姿っすか? 犬はけっこうかわいいけど…… って、そうじゃないっす。人間の、というか、リーヌさんの水着姿っす」


 リーヌの水着はぜひ見たい。


「な、なに!? アタイが水着を着るのか?」


 リーヌは、なぜかおどろいている。


(なぜそこでおどろく?)と思いながら、おれはたずねた。


「だって、海でイルカとたわむれる感じの予定じゃないんすか?」


「そうだが。水着とかいるのか? もってないぜ?」


「え? 海で遊ぶのに?」


 リーヌは、真剣な顔で、おれに聞き返してきた。


「だって海遊びといえば、海の上を走ったり、海をふたつに割ってみたり、だろ?」


「『だろ?』、じゃないっす! なにそれ!? そんなこと、できるんすか!? でも、海を割っちゃったら、海の動物が困るでしょ! ふつう、走るのはビーチで、割るのはスイカっす!」


「なにぃ!? だから、アタイが海に行っても、ツルツルキュートに会えなかったのか?」


「会えるわけないっす! 海が割れたら、イルカもクジラも魚も命からがら逃げていくっす! にしても、水着をもってすらいないんすか? がっかり。この金欠状態じゃ、買えるわけないし。じゃあ、しかたがないから、おれは、その辺の水着のお姉さんたちを観察するっす」


「な、なんだと……」


 なぜかリーヌが眉間にしわをよせ、めずらしく何かを考えている表情になった時、遅ればせながら、ホブミがいつものテンションで乱入してきた。


「ハレンチなー! ハレンチゴブリン!」


「ぜんぜんハレンチじゃない! 水着がハレンチだったら、海とプールにいる人全員ハレンチになっちゃうだろ!」


「水着姿の女性を見る先輩がハレンチなんです! とにかく、ホブミの話を聞いてください! ホブミは聞いたんですぅ。ジェイシー町では、武道会がひらかれているんですー」


「ブドウ貝、それ、うまいのか?」


 リーヌは、そう聞き返した。


「くえないっす」


 おれが言うと、リーヌは、あっさりうなずいた。


「そうか。食えねぇ貝に興味はねぇ」


「貝じゃありませんー。リーヌさまなら、武道会で簡単に優勝できるのにー。優勝すると、たくさんお金がもらえて、賞品ももらえるんですー」


 おれは、お金と賞品という言葉に、ちょっと興味をひかれた。


「お金は当然大事だとして、優勝賞品ってなに?」


「なんとなんとー。とても貴重なイノキのイをもらえるんですぅ」


 おれは聞き返した。


「命の実?」


「イノキのイは筋力・体力を上げてくれるのですー。別名イノキのガッツなのですー。イノキのガッツはとても強力なのでドーピング扱いで禁止されているのですー」


「ドーピングアイテムを賞品にしてるの!? だいじょうぶかよ、その武道会。でも、それじゃ、その優勝賞品でステータスを強化した状態で2乗の腕輪を装備したら……おれ、強くなれるじゃん」


「はいはいー。そうなんですぅー」


 おれは、ホブミにのせられ、すっかり乗り気になった。


「リーヌさん、やっぱりその武道会とかいうの、出てみないっすか?」


「ああ? 食えねぇのに?」


 リーヌはまだ、ブドウ貝だと思っているらしい。


「優勝賞品は食べれるらしいっすよ」


 おれも体力はあげたい。

 なにせおれは今は体力と防御力が低すぎるせいで、リーヌに触れることはおろか、半径1メートル以内に近づくことすら、恐ろしくて恐ろしくて。いつ事故死するかわからない。


 でも、体力がたくさんあったら、リーヌに怒鳴られたくらいじゃ死ななくなるし、リーヌにまちがってぶつかっても、死なないかも。……てことは、ムフフなハプニングイベントに対応可能に!?


「やっぱ、体力って大事だよなぁ。ムフフ」


 おれがつぶやいていると、リーヌはリーヌで独り言をつぶやいていた。 


「やっぱチャーハンは大盛だよな」


 リーヌは近くの中華料理屋を見ていた。


「たしかに、おいしそうなにおいがするっす。でも、お金あるんすか? ホブミから借りたお金って、いくら残ってるんすか?」


 リーヌは、財布の中をじっと見た。


「200Y……」


「……やっぱ、武道会に行かなきゃっす。賞金をいただかないと、おれたち飢え死にするっす」


 こうして、おれたちは武道会に出て賞金と賞品をいただくために、ジェイシー町とやらにむかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ