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3-16 口撃

 おれたちは、犬のおまわりさんの吠え声をたよりに、メタルハンターのいる場所へ向かった。

 声は牧場の外の林の中から響いていた。

 リーヌは走りながら、叫んだ。


「メタルハンターはどこだぁー!」


 すると、おまわりさんが叫び返してきた。


「こっちだわん! こっちだわん!」


「あ、あすこですー! おまわりさんが、おそわれていますー」


 ホブミの言う通り、メタル犬のおまわりさんが、どこにでもいそうな冒険者におそわれている。


「まさかポリ公をたすけることになるとはな」


 つぶやきながら、リーヌはどこにでもいそうな冒険者の方へ突進していく。


「いやー、犬のおまわりさんはたぶん本物の警官じゃないっす……なんて悠長に言ってる場合じゃなかった!」


おれは重要なことに気が付き、リーヌに叫んだ。


「リーヌさん、攻撃しちゃだめっす! そんな弱そうな冒険者たち、リーヌさんなら一撃で殺しちゃうっす! 人殺しはよくないっす!」


 リーヌは立ちどまってふりかえった。


「ああ? じゃ、どうすんだよ?」


「えーっと……」


 平凡な感じの冒険者になにげなくいじめられている犬のおまわりさんが、おれたちにむかって叫んだ。


「わんわん! 気をつけろわん! こいつら毒針もってるわん!」


「毒針? って、おまわりさん、こんな話している間も、毒針でプスプス刺されてるっす! 急所にあたったら大変だから、おまわりさんは、早く逃げて!」


 犬のおまわりさんは、わんわん吠えながら、おれたちの後ろに逃げてきた。


「なんだ、おまえは?」


 冒険者のひとりが言った。


「アタイは、テイマーだ」


 リーヌが名乗った。

 いや、名乗っていない。職業をアピールしているだけだ。


 その時、おれは突然、閃いた。

 といっても、技を閃いたわけではない。たぶん、おれ、技とか術は永遠に閃かなさそう……。

 ともかく、おれは大声で言った。


「そうだ、テイマーだ。このテイマー様がこの犬の飼い主だ! やい、この動物虐待冒険者たち! うちの犬になにしてくれる! 訴えるぞ! うちには大家さんっていう超敏腕弁護士がついてるんだからな! 賠償金がっぽりいただくぞ!」


「え? 飼い主? テイマーの仲間モンスターだったの? 野良モンスターだとおもってた」


 平々凡々たる冒険者のひとりがそう言った。

 おれは、横でしっぽを振っているおまわりさんを指さしながら叫んだ。


「そんなわけあるか! ほら、どっから見ても犬だぞ! 毛並みはメタルだけど犬なんだぞ!」


「いや、犬には見えないけど。どう見てもメタルモンスターだけど。でも、たしかに、なついてる。テイマーの仲間モンスターだったのかぁ」


「そっかぁ。テイマーさん。すみませんでした」 


 平凡すぎてつける形容詞がもう見つからない感じの冒険者たちは、すまなさそうな様子になった。

 うまくいきそうだ。

 おれは口撃をつづけた。


「そうそう。あと、ここは私有地っすから。早く出て行かないと、訴えるっすよ」


「ええ? そうなの? この辺りに、メタル狩りにいい場所があると聞いてきたんだけど」


「だめっす! ここは私有地っす! 早く出て行ってくれっす!」


「すいませんでしたー」


 特徴のない冒険者たちは、毒針をしまうと、すごすごと引き返していった。


「ふぅ。どうにか血を流さずに追い返せたっす」


 冒険者たちが林の奥に消えていくのを見送って、おれは、汗をぬぐった。


「ゴブヒコ、すげぇな、おまえ。見直したぜ」


 リーヌは本当に感心しているようすだ。

 ちゃんとほめられたのは、この世界に来てはじめてな気がする。


「そうっすか?」


 たしかに、もとの世界のおれにはできない芸当だ。

 やっぱり、この世界のおれって、しゃべる力だけはあがっている。

 今度、青い妖精に会ったら、礼を言っておこう。


 なにはともあれ、おれは、さらなる賞賛をリクエストした。


「おれ、すごいっすか? じゃ、もっともっとほめてくれっす」


 この機会にほめられないと、もう次、いつほめられるかわからないから。


「ゴブヒコ先輩、うざいですぅ。せっかく見直しかけたのに、うざさ爆発ですー」


 ホブミに、おれは叫んだ。


「うるさいっ。あっちの世界でもこっちの世界でも、めったにほめられることのないおれの気持ちが、おまえにわかってたまるか! 『どうせおれなんて、ブサイクなうえに、コミュ障なんだ。キャッキャウフフな会話をすることなんて一生ないんだ』っていつも思って生きてきたおれの気持ちなんて、おまえにわかってたまるかー! もっとみんな、おれを、ほめてほめてほめまくれー! せっかく異世界にきたんだから、『キャー、ゴブヒコさん、すごーい』とか、毎日きゃわいい女の子たちに、言われたいんだぁー! 異世界でくらい夢を見させろー! おれを、ちやほやしろー!」


「よし、そこまで言うなら、アタイがほめてやろう。きゃわいい女子代表として、きゃっきゃうふふにほめてやるぜ」


と、リーヌが言った。


「え? リーヌさんが? キャッキャウフフに?」


 おれの心は一瞬だけ期待でおどった。


「おうよ。アタイは、ほめてのばすテイマーになるぜ」


 でも、すぐにおれは不安になった。だって、リーヌだもん。


「アタイにまかせろ!」


 リーヌは大きく息を吸い込むと、キャッキャウフフにおれをほめた!

 満面の笑みで手をたたきながら、リーヌはうれしそうに踊りながら言ったのだ。 


「きゃっきゃ! ブヒブヒゴブヒブヒ!」


 ……なにか、違う。全然、違う。

 おれはテンション低めにつっこんだ。


「……なんすか、これ? サル? リーヌさん。キャッキャッ、って、サルだと思ったんすか? しかも、キャッキャウフフじゃなくて、キャッキャブヒブヒになってるっす」


 リーヌは自信をもって否定した。


「サルじゃねぇ。赤ちゃんだ!」


「たしかに赤ちゃんのおしゃべりもキャッキャウフフの一種かもしれないっすけど……」


「だろ?」


「だけど、ちがうっす! おれは、そんなキャッキャウフフを期待してたんじゃないっす! てか、今のじゃ全然、ほめられた気がしないっす」

 

 リーヌは頭をかいた。


「ほめるって、難しいな。ほめてのばすテイマーは、やめとくぜ」


「あきらめるの早っ」


 一方、ホブミはうんざりしたようすで毒づいていた。


「めんどくさいゴブリンですぅー。ほめるところないくせにほめろとかぁー」


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