3-14 ラムメタル
羊の執事のツツジさんは、まずは牧場の動物を紹介してくれた。
メタル牧場には、メタルヒツジやメタルブタの他、メタルウシも、メタルドリもいるし、メタルヤギ、メタルウマ、それから少数のメタルカモもいた。
メタルブタは、牢屋で会ったアニキのような方々のことだ。
でも、メタルピッグと自称していてメタルブタと言ったら怒るらしい。なら、メタルピッグって言う名前でいいと思うんだけど、メタルヒツジのツツジさんは、「ブタはブタです」とバカにしたような顔で言っていた。どうやらメタルヒツジとメタルピッグは仲が悪いようだ。
それから、メタルウマはメタルフォースと自称していてメタルホースって呼んだら怒るらしい。
メタルピッグの居住地を案内されている時に、おれは壮絶な修羅場を戦っているアニキを見かけたけど、知らないふりをしておいた。
ちなみに、メタルカモだけは、メタルじゃないかもしれないらしい。なにやら、この牧場に住みついたあげく、ぼくもわたしもメタルカモ? とか思うようになってしまったカモたちらしい。
だから、メタルカモは、ふつうに羽毛でもこもこした羽毛アニマルだった!
リーヌは興奮して、「ふわふわかも! ふわふわかも!」と追い回した。
だけど、もちろん、リーヌは見事に嫌われ、カモは逃げていった。
おれは逃げていったメタルカモを見ながら言った。
「メタルじゃないカモがメタルカモ。てことは、おれもここにすんだら、メタルカモゴブリンになれるんすか?」
リーヌは言った。
「メタルカモリンかも?」
「ええ? ゴブ省略するとゴブリン感がゼロかも? でもゴブリンにこだわる必要もないかも? もうメタルカモヒコでいいかも?」
「メタルカモヒコいいかも! 改名するかも!」
こんなくだらないカモ話をしながら、おれたちは、普通のカモを観察した。
羽毛がはえていることが新鮮に見えたおれは、すでにかなりメタル牧場に毒されてたかも。
一通り動物の紹介を終えた後、ツツジさんは言った。
「当牧場には、レストランとゲストハウスもございます。これからご案内いたしますので、ぜひともご利用ください」
「へぇ。この牧場って、けっこう観光客がくるんすか?」
たずねたおれに、ツツジさんは悲しそうに答えた。
「年に一組いれば良いほうです。お客様ではないタイプの訪問はよくあるのですが……」
「年に一組? じゃ、今年はおれ達で終わりっすか? よく経営なりたってるっすね。そのゲストハウス」
ツツジさんは、ますます悲しそうに答えた。
「毎年、大赤字でございます」
「そりゃたいへん……あれ? ツツジさんのお知り合いが経営してるんすか?」
「わたくしが仕えるお嬢様こと我が妻が経営しております」
「ツツジさん家のゲストハウスなんすか!? たいへんっす。助けてあげたいけど、おれたち、金欠だから貢献できそうにないし……」
おれたちがとりあえずゲストハウスへむかって歩いていると、どこかからか音楽が流れてきた。
「なんすか? 重厚感あるけどキャッチーな音楽が聞こえてくるっす。まるでJポップのアイドル文化と本格的なヘヴィメタルを融合させたような……」
音楽が流れてくる方を見て、おれは、牧場の一段高い台の上で、メタルな子羊が踊り歌っているのに気がついた。後ろでは、ヘビーにメタルなおとなの羊たちが楽器を演奏している。
ツツジさんは言った。
「お耳汚しを。この春生まれたうちの子羊たちが、バンドをはじめてしまいまして」
「え? ツツジさんのお子さんなんすか? すごい盛り上がってるっすね。観客みんなでぐるぐる走りまわってるし……てか、この春生まれた!? すごい成長スピード!」
「草食動物は、成長が早いですから」
ツツジさんは当然のことのように言った。
「そういえば、聞いたことあるっす。草食動物は、肉食動物から逃げないといけないから、生まれてすぐに立ち上がって、すぐ歩けるようになるって。……でも、草食動物なんすか? メタルだけど……」
ツツジさんは鋭い眼光でギロリとおれを見た。
「もちろん草食動物です。なぜそのような質問を?」
「い、いえ……」
みんな一見、銅像なんだけど、草食べるのかな?
でも、そんなことを言わせないって目で、ツツジさんがこっち見ていた……。
その時、ライブ会場を見ながら、しばらくかたまっていたリーヌが叫んだ。
「あ、あ、ああああああれは、ラムメタル!」
「ラムメタル?」
おれが聞き返すと、リーヌは驚いた顔をしていた。
「ゴブヒコ、ラムメタルをしらねぇのか!?」
「知らないっすけど。おれはむしろ、この世界にリーヌさんが知っているものがあったことに驚いているっす」
「ラムメタルは、超カワイイんだぞ? 本格メタルなサウンドと異次元なカワイイパワーで大人気なんだぞ? ワールドツアーだってやってるぜ?」
「今年生まれた子羊なのに!? 世界進出までしてるんすか? いくら草食動物でも成長早すぎっす!」
「魔王城スタジアムのライブはいつも満員で、前回はチケットとれなかったぜ」
たしかに、子羊たちはすごいキレとエネルギーで踊り続けていて、ボーカルの子羊の声は、こんな遠くにいるおれの頭にまで突き刺さってくるように聞こえる。
ツツジさんは、すこしほこらしげに、うなずいた。
「今、演奏しているのは、メタルキツネ様に捧げる曲、『メェ~~キツネ』でございます」
リーヌはきょろきょろしながら言った。
「こうしちゃ、いられねぇ! チケット売り場はどこだ?」
「ございません。公開練習のようなものですから。ご自由にご参加ください」
「よっしゃーーー!」
リーヌは走り去っていった。その数十秒後には、リーヌはライブ会場で、胴上げみたいな状態で寝たまま観客の上を移動していた。
「リーヌさん、ノリノリ……。でも、楽しそうだから、いっか」
ふと、おれが横を見ると、ホブミが、ライブ会場の方、リーヌの方を、なんだか妙な顔で見ていた。かげのある表情というか。悩み事でもあるような。
うーん。こいつ、やっぱり、なんかちょっとあやしいんだよな。




