3-? ホブミ4
サンサ村からジェイシー町へと、賢者ホナミは大魔王リーヌを誘導しようとした。
だが、リーヌは牧場の看板を見つけ、そこへ向かうことに決めてしまった。
大魔王リーヌはかわいい動物に目がないらしい。
恐ろしい大魔王のイメージとは、かけ離れた実像だった。
(まるで、子どものように無邪気な……)
牧場に向かって喜んで歩いて行くリーヌを見ながらホナミは思った。
勇者のためにリーヌを連れていくことが正しいのか、ホナミにはすでにわからなくなっていた。
(でも、この任務をはたさなければ、勇者はアレを……)
恐ろしく卑猥な画像を勇者は手に入れていた。あれを拡散されたら、生きていけない。
さて、メタル牧場へ向かう道中、突然、動く銅像のような金属の体をもつ犬があらわれ、ゴブヒコを連れ去った。
(なんてまぬけなゴブリン。私が手を下すまでもなかったとは)
そう思いながら、ホナミはリーヌに言った。
「ちょうど良い機会ですー。リーヌ様。これを機にあのゴブリンのことは忘れましょうー。これからは、ホブミがリーヌ様のお世話をするのですー」
そう嘘をつきながら、ホナミは心をしめつけられるような痛みを感じた。
(できることなら、本当に、リーヌ様の仲間になってしまいたい)
たった一日一緒にすごしただけなのに、ホナミはそう思うようになっていた。
昨日までなら、この世でもっとも恐れられている大魔王の仲間になるなんて、とても考えられないことだった。
なのに、なぜか、この魔王と一緒にいると、ホナミはどんどんとひきよせられていく。
だが、リーヌは即座に首を横に振った。
「だめだ。ゴブヒコを見捨てるわけにはいかねぇ。助けにいくぞ」
そう言って、リーヌは先へ進んでいった。
(あんなゴブリン一匹のために……)
ほとんどの冒険者が、あんなゴブリン一匹、いつでも見捨てるだろう。そもそも、あんなゴブリンを仲間にする者はいないが。
「リーヌ様、どうして、あんなゴブリンをそれほど大切にするのですか?」
リーヌは答えない。ホナミはさらに言った。
「仲間モンスターを捕まえるお手伝いなら、ホブミがいくらでもするのですー。もっと強いゴブリンだって、かわいいモンスターだって、仲間にできるのですー」
「だめだ。他のやつじゃ。あいつじゃなきゃ、だめなんだ。早く行くぞ。あいつ、弱ぇから、早く助けないと、死んじまうかもしれねぇ」
いつも泰然としているリーヌが、あせっていた。
それほど、あのゴブリンのことを大切に思い、心配しているようだった。
ホナミは思わず、ゴブヒコに嫉妬した。
(なんであんなゴブリンがこんなに大事にされて……)
ホナミが誘拐された時に心配してくれる仲間はいない。あの勇者は平気で見捨てるだろう。それでも、人間関係なんて、そんなものだろうと思って生きてきた。
(うらやましい……)
まさかあんなゴブリンをうらやましがる日がくるとは思わなかった。だが、今、ホナミは心底うらやましく思っていた。




