3-15 メタルハンター襲来
リーヌがラムメタルのライブに行っている間、おれはツツジさんからメタル牧場の説明を聞いていた。
この牧場という名のなにかよくわからない場所で流行中の音楽は、もちろんメタル一色で、牧場の若者のファッションに強く影響を与えているらしい。
そのせいで、ライブ会場には、あるはずのない角をはやしたメタルな鶏や馬や豚がいる。
角が生えた馬は、ユニコーン? って感じでいいけど、角の生えたニワトリや豚はもう、意味がわからない。
牛の角だって2本じゃなくて3本や4本になってたりするし。あと、必要のない鼻輪や耳輪をつけまくってたり。メタルな頭を白塗りにして濃いメイクをしたちょっとゾンビっぽいのや、奇抜な色のペンキを塗ってカラフルな芸術作品と化しているメタルアニマルもいっぱいいた。
いまさらながら、おれは思った。
(なにこの牧場……)
しかも、ここの動物たち、アニキやツツジさんもそうだけど、わりと二足歩行している。犬のおまわりさんだけは四足歩行なんだけど。
「あの、変なこときくっすけど、メタル牧場の動物はみんな、2本足で歩くんすか?」
おれがたずねると、ツツジさんは、なんでそんなことを尋ねるのかわからない、といった様子で答えた。
「2本でも4本でも、気分次第でございます」
「そ、そうっすか」
それから、しばらくした後。ラムメタルのライブが終わった。
ライブ会場から帰っていくメタルな動物たちの間から、エネルギッシュにいきいきとしたリーヌがあらわれた。
「ふぅーっ。すげぇライブだったぜ。今日はエンジョイしたぜ。メタル牧場サイコーだな。メェーー!」
上機嫌なリーヌに、おれは言った。
「それはそうと、リーヌさん、今夜どうするっすか? お金があれば、ツツジさんの奥さんがやってるゲストハウスに泊まっていきたいんすけど……」
たしかリーヌの所持金はほぼゼロだ。
だけど、おれがそう言う前に、ツツジさんは、すかさず言った。
「ぜひともご滞在ください。ラムメタルグッズも販売しております。限定品もございますので」
「ぬわにぃーーーー! ラムメタルの限定グッズだと? ぜひ買わねば。……ゴブヒコ、へそをくりだせ」
「くりだせるか! 『へそをくりだせ』じゃなくて、『へそくりをだせ』、でしょ? ……もちろん、ないっすけど。おれ、リーヌさんから給料も小遣いも何ももらってないんすから。へそくりなんて、もってるわけないっす」
リーヌは、しょぼーん、と音が聞こえてきそうなほど、がっかり落ち込んだ。
でも、お金がないならどうしようもないので、おれはツツジさんにお礼を言って帰ろうと思った。その時、遠くから吠え声が聞こえた。
「メタル狩りだわん! メタル狩りだわん!」
犬のおまわりさんが吠えているようだ。羊の執事のツツジさんが表情を変えた。
「また来ましたか」
「なんなんすか? メタル狩りって?」
「我々を狙って、襲ってくるものがいるのです」
「ま、まさか、トラとかオオカミとか、肉食獣が? メタルだから食べられないのかと思ったけど、本当に草食動物だったんすか?」
「もちろん、我々は草食動物です! ですが、襲ってくるのは肉食動物ではありません。メタル狩りをするのは、メタルハンターとよばれる輩、人間の冒険者です。われわれ、メタルアニマルを倒すと経験値がたくさんもらえる、などと言って、冒険者が襲ってくるのです」
「経験値? ただの動物をたおしても経験値ってもらえるんすね……?」
つぶやいたおれに、ツツジさんはすごい威圧感で言った。
「ただの動物を倒しても、もらえるのでございます。我々は、ただの草食動物ですから!」
そこで、いまだに経験値がよくわかってなさそうなリーヌが言った。
「ひでぇやつらだぜ。けーけんちとかいうもんのために、かわいい動物を狩るなんて」
たしかに、ひどいやつらだ。
だけど、なんだろう、おれの心にわきおこる、この罪悪感。……そうだ。たしかにおれは、過去に某超有名RPGで、メタルスライムを狩りまくっていた。だって、レベル上げたかったんだもん。
おれはそこでふと疑問に思った。
あれ? メタルって……。
いや、でも、メタル牧場の動物はただの草食動物だもんな。
ツツジさんは落ち着いた声で言った。
「ですが、ご安心ください。この牧場はメタルキツネ様の特殊結界『神隠し』で守られております。メタルハンターは簡単には入ってこられません」
その時、顔を白塗りにしたメタルフォースが大あわてでツツジさんのところへ駆けてきた。
「大変だ! ツツジさん! ツーちゃんが結界の外に行っちゃったぞ!」
ツツジさんの顔色が変わった。
「うちの子が……」
リーヌが即座に宣言した。
「アタイが守ってやる! かわいい動物の敵は、アタイの敵だ!」




