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3ー? ホブミ3

 ホナミはおとなしく部屋に戻り、湯気のたつ洗面器とタオルを床に置いた。


「リーヌ様。お湯をもらってきたですー」


「おう。あんがとな」


 礼を言って、大魔王リーヌはベッドから起き上がると、体をふくために服を脱ぎだした。

 ところが、下着のフックをはずして上着とシャツをまとめて脱ごうとしたところで、なぜか途中で服が腕に引っかかってしまい、裸の上半身をさらしたまま、大魔王は幼児のように引っかかった服と格闘しだした。

 やってることは滑稽だが、その美しい上半身にホナミは見とれてしまった。


(なんて、美しい……。きめ細かい肌、ウェストの曲線、まるで芸術のようです。神々しいほどに美しい……)


 その時、ドアが開いた。

 ドアのところには、部屋を出ていったはずの、醜悪なオスゴブリンが立っていた。

 スケベそうな顔のゴブリンの視線は、上半身裸の大魔王リーヌにくぎ付けだ。

 ホナミは思わず叫んだ。


「キャーーーーーーーーー! 変態ゴブリンが、のぞき見してるーーーー!」


「ぬわにぃ! エロヒコめ!」


 大魔王リーヌのどなり声で、ゴブリンは一目散に逃げていった。

 ホナミは心の中で叫んだ。


(なんなんですか! あのゴブリンは! ありえない!)


 そこで、ホナミは気が付いた。

 そもそも、あんな弱くて醜いゴブリンを近くに置いておくことが、ありえない。普通は仲間に置いておかない。

 ならば、大魔王を説得して、ゴブヒコを追放させればいい。あんなゴブリン、わざわざ手を下すまでもないのだ。


 着替え終えたリーヌに、ホナミは言った。


「リーヌ様。どうして、あんなゴブリンを仲間にしておくのですかー? あんな目が腐りそうに醜くて、しかもスケベでいやらしいオスゴブリンを仲間にするなんてダメなのですー。ぜったいにレディーの近くに置いておいてはダメなのですー。今すぐ、追放してくださいですー」


 ホナミはもちろん、任務達成のために追放させようとしている。

 でも、すべて本心から言っていた。


「えー。でもなぁー」


「なにか理由があるのですかー? なにか取り柄が? まさかあんな顔で家事や事務の能力が高いのですかー?」


 ホナミは半信半疑でたずねた。

 リーヌはあっさり否定した。


「うんにゃ。ゴブヒコはびっくりするほど、なんもできねぇな。家事はやってるけど、ひでぇな。アタイがやるよりはましだけどよ。なぜか、きれいにならねーで、汚れていくんだぜ?」


「能無しゴブリンが! なのですー。家事なんて、ホブミがやるのですー。だから、あのオスゴブリンは、すぐさま、追放してくださいなのですー」


 ホナミはすべて本心でしゃべっていた。


「でも、ゴブヒコにはいいところもあるんだぜ? たしかに、ブサイクで何をやっても失敗するスケベなお調子者だけどよ。あいつ、動物やモンスターに好かれるんだぜ? すげーよな」


 ホナミは渋々認めた。


「たしかに、ゴブヒコ先輩はモンスターを引き寄せるパッシブスキルをもってるかもなのですー」


 ただし、大魔王リーヌがそれをはるかに上回る、モンスターを追い払う超強力なパッシブスキルを持っているらしく、二人一緒にいると結局モンスターは寄って来ない。

 大魔王リーヌはさらにのんびりと言った。


「それに、あいつといると、安心するんだよ。どんなにかっこ悪くても弱くても、なにをどうやっても、ゴブヒコ以下にはならねーだろ?」


 リーヌは楽しそうに言った。


「リーヌ様。その理屈でいくと、ダメ男であればあるほどいい、ということになってしまうのですー」


「そうか? 見栄はる必要も、強がる必要もなくて、好きなだけ、だらだらぐだぐだ、ぼけーっと、してられっから、楽しいぞ?」


 リーヌは、ほがらかにそう言った。


「どんどんダメになってるのですー」


 そう言いながらホナミは、この大魔王が残虐非道な破壊神と呼ばれる評判とだいぶ違うことに、とまどっていた。


(信じられないほど無邪気でア……。ほんとうに、この人が、あの伝説の大魔王リーヌなのでしょうか?)


 ホナミは疑ってしまった。

 だが、リーヌのステータスは、たしかに伝説の大魔王とよべるほどのものだ。リーヌという名前も一致している。

 大魔王リーヌであることに、間違いはない。


 リーヌはまじめな調子になって言った。


「それに、なんつーかさ。あいつに会う前は最悪だったんだ。昔の仲間には会えねーし、他の奴らはみんな怖がって近よってこねーから、あたしはひとりぼっちで。しかも、カタギになってフツーに生きようとしたら、なにをやっても、うまくいかねぇんだよ。もういやんなって、生きていく自信も元気もなくなりそうな、そういう時だったんだ。だけど、ゴブヒコが仲間になってからは、楽しいぜ?」


(あんなゴブリンしか仲間がいないなんて。なんて、さびしい……。できるなら、私がそばで……)


 なぜか、ついそう考えてしまい、ホナミはとまどった。


(なぜ、私は大魔王に同情を?)


 相手は出会ったばかりの他人、しかも残虐非道なことで知られる大魔王のはずなのに。

 なぜか、もっと前から知っている人であるかのように感じていた。


(なんなのでしょう。この想いは。私は大魔王討伐のために動いているのに……)





 その夜、ホナミはゴブヒコの始末に動こうとした。

 あのゴブリンは、あれっきり、この部屋には戻ってこなかった。だが、遠くには行っていないはずだ。

 ゴブヒコの弱さでは、外に出ればその辺のモンスターか酔っ払いにでも殺される。


 都合の良いことに、大魔王リーヌは体をふいた後、すぐに眠ってしまった。

 だが、いざ、ホナミがゴブヒコ暗殺のために部屋の外に出ようとすると。なぜかそのたびに眠っているはずの大魔王リーヌが寝返りを打ち、そして、その寝返りを合図にしたように風魔法が巻き起こり、ドアの前に小さな竜巻を作ったのだ。

 まるで、ホナミが外に出るのを邪魔しているように。


 リーヌに呪文の詠唱をしている気配はない。といっても、大魔王ほどになれば、詠唱などなくても魔法を使えるだろう。

 

(私の目的に気が付き、妨害をしている?)


 だが、リーヌが目を覚ましている気配はなかった。

 どう見ても、ぐっすり眠っているようだった。


 ホナミはしばらく待ってから、その後もなんども外に出ようと試みた。だが、ホナミが外に出ようと動くたびに、やはりリーヌが寝返りをうち、風魔法がとんできて、ホナミをもといた場所へと吹き飛ばしてしまった。


(やはり、気がつかれている?)


 そう疑ったが、リーヌは目を覚まさなかった。

 結局、その夜、ホナミは部屋の外に出ることをあきらめた。



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