3-20 ひつじくんリターン
メタル牧場の中央広場に戻ると、羊の執事のツツジさんが待っていて、おれたちにお辞儀をした。
「おかえりなさいませ、お嬢様方」
「パパ。久しぶりだっちゃ!」
ツーメタルはツツジさんにあいさつし、ツツジさんはツーメタルをたしなめた。
「あまりむちゃをしないように。ツーちゃんがメタルハンターを倒すと言ってとびだしていったと聞いたときは、心臓がとまるかと思ったよ」
「レジスタンスだっちゃ!」
元気よく叫んだツーメタルは、全然こりてなさそうだ。
ツツジさんはリーヌにむかって、もう一度深々とお辞儀をした。
「お嬢様方、メタルハンターを追い返し、娘をたすけていただき、大変ありがとうございました」
「気にすんな。ちょいっと散歩してきただけだ」
リーヌは爽やかにそう言った
「おれは1回死にかけたっすけど。もう命がけの、かつてないほどの死闘だったっす」
ホブミが苦々しく言った。
「先輩、リーヌ様のカッコいいセリフの邪魔をしないでくださいなのですー」
ツツジさんは小さな小箱をリーヌに差し出しながら言った。
「お礼のしるしに、記念品をおひとつどうぞ」
リーヌは受け取った小箱を開け、中に入っていたアクセサリーらしきものを取り出した。
それは、金属製の羊のネックレスだった。
「ひつじだ。ひつじだ」
リーヌは大喜びで、ネックレスをつけた。ツツジさんは言った。
「メタル牧場の限定記念グッズです。実は一番最初に『ヒツジのシツジのツツジさん十回言えたら豪華賞品チャレンジ!』をクリアした方への豪華賞品として用意した世界に1つだけのネックレスです」
「豪華賞品って他にもあるんすか?」
おれがたずねると、ツツジさんは説明してくれた。
「はい。先着10名様には、羊のもふもふイヤーマフ+宿泊券とお食事券をご用意してあります。一か月に一度チャレンジできますので、来月以降、またご参加ください」
「じゃ、今度は練習してからチャレンジするっす」
リーヌも元気よく言った。
「おう。バッチリ練習しまくって、今度こそ『ヒツジのヒツジのヒツジさん』を十回言うぜ!」
「また間違えてるっす! それで練習しまくったら、バッチリ失敗っす!」
「アタイのヒツジ愛をみせてやるぜ!」
「すごすぎるヒツジ愛で永遠にクリアできなさそうっす……」
その時、おれの耳にふしぎな声が聞こえた。
『こんにちは、ゴブヒコさん』
「あれ? 空耳かな? だれかが、おれにあいさつしたような」
『そらみみじゃないよ』
おれはつぶやき続けた。
「天国に行ったはずの、二度寝が売りの目覚まし時計のひつじくんみたいな声が聞こえるぞ? でも、そんなわけないよな。天国に行っちゃったぽかったもんな。牧場の羊の声かな」
『ちがうよ。ぼくだよ。ここだよ』
「え? やっぱりひつじくん? どこ? どこにいるの?」
おれは牧場をみわたした。メタル羊は何匹もいるけど、ひつじくんっぽい羊はみつからなかった。
いや、そもそも、ひつじくんっぽい羊がいたら、おかしいけど。ひつじくんは目覚まし時計なんだから。
(小さな目覚まし時計だから、草むらにかくれちゃってるのかな?)と思って、おれがいっしょうけんめいに牧草の中を見ていると、ひつじくんは言った。
『そっちじゃないよ、ゴブヒコさん。ここだよ。リーヌちゃんのとこだよ』
リーヌのとこ?
リーヌの近くにはツーメタルとツツジさんがいるけど、他の羊はいない。
おれはあちこちきょろきょろ見たけど、目覚まし時計っぽいものもなかった。
『ここだよ、ゴブヒコさん』
まさか。
おれは、リーヌがつけた羊のネックレスを凝視した。
おれはあんまり目がよくないので、ネックレスを近くで見ようと近づいた。
「まさか、ひつじくん? ネックレスになっちゃったの?」
『そうだよ』
声はたしかに、羊のネックレスの方から聞こえてくる気がする。
一見、なんてことのない、かわいい羊がついたシルバーのネックレスで、目覚まし時計との共通点は、ヒツジだってこと以外にはないけど。
「ひつじくん、なぜ、ネックレスに?」
『後で話すけど。ゴブヒコさん、今は、そんなひまなさそうだよ』
「え?」
ふと、気がつくと、リーヌがおれを斜め上からにらみつけていて、ホブミがさけんでいた。
「キャーキャー! セクハラゴブリン! ぶつぶつ言いながらリーヌ様のお胸に顔を近づけてるーーー! キャーー!」
「ちがっ! おれはネックレスをよく見ていただけなんだぁー! 今回は本当にーっ!」
誤解を解く暇はないので、おれはリーヌの怒鳴り声がひびく前に、全速力で逃げ出した。
その後、おれたちはお礼として無料で、メタル牧場のゲストハウス、その名もひつじホテルに一泊二食付きで泊めてもらった。
このツツジさんの奥さんが経営しているゲストハウスは、どこもかしこも、ひつじグッズでいっぱいだった。
それに、ラムメタルとその兄弟姉妹たちの写真があちこちに飾られていた。
リーヌは、「ひつじ天国どぅわーー! メェ~~~~!」と言って、ツーメタル達といっしょに駆けまわっていた。
ゲストハウスには、空いてる部屋がいっぱいあるので、おれも一人でダブルベッドの部屋に泊まった。
異世界に来てはじめての、りっぱなベッドがある部屋だ。ちなみにシーツはぜんぶ羊柄で、枕は羊型だった。よく眠れた。
このホテル、年に数人しかお客さん来ないなんて、もったいなさすぎる。




