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1-4 戦闘訓練

 こうしてリーヌがおれを育成する気になっちゃったので、おれは洗濯を終えて昼ご飯を食べた後、町の外まで連れ出された。

 ここはたぶん、ゴブリン村があるのとは反対方向の出口を出た先だ。

 リーヌは自信をもって言った。


「このあたりは魔王城に近いせいで、強いモンスターがうじゃうじゃいるから、特訓にいいらしいぜ。酒場の冒険者がそう言ってたぞ」


 それを聞いて、おれはあわてた。


「魔王城の近く!? そんな強いモンスターを相手にしたら、おれ、目にもとまらぬはやさで瞬殺されるっす! おれはレベル1のスライムにすら、一撃で殺されかけたんすから!」


「あん? だいじょうぶだよ。この辺のやつ、全然強くねーよ。アタイはデコピン一発でたおせるぜ?」


「そりゃ、リーヌさんだからっす! ちょっとおれのステータスを見てくれっす。ステータス見ればわかるはずっす」


 だけど、リーヌはあたりを見まわしながら、おれにたずねた。


「ステータス? どこにいるんだ、そいつ?」


「ステータスって、人の名前じゃないっす! ステータスっす! ステータス! 攻撃力とか防御力とか、HPとかMPのことっす。テイマーなら、自分のモンスターのステータス、見られるっすよね?」


 リーヌは、元気よく、うなずいた。


「おう。アタイは、テイマーだからな。でも、すてーたすなんて、知らねーな。んなもん、アタイは見たことねーぞ?」


 おれは呆れ絶望した。


「ゴブリン先輩すらおれのステータスを見れたのに……。なんなの? あんた、ほんとにテイマーなの?」


「アタイはテイマーだ」


 リーヌは自信満々に断言した。


 そうこう言っているうちに、うなり声が聞こえた。

 おれ達の前に、2本足で立つ、人型のトラのようなモンスターがいた。

 なんだかちょっとカッコいい帽子を斜めにかぶった、ちょっといぶし銀な二足歩行のトラさんだ。


「ごきげんよろしゅうござんすか? あっしは、通りすがりのワータイガーでやんす。本当はおばあちゃんを病院に送りにいかないといけないんでござんすが、この道で会った人間とは必ず戦わないといけないと、魔王様からお達しがでてるんでやんす。あなたがたに恨みはありやせんが、ここは一戦、たのもうでござんす」


 通りすがりのワータイガーさんは、礼儀正しく帽子をちょっとあげて、おれたちにあいさつをした。

 おれは、とりあえずあいさつを返した。


「こんにちわっす。……この世界って、モンスターとエンカウントした時にあいさつされるもんなんすね」

 

 さて、リーヌはやる気満々、おれに命令をした。


「よし! 行け! ゴブヒコ!」

 

 どこからか歴史ある和製RPG風のアナウンスがながれた。


    ― ワータイガーが襲ってきた! ―


(よし、おれが取る行動はこれだ!)


 おれは瞬時に最適な行動を選択した。


    ― ゴブヒコは逃げようとした! ―


「おい、なにいきなり逃げようとしてんだ! ゴブヒコ!」


 リーヌがすぐにどなりこんできた。


「いや、だっておれが勝てるわけないっす」


「倒さなきゃ強くなれないだろ!」


「んなことを言われたって、むちゃくちゃ弱いゴブリンなおれに、見るからに強いワータイガー様なんて、倒せるわけないっす!」


 ワータイガーさんは筋肉ムキムキで鋭い爪と牙がきらりと光る、どっかどう見ても強そうなモンスターだ。


「あのぉ。あまり時間がないので……。攻撃して、ようござんすか?」


 ワータイガーさんが丁寧におれにたずねた。

 おれはあわてて答えた。


「ダメっす! 攻撃なんかしたら、絶対確実におれが死んじゃうっす。あ、でも、おれに当てないなら、いいっすよ?」


 ワータイガーさんはうなずいた。


「がってんしょうちのすけでござんす。じゃ、行くでござんすよ~」


 ワータイガーさんは、腕をふりかぶった。


    ― ワータイガーの獣の爪! ― 

    ― ワータイガーの攻撃は外れた。―


 おれのすぐ横の地面をワータイガーの爪がえぐった。

 親切なワータイガーさんは、約束通りわざと攻撃をはずしてくれたのだ。……だけど、なぜ、戦闘のアナウンスが続いていた。


  ― ワータイガーの獣の爪の風圧! ― 

  ― ゴブヒコは3のダメージを受けた。―


 なぜか、ワータイガーさんの攻撃の風圧で、おれの体力が大きく削られた。しかも、この世界はダメージを受ける時にちゃんとその衝撃や苦痛をくらう。


「ギャーーー! 風圧で全身に衝撃が! むっちゃ痛い!」


 おれが騒いでいると、ワータイガーさんは、申し訳なさそうなようすで自分の手をみながら言った。


「ちゃんと、外したんでござんすが……。風圧でダメージを受けるなんて、はじめて聞いたでござんす……」


 どうやら、おれが弱すぎて、ふだんはありえない「風圧」という追加攻撃が発動してしまったらしい。


(これは無理だ! ぜったいに無理だ!)と、おれは悟った。


「無理、無理! 親切なワータイガーさんに手加減してもらっても、おれ、ぜったい殺されるっす! 特訓どころか、三枚におろされてワータイガーさんの夕飯にされるっす!」


「失礼でござんすが、ゴブリンはそのままだとおいしくないので、おばあちゃんの秘伝のタレで、一晩煮こんでからでないと、いただけないのでござんす」


 ワータイガーさんは、生真面目にゴブリンの調理法を教えてくれた。


「食べないで! 煮込まないで! ていうか、殺さないでーーー!」


 おれが、今度こそ逃げ出そうとした瞬間。

 後ろから、突然、ドーンと大きな爆発音が聞こえた。


 ぎょっとして、音のした方、リーヌのいる後ろの方を見ると、リーヌの横に地面に大きな穴、まるで隕石が落ちたかのような大穴が開いていた。


「な、なんすか!? リーヌさん、なにやってんすか!?」


 びっくりして叫んだおれに、リーヌはふしぎそうに言った。


「おまえに気合いれようと思ってムチをふっただけだぞ? アタイは、テイマーだからな。テイマーはムチをふって、気合をいれさせんだろ? なにびびってんだ?」


「いや、びびるし。大爆発だし。てか、もはやクレーターできてるし」

 そして、びびったのは、おれだけではなかった。


     ― ワータイガーは逃げ出した。―


 おれは、全速力で逃げていくワータイガーさんの背中を見送った。


(そりゃ、そうだよな。ワータイガーさんは、これからおばあちゃんを病院につれていかないといけないんだもんな)


 うっかり、リーヌに殺されちゃったりしたら、大変だ。


「じゃ、リーヌさん。そろそろ帰るっす。おれ、たぶん、残りHP1しかないし。早く帰らないと夕飯のしたくする暇がなくなるっすよ? 夕飯なしになっちゃうっすよ?」


「ぬわに? それは困る。はやく帰ろう」


 こうして、おれの特訓1日目は終わった。


[モンスター図鑑]


16 ワータイガー:虎のような獣人。ヒトより筋力が強く、鋭く頑丈な牙と爪を持つ。見た目は怖いけど、性格は意外と気が小さくて優しいひとが多い。

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